第6話『月戒君の部活動日記〜FINAL〜』







悠々と昨日破壊した道を通ると、学校に到着した。



悠々と言っても、眼鏡を取りに一度戻っているのでちょっと時間を無駄にした。
昨日、帝にヒビを入れられたのとは無論別物だ。


銀縁が、しっかりと囲むようにしてレンズを支えている。
別にそんなに厚いレンズではない。
むしろ、薄いと言った方がしっくりくる感じだ。








何故わざわざ昨日の道を通ったか?
まだ別の登校経路があるのではないか?
と、思うかもしれないが……。


昨日遠回りした道は遠すぎた、と思ったからである。
普通に歩いたら3時間かかるのだ。
何かしらのリスクを背負っていないのだから、ということだ。













しかし、『昨日破壊した道』、とは言っても、ほとんど修繕されていた。

なんと手際が良いのだろうか。
確か、アスファルトがはがれて、アイスクリームえぐったみたいになっていたが。


そんな、どうでもいいことを考えつつ、昇降口に入った。










『上履きが無い』





まぁ、やはり予想していたので、カバンから上履きを出す。
その際、周りに注意を配る。


誰もいないのを確認し、ややほっとする。
今日はアノ女がいないんだな、と。


そして、ブーツを上履きの袋に入れて、昇降口を後にした。













教室に行くと、生徒が何人かいた。

その中の一人に、玖珠八がいる。


相変わらずの長髪に、オールバックにしたようなデコ。
昔より鋭くなったハズの眼光が、今はまた昔のように柔らかくなっている。
……背はあまり変わってないけど。



「おはよっ!月戒君!」
「ん。おはよークスヤ」


他の生徒も次々と声をかけてくれる。


だが、何かおかしい。

笑顔で声をかけてくるのは良しとしよう。
だが、憐憫の眼差しまで向けられている気がする。


気になる。



席に着き、教科書類をしまい込んで、人の輪に向かう。





「なぁ。みんなさ、クスヤから何聞いたんだ?」



金髪の生徒が最初に口を開いた。
どうやらこの学校では、染髪は違反ではないらしい。

「なんかえらくお笑いがスキとか。イメージと違って面白くってよ!
 あぁ、オレ様は吉田だ。ヨロシク!」

「おぉ」


とりあえず左手を差し出されたので、左手を差出して握り返す。





次に口を開いた生徒は、ボサボサの髪をしていた。
無造作ヘアーとでも言うやつか?


