目の前にはドア、そのわきには中等部二年A組という文字が入ったプレートがぶら下がっている。
先に教室に入ったしずな先生はわずかに開いているドアの隙間から優しく視線を送っている。

「まずは転校生の紹介をしようと思います」

ドアごしにネギ先生の声が聞こえる。

「それでは藤井灯さん、どうぞ入ってきてください」

わずかに鼓動が速くなる。
これぐらいで何を緊張してるんだ、もっと緊張することは過去にもっとあっただろうに。
覚悟を決め、ドアを開き、早足で教壇へ。
クラス全員を見て、龍宮さんや桜咲さんがいることを確認する。
予想外なことにエヴァさんや茶々丸さん。ゴーレムから助けた女の子までいることに驚いた。
なにか作為的なものを感じずにはいられない。
そんな思考を後回しにし、自己紹介に集中した。

「はじめまして藤井灯です。中途半端な時期の転校ですが、これからよろしくお願いいたしま、わうっ」

足元の床がスイッチを踏んだかのような音を出した。 どこに隠れていたのか、教室の一番奥からチョークが五本ほど高速で発射される。

「やば、とっておきのトラップ解除しておくの忘れてた」

誰かの小さな呟きが聞こえたが今はこのチョークをどうにかすることへ集中する。
ネギ先生、しずな先生に当たる危険があるため、迅速に行動を開始。
手を動かしてチョークをキャッチする。
あっさりと全てをキャッチし終え、クラスの一部から運動能力の高さに驚いていたが、問題はそのあとだった。
頭上から鉄製のバケツが落ちてきた。
本命のトラップを決めるために別のトラップをダミーとして使うという話があるが、まさにこれはその言葉の通りである。
だが、これぐらい避けることなど造作もないこと。
わずかに身体の位置をずらすだけでこれまたあっさりと避けた。
バケツが床に落ちる音が響き、クラスが沈黙に包まれる。
少し気まずい雰囲気だ。

「えと、邪魔が入りましたが改めてよろしくお願いいたします」

クラスが急に騒がしくなった。
あまり目立つことは避けたかったのですが、しょうがないですよね。

「藤井さんの席はエヴァさんの隣りが空いてるからそこに座ってね」

よりによってエヴァさんの隣りですか、なにか起こらなければいいのですが。
かくして私は二年A組の一員となったのであった。










ネギま+α









授業が終わり、放課後に。
そして歓迎会が始まった。
お菓子を食べ、飲み物を飲みながら、適当な雑談を――

「ねー、灯ちゃんってどっから来たの?」

「アメリカのほうからです」

「さっきのチョークキャッチもっかいやって見せて」

「あれは運良くできただけですので、もう一回は出来ません」

「好みの男性のタイプは?」

「ノーコメントでお願いしますっ」

そもそも私はもとが男です。

「部活とかはなにに入るの?」

「まだ決めてないのであとで決めようと思っています」

部活ですか、すっかり忘れていました。
そのうち決めないといけないでしょうね。

「それじゃあ――」

休む間もなくつづく質問の嵐。
そのなかに割って入るかのように校内放送が入った。


『藤井灯さん、絡繰茶々丸さん、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん。至急校長室までくるように。繰り返します――』


いったいなんの用件なのだろうか。
しかもこの組み合わせはいったいなんでしょう。
非常によい予感がしません。

「すいません。残りの質問はまた時間があるときにでもお願いします。それじゃあ、行ってきますね」

そうして校長室に行くことになった。
転校直後の私は校長室の場所がわからないので案内役としてエヴァさんたちと一緒に。
なんの会話もなく、校長室向かって歩く三人組。
非常にきまずい雰囲気です。
なにか話そうと思った矢先、エヴァさんが突然話しかけてきた。

