第5話・月戒君の部活動日記・3
「全く貴様は何度問題を起こせば済むのだ!!!」
新田の声が職員室中に響き渡る。
しかし、その教師も決して見たりしない。
新田が怖いわけではない。
かといって、新田の隣にいるネギが怖いなんて事も無い。
その前にいる二人の少年が怖いのだ。
1人は新田を睨みつけている『月戒』
睨むわりには、だるそうな目つきである。
真っ直ぐ立っているので、顎を引いているのが良くわかる。
もう1人は物凄い速さの英語で言い訳をする『帝』
もう何が何だかわからない言い訳をしている。
両手を広げて一生懸命説明している。
「いいだろうが。怪我人いねェしよ」
「I have mather who has very bad illness and three cats and many many fish!」
新田は更にキレて、
ネギは帝に翻弄される。
「ふざけるな!貴様なぞ、いつでも退学にできるんだぞ!!!」
「え!?病気のお母さんとネコが3匹と魚がたくさん!?」
月戒の弁解と新田の罵声。
帝の泣き落とし(?)と、ネギの驚嘆。
見事なまでに入り混じって、
各々が別の人間と会話しているようにしか聞こえない……。
こんなことが、かれこれ30分続いている……。
「あ〜あ。早く終わんないかな〜…………」
玖珠八も参考人とかで、職員室で待たされていた。
(ちくしょー。なんで僕が待たなきゃいけないんだ?)
自然と苛立ちが募り、口元がピクピクしている……。
チャームポイント(自称)の長い髪の毛も、
もはや『怒髪天をつく』となってしまいそうだ………。
どの教員も、ただならぬ雰囲気ゆえか、
玖珠八の周りは通らなかった…。
「(ねえねえ!まだ話終わらないの?)」
ハルナが朝倉に小声で話しかける。
「(もうちょっと待ってなって!そろそろだよ〜……)」
壁にコップをつけたまま朝倉が答える。
「(なぁ……もぅ帰っていいか?)」
千雨が怪訝そうな顔で答えるが、
「(……『あのこと』バレてもいいんだね?)」
朝倉には、いとも簡単に切り崩される。
「(ネギ君が止めに入ったんでしょ〜?頑張れー!ネギ君)」
まき絵までもが、小窓の隙間を覗いている。
そう。
朝倉が引き連れてきたのだ。
「おもしろいことやってるよー!」
とか、
「ネギ先生が例の転校生の喧嘩、止めに入ったんだってー!」
とか、
まぁ、上記は成功例である。
他の皆にも声をかけたんだが、
委員長も明日菜も、皆拒んだ。
無理強いはしたくないので、最初に(無理強いした)千雨を含
む、
四人で話を盗み聞きしに来ていた。
始めは、聞こえないかもしれないと思っていたのだが、
大声で言い合いをしていたので、その点は助かった……。
月戒は頭を働かせた。
こんなとこに、これ以上いてたまるか。
任務も思い出したことだし、早々に立ち去ろう。
そして、月戒の頭が答えをはじき出した。
至ってシンプルな、そして豪快な方法。
「聞いてるのか!!!」
新田が叫ぶと同時に、月戒が叫ぶ。
その顔は、驚愕で満ちている。
「先生!後ろ!!!」
新田は、月戒の考えには惑わされないつもりだった。
しかし、良からぬ気配がした。
(もしかしたら…………ええい!)
心の中で葛藤(0.13秒)した結果、振り向いてしまった。
「いや。何も無いんだがな」
月戒がポツリとつぶやく。
新田の首に、しっかりと腕が絡まっている。
「よっ、と」
月戒が新田の首を横に回す。
グキリ、と鈍い音がした。
新田は痛みを感じる間も無く崩れ落ちる……。
「に……新田先生!」
たまたま目撃した、(勇気ある)瀬流彦が、新田に駆け寄る。
「新田先生!」と何度も呼ぶが、反応が無い……。
月戒が瀬流彦に歩みより、一言。
「死んでないぞ。軽く落しただけだからすぐ起きる」
唖然とする瀬流彦を尻目に、月戒はネギに話し掛ける。
「どうも、こんにちは。兄の友人、ネギ・スプリングフィール
ド」
イキナリのことに、ネギはきょとんとする。
「え……兄?キミは確か………………」
ネギは頭を掻いている。
必死に思い出そうとしているようだ。
「……………国級ってことは……………………………」
う〜ん……、とまだ悩んでいる。
月戒が「間違った?」とか思ってしまうくらい長く、だ……。
「もしかして…………義緋沙の弟!?」
ネギの顔がパッと明るくなった。
それを見た月戒は、満足そうに左手を差し出す。
「改めて。国級月戒だ。この度は貴方の助力をすべく参上した
」
ネギも左手を差し出し、握り返す。
「ネギ・スプリングフィールドです!義緋沙から事情は聞いています」
月戒が、ふぅっ、と溜め息をつく。
「どうせ一ヶ月以上前に、だろ?あの兄貴なんかずれてるからな…」
ネギは笑顔のまま続ける。
「そのことについては詳しく聞いていないんです」
「なら、どこか落ち着いて話せるところで、ね」
「ボクの教室に来ませんか?丁度放課後ですし♪」
「あぁ。では早速行こうとしようか」
「(あ!転校生が新田の首捻ったよ!)」
まき絵が小声で伝える。
「(何!ホントに?スクープだよ!スクープ!)」
朝倉が、まき絵の覗いている隙間の上の方にレンズをセットし
、
シャッターを切る。
デジカメ使用のため、音は出ない。
「(すっご〜い!さっそく皆に教えなきゃ!)」
ハルナはクラスメートに伝えるべく、その場を走り去った。
どさくさにまぎれて千雨が逃げたのは言うまでも無い。
「(え〜!?あの人ネギ君と握手してる!ズルーい!)」
まき絵が羨ましそうな顔をして言う。
が、朝倉は反応しない。
うれしそうな顔で、ひたすらシャッターを切っている。
「(おぉ!?なんかコッチに来たよ!)」
二人が動き出したことに、朝倉が気づいた。
このままでは見つかる。
下手をすると、スクープは台無しだ。
(さぁ、どうする…………?)
