STAROCEAN3
Till the End of time

IFもう一つの時の終わり

Period06 闇にて出会うは紅の刃



 暗い暗い闇の中どこからともなく声が聞こえる。

 悲しいようで、憎しみが込められ。

 切ないようで、苦しみにまみれた、そんな声。

 












 僕は彼らを許さない。



 僕は彼らを許せない。


 僕は彼らを許しはしない。



 僕は彼らを許したくない。


  神の名の下に現れた化けものどもを許さない。

 意思を持ち、命を持っていた人々を容易く手にかけたやつらを許さない。






 ううん、それ以上に僕は僕の仲間達も許せない。

 僕達に何も言わず、僕達の為にと当然のように命を捨てていったその姿は絶対に許せるものじゃない。 

 でも、なにより―――



 



  ―――僕は僕自身が許せない。

 何よりも世界をバグだといって消し去ろうとしたあの男よりも僕自身が憎くてたまらない。

 彼らに守られてしまった自分。

「……ェイ………」

 彼らの考えに気づけなかった自分。

「…起き………フェ……」

 目の前で崩れ落ちるあの人に何もできなかった自分。

「……さい………ェイト…」

 結局最後まで守られ続けて、庇われてしまった自分。

「起き……さ……フェ…ト…」

 力が足りなければ失うのなら――

 弱いことが守られることになるのなら――

「起……なさい…フェイ……」

 ――僕は何よりも弱い自分を許さない。

 だから誓った。

 何も失わないほどに強くなることを、彼女たちに守られなくとも全てを殺せるほどに強くなろうと、誰でもなく僕自身に。

 だから覚えておけ『僕』よ。

 この誓い、破られることがあれば――























 ――僕がお前を殺してやる。

「いい加減起きなさいフェイト!!」

 声が途切れ、怒鳴り声と共に頭を鈍器で殴られたような痛みがはしり、強制的に闇から引き上げられた。

 ゆっくりと目を開け顔を上げると、なぜかフェイズガンを持って睨んで来るマリアと目が合った。

「ようやく起きたのね。まったく余計な手間かけさせないでよ」

「うん、とりあえずその事は置いといて……マリア?」

「なに」

 僕はジッとマリアの手にあるフェイスガンを見つめながら

「とても硬い物で頭を殴られた様なこの痛みは何か知ってるかい?」

「さぁ? 知らないわ」

 即答された。

 その答えにうなずいて、でも視線はフェイズガンから外さない。

「そうなの? でも僕はとても硬い物とそれを持った人を知ってるんだけど、それと関係あると思うのは穿ち過ぎかな?」

「私は知らないって言ってるでしょ。まっ言わせてもらうなら……」

 そこまで思わせぶりに言って僕を見やる。

 僕が尋ねるのを待っているんだろう。正直聞きたくなかったけど聞かなかった先が怖くて仕方なしに尋ねた。

「なんだい?」

 その問いに嬉しそうに笑うと

「状況証拠じゃ罪は問えないってことかしら」

「……そうだね」

「ええ、そうよ」

 肩を落とす僕にフェイズガンをしまいながら心底嬉しそうにする。

 少し前まで僕にアドバンテージを取られていたのが悔しかったんだろう。

 まぁ聞きたいことは大体効き終わってたから良いんだけどね。

 そういえば何の目的で僕に接触したのかは聞いてなかったな。

 おそらく僕の持つ『破壊の紋章』つまりは<ディストラクション>が目的なんだとは思う。

 でもこの力をもって何をしようとしてるのかが分からない。

 確かにこの力は強大だ。

 それこそ惑星一つを滅ぼしかねない。

 けど言い換えればそれだけでしかないのだ。

 いくら強い力を持っていたとしても僕自身は単なる一個人でしかなく、しかも肉体は脆弱な地球人のもの。

 スナイパーにでも狙われたら正直生き残れる自信はない。

 その上に僕、正確にいうと『破壊の紋章』はバンテーンだけでなく、恐らくは銀河連邦にも知られ、狙われている。

 僕を利用しようものならこの二つの勢力に狙われるのが確実。

 その昔ある人も言ったのだ。

「戦争は数だよ、アニキ」

 つまりはそういうこと。

 僕が居ても艦隊で襲われればひとたまりもないし、僕を利用するというのは襲って下さいという事とイコール。

 そんな厄介者に何の用だろうか?

