「今回の件は俺の責任が大きいです。よって俺を罰するのが適切じゃないかと」
月戒は学園長に言った。
第25番学園長室。
つまりは、月戒の通っている校舎にある学園長室である。
どの部屋も同じような構造になっているのか、質素な作りである。
普通の、少し大きめの机があって、普通の木製の椅子がある。
机には校章が入っていることから、特注だと推測できる。
今の月戒の位置からは見えないが、椅子の裏にも校章が入っている。
その、校章の入った椅子に腰掛け、交渉の入った机を間にはさんで、学園長は月戒と対峙していた。
まだ朝の9時ごろだからだろうか?
部屋は光りで満ち溢れている。
だが、そこにいる全ての者の顔には、一筋の光も無かった。
第7話『断罪の為にできること』
それは、事件の五日後の事である……。
被害者は麻帆良学園第3分校.高等部2―Iの生徒であった。
ただひたすら健気な子で、女手一つで育ててくれた母が病に倒れたと聞き、
一ヶ月も前から毎日毎日遠くにある家に帰っていたと聞く。
同じ部屋に住んでいた生徒などは精神的ショックを受けたために、現在ケアが施されている。
そいつの彼氏だったとか言う俺のクラスメイトも休んでいた。
ちなみに、そいつはまだ学校に来ていない……。
校舎の一部には、今もまだ暗い雰囲気が少しだけ残っている。
生徒たちの笑顔も、心なしかぎこちない。
きっと俺のせいなんだ。
俺が校外の生徒に対して気を配れれば……。
あるいは、俺があの遠回りの道を歩いていれば……。
今は亡き女生徒は助かったかもしれない。
そんな俺の思いとは関係無く、今、このような会議に至る。
「お主一人の責任ではない。ワシも校外の生徒は狙われんと思っとったからの」
「学園長……」
この人は考え過ぎだ。
俺が対応できれば良かったのに、自分のせいにしている。
俺が協力を要請したんだから、この人に罪は無い。
「誰のせいでもありませんよ!……一番悪いのは、犯人です…………」
ネギ。
辛そうな顔をしないでくれ。
お前は苦しむことは無い。
また、苦しむ理由も無いだろ?
「恐らく貴様が悪いだろうな。え〜と……眼鏡」
金髪の女が俺を指差す。
どうみても『ガキ』。
最悪の場合、『ちょっと成長の早い小学生』だろう。
近くにはロボットみたいなのまでいる。
すばらしい。
二足歩行だ。二足歩行。
背が高いなー。
俺より高い。
てか、何で制服着てるんだ?
「学園長。この女は一体何者だ?」
ネギも学園長も溜め息をつく。
2人とも顔に、コイツ呼ぶんじゃなかった、って書いてある。
先に、学園長が口を開いた。
左手で頭を抱えている。
……聞かれたらまずかったとか?
いや、だったらこの部屋にいないか……。
「この小さい女性はの、エヴァンジェリンと言って……まぁ、吸血鬼じゃの。安心せえ。味方じゃ」
ネギが苦笑いをしている。
本当に味方かちょっと怪しくなってきた……。
「その……エヴァンジェリンさん頼りになりますよ?強いですし……」
じゃあ何故うれしそうな顔をしない?
戦力だぞ?戦力。
まして吸血鬼ってならかなり強いだろ?
人間の比じゃねえって。
とりあえず、あまり触れて欲しい話ではないのだろう。
適当に流そう。
「ふ〜ん……。あのですね学園長。実は折り入って相談が」
「はて?何かな?」
俺の罰し方さ。
いい加減では困る。
「何か俺に適当な罰はありませんか?与えられるべき罰は……」
黙するな。学園長。
何も殺せとはいっていないだろう?
『罰せ』と言っているんだ。
「さぁ。何か…………」
「……どうしても、必要か?」
「はい。俺がこの先の決心を固めるに当たって」
「…………君はもう罰せられているんじゃよ」
ビックリ。
すでに罰せられている?
どこでどうやってどのように?
ネギのクラスの女どものことではあるまい。
「実はの、君にだけ都市各部エリアのこと黙ってたんじゃよ。ちなみに君は今、男子校エリアね」
「……続けてください」
……聞いてねーし…………。
初耳だし。
せめて伝えといて欲しかったな―……。
「職員会議で全員一致だったからの。ちなみにしずな君が渡したデータ、あれ20年前のヤツ」
「へぇ〜〜〜……」
「ちなみに、普段から校外登校してるのは君だけじゃよ」
「ふぅ〜〜ん……」
顔ピクピクきちゃったよ、オイ!
……まぁ罰せと言ったからには文句は言えんが。
「とりあえず、君の新しい家はコッチで用意しておいた」
「どうも」
てか、その前に最初から敬遠しようとしてた態度に恐れ入ったわ。
なぁ〜にが職員会議か。
ふざけやがって。
人権無視で地方裁から訴えるぞ。
「あと、罰というとじゃ。…………君の持ってる拳銃。あれ没収」
「…………どうぞ」
ちっ!
使う前から没収かよ!
製造No198852334820・通称『八百万』が!
手に入れるのにどれだけ苦労したことか!
あぁ!製造No198852334820・通称『八百万』!
「ちなみに、もう回収班はむかわせたぞ」
「……誰も死んでないと良いですけど…………」
馬鹿かコイツは。
侵入しようとしたら、まず黒蓮にリンチされるだろうな。
それでその後、人間サンドバックで……。
あー、ダメだ。
これ以上は想像したくない……。
最悪、簀巻きで潮の荒いところに……。
…………南無。
「で、もう一つはというと…………ホレ。右手を出しなさい」
「?はぁ……わかりましたが」
学園長の身体から、黒い紐か?