「ん?そーなんか?せやったら俺と一緒やん!よろしゅう、つきはん!あ、俺市川な!」

「おぉ。よろしく」

その生徒とは握手を交わさなかったが、笑顔だけは交わした。
てか、『つきはん』ってアダ名かよ。






その後、楽しいお喋りが続いた。
ラッキーなことにドラマの話ではなかった。


『生徒大量失神事件』と『通り魔の脅迫状』である。


前者は自分が指示したことだから、さして興味は無い。
だが、後者はそう言うわけにはいかない。


一応自分が任されている仕事である。

職員室に保管されているらしいから、
後で学園長殿にでも拝見させていただこうと思う。


その会話の中で判明したのだが、どうやら恥辱の歴史を語られたらしい。
いつもなら、その場でコンビネーションパンチだが。














イロイロ話すうちにHRが始まった。



先生の髪が、ところどころ白くなっている。
ていうか、なんかハゲてる部分もある。

俺のせいかな〜?とか月戒は思ったりした。









早々にHRが終わり、一つのことに月戒は気づく。


「おい。帝がいなくないか?」

と月戒が言うと、クラスのみんなが声をそろえて言う。


「アイツが時間どおりに来るコトなんか滅多にねぇよ!」
「そうそう!移動教室だったら授業にも遅れるんだぜ!?」
「方向音痴じゃねーのにな!笑えるぜ!ホント!」


クラスメートの話を聞く限り、昔と変わらないようだ。
話題として小学校時代の帝のことを、一時間目までに話した。










その後も刻々と時間が過ぎていく。

とはいっても、月戒はずっとといって良いほど寝ていた。
無論弁当は忘れているが。





給食の時間に目が覚めた。
正確には、四時間目終了のチャイムで目が覚めたのだ。

一時間目からほぼぶっ通しで寝ていたらしく、体が少しだるい。



ぱっと周りを見まわすと、頭の上にバケツを乗せた帝がいた。
ペナルティみたいだ…………。



「でさぁ、給食どうすんの? friend 月戒?」

バケツを頭に乗せたまま、器用に帝が近づいてきた。
目覚めた人間への第一声がこれである。
もっとこう、『おはよう』とか『いつまで寝てんだよ』とかあるじゃないか。


立ちあがりバケツの中を覗くと、鉄アレイ(5kg)が2個入っていた。



「折角だが、給食の雰囲気は好きじゃないんだ」



だが、こんな事を言うとちょっと不信がられる。
こういうときはアレだ。
俺の家ならありうる、もっともらしい理由を言ってやれば良いんだ。

虚言でも気づく確率はまず無い。
アノ2人が喋らなければ、だが。





「ちょっといま、体重調整しててな。これだけ食ってんだ」


言い訳をするために、右のポケットから携帯食料を取り出す。

「じゃあ、悪いが俺の分は誰か食っといてくれ」




二日連続で味気の無い昼食はキツイので、購買部へと向かった。















この学校の方針によれば、ある程度の男女差別が見られる。


しずなとやらから頂戴した資料によれば、中学男子までには給食が配布される。
しかし、女子においては中学生から、購買部・食堂での買収。

どうやら近年、男性の自己管理能力の成長の速度の問題からこうなったらしい。

まぁ、給食は断ることもできるらしいから、その自由性は認めよう。
本来、『女性差別撤廃条約』や『男女平等』の世の中なら、
男性に対して厳しくしてやっても良いはずだ。
『男尊女卑』ならぬ、『女尊男卑』ってやつか?




てか、根本的に違うのは、学園都市の占める割合。
男子23%で女子64%。んでもって教員13%。
校舎は別個の癖に、なぜか食堂と購買部は共同。
ただし、購買部も食堂も女性側にしかない。
よって、かなりの手間。


まぁ誰の草案か知らんが、ヒサ兄にでもそのうち圧力かけてもらおう……。















長々と早歩きして30分…………。

やっとこさ購買部についた……。



しかしこの学校は、なんとだだっ広いのだろうか。
距離的な問題だけでなく、迷路のような構造も厄介だ。
嫌な例えをするが、対・侵入者用の建築物に酷似している…………。
俺でも攻略に2時間くらいかかるだろう……。



まぁ、とりあえずパンでも買おう。
腹が減ってはなんとやら……。
いや。戦はできぬ、だな。




「すんませーん。アンパンとクリームパンと牛乳を一つずつ」



人影の少なくなった購買部で声を上げる。
……やっぱり何人かの生徒はひいているようだ。
まぁ、そっちの方が良いんだが。



ハッキリ言って、他人様との関わりは極力避けたい。
やはり、善良な一般市民を危険にさらすわけにはいかない。
それにコレだけやれば、『国級』の名前を聞いて金目当てでよって来るやつもいないだろう。



こういう状態で出きる友人は大抵長続きする。
無論、こういった状態とは今の俺の現状だ。

『金の切れ目が縁の切れ目』というが、
『金の縁』を作らなければそうはならないのだ。







「はい!315円ね!」

手際良く品物を袋に詰めて、おばちゃんが目の前に差し出す。
手の平を出しているので、ズボンのポケットから500円玉と15円を出した。

「はい!おつり200円!次の人〜!!!」

非常に手際が良い。
まぁ、俺が何やったか知ってれば、ちょっとは違っただろうな……。



後ろを振り返り、「さぁ、屋上に行こう」と思っていると、








「あ〜〜〜!!!昨日の危ない人!!!」


などと指をさされてしまった。









まだ小学生なのだろうか?
かなり背が低い。
髪を二つにしばっており(ツインテールだったろうか?)、
少し釣り目をしている。



よく見ると、近くに似たようなのがいた。
いや、雰囲気が似ているわけではない。

顔や形がそっくりなのだ。
いわゆる、双子というやつだろうか?

が、別に双子は珍しくも無い。
ヒサ兄とカナン姉も双子だ。
(ちなみに、カナン姉が上である。二卵性なのでそんなに似ていない)



あれは、ダブルシニヨンヘア……だっけか?
もう1人とは対照的に、怯えているようにみえる。
いや、垂れ目がそうさせているのかもしれない。







「……童女、危ない人で結構だ。しかし指をさすな。行儀が悪い」



少しきつめに言ってやった。
昨日の出来事と重なって、怯えを倍増させてくれることを期待した上での発言だ。



「ほら!やっぱり怒られたじゃないですか!お姉ちゃん!!!」



ダブルシニヨンがツインテールの服の裾を引っ張っている。
どうやらツインテールが姉のようだ。



「史伽!この変態を野放しにしていいと思ってるの!?」



ふむ。

ダブルシニヨンの方は『フミカ』というのか。
そういや昨日、姉妹そろって手裏剣投げようとしてたな。

つまりは、女子2-Aの生徒か。



しかし変態とは一体どういうことだ?
俺は昨日、世間一般で言う『変態的行動』は何一つとっていない。
化け物とかなら大方予想できる。
だが『変態』は何かニュアンスが違う。









