「はい。では声を揃えて。『閑羽、字は雲長』」


「「「「「かんう、あざなはうんちょう」」」」」









第9話『LIBRARY ISLAND STORY2」






「なぁ。何で棒読みなんだ?もっとこう……抑揚とかがあるだろ?」


月戒は簡易な教卓をはさみ、少女たちに言った。
少女たちだけでなく、ネギも席について授業を聞いている。
席について、とはいっても、正座しているのだが。


状況を簡単に説明すると、月戒がバカレンジャーに勉強を教えているのである。


何故か?という質問が来るだろうが、ネギは英語教師だ。
英語だけではなく数学もそこそこできるのだが、如何せん、文型教化が全くできない。
特に私生活において問題のあるほどレベルが低いわけではないが、

だからといって教員のレベルには達していない。


だが、月戒は違う。
将来的に国の重要人物となるべく育てられたのだから、基本的な学問はマスターしている。

ただ、教えるのにはあまり向いていない。
白文をすらすら読める、というか中国語を話せるので漢文はお手のものだ。
ドイツ語も話せるが、ドイツ以外ではあまり使っていない。
簡単に言うと、言語習得の面ならネギの上を行くのである。



そういう理由で、月戒が教卓に立っていた。








「あの〜コレに何の意味が?」

アスナが強面を無理につくって手を上げる。
同い年の人間に教鞭を振われるのをあまり快く思わないようだ。

そんなアスナの気持ちなどミジンコ一匹分も汲み取ろうとせず、月戒は即答する。



「見て書き写すだけで勉強になると思うのか?見る・聞く・言う・書くが勉強には必要だ」


無表情というか、感情のない目でアスナを見ながら言った。
自らの思う当然の質問と自らの思う当然の答えがぶつかっているのがわかる。
2人の目線の中間には、今にも火花が散りそうだ。


すると、アスナの弁護をするかのように、まき絵も負けじと声を上げた。






「でも、新田先生はそんなことしないよ?」


やや不満げな顔だ。
もしかしたらこの顔でKOされる奴もいるかもしれないくらいキュートだ。
だが、月戒にはジャブがグローブをかすめたほどにも効かない。


「じゃあ、その新田が間違ってるんだ。今風の教員に教学能力を求めちゃイケナイな」

むぅ。と、駄々をこねている子どものように口を膨らませる。





「ワタシ中国人だから漢文得意アルよ。別の教科やりたいネ」


つまらなさそうな、目でクーフェイが言う。
確かに漢文は中国語も同然なので、つまらないのもわかる気がする。





「拙者もできれば教科を変えていただきたい」


楓も相槌を打つ。
実は楓の場合、文型教科は悪いなりにもできるのである。
その代わり理系教科がボロボロなのだが。





「え!?もう少しやりましょうよ!」


ネギだけが興味と学習意欲を示す。
ネギが持っている才能のひとつには、興味を持つことも含まれている。
その興味が根気を生み出しているに違いない。






月戒は困った。

三者三様とは言わずとも、漢文を続ける続けないで悩んでいる。
こんなことで悩みたくなんかない。

多数決で考えれば漢文をやめて歴史でもやればいい。
だが、ネギの意見を無視はしたくない。

そんなことを考えている矢先、女生徒たちがネギに賛同し始めた。








「もぅ……仕方ないわね。ホラ!早く続きやるわよ!」

「う〜〜〜ん。ネギ君がそう言うなら……」

「……ま、確認くらいのつもりでネ」

「あいあい♪」




ふぅ、と軽く溜め息をつき、月戒は授業を再開した。











そして2時間後……。





「んじゃ、基礎は大体叩き込んだからテストするぞ」

「「「「え〜〜〜〜!!!」」」」




勉強が終わったと思った瞬間にテスト。
2時間ぶっ通しでやっていれば、やる気も集中力もとっくの昔に失せているはずだ。
しかし、そんなことは関係ない。


月戒はネギから話を聞いていた。

今回のテストでクラスを最下位から脱出させないと、魔法使いになれない。
そして、一名を覗く『バカレンジャー』が特に足を引っ張っている。
その後いろいろあって、頭が良くなる魔法の本を探しに来た。