「貴様は藤井流というやつを知っているか?」

「え? 流なら私の兄ですけど、それがどうかしましたか?」

師匠が決めた設定ではそういうことになっているらしい。
しかしダイレクトにこんな質問が来るとはもしかして私の正体を感づけれたのしょうか。

「そうなのか、すまないな。奴と貴様の顔がよく似ていて、苗字も同じだからもしかしたら奴となにか関係があるのかと思ってな」

「いえ、気にしないでください。双子なのでよく間違われることがあるんです」

これまた師匠の設定、師匠の脳内はいったいどうなっていることやら。
しかし話し振りからすると、どうやら気づかれていない様子で、どうやら大丈夫だったようです。

「ところでなんで兄のことを知っているのですか?」

「ああ、今朝お前の兄らしき人物に会ってな、少々失礼なことをやらかしてくれたのさ」

「そうなのですか、すいません。兄が迷惑をかけてしまって」

「なに、お前が気にすることではないさ。次にまたなにかやらさされたら容赦はしないが」

「はい、わかりました。そう兄に伝えておきます」

勘づかれてはいないようですが、流のときに見つからないように注意する必要はありそうですね。

「その口ぶりからしてあなたのお兄さんもこの学校に転校しているのでしょうか」

会話のなかに入ってくる茶々丸さん。
普通にロボが学校に通ってるのを見たのは驚きました。

「はい、こっちに転校してからは忙しくて会ってませんけど、男子校のほうに転校してきているはずですよ」

「そうなのですか。あ、ここが校長室です」

中に入る。校長先生以外に誰もいない。
ほかの人に聞かれたくない話なのではないかと疑ってしまうが、さすがにそれはないだろうと思い至った。
校長先生は少々年季の入ったアルバムを持っている。
見たところ何の魔力も宿っていないし、どこにでもある普通のアルバムのようだが、なぜあんなものを持っているのだろう。

「校長先生、いったいなんのご用でしょうか」

「ふむ、来たかの。そこのソファーにでも座りなさい。立ち話では悪いからの」

「そんなことはでうでもいい、私も忙しい身でな、用件をさっさと言え」

「うむ、ではまず訊きたいのだが、二人の家に空いている部屋はあるかの?」

「空き部屋は多数ありますが、それがどうかしたのでしょうか」

なにか嫌な予感がしてきました。
これはもしかすると。

「実はの、灯ちゃんがまだ住むところが決まってなくての、寮にも空いている部屋がなくて困っておるのじゃ」

「それで私の家に住ませて欲しいというわけか」

「そうじゃ」

「断る。では私は帰る。いくぞ茶々丸」

即答だった。
て、このままじゃ私宿無しじゃないですか。
エヴァさんの家というのはあまり気乗りしませんが、贅沢はいえません。

「待て待て、ではなぜ嫌なのじゃ?」

「あそこは私の家だ。ほかの者を住ませる気はない。それに人一人でも住人が増えれば、その分の生活費がどれほど増えると思っている」

「あのマスター」

「なんだ」

「さきほど人一人ほど増えた分の生活費をシュミレートしてみたところ、一人程度なら十分許容範囲内だと私の計算では出たのですが」

「あの、私家賃ぐらいなら払えますけど」

「二人はそういっておるが、おぬしはどうかの」

「私は納得しないぞ。例えどんな条件がついたとしてもな」

「しょうがないの。では交換条件じゃ、おぬしが灯ちゃんを住むのを許可してくれればこのアルバムをあげる、ということでどうかの」

懐から取り出したのはさっき持っていた一冊のアルバム。
おそらくとっておきの切り札だと思われるあのアルバムの中身はいったいどんなものなのでしょうか。

「はっ、そんな小汚いアルバム一冊で私が条件を呑むと思っているのか」

「そうじゃ、思っているとも。なにせこのアルバムの中身はナギ、だからの」

買収ですか。
ナギとはいったいなんのことだかわかいませんが、アルバム一冊ぐらいの撒餌で解決する程度の問題なのでしょうか。

「なんだと………」

エヴァさんの声から力が消え、ぷるぷると震えている。
私とアルバムを交互に見比べ、腕を組んで数秒悩むような動作をする。
最終的に視線がアルバムにくぎ付けになり。
あれ? もしかしてめちゃくちゃ食いついちゃってます?

「本当か、あいつを住ませればそのアルバムをもらえるんだな!」

「そのとうりじゃ。幼少時代の激ぷりちーなナギが満載じゃぞ。今なら青年時代の写真を数枚おまけでつけるがどうじゃ?」

「くっ、しょうがない。貴様が私の家に住むことを許してやろう。ただし余り騒がしくするなよ」

こうして意外とあっけなく私の住居は決まったのであった。
校長先生の買収によって。

「こんなのでいいのでしょうか」

「いいのじゃよ。あれでも根は良い奴じゃぞ」

「はあ、しかし決め手となったのは買収と言うものでは…」

「なに、おぬしがあやつに認められれば、わしがなにもしなくとも自然と住むことが許されるじゃろうよ」

「そんなものなのでしょうか」

「そうなのじゃ。あとあやつは学校に登校してから授業をサボる癖があるようじゃから、ちゃんと授業に出させてやってほしいのじゃが頼めるかの?」

「はい、了解です」

「ではお願いするかの」

「おい、藤井。そろそろ私の家に行くぞ、ついてこい」

先に廊下に出て待っていたエヴァさんからの呼び出し。

「今行きますね」

アルバムの効果で機嫌がよくなっているのか。朝からずっと不機嫌な顔しかしていなかった彼女だが、今は笑顔だった。

「では、行きましょうか灯さん」

「早く家に帰りたいからな、走っていくぞ」

藤井灯、絡繰茶々丸、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
何でも屋、ロボ、人? というなんとも奇妙な組み合わせの共同生活が今、始まったのであった。

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