「…………何をしているんですか?」


後ろから声がしたので振りかえる。
別に、俺への言葉じゃなくても問題無い。
そのまま無視して屋上に向かえばいいのだ。










目に入ったのは、また童女。
しっかりと目が合ったので、俺への言葉だったのだろう。



アハハハハ。そういや、新聞の占いもあんまし良くなかったなぁ。

うん。そのせいだ。



童女って無邪気だから気配薄いんだ。実際のところ。
いや、気配っつっても俺は『邪気』とか『殺気』とか『闘気』限定だ。
だから気配が察知できなかった。
いや、負け惜しみじゃないぞ?
本当に邪気の類のものが感じられないんだ。







「あぁ。例の変態ですか。全く、最近はアホばかりで困ります」



哀れむような目でこちらを見ている。


ちくしょうが。
まだそこまで落ちぶれちゃいねぇぞ。
いや、行く行く落ちぶれるわけではないが。







よし。

この状況を一言で片付けてみせよう。

俺の今までの知識と経験からコノ情況に与えられる最も適切な言葉。






むかつく。




むかつく。




むかつく。





俺はIQ300越してるし、だからと言って一般人と話せないわけじゃない。
7歳までイロイロな本読み漁ったから知識だって負けない。
感性だって至ってまともといえるだろう。


自慢は好きじゃないが、ちょっと言い返したい。
やられっぱなしが大嫌いなんだ。
だから、な。
少し言い返したって誰も文句など言うまい。







「…………悪いが、俺は道具さえありゃ心臓も手術できるぞ」



コラ。疑わしい目で見るんじゃない。
胆のう摘出だってできるし、肝臓移植もできるぞ。
中学生だからって、できないと思うなよ。




「それに、ナイフ一本ありゃジャングルでも生きられるぞ」



おい。視線を強めるな。


ホントだよ。
ホントに。

ヒサ兄の方がそりゃ凄いけど、俺だってなかなかだ。
砂漠でも一ヶ月は持つ。
そう。砂漠でも水が飲めるんだぞ。俺は。


てか、あんまりそんな目で見ると終いにゃ泣くぞ。

……いや、冗談だが。








「で?それがどうかしたんですか?」

「アンタが俺の知識量を知りたがったいる風に聞こえたからな。で?どうだった?」

「まあまあですね。でも貴方は日本にある寺の名前を全て言えますか?」

「ほぉぉぉぉお。じゃあアンタは『マハーバーラタ』の内容を復唱できるか?」

「『徒然草』や『竹取物語』ならできますよ?」

「俺は日本以外の古書なら大体復唱できる。もういいだろ?」

「何がですか?私は貴方に何の制限も加えてはいません」

「しかし俺を引きとめるには充分な言葉が多々並んでいたが?」

「貴方の勘違いでしょう。では、ご自由にどうぞ」

「ああ、早速そうしよう」








なかなかだな。あの童女。
俺に臆さずに話しかけてくるとは。

しかも、意外と凄いんじゃねーか?
俗に言う、天才タイプか?
あの、社会になかなか馴染めないって奴。


……ある意味俺に似てるな。
話し相手にちょうど良かったかもしれん。


まぁ、縁がありゃまた会うさ。




さぁ、屋上に行こう。

もう三十分しか時間が無い。



















「ゆえ吉!大丈夫!?」

「大丈夫も何も。ただ話していただけではありませんか」



そう。私は話していただけです。

ただ単に会話をした。

確かに相手は昨日転校してきたばかりで爆弾発言してくれたような不貞のやからではありますが、
だからと言って必ずしも私に危害を加え得る相手となるとは限りませんし、
意外にも相当の雑学知識を兼ね備えていると言うことが判明しました。

しかも、彼の言葉が全て真実だったとすれば、彼は『マハーバーラタ』どころか、
『マヌ法典』や『聖書』は言うに及ばず、『アタルヴァ=ヴェーダ』
とか『ガリア戦記』も記憶していることでしょう。
ですが、これまた彼の言ったことを全て真実としなければなりませんが、
『万葉集』や『十六夜日記』などはきっと彼の知識の範囲外となっているのでしょう。
が、しかし。量で考えれば、私は彼に知識の面でやや劣っていると言うことになるのでしょうか?