だが、頭の良くなる本(メルキセデクの書)は手に入らず、
こうして脱出不可能なところまで来てしまった。

しかも、テストまで3日。


徹底的にシゴクしかない、と月戒は考えた。
話を聞いたり授業をする中で、バカ過ぎると実感したのだ。
と、なればだ。
ある程度応用力が要求されない教科に目が行く。


漢文・古典・地歴公民・英語だ。
数学にも触れたいところだが、後回しだ。
1点でも多くとるためには、文系教科に力を回したい。
何故なら、ココにいる連中は文型も理系もあったものではないから。




「はい。グダグダぬかすな。担任に迷惑かけるぞ」


そう言うと、皆シャキっとする。
この台詞をダシに数十回持ちなおさせたようだが、まだ効くようだ。

そんなことを思いながら月戒はプリントを配った。




「全部で20問だ。1問5点の100点満点。……お〜い、アンタラも受けろ!」


遠くでジュース片手に本を読みふけっている二人を呼ぶ。
2人とも、てってってって、と駆け寄ってきた。




「なにするん?えらい長く勉強し取ったみたいやけど」


このかが不思議そうな顔で月戒を見つめる。
月戒は少し、視線を外した。

露出度がやや高い。
あんまりじろじろ見ると女性に失礼だからだ。
それと、自分も何故か恥ずかしい。

視線を外すと言っても、眉毛の辺りに視線をよこしたに過ぎない。
だから不自然には思われなかった。





「面倒です。そもそもテストをするくらいなら勉強に時間を裂いた方が良いのでは?」


似たような格好の夕映も突っ込む。
やはり月戒は目線を上手くずらした。

いくら童女といえど、女性には失礼だ。
ということらしいが……。





「個々の実力の把握は必要だ。悪ければ反省になるし、良ければ自信になる」


さぁ、とっとと席につけ。始めるぞ。

月戒の宣言によってテストは開始された。

















40分後……。



「やめ!はい、御疲れさん!十分休憩」

月戒の声が響いた。
不条理なほど短い休憩時間の宣告が。




「え〜!十分だけ!?」

まき絵が驚愕の声を上げる。
目を丸くして驚いた顔をする。


「ちょっと!厳しすぎない!?」

アスナも抗議した。
やはり、納得がいかないらしい。


「月戒!少しくらい休憩させてあげましょうよ」

流石のネギも反論した。
自分がキツイのも少しはあるが。



ちなみに夕映とこのかは、終わるなりさっきいた場所に本を読みに行った。

クーフェイと楓はノックダウンしている。




「じゃ、答え合わせするから邪魔すんなよ」

誰の意見を聞くでもなく、答え合わせに入った。







十分後……。



「じゃ、テスト返すぞ!」

月戒が声を上げた。
だが、誰一人集まらない。

少しだけ、カチンときた。
自分たちがどれだけ大変な状況にいるかをわかっていないくせに、待遇改善を求める。
月戒から言わせれば、言語道断である。

だが、怒ってはいけない。
学習意欲を失わせたら終わりなのだ。





「まず、名簿の若い奴からだ。綾瀬夕映」

ざっざっざっざと砂浜を踏みしめていく。
少し時間はかかったが、夕映にたどり着いた。

夕映はそれに気づき、ちらっと月戒を見て視線を外した。

そんなことはお構いなしに、月戒はプリントを渡した。



「なんでバカレンジャーって呼ばれてんだよ。100点だ」

「どうもです」


そっけない態度で月戒から渡されたプリントを受け取る。
勿論、視線は本から放さない。

そんな夕映にあきれて次の生徒にプリントを渡そうと思った矢先、
置いてあるジュースの近くにある古典の簡易解説集に目が行った。


「お疲れさん」

ねぎらいの言葉を一言残し、月戒は次の生徒にプリントを渡しに行った。






「神楽坂アスナ!85点。やるじゃねぇか。アンタも」

「え……えぇぇぇぇぇええ!!!」


アスナの声に反応して皆が駆け寄る。