咄嗟の判断であった。
「失礼しまーす!新田先生いますか?」
まき絵はほっといて、自分だけ職員室に入っていく。
すれ違いざまに月戒にぶつかるが、わざと無視しておく。
(発信機兼盗聴機は、背中に張りつけてやったが)
先ほどの様子からして、ネギ先生が私に気づくはずが無い。
新田もしばらく目覚めないだろう。
「え!?ちょっと新田先生!わ……私、保健室から薬持ってきます!」
そしてすぐさま出ていく。
(こんな状況だったら、私の用事なんか気にしないだろう)
朝倉はほくそ笑む。
(完璧!まさに完璧だわ!!!)
スライドドアを閉め、ニヒヒと笑う。
(さぁ、後はホントに保険の先生呼んでくれば……)
「朝倉……薬は必要無い…………」
(え!なんで目覚ますんだよ!もっと寝てろよ、新田!)
朝倉の思いに反し、新田は目を覚ます。
「新田先生!大丈夫ですか!?」
瀬流彦が心配そうに言う。
新田は重そうに体を起こしたが、いつもの声で答える。
「大丈夫だ……。あの男、いずれ天に代わり誅伐してくれる…………」
そして立ちあがり、呆然とする朝倉の方に向き直る。
「朝倉。一体何の用だ?ただ事ではないな」
まき絵は………………。
ちっ!ネギ先生を追いに行ったか……。
…………ならば!
適当にハッタリかましちゃえ!!!
「あの!グラウンドに何故か生徒が集まってるんです!」
新田は不思議そうな顔をする。
朝倉は続けて言葉を発した。
「校外の者が侵入したらしいんです!先生、急いで!」
新田の目に火がついた。
(この新田以外に不審者を止められる者などおるまい!!!)
新田は、近くにあった竹刀を鷲掴みにして、
グラウンドへと駆けていった……。
「なにが出るかな♪何が出るかな♪」
そこでは、1人の少女がサイコロを振っていた。
髪は茶色く短い。
栗毛そのもののような色だ。
目もまた茶色だが、髪の毛よりは色が濃い。
黒いショートパンツに黄色いジャケット。
派手な衣装な上に、
肌を物凄く露出するファッションだ。
胸元も少しはだけている。
ぱっと見、中学生くらいに見えなくも無いが、
微妙に大人びた雰囲気がそれを打ち消す。
少女と大人の合間にいるような感じだ。
どうやらTV局の撮影のようだ。
カメラマンなどが周りにいる。
だが、新田は許可をした覚えが無い。
理事長からも何も聞いていない。
イロイロ考えているうちに、サイコロの目が出る。
「さぁ!出た目は『2』でぇぇぇえす!」
サイコロを振った本人がマイクで叫んだ。
何故か盛りあがる生徒一同。
_______そして新田が声を上げようとした瞬間_______
_____『何か』が目に焼き付けられた気がした______
「へぇ。じゃあ今、義緋沙は神奈川にいるんですね?」
「ああ。相変わらずらしいぜ。『アノ事件』以来もな」
2人は教員机を挟んで話をしている。
ネギがいつもの椅子に座り、
月戒がパイプ椅子に座っているようだ。
『冷たい視線を浴びながら……』
そう。
ハルナの流した『噂』で、多くの生徒が残ってしまった。
やっぱり、尾ひれがついて盛りあがったのだろう。
「あちょ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
クーフェイの飛び蹴りが、月戒に向けて放たれる。
「会話中に蹴りを入れるな」
が、いとも簡単に捕まれ、適当な場所に投げられる。
「にしても、落ち着きのない生徒だな」
月戒が振り向くと、仰々しいまでの武装をした少女たちがいた
。
クーフェイは先ほどまで使わなかったカギ爪を装着し、
鳴滝姉妹は手裏剣を構え、
刹那は抜刀術の態勢で静止し、
あやかは薙刀を両手に持ち、
まき絵はリボンをクルクルと回し、
明石はバスケットボールを振りかぶり、
茶々丸は月戒に人差し指を向け、
エヴァンジェリンは発声練習をしている…。
「俺、なんかアンタ達の迷惑になるコトしたか?」
と聞くが、代わりに視線がいっそう強くなった。
そして、ネギの方に顔を戻す。