正直怪しいです。

彼には医療知識もあるでしょうし、憶測ですが、薬剤知識もさぞ豊富でしょう。
薬草学についても深く学んだ経験があるでしょうし、
猛獣とナイフ一本で戦うことができるくらいの運動神経と言いますか、
格闘術に近いモノを持っているのでしょう。
しかし、格闘術で言えば2−Aには楓さんやクーフェイさんがいますし、
学校の勉強の面で言えば、葉加瀬さんや超さんがいます。
私1人では、全体で見ればやはり完敗なのでしょうが、部分的に見ていけば、
彼はそんなに超人と言うほどでもない人間でしょう。
ただ、さっきのはちょっとばかり不快でした。
まさか、インダス文明の書記を引き合いに出してくるなんて思いもよりませんでした。
というより、あの状況で質問されたのが心外でした。
予測不可能でした。
やはり私は、彼には劣るのでしょうか?

でも、あの珍奇な人とはもう会わないでしょう。
……いえ、縁があればまた会うでしょうね。



「ゆえ吉!ホントに大丈夫?さっきからブツブツ言ってるけど」

「大丈夫ですよ。さぁ、教室に戻りましょう」



2人とも、次からは声をかけてはいけませんよ。
ああいう人はかなり風変わりですから。
まともな会話をできる人は少ないですよ。




風香と史香にちらっとアドバイスをして、3人で教室に戻っていった……。





















5時間目と6時間目は自習だった。

本当はクラスでの総合学習の時間なのだが、先生が胃痙攣で倒れたらしい。
……俺はそんなにストレスになっていたのだろうか?

あーあ。ヤダヤダ。
現代人は頭も心も、ちょっとずつ、でも確実に退化している。
身体能力なんかは、目に見えてわかるほどだし……。
やれやれ。こんなんじゃ本当に人類滅びちゃうぞ?






「ところでさぁ、2−Aってイイ女が多いんだぜ?月戒も今度見に行くか?」

吉田が声をかけてきた。
何か話題を作ってくれたのだろう。
わざわざ遠い席から歩いてきてくれた。



「おお。ってかどうやって?普通に見に行くにしちゃあ距離あるぜ?」

「そんだけの距離歩いても見る価値あるっちゅーことや」


市川だ。




その後2人からイロイロな話を聞いた。
意外でもなんでも無いが、どうやらキワモノクラスらしい。
天才もいればスポーツ馬鹿もいて、よくいる生真面目なお嬢様もいるとか。


ん?

でも、今時は生真面目なお嬢様は少ないから、『よくいる』は間違いか。












ぼーっとしているうちに、帰りのHRの時間になった。


なんと、代わりの男性教員がHRをやってくれた。

…………やっぱり心なしか震えている。
しかし、立派に代理をこなしてくれた。

ちゃんと連絡もしたし、小話までついてきた。







関係無いが、俺は2−Aに行かねばならない。
てか、行かなかったら俺の睡眠時間が台無しになる。

それだけは避けたい。









終礼が終わった。
直後、俺はカバンを右わき腹に抱きかかえて全力の7分の1。
つまり、『秒速約300m』で教室を脱出した。


衝撃波は出ないはず。

風は吹くが。

まぁ、どうでもいーや。

どうせ、クラスメートのほとんどは見えていないだろう。






歩くのも面倒なので、そのまま2−Aに向かった。

俺に負けず劣らずのキワモノクラスに、だ。
















「はい。失礼しまーす」



スライドドアを早々と開け、俺は教室に踏み入る。

女子たちの視線が冷たい。
かと思いきや、笑顔だ。

満面の笑みだ。

恐らく俺に一生向けられることの無いであろう笑み。


だが、なにか違う。
笑顔が違うとは言っていない。

つまり、笑顔の意味する事柄が違うのではないか?ということだ。



ハッキリ言って、このクラスにおいて俺は歓迎される存在ではない。
つまりこの笑みは、何かに引っかかるのを待っているモノである。






俺は前方に跳躍した。
できるだけ教室の隅に、罠から逃れられるように。


……何かが腹に触れた?
糸…………か?








「グフッ…………!」



ほ……砲丸…………!
組み紐に砲丸付いてるぞ!オイ!
……さっきの糸が起爆スイッチみたいなもんか。
しかも腹の高さにあわせるって…………。
避けさせないつもりだったな。
砲丸も横に振ってやがる!


ちくしょ〜……。
なんか歯が揺れてんじゃねーか!
頬にクリーンヒットだぜ?オイ!
元の位置に戻してから再生しないと変なふうにくっつくしよー……。






「ゴゲッ!」


な……なんだコレは!
棒の先に……ラグビーボールみたいなトゲ鉄球!?