 と、まぁそんな事を考えていた時に僕達の乗っていた船イーグルがバンテーンに襲撃された。
 
 それから逃げ出せたのは良いんだけど、今度はエンジントラブルが起きて緊急着陸。この場合は墜落のが正しいかな?

 僕は運悪く頭を打って気絶、それで今に至るってとこ。

「それでこれからどうするって事なんだけど」

「どうしようもないわ。ほら、見てみなさい」

 表示された画面に映っていたのは周囲を囲む人、人、人。

 しかも中には鎧を着た人までいる。

「……これはまた、どうにも運が悪い」
 
 これじゃあ不用意に動けない。ホントどうしようもないね。

「この惑星はエリクール2号星、文明レベルは地球で言う16世紀。その町のど真ん中に私たちはいるわ」

「ど真ん中って……他に行きようがなかったのかい?」

「エンジンがあの状態じゃ仕方ないでしょ。それにIFを言っても仕方ないわ、もっと建設的なことを言って頂戴」

 ……ごもっとも。

「取りあえずはここから出なくちゃ話にならないわね。食料もないしこんな状態じゃ落ち着かないわ」

「まぁ見世物みたいな感じだからね。慣れない人じゃ落ち着くわけないよ」

「あら、貴方はこんな状況に慣れてるの?」

「ん、慣れてるっていうか……気にはならない、かな?」

 レナス姉さんの訓練に意識統一というのがあった。

 読んで字の如く、意識を一つに纏める訓練だ。

 ただこの場合の一つとは「一つのもの」ではない。

 人は何をするにしても何かを意識している。

 ただ立っている時も足の疲れ、空気の流れ、視線の動きそういったものを無意識のうちに知覚し意識している。

 それらを一つに纏めるという事。

 例えるなら誰かと戦っている時。

 目の前の敵に斬りかかったとして「斬る」という動作だけでなく相手の目線、自分の体の動き、足場の状態、周囲の環境、天気そういったもの全てに意識を向 けることを指す。

 戦闘ではく戦場を意識する。

 見るべきは個ではなく全。

 今の場合なら「考える」という動作に「囲まれている」「見られている」「隣にマリアがいる」といった環境を含めているのだ。  

 だから気にならない。

 今の僕にとって見られることも、囲まれることも考えるという動作の範疇でしかないから。

 ただ感覚的な部分が多いし説明するのもメンドウだから僕はさっさと話を進めることにした。

「それよりもどうするかを考えよう」

「それもそうね」

 あまり気にしていなかったのか、あっさりと頷くマリアにホッとしながらこの状態を切り抜ける方法を考える。

「まずはここから離れるべき?」

「ええ。さっきも言ったけどあまり長い間はここに居られないわ」

「それじゃあさ、強行突破は?」

 僕の提案にマリアは顔を難しげにしてうなる。

「……厳しいわね。正直上手くいくとは思えない」

「やっぱ土地勘ないと厳しいか」

「それもあるけど相手に何があるかわからないし、下手に騒ぎを起こしてしまうのもまずいと思う」

 となると、やっぱりこれしかないかな。

 僕はほかに思いつかないし、しかたないよね。

「二手に分かれよう、囮と君の仲間への連絡役。当然だけど僕が囮で君が連絡役」

「そう、ね」

 頷きながらもマリアの表情は晴れない。

「……不満そうだね」

「当たり前でしょ。ようやく貴方を見つけたっていうのにゆっくり話す暇もないんだから」

 どこか拗ねた様に見えるマリアに苦笑しながら、僕は立ち上がり出口へと向かう。

「だから……」

「ん?」

 扉をくぐろうとしたところ聞こえたで後ろからの声に立ち止まり振り替える。

「だから! 何かあったら許さないから、覚悟しておきなさい!」

 こちらに顔を向けず怒鳴るように言うマリア。

 見えないけどその顔は真っ赤に染まってるんだと思う。

「分かってるよマリア。それじゃあ……またね」

 僕はそういってブリッジを後にした。

 船外への出口にはすぐに着いたけど、僕はその扉の前で立ち止まった。

「許さない…か。らしくないじゃないか」

 言ってからふと思う。

 誰がらしくないって?