「話しを続けようか」
ネギは少し苦笑いをしながら、「ハイ」と答えた。
「あなたはやはり、近接戦闘はダメなんだな?」
「ええ。どうも『アレ』に頼りがちで………」
「まぁ、武器を持ってる俺が言うのもなんだが、対策はあるのか?」
「一応、ですけど。義緋沙にも護身術とか教えてもらいましたし」
「兄貴の護身術か……。絶対相手は死ぬだろうな」
「あと、他にもいろいろな人からある程度は訓練してもらってます」
「てことは、ばれたらマズイ『アレ』を出さないため、か」
「なんか申し訳ないですね。気を使わせてしまったようで」
「気にすんな。俺もまだ覚醒しきってないからな。丁度いい」
「義緋沙はもう……ですか?」
「ああ。俺より上の奴は皆覚醒済みだ」
月戒がコキコキと首を鳴らす。
「ところで、あなただと呼びにくいんだ。ネギでいいか?」
ネギが微笑む。
「いいですよ!ボクも月戒って呼びますから!」
「あちょ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
クーフェイがカギ爪で月戒に襲いかかる。
「だから、会話中に攻撃するな」
今度は手首を掴み、どうでもいい場所に投げ飛ばした。
受身をとったクーフェイを無視して、2人は会話を続ける。
「でだ、目下一番の問題は『部活に入りたい』ってコトなんだが」
「そういえば一週間以内に所属する義務があるんですよね?」
「ああ。どっかいいとこ無いか?」
「う〜ん……そーですね〜……………」
ネギは悩んだ。
(そういえばボク、こんなこと考えたことも無かったな……)
ネギが何かをひらめいたようだ。
左手の平を、ポンと右の拳で叩く。
「顧問が1人と生徒が5人以上いれば部活が作れるんです!!!」
「おぉ!なんとも便利な(且つ作者都合的な)!!!」
が、月戒がすぐ溜め息をつく。
「……顧問はネギで良いとしよう。生徒はどうする?」
「あ」とネギが小さく漏らす。
「まぁ、生徒はコッチで何とかするさ。顧問の方、頼んだぞ」
「ハイ!そっちは任せてください!」
月戒が時計に目を移すと、もう5時30分を過ぎている……。
「じゃ、もう帰るわ。とりあえず適当に顔出すからな」
「ええ、ではさようなら!」
これ以上何事も無く、月戒は教室から去った。
「I don`t have father ! But,I live fortunatery !」
帝の泣き落としはまだ続いていたという……。
先ほどのブーツを履き、外に出る。
ここにつくまで一苦労だったな、と自分に言い聞かせる。
迷路のような学校とは思いもよらず、
時間のかかるものであった。
グラウンドでは、生徒が大量に倒れている。
別段驚いた様子も無く、月戒は鞄を持っていない手、
右手で携帯電話を開く。
アドレス帖を開き、番号をクリックする。
携帯電話がつながったのか、
話しながら歩き始める。
「黒蓮、ご苦労だった。白桃にも労いの言葉を頼む」
『承知しました。ときに、白桃はどうしますか?』
「できれば一緒に行動してやれ。1人では白桃が危険だ」
『……かしこまりました。坊ちゃま』
「……ケーキ買ってくからな。何がいい?」
『あ!モンブランお願いします!白桃はチョコケーキだそうです』
「それとな、いい加減、仕事にかこつけて、盗撮と盗聴するのやめろよ」
『月戒様の身辺を警戒するが故です』
月戒は返事をせずに携帯電話を閉じた。
「このことになると話が長い」とポツリと呟く。
倒れた生徒を尻目に、校門を通過しながらのことだった……。
右を見ると、道路工事をしている。
「ふむ。今日は遠回りするか」
月戒の判断が間違っていたとは誰も言えない。
例え、これがキッカケで1人の少女の命が失われても、だ。
この日、職員室には一通の手紙が届いていた。
だが、昼過ぎに来たのと、月戒の騒動が重なって、
開封されたのは、丁度5時30分頃だ……。
……手紙の内容を読もう。
『あなたは目が涙を流す。彼は彼女はそれらは欠けた』