…………狼牙峰(ろうがほう)か!!!

しかも顔狙いやがった!
眼鏡がまた壊れちまったじゃねぇか……。

あん?……昨日カギ爪で攻撃しようとしてきた女か!









「ぐぁ!」


今度は首かよ!
……確実に首外れたぞ!

刀でみね打ちか…………。
ん?わざわざみねで打つってことは……。
真剣かよ!






コイツら、俺を殺す気か!?




「………………倒れませんね」

「もう一発いくアル!」






月戒は渋い顔をした。

女性とは戦いたくないのだ。

しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。


仕方なく、月戒は闘うことを決心した。




月戒は彼女達が一手放った後、もう一手放とうとした瞬間に、八手分の行動をする。

つまり、ほぼ本気。



まず刹那の刀を、右の掌打で弾き飛ばす。
刀の腹を狙い、廊下側、つまり月戒から見て左側に弾き飛ばした。

そして、狼牙峰を振りかぶるクーフェイの足を払う。
その際、狼牙峰を蹴り上げ天井に突き刺す。






この二手の後は、完全に不要な六手であった。


まず、砲丸の巻いてあった組み紐を、ベルトに隠してあったナイフで切り落とし、
砲丸を背面黒板に叩きつけ、元の位置に戻る。


さらに、あっけにとられている刹那の左手から鞘を奪い、
まだ浮いている刀をそれに納め、地面においておく。


クーフェイの狼牙峰を、左手から出した炎で棒の部分だけ焼き尽くす。


クーフェイを担いで、空いている場所に放置する。


窓ガラスを叩き割り、刹那を担ぎ廊下に置く。


ネギの椅子に座る。












「ったく……ネギの教育が行き届いていないのか?…………っと」


月戒は自分の首に手を添えた。
すると、バキバキと気味の悪い音が聞こえた。
ほぼ連続的に、だ。

一回で上手くはまらなかったからか、何度も何度も外しなおしている……。



7・8回目だろうか。
ようやくもとの位置に戻ったらしく、軽く溜め息をついていた。





そして、ネギの席から立ちあがり、クラスメイトの方に向き直る。




そのとき、わき腹に違和感を感じ視線を落す。

投擲用の小刀だ。
大して深く刺さっていなかったので、引き抜いて懐に隠す。

当然、刹那だろうと判断した。

なぜなら、刹那を抱えていた右わき腹に刺さっているからだ。
密着状態以外で、この場所には刺せない状況だった。




壊れた眼鏡をかけ直し、右手で髪をかきあげる。
左手は無造作に投げ出されており、自然体となっている。



そして、無表情だ。

何の印象も得られない『無』の表情。


普通なら『不気味だ〜』とか『仏頂面だ〜』とか言えるだろうが、そうではない。

言葉で表せない、奇妙な感覚に襲われる……。




「アンタらな、あんまりナメた真似してっと…………首が飛」



ガラスが割れた。
正確には、割られたのであるが。



遠くから矢が飛んできたのだ。
矢の主は、雪広あやかである。





ガラスが飛び散る中、月戒はそれを右手で受け止めた。


遅れてガラスが飛んでくる。
それは一つも避けなった……。



ガラスの破片の一つ一つが、月戒の皮膚を裂き、肉を切る。
制服こそ破れなかったものの、かなり酷い状態になっていた。

首より上の右半分には、ガラスが刺さり、血が溢れ出している。
首にも刺さっており、それはまた不幸なことに、動脈の近くである。
耳たぶなど、もう半分程度しかくっついていない。

下手なプロレスの試合よりも酷く、顔面から流血していた……。



しかし、本人は至って冷静である。


2−Aの生徒が見つめる中、黙々と顔のガラスを抜き始める。
誰も近寄ってこないが、そんなことは気にしない。

一枚一枚ガラスの破片を抜くたびに、ねっとりとした血が溢れてくる。
また、首に刺さった破片を抜いたときには、少し血が飛び散った。



全てのガラスを抜き終えると、懐から針と糸を取り出す。


首の傷を器用に縫っていき、手際良くガーゼをあて、包帯で固定する。
続いて耳を縫いつけているが、ピアスをしているようにも見える。
耳の傷はガーゼをあてて、テープで固定していた。