 僕が?

 いいや、おかしなことなんてない。間違いなく僕はいつも通りだ。

 それじゃあマリア?

 それも否。
 
 囮役を心配するのは当たり前だし、こんな状況なら不安がるのもおかしくない。

 なにより‘僕は彼女のことを良く知らない’。

 だって会ってから一日しかないんだから。

 そんな相手に「らしくない」?

 それこそおかしな言い草だ。

 髪をくしゃと握り締める。

「ハハ…なに考えてるんだよ僕は? これこそらしくないじゃないか」

 軽く息を吐き気持ちを切り替える。

「さて、いきますか」

 誰にともなくそう言って、僕は扉を開いた。

 一気に入りこんでた凍えるような冷たい風、そして周囲を囲んでいた人たちの驚きに満ちた視線。

 半そでじゃあキツイなぁ、などと関係ないことを考えながら一歩外に出る。

 一応無抵抗を示すために両手を挙げてみる。

「えっと、抵抗とかするつもりはないからあんまり乱暴にしてほしくないんですけど」

 言ってみたけど無駄だった。

 だって周りに居た兵士の皆さんがこっちに武器を突きつけながら雄叫びを上げて迫ってきてる。

「作戦成功…かな?」

 喉元に突きつけられた刃にため息をつきながら、僕は小声でそう呟いた。





























 そういう訳で僕は今地下の牢獄の中に居る。

 多分だけど捕まってから二、三日経ったんじゃないだろうか。

 食事を摂ったら拷問、気がつけば失神していて暫くしたらまた食事、それが終わればまた拷問という繰り返しで正直時間の感覚が無くなっている。

「まったく異星人に優しくない国だな」

 まぁ未開惑星じゃ当たり前なんだけどね、悪魔だとか神様だとか言われないだけマシなのかもしれない。

 とそんな馬鹿げたことを考えていないとやってられないのだ、思っていたより現状はマズイ。

 なぜならマリアとの連絡は取れないし、体力が落ちていて『力』が使えない。

 体の節々が痛くてしかたないし、体中にはしるこの痛みは訓練なんかでの痛みとは質が違う。

 せめて傷口の消毒ぐらいはして貰いたい、傷口が熱を帯び始めていて割りと重症になってきてる。

 ダルイ、痛い、熱いの三重苦。ここまで痛めつけられる筋合いなんてないんだけど、いや切実にね。

 あまり早く逃げてしまったらマリアに迷惑がかかると思ったの間違いだったかな? こうなるんだったらさっさと逃げれば良かったと後悔しているところだ。

 まぁ文句を言っても変わらない。

 今は体力を回復させるのが最善か、現状じゃ他にどうしようもないしね。

「……ん?」

 横になって眠ろうとしたところで違和感に気づいた。

 空気が変わった?

 昔とった杵柄のお陰か僕はこういう事に敏感だ。

 具体的に表現することはできないけど、さっきまでとは何かが違う。

 これは、ついてるね。

 僕が何かをするまでもなさそうだ。

 そんな僕の考えを証明するかのように、見張りの兵たちが崩れ落ちるように倒れる。

 何がおきているのか確かめようと身を起こそうとして――

「アンタがフェイトかい?」

「っ!?」

 ――不意の問いかけに思わず息を呑み体が硬直する。

 見張りが倒れたのを確認してから瞬きをした瞬間、突如として目の前に人が現れたんだから仕方ないと思ってほしい。

 というかここまで近づかれたのに気づけなかったのは久しぶりだ。

「…この辺りには居ない蒼い髪に蒼い瞳。間違いないみたいだね」

 僕が答えないのに業を煮やしたのか、一人納得すると牢の鍵の部分に手をかざして小さく何かを呟いた。
 
 直後、その手の前に紋章が浮かび鍵をあっさりと破壊する。

 状況が飲み込めない僕を他所に女性は中に入ってくると無愛想な表情で言った。

「取りあえずそれも壊すからあっちを向きな」

「え? あ、はい」

 それ、というのが僕の身を包む拘束服を指すのだと分かって慌てて後ろを向く。

 …ん? なんで僕は素直に従ってるんだ?

