第8話『LIBRARY ISLAND STORY1』








「ふぅ……やっと飯にありつけたな」









あれから月戒は3時間ほど空間の探索をした。


そして、いくつかのことに気づく。


まず第1に本が多い。
その数は半端でなく、面倒くさがりな月戒には確実に数えられる量ではない。
しかも不思議なことに、水に浸っているはずの本が濡れていない。
何かしらの細工が施してあると考えられる。


第2に、出口が無い。
月戒は壁や天井を駆けずり回ったが、それらしき物は何も無い。
本来なら、月戒をココにつれ込む際の出入り口があるはずだ。
だが、当のつれ込まれた本人は未だに発見できていない。
初めから出入り口などなく、何かしらの特殊な力で移動させられたとも考えられた。
そういう能力も、世界中で極秘に研究されている。


第3としては、生活できるということだ。
水.食料.布団など、生活必需品は全て揃っている。
ジュースなどの特に必要無い物まであるのだから、むしろ豪勢とも言える。




兎にも角にも、この空間から脱出せねばならない。
食料だって有限だし、黒蓮が暴走しかねない。




月戒の思考はひたすら回りつづける。






脱出。
脱出の手段。
連絡。
無理。
出れない。
広い。
1週間以上は持つ。
どうする?
誰かが気づくのを待つ?
そうだ。
気長に待てばいい。
果てるなら、それもまた一興。









結局は考えるのが面倒なだけであった。
結果、誰かが助けてくれるのを待つ。
時間的にもこれといった不利は無いので、適切といえるのかもしれない。
ある意味においては最良の選択である。



決して彼が他力本願なワケではない。
自力でダメだったのだから、これ以上は無駄に消耗するだけと考えたのだ。
月戒にとっての最善策はコレだったのである。


















「…………ぁ〜……」




食後の月戒の耳に奇妙な音が入った。
正確には、声。
空気を震わせる波。


……上から聞こえてくる。







「あん!?一体なんだってんだ?」








眼鏡を外して、上にある空洞を見る。


2時間前の探索では、上はただの天井だった。
材質は壁と同じで、炎で融解できなかった。
雷を叩きつけてみたが、少し削れただけで壊れる気配を見せなかった。


その空洞から、人の声。




ぐっと集中し、視力を高める。
16.3の視力で空洞を見つめる。



女生徒が6人。
そして、ネギ。




このまま行けば、確実に転落死する。
落下点は柔らかい砂の部分か水面だと予測されるが、高さが尋常ではない。





「ちっ!仕方ねぇ!」






月戒は、急いで落下点を確認する。
水面。
そう判断すると同時に、その水面に駆け寄る。
勿論、全速力だ。


そして、到達すると同時に、水面に蹴りを叩き込む。
叩き込むと言っても、足払いのような形である。
水の中に足を突き刺して、えぐるようにしてスライドさせる。
すると、水面下30cmほどが湖と離れた。
そして、浮遊している層と新たな水面との間に炎を流し込む。

この段階では、200℃程度の温度。
水の比熱から考えてもすぐに沸騰はしない。
そんなこととは関係無く、月戒は炎を広げる。
やがて、その炎は膜となり水の塊の下を完全に包み込んだ。



落ちてくる女生徒とネギ。
月戒の予測通り、湖めがけて落ちてきた。



「っし!誰も死ぬんじゃねぇぞ!」






月戒は自分に気合を入れた。
そして、炎の温度を一気に上げる。

鉄をも蒸発させるほどの温度まで一気に引き上げるのだ。
当然のこと、水は水蒸気となり体積を増す。
急激なモノとなれば爆発にも似てくる。


そう。まさに爆発であった。



しかし、その爆発は誰も傷つけない。
爆発は落ちてくる者に届く前にすっかり弱まる。
が、その爆発は、その者達の動きを一瞬止めるのには事足りていた。


その一瞬が、彼女達を救う結果になった。

















月戒は自分の現在地から、落下している集団までの位置を目測する。




約80m。



一度に二人ずつ助ければ、最高でも四回の救出でなんとかなる。




そう悟った瞬間に、月戒は壁を駆けた。
先ほどまで月戒がいた砂地は粉塵を上げる。
その粉塵が最高点に達する前に、月戒は少女たちと同じ高さにいた。





そして、全員の体格を瞬時に確認する。


月戒としては、時間の都合上一度に大人数を助けたい。
できる限り小柄な人間を先に運びたいのだ。

大柄な人間の方が体重が基本的に重く、落下スピードも速い。
だが月戒には、落下しきる前に全員助ける自信が少しはあった。
効率を考えるのは、万が一の事態に備えるためだ。
例えば、急に壁が崩れたり、足が限界を超えたり。