他の傷は対して深くなかったため、ガーゼをあててテープで固定するのみであった。




月戒は、クラスにいる生徒全員を見る。

始めは、みな恐怖で動けなかった。
が、出血量の多さに月戒がバランスを崩し倒れそうになると何人かの生徒が月戒に駆け寄った。









一番最初に歩み寄ったのは、意外にも長谷川千雨であった。
やや速めの、しかし、しっかりとした足取りで。


「おい。大丈夫か?保健室までなら肩貸してやるぞ?」

私は、確かにコイツのことはある程度知っている。
国級家三男にして、人体実験を3回か4回受けている。
国級の中では穏健派らしく、よっぽどのことがないと相手を殺さない。
足技に於いては他の兄弟を多少なりとも上回っている。
IQは300台前半。
ただし、『興味のあること・必要なこと』以外には使わない。
あと、嘘か本当かは知らないが、雷と炎を操るとも書いてあった。


そう、興味半分でコイツの実家にハッキングしたことがある。
データこそ盗み出さなかったが、あんまり異常なデータだったから記憶に残ってたんだ。
特に、同い年のコイツのデータが。


次の日に、その人体実験されたやつの1人から警告と勧誘を兼ねたメールが来たが、
返すのがちょっとおっくうだったから、そのままにしてある。
バレてないと思ってたから結構ヒヤヒヤしたが。

折角だから近いうちに返信しよう。
ついでにコイツのことも聞き出したいところだし。



とにかく、保健室だ。
出血が酷い。
本屋なんかが見たら卒倒モンだ。
もしかしたら死ぬかもしれない。
あんな応急処置だけじゃダメだ。
そしたら、救急車だ。
何処か別の国まで運ばれかねないが、死んでしまうよりは遥かにマシだ。




「あ!?あぁ。大丈夫だ。このくらいなら2・3日で治るから」



…………ちっ!
コイツも非常識か……!
コレだけの出血なら、あと5・6分で麻痺するのに……。









予想外の返事に千雨が困っていると、亜子が駆け寄ってきた。
とにかく慌てている、といった様子で。



「大丈夫なわけない!早ぉ病院いかんと!ほら!横になってぇ!」

アカン!血ぃ出過ぎや!
こないな傷、ほっといたらあかん!

ああ!もう、いいんちょも何やってんねんな!
窓開けぇて言うときながら、ガラスごと撃つし!

もぉ!バンソーコーじゃどうにもならへん!
病院行ってちゃんと見てもらわんと!
こんなん、傷痕一生残ってまう!




亜子の思考が加速する。
無論、加速しすぎれば転倒したときの衝撃も大きい。
2倍加速すれば4倍の被害が待っている。


「ほら!早ぉ!」


月戒は亜子に足払いをされた。
全く予想外、というか、この状況からはかなり考えづらかったので簡単に転ばされた。
亜子本人も、後から思えば信じられない行動に出たのだろう。


とりあえず、月戒はそのまま仰向けになる。
何かバツの悪そうな顔をしながら、月戒は呟いた。


「……なあ。今さっきココでガラス片飛び散ったよな?てことはココにも…………」


月戒の言葉など、もはや亜子には届いていない。


「先生呼んでくるから、じっとしときー!」








亜子が教室から走り去ると、すぐに月戒は立ちあがった。
背中には、また大量のガラスが刺さっている。

無言のまま月戒はブレザーを脱ぎ、ガラス片を無理やり抜いた。
苦笑いしている……。
続いて、カッターシャツを脱ごうとした。


しかし、ボタンを外し終えたところで一旦止まる。




「見たけりゃ見てもイイが、あんまり気分の良くなるもんじゃないぞ?」


一応気を使ったつもりだったのだ。
やはり、傷口はかなり酷い。
見ているだけでも痛みが用意に想像できる。











その時、ちょうど廊下から激しい足音が聞こえた。
そう。誰かが走ってきたのだ。


誰かとは、言わずと知れた委員長である。





「みなさ〜ん♪あの不届きモノはもう去りまし…………た……か?」


…………目が合ってしまいました!!!

ああ、どうしましょう!
こんな鬼畜極まりない猛獣と目が合ってしまうなんて!!!

しかも裸(上半身だけ)ではありませんか!
なんとはしたない!!!


「……っ!とっとと出て行きなさい!このクラスは貴方のような鬼畜のいていいような……」

「テメェが矢を撃ったのか?」

「う…………………………!」


何と!何と言う野生じみた眼光でしょう!
信じられません!
まるで蛇に睨まれた蛙の如く動くことすらかないません!
あぁ、ネギ先生が居てくだされば、このような不貞の輩など追い出してくれるでしょうに!