 いや、今の場合は素直に従うのが正しいのは分かるんだけど、そうじゃくて普段の僕ならもっと疑うはず何だけど、マリアの時といいなんかおかしいぞ最近の 僕は。

 などと考えている内に何かが弾ける音がしてストンを拘束服が床に落ちた。

「あ、どうも」

「気にしなくて良いよ。そんなことよりアンタのらしき荷物と服を用意したからとっと着替えてくれるかい」

「分かりました」

 …いやだから何でこんなに素直なんですか僕は!?

 そんな内心の葛藤は面に出さず、僕は今更な質問をすることにした。

「あの、なんで僕を助けに?」

「それが条件なんだよ」

「条件、ですか?」

 ごそごそと着替えながら、いつの間にか牢の外に出て辺りを警戒している後ろス柄を眺めた。

「ああそうさ。アンタ達、というかアンタが護衛しているマリアって技術者が協力する条件としてアンタの救出を出してきたのさ」

「マリアが?」

 ふーん…護衛、ねぇ?

 いくつか気になる単語があったけど今は聞かないでおこう、話がややこしくなりそうだ。

「そういう事だから速く済ませとくれ。そろそろ交代がくるかもしれない」

「分かってます……今、終わりました」

 立ち上がっておかしなところがないか確認する。

 …なぜか服もズボンもサイズがピッタリなのが気になるけど、特に聞くまでもないか。

「よし、準備できたみたいだね。それじゃあ――」

「待ってください」

「――なんだい?」

 引き止めた途端、マフラーに顔を埋めにらむ様にこちらを見てくる。

 けどここで引き下がる訳にはいかない。

「名前を、教えてくれませんか?」

 まずは名前の交換を。

 これは大事なことだと思う。

 だから僕はまっすぐに見つめ、そして問うた。

「…シーハーツの隠密ネル・ゼルファー」

「僕はフェイトです。改めてよろしくネルさん」  

 知ってる、そう視線で言ってくるのに僕は苦笑した。

「アナタが僕の名前を知っていても、それでも僕の名前は僕の口から言いたかったんですよ」

 僕の言葉にネルさんは軽く頷くと微かに笑う。

「そうだね。こちらこそよろしく頼むよ」 

「はい宜しくお願いします」

 そう言った直後、通路の先から騒ぎ声が聞こえた。

「おい何かおかしいぞ!」

「倒れてる!? 大丈夫か!!」 

 ネルさんの表情が変わった。

「フェイト」

 名前を呼ぶ、ただそれだけだけど言いたいことはすぐに分かった。

「すいません、さっきまでの疲れが残ってて戦闘は厳しいです」

「そうかい。なら仕方ないね」

 何の? とはネルさんも聞いてこなかった。きっと想像がついたんだと思う。

 悔しいけど無理をしてネルさんの邪魔をする方がいけない。

 だからネルさんが僕を庇って目の前に立つのは仕方のないこと。

「おうおう何だぁ? 俺の獲物を逃がすんじゃねえぞ」

 出てきたのは毎回僕をいたぶってくれた拷問官。その脇には数人の兵士が槍を構えていた。

 それだけでなぜか乱れ始める呼吸。

「少し…多いねコレは」

 呻く様な声

 …似ている。

 似ている? 何に? いつ? 

 分からない。
 
 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分 からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分から ない分からない分からない分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわか らないわからないわからないわからないわからないワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナ イワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワ カラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ。

 激しくなる心臓の鼓動。

 僕を庇う赤毛の女性、動けない僕、囲む敵、突きつけられる刃。

 フラッシュバック

  「これで……良いんだよ」

 頬にかかる赤い液体。 

 「アタシ達の役目はアンタ達を送り届けることなんだから」

 貫かれ崩れ落ちる女性。

 「だから、これで良いんだ。アタシ達の命で世界が救えるなら安いもんだからね。そうだろ?」
 
  叫ぶ僕。

 「頼んだよ。アタシ達の分まで戦って、世界を守ってくれるね」 

 どんどん冷たくなる体。
 
 「後は任せたよフェイト、アタシはここまでだ」

 満足げに笑うアナタ。

――またか?