つまり、クーフェイと夕映とネギが最優先となる。
だがさっき見たときに、ネギはアスナにしっかりと抱きとめられていた。


この2人は、『ネギ+アスナ』という一つのペアになると言ってもいいだろう。
つまり、この2人は一番最後に救出されることになるのである。

勿論、身長のある楓もだ。






その全てを判断し尽くした後、一気に壁を蹴り集団の方に跳ぶ。
判断していた時間は、大体2秒程度。
ちょうど落下が再開し始めていた。





まず、夕映とクーフェイの襟首を掴んだ。
そして、向こう側の壁にたどり着いた瞬間一気に駆け下り、二人をそっと地面に置く。

これで3秒。

二人への衝撃は、炎で空気を膨張させてギリギリまで抑えた。
無論、炎も火傷しない温度で遠巻きに使った。






次は、このかとまき絵。
降りてきた壁に駆けあがり、先ほどと同じ要領で跳ぶ。

しっかりと襟首を掴み、再び壁に到達し、駆け下り、丁寧に置いた。

少し足が重いと感じる。
無理が祟ったのかもしれない。





力を振り絞るようにして、もう一度壁を駆け上る。
ふと目に入ったのは、バランスをとり着地しようとしている楓。

まだ40m近く残っている。


バランスをとりなおしていることなど気にせず、跳躍し、楓の襟首を掴み壁を下る。
こちらに気づいたのか、肩口をしっかりと捕まれた。

とりあえず手を振り解き、地面に仰向けにしておいた。


さらに足が重くなる。
枷をしているわけでもないのに、走りづらい。





もう、壁に駆けあがる必要は無かった。
計算通り、ネギ達は地面の近くまで来ていた。

一気に走り寄り、スライディングキャッチする。
仰向けになり、二人を捕まえる。
その瞬間に地面を雷で弾いて空間を作り、衝撃を和らげた。
月戒が衝撃を包むようにして受け止め、さらに地面で受け止める。

月戒本人の右腕にヒビが入ったが、すぐ直せるので無視した。



















「あれ?ここは……?」

アスナが目を覚ました。
不思議そうな顔をして周囲を見つめている。



「あ!アスナ。おはよー!」

まき絵が陽気に声をかける。
意識がハッキリとしており、アスナよりずいぶん早く起きていたことを物語る。



「ここは恐らく、地底図書室ですね」

夕映も独り言を漏らす。
その手には、抹茶ブルーヴェリーが握られている。



「え!?あの一度入ったら帰って来れんていう?」

珍しくこのかが少し焦っている。
少し混乱気味で周りをキョロキョロしている。



「なんで2人ともそんな物騒なとこ知ってるネ?」

クーフェイが両腕を組んで突っ込む。
彼女にとっては、珍しく一般的な見解だ。



「う〜ん♪なかなか広いようでござる」

楓が目を更に細めて言う。
その目線の先には古びた洋館があった。



「たた……みなさん!大丈夫ですか?」

ネギが頭をさすりながら声をかける。



その声にはみんな反応した。










「うん。一応大丈夫よ」

「全然OKだよ!ネギ君!」

「問題無いです」

「ネギ君こそ大丈夫かえ?」

「中国武術研究会、ナメちゃいけないネ!」

「うん♪大丈夫大丈夫♪」

「おう。右腕の骨折だけで済んだぞ」






一瞬空気が静まるのが全員に伝わった。

最初にいたのは7人。

今、ネギの声に反応したのも7人。





明らかに一人多い。







「「キャァァァァァアア!!!」」


まき絵とアスナは揃えて声をあげる。
他の5人は、水に半分沈んだ本棚の上の人物に目が行った。




「よぉ!奇遇だな。ネギとその他生徒諸君よ」




そこには月戒が座っていた。
本のページをめくりながら、目を合わせないようにしている。

だが、急に本を閉じて本棚の上に立ちあがり、ネギ達の方に向き直った。
少し多めに息を吸い込んで、声にして吐き出す。





「諸君らに忠告しておこう。ココからすぐには出られない」











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