「あー。テメェもしかして、雪広んとこの次女…………か?」

「はい!?」

「やっぱそうか!いや〜。姉貴と一緒で母親似なんだな〜」

「はいぃぃぃぃいい!?」


じょ……状況が良く飲み込めません!
何故母のことを知っているのですか?
何故私に姉がいることを知っているのですか?
何がおかしくてカラカラ笑っているのですか!!!












「月戒!大丈夫ですか!?」





そこに、ネギがやって来た。
気の動転した亜子をなだめながら来たらしく、息が切れている。
魔法で補助しているのに息が切れるのは、その証拠である。


「よぉ!ネギ。会いたいと思ってたんだよ」

「そんなことより、どうしたんですか?そのケガは!」



月戒は悩んだ。
正直に言えばそれはそれで信じてもらえない気がする。
だとすれば、虚言に限る。
しかし、ネギを裏切ることにもなる。

悩むことには悩んだが、モノの1秒だった。
月戒は、『悩めない少年』なのだ。



「いや、実はな、白鳥座第7星雲からの使者と少しばかり交戦してな。
 向こうの文明は移動技術は発達しているようなのだが、どうにも武器の面で劣っていて……。
 そう。この矢で攻撃してきたんだ。
 このクラスの『非常に親切な方々』はトラップまで仕掛けて地球を守ることに協力してくれたぞ。
 ほら、そこに刺さっているトゲ鉄球らしき物や、割れたガラスや砲丸があるだろう?
 コレを使って、白鳥座第7星雲の使者と交戦していたんだ。
 しかし、不覚にも傷を負ってしまってな。そこの女生徒が教師を呼びに行ってくれていたのだ」

「え………………?」




やっぱりネギは困惑した。
まず、白鳥座第7星雲がわからない。
というか、このクラスの周辺で、地球への侵略を阻止していたとは思えない。
しかし、月戒は嘘はつかない男であると考えている。
ということは、疑えば月戒を裏切ったことになる。

ネギは悩んだ。
ネギは、『悩むことのできる少年』だった。


「そ……そうなんですか…………」


結果、首を縦に振った。
嘘とも知らずに……。













「それはそうとよ、クラブの提案作ってきたぜ」


月戒がブレザーを着なおしながらネギに話しかけた。

月戒は、ちょっと不気味で不恰好だが仕方ない。
眼鏡も歪んでいて、かけない方がよさそうだ。
顔もガーゼだらけで、ハッキリ言って病院に行ったほうがよさそうだ。
血がしっかり染み出ているから、また不気味である。


だが、そんなことはもうどうでも良くなっていた。
あれこれ言い合ううちに、30分も無駄にしてしまった。
つまり、それを議論するだけ時間の無駄。

よって、月戒の考えた部活草案に移ったわけである。




「どんなのですか?ちょっとドキドキします」


このときのネギの胸には期待があった。
ヨシヒサの弟の月戒が、どんなことを考えているのか?
友人の弟であり、また友人となるであろう彼の事を少しでも知っておきたい。

そんな淡い期待があった。



「え〜と…………」

 
















『草案?

 殺人体術研究部
 
 内容・より効率の良い殺人体術をミンナで編み出す部活。
    定員に制限は無し♪(行く行く減るから)


 草案?

 ナイフ.ファイティング部

 内容・より効率の良いナイフ.ファイティングを競い合う部活。
    定員に制限は無し♪(行く行く減るから)


 草案?