――また守られるのか?

――そんなの許さない

――疲れた? 厳しい?

――そんなの認めない

――お前に限界など認めない

――思い出せ その身に宿る力の名を

――思い出せ お前がすべきことはなんなのかを

――お前は 何のためにそこに居る!?

 直後何かが弾けた。

 
 





「えっ?」

 今にも飛び出そうとしていたネルさんの口からそんな声が出てきたことに思わず笑ってしまう。

 だが、まぁ当然だろう。今の今まですぐ後ろに居たはずの人間が気がつけば敵のど真ん中に立っているのだから。

「き、貴様いつのガッ」

「黙れ」 

 騒ぎ出そうとした拷問官の顔を鷲掴みにする。

 体中にあった熱がさらに上昇していくが、今はその感触がむしろ心地良い。

 先ほどまでの気だるさは今や跡形もなく、どこからともなく力が溢れる。

「君には僕がずいぶん世話になったね。短い間だったけどさようなら」

 そのまま手に力を集めて、そして放つ。

「バースト・ボルト」

 本来ならショットガン・ボルトという技を細工をして放たれる力を一点に集約。

 爆発。 吹き飛ぶ拷問官。

 呆気に取られている兵士達。

 気持ちは分かるが今の僕は気が立っている。

「間抜け」

 だから悪いけど容赦なんでしないよ。

 居合いの如く抜き放った刀身にはすでに気の刃。

 僕はそれで迷わずなぎ払った。

「うわぁ」

「グッ」

「がぁっ」

 呆気ないね。けどやっぱり容赦も手加減もしないから。

 周囲の壁や牢に叩き付けられて呻く姿を見つめながら大きく後ろへ飛び退る。

「ネルさん、下がってください」

「え? あ、ああ」

「大きいのをいきます気を付けてください」

 手を翳し

「汝、美の祝福賜らば」

 紡ぐのは祝詞

「我その至宝、紫苑の鎖に 繋ぎ止めん」

 
祈るのは大いなる奇跡

「アブソリュート・ゼロ!!」

 そして絶対なる氷の息吹が顕現する。

 閃光とともに凍えるような空気の中に更なる冷気が吹きすさぶ。

「ぅあぁ!?」

「くぅ!」

 轟と吹き荒れる風とは別に皮膚を焦がすような力の放流。

 結果を見るまでもない。

 その感触に『僕』はほくそえんだ。

「これで二つ、いや三つ目かな。さぁ僕を縛る戒めはあと幾つだろうね?」

 力を試すように掌を開いて閉じる。

 顔を上げてみれば地下牢は完全に氷で閉ざされていた。

 完璧。これで僕達がどうなったのか相手は分からない。

 いきなり氷だらけになったんだ、これが人の手によるものだとは思わないだろうな。

「あ、アンタ何したんだい?」

 声に振り返ってみればこちらを睨み付けるネルさん。

 その瞳には猜疑、警戒、畏怖そして若干の恐怖。

 それを見た途端胸が痛んだ。

 やっぱりツライな、他でもないアナタにそんな風に見られると。

「安心してください、アナタには何もしませんよ」

「安心? 出来る訳ないだろ!? あんな施術アタシだって始めて見たよ!」

 まるで敵を見るかのような、いや実際ネルさんの中で僕はすでに仮想敵となっているんだろう。

 紋章術、いやこの星の場合は施術か。

 シーハーツは施術という分野に置いて間違いなくトップクラスだ。

 それ故に信じられないのだろう、僕の起こしたこの状況が。

 そしてそれが僕への不審に繋がっている。

 これはマズイね。
 
 下手をしたらマリアまで疑われかねない。

 どう説得しようかと考えた瞬間。

 カクンと膝から力がぬけた。

「っ! まだ早いのか?」

 壁に手をつきなんとか体を支える。

 コレだけは言わないと駄目なんだ。

「ネルさん、信じて、下さい」

 震える声に返ってくるのは疑いの眼差し。

 けど僕はなんとか続ける。

「『僕』は、アナタを傷つけないし、裏切らない。これは、何があっても、間違いない、ですから」