「スゴイじゃないですか!アスナさん!」

「こ……今年の夏は雪が降るネ」

「あ〜〜〜……」

「スゴイやん!アスナ!」

「え?本当にアスナの解答?」

「頑張りましたね。アスナさん」




次々と生徒たちが声を上げる。

月戒はちょっと満足そうな顔をしていた。




「次、クーフェイ。95点。近衛このか、100点」


お〜〜〜!と再び声があがる。


「佐々木まき絵と長瀬楓、ネギ・スプリングフィールド。ともに90点」


お〜〜〜!と、更に大きな声があがる。




「んじゃ、お疲れさん。好きなように休め。正し、浮かれすぎるなよ」


は〜〜〜い、と皆声を揃えていった。














「月戒、ごめんなさいね。なんか迷惑かけちゃったみたいで……」

「気にすんな。こっちもイロイロ世話になってるからな」


適当な本棚に座って二人は話していた。
他の生徒には、ミーティングと称して離れたところにいる。



「でもよ、お前の魔法なら脱出できそうじゃねぇか。ばれたらマズイのはわかるが、どうしたんだ?」

「じ……実は、自分で魔力封じちゃって…………」


申し訳なさそうにネギが言う。
ただ、生徒のことを思ってやったことなので、仕方ないといえば仕方ないだろう。



「ま、仕方ねぇさ。もう夜も遅い時間だから寝るといい」

「ありがとう。それじゃあ先に寝てますね」

「おう」



ひょいと本棚から飛び降り、ネギは去っていった。










「さて、俺も聞きたいことがあったんだ」


月戒は砂の中に声をかける。
途端、ボコッと砂が盛りあがって、中から楓が出てきた。


「ふむ。気づくとは流石」

目を細めたまま、感心したような顔で月戒を見ていた。
ゆっくりと、音を立てないように月戒に歩み寄る。





「テメェ何モンだ?なんであの高さから落ちながら意識があった?」

「拙者も伺いたいことがある。何故あんな速度で駆けることができる?」

「先にテメェが答えろ」




ふむ。と楓は小さく漏らした。
そして、すぐに口を開く。






「改めて自己紹介をしよう。拙者、甲賀中忍・長瀬楓。ネギ坊主の正体も知っているでござる」

「へぇ。忍じゃねぇ。どうりで」




感心したような顔をして月戒は頷く。
その顔からは、満足そうな感じも見て取れた。




「俺は国級月戒。国級家三男にして、人体実験の対象だ。もうかれこれ5回手術されている」

「なんと………………!」



楓が目を見開いた。
単純な驚愕だけではない。
本当に存在したのだ。
不限人なる、高い素質の持ち主が。


奇妙・変態・バイセクシャルの噂の立っている男が、まさにそれだったのだ。
勿論、ショックも混じっている。





「楓。お前のクラスの連中に付いて教えて欲しい。……なにか妙な気を感じる」

「ふむ。拙者もそれは前前から思っていた」

「頼む。俺は人を探しているんだ」

「ほぅ?人探しと。一体どのような人物を?」

「神明流剣士だ。そいつを倒さねばならない」

「神明流?はて……。残念ながら、拙者の知る限りでは、クラスにそんな者はいないな」





嘘だ。
勿論、嘘である。
楓は該当者を知っている。
桜崎刹那がそれにあたる。

だが、教えられない。




この男は決闘なんかして、優劣を楽しむ人間じゃない。
絶対に桜崎刹那を殺す気だ。


楓はそう悟った。
根拠などない。
『女の感』丸出しだ。





「そっか。すまないな。……俺はここで寝る。用があったら声をかけてくれ」

「あいあい♪お主もゆっくり休むがいいでござる♪」






楓はその場を離れた。
その際、妙なことに気づいた。











国級月戒には、人間とも人外とも似つかない雰囲気があった。














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