 サバイバルゲーム部

 内容・より効率の良い集団戦術を考える部活。
    トイガンとゴムナイフのみ使用を認める。
    定員は15名(顧問含む)              』














「え…………?」


と、いうことだ…………。
ネギの願いや期待は結局、脆くも崩れ去った……。



月戒は、薄ら笑いを浮かべて言う。

「どれか一つ選んでくれないか?どうも俺では選びかねてな……」





子どもの『無邪気な』考えにしては、恐ろしい。
特に、上の二つなんかは学園長から許可をもらえそうに無い。


結局ネギは、一つしかない不条理な選択肢を選んだ……。




「じゃ……じゃあ、このサバイバルゲーム部にしましょうか!」





作り笑いで答えるネギに、笑顔で月戒が答える。
どのくらいの笑顔かというと、満面の笑み。



「いや〜!ネギがまともな思考の持ち主で良かったよ!他の部活選んだらどうしようか考えてたんが。
 じゃあ、頼んだぜ!部員の方はなんとかなりそうだからな」


さて、どっと疲れを感じたネギだが。
学園長からあっさりと許可が出て、ちゃんと草案は通したらしい……。




「それはそうとよ」

疲れをひしひしと感じているネギに対して、月戒が追撃をかけた。
追撃と言っても、気になる人物の話だ。


「この学校に、モヒカンもしくはそれに近い頭髪をした生徒はいるか?」


ネギは困った顔をする。
そういうときは、決まってどちらかの手の親指辺りを顎につける癖がある。
このときも、例外に漏れずにその癖が出た。


「ごめんなさい。まだ任期が短いからちょっと……」

「おぉ。すまんな。……じゃあ、目撃したら教えてくれ。アンタらもな」








月戒は、後片付け(ガラスの始末など)をしている女生徒達に言葉を投げかける。
じと〜っとした視線が月戒に注がれた。

そんなことは月戒にとってはお構いなしだが。



「あとよ、そこの刀の。テメェどこのエクソシストだ?それとも陰陽師か?」


絵の短い箒でガラスを掃いていた刹那が月戒に目を向ける。
怒りや怯え、そういった直接的な感情ではなく、ばつの悪そうな目。
相手の行動を見て、一歩引いてしまうときのような顔だ。


「……ただの中学生ですよ」

「一言だけ言っておくが、テメェに奥の手があっても、俺のほうが強いぞ」


無視して掃除を続ける刹那に月戒は続ける。




「ではココで問題です。『ヴァンパイア+人間』は?」

「……ダムピールですか?」

「そう。正解だ。では続いて問題です。俺、『国級月戒』は本当に人間か?」

「人間です。ダムピールなら光に弱いでしょう?」

「解釈はダメだが、問題の答えは正解だ。その俗的な解釈、わざとだろ?」

「正解なんじゃないですか?」

「なぜなら今までの会話で、『国級月戒がダムピール言う証言は無い』からだ」

「つまらない理論ですね」



その一言の後に、刹那はさっさと帰ってしまった。
箒をおきっぱなしにして。





「あの……」

「どうした?ネギ」

「月戒は、その。人間……ですよね?」

はっはっは。と、わざとらしく月戒は笑う。
顔は笑っていない。


「オイオイ。俺は人の子だぜ?三代前から純な人間だ」



そうですよねー。と、ネギも返す。
はっはっはっはっは。と二人の笑いが聞こえる。
ネギは安堵の笑いだが、月戒わざとらしい笑いだった。
気づいた生徒はほとんどいないだろうが……。













「それとよ、通り魔出たらしいな」

いきなり真顔になった月戒が言う。
真顔と言っても、普段の顔だ。



「ええ。脅迫状が……」

ネギもつられて真顔になる。
そんな真顔なネギに月戒は旨を伝える。
無論、小さな声で。
周りに気を配りながら、だが。




学園都市内の警備に手を回すこと。
協力者がいれば手伝ってもらうこと。
夜遅くに出歩かないこと。



コレが月戒が伝えた内容である。
……なんか最後のは微妙だが。




「わかりました。学園長に伝えておきます」

「頼んだぞ。俺は今日ちょっと無理っぽいけど、30人くらい配備させとくから」


それだけ言って、月戒はとっとと帰ってしまった……。





ネギは学園長にそのことを伝えた。
部活草案の後に、だが。

学園長は、ゴーレムや二ノ宮像を駆使して警戒した。
愛しい生徒を守るために。

学園長からエヴァにも話が伝わり、エヴァも偵察をした。

月戒も、自分の配下32名を送り込んだ。
死人を出さないために。





だが、誰も気づいていない。
学園内の警備がいかに無意味かを。





狙われていたのは、家庭の事情で外から通っている少女。

病に倒れた母を安心させるために、その手段をとった少女。














赤い雨。

まさに、そう形容するのがふさわしいだろう。

人気の無い公園の、小さな光りの下だけに降る、紅蓮を思わせる赤い雨。

その雨を、その身一杯に浴びる者がいた。



身の丈は2m以上だろう。
黒いコートを身に纏っている。



雨の主はその男だ。



右手にある何かを振りかぶるたびに、赤い雨が降り注ぐ。
もっとも、飛び散る、といった表現が適切なのだろうが。


その右手の先には、何かがある。
原型をとどめていない、何かが。



「イヒァッハァ!!!血チ血チ血血血血チ血!!!」

その者は叫ぶ。




「裏切り!殺ス!俺もオ前も皆殺シィィィイ!!!」

ヒャヒャヒャヒャヒャ、と笑い、再び右手を振りかぶる。
また降り注ぐ、赤い雨。








「滅!三桁!ノエル!アドルフ!ココココロコロコロ……殺スゥゥゥウ!!!」






その男の叫び声は、何者にも届かなかった。

学園長にも、エヴァにも、月戒にも、ネギにも。


それは、今となっては肉塊と化した少女の声も然りである……。













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