「……アンタを信じるに足る根拠は?」

「根拠、ですか? それは、ない、ですね」

 意識が飛びそうになり声が途切れる。

 それでもなんとか言葉をつなげる。

「根拠も、証拠もない、ですけど。それでも、それでも信じて、欲しいと、思うのは、いけませんか?」

「……」

 かすかに揺らぐ瞳。

 それを目に映ると、思わず頬が緩んだ。

「ネルさんって…」

 ‘前から’言いたかった言葉。

「ネルさんって…優しい、人、ですね」

「んなっ!?」

 珍しく露骨にうろたえた表情。

 そんな顔が可愛いなって思いながら、『僕』の意識は再び沈んでいった。



























 気がつけば優しい温もりを感じた。

 目を開けると誰かの背中。

 ってことは僕おんぶされてる?

「ん…なんだい起きたんならさっさと降りな」

「え、あ、はい」

 慌てて地面に足をつく。なぜか体中にあった痛みがほとんどなくなっていた。

 辺りを見渡せば見たこともない光景。

 えっと…ここ、どこ? 何で傷が治ってる? 

「ああ、ここはアーリグリフの地下を流れる水脈でね。ちょうど地下牢と繋がっていたんで利用させてもらったのさ」

「地下水脈、ですか。どおりで寒いわけだ」

 寒さに身震いする僕を見てネルさんは軽く笑う。

「この辺りはどこ行っても寒いよ。それが嫌ならキョロキョロしてないで早く行こうか」

「あ、はい。分かりました」

 ネルさんの後をついて歩く。

 そんな中で不意に違和感。

 なにかというと優しいのだ、ネルさんが。

 別に何かをしてくれる訳じゃないんだけど、それとなく意識してくれているのが分かる。

 分かりづらい、けど心地よいそんな気遣い。

 ついさっき、会った直後はもっと冷たい感じがしたんだけど気のせいだったかな?

 だって‘僕はなにもしてない’んだから、急に態度が変わるのはおかしい。

 ってことはあれかな、敵地にいてそれで殺気立ってたのか。

「そこ、気をつけな」

「っと、はい」  

 …うん、やっぱり。

 一人納得している不意にネルさんと目が合った。

「…なんだい?」

「いや、大した事じゃないんですけど」

 そう前置きしてから

「ネルさんって良い人ですね」

 そう言うと。

 ネルさんは不機嫌そうに顔をマフラーに埋めて、イラついたように組んだ腕を指で叩いた。

「何言ってんだいアンタは。そんな事より急ぎな、ここはまだ安心できるような場所じゃないんだから」

「あ、待ってくださいよ」

 さっさと歩いていってしまうネルさんを慌てて追いかけた。

 その後暫くして出てきたお化け蟹を、絶好調の僕が放った大魔法で丸焼きにしたり、その様子を見たネルさんが何やらため息をついたりしてたけど…まぁ大し た事じゃないだろう。


 ちなみに後で聞いた話なんだけど、ネルさんのマフラーに顔を埋めて組んだ腕を指で叩くという仕草は一種の照れ隠しらしく、初対面の男性に見せたのは始め て だったらしい。
 
  

 























 あとがき

 お久しぶりです、葵です。

 大学受験もようやっと終わり、どうにかこうにか時間が出来ました。

 とはいえ来月も予定があるので定期更新という訳には行きませんが、なんとか筆を持ち直すつもりなのでこれからも宜しくお願いします。

 それと本編中の ネルが「アタシ」と言っていますがこれは仕様(原作では私と言っています)です。

 正直私の技術ではこれから先キャラが増える中で書き分けをする自信がないので、こういった点でキャラの区別をすることにしました。

 そんな感じでなんとか再開しますので

 では次のお話で・・・  

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