げ!
俺の右手に巻きついてきやがった!
「よし。これで君への罰は終了じゃ」
「はぁ……終了……ですか?」
……痛くない。
なんだコレは?
1.2.3……7本か。
ふむ。
恐らく、能力封印かなんかだろう。
「これは1週間で全てとける。1日1本じゃな。コレが全て消えるまで、君は魔法を使えん」
最初っから俺は魔法が使えません。
「……わかりました」
あぁ。
コレ以上何か期待するのも無理だろうな〜……。
とっとと家か〜えろ。
「待て。眼鏡坊主」
……小娘。
面倒くさい。
なんでこう、いつもいつも童女に呼びとめられるんだ?
俺はもっと知的で熱血で男らしいのに。
ガキに呼びとめられるタイプでは決して無いはずなのだが。
よし。
適当にあしらおう。
「オイ。なんか用か?小娘」
小娘の顔がピクリと動いた。
引き攣ったような笑み。
はっはっは。
今のが気に触ったと見た!
小娘、という単語がな。
「茶々丸。ロケットデコピン」
「あん!?」
何ブツブツ言ってんだ?コイツ。
ろけっとでこぴん?
デコピンでロケット?
ロケットなデコピン?
いや、ロケットがデコピンか?
いやいや!もしかしたら、デコピンでロケットを……。
お!二足歩行が指向けてきたぞ!?
ロケットなデコピンか?
「マスターは当てろといいましたが、できれば避けてください」
おぉ!二足歩行が喋った!
すっげ〜!
どんな素材でできてんだろ?
俺ん家にも、ああいうの欲しいなぁ……。
いや、機械好きってワケでもそういう気があるわけでもないが。
「月戒!伏せて!!!」
あ!?指が飛んで来るだぁ!?
……1本だけ。
あーあ。
やっぱりだ。なめられてる。
これだから見た目で人を判断する現代人(?)は……。
「よ……っと!」
へへっ!
簡単簡単!
別に伏せなくても深く踏み込めば避けられるじゃねぇか。
っと。
小娘と二足歩行に注意しとかなきゃな。
「オイオイ。いきなり人を狙うなんて失礼千万だぜ?」
「そういうセリフはちゃんと避けてからいってもらおうか?」
あん!?
ったくコノ小娘は負け惜しみが好きだな。
ちゃんと避けただろう?
オスマン・サンコンじゃなくたってちゃんと見えるぜ?
「マスターの言うとおり、まだ終わってなどいませんよ」
ったく。この二足歩行もか。
声に感情が無いが、判断能力はあるみたいだな。
うん。いいねぇ。
量産すれば人件費省けるんじゃないか?
「あんたらな。負け惜しみも大概にしねぇと……」
ん?
なんか後ろで音がしたような……。
……って!
さっきの指!?
ダメだ!避けられる距離じゃない!
てか、もうほとんど当たる寸前だし!!!
「ゴベッ!」
み……眉間にクリーンヒット!
ん?
何で視界が狭くなっていくんだ?
……あ!
オイ俺!ブラックアウトするな!
だぁぁぁあ!動けよ右手!ナイフ足に刺してブラックアウト防ぐんだ!
あぁ!もうダメだ!視界が狭く……。
月戒はずっとずっと後に目を覚ました。
ほのかな光りに、暖かい空気。
神秘的な広がり方をしている木々や古い洋館もある。
見ただけではわからないが、近くにある小さな滝や湖も温かい。
そんな中、彼、国級月戒は目を覚ました。
ゆっくりと上体を起こしていく。
座っている状態から、ゆっくりと立ちあがる。
そして、ぐぐーっと背伸びをした。
意外と余裕の見える行動だ。
「あー……確か俺、ブラックアウトしてから……。どうしたんだっけか?」
月戒は記憶をたどった。
まず、学園長室に行った。
そして、『八百万』を回収されると聞いた。
魔法を封じる印みたいな物をつけられた。
金髪のガキに小娘と言った。
ロボットのデコピンを避けた。
ロボットのデコピンに当たった。
ブラックアウトした。
「おかしい。ここに至るまでの記憶が無い。ブラックアウトのまま運ばれたか?」
手の込んだことをしやがる、と小さく呟く。
「とりあえず、飯でも食うか」
そう言って、いつも非常食を入れてある左の内ポケットを探る。
「ん?」
何故か、まだ探っている。
そのうち、右の内ポケットを調べ、ありとあらゆる物の入りそうな場所を調べた。
「やば。どっかに落した……」
なにか時間のわかりそうな物を探し始めた。
とは言っても、該当するのは携帯電話くらいだ。
さっき食料を探しているときに発見したが、何かのショックで壊れていた。
ふと、右腕が目に入った。
黒い線が3本入っている。
月戒は記憶を再びたどった。
学園長の言葉が、月戒の頭の中によみがえる。
『これは1週間で全てとける。1日1本じゃな。コレが全て消えるまで、君は魔法を使えん』
「……四日経った?はは……なめた真似しやがるぜ」
とりあえず食料探しだ。
そう小さく呟いて、月戒はその砂地から駆け出した。
人にあるまじき、音を超えた速さで。
「スピードはちゃんと出てる。やはり魔法しか封印できなかったようだな」
そんな風に勝ち誇ったことを言いながら、その空間を一周したという……。
しかし、これはまた別の話である……。