第5.5話『英雄の最低条件』













「ネギ先生!なんですの今の輩は!!!」

委員長がネギに向かって叫ぶ。
困惑していることが手に取るようにわかる顔をしている。
叫びながらも、教員机に座るネギに迫りよっていった。



無論のこと、ネギも焦った。


別に本人からすれば、
『昔の友達の弟にあった』とか、
『生徒の相談を受けていた』とか、
その程度の認識なのだ。


「いえ、そのですね、大学時代の……」



だが、そんな事実を打ち明ける前に、質問攻めにあう。








「あの変態がネギ君を狙おうとしたって本当?」

「え!?新田を襲おうとしたんじゃないの?」

「ん?瀬流彦先生に接吻しようとしたらしいが?」

「いきなり職員室でネギ君に抱きついたって聞いたよ?」

「いや、全裸で走り回ってたらしいアル」

「え?男の下駄箱に片っ端からラブレターいれてたんじゃなか ったけ?」










あること無いこと、ってか全部嘘なのだが、反応に困った。


誰から対応すれば良いとか、そう言ったことじゃなくて、
国級月戒の人間像がここまで退廃した代物に成り下がっている
と言うことだ。



人間の噂とはこれほどまでに恐ろしいのか。
ネギは世の中の嫌なことを再確認した。










さて、ネギは記憶をさかのぼるが、兄のヨシヒサの話を聞く限りではそんなことは無い。


勤勉で、妙なところでやさしくて、特に女子供には手を上げな いとか。
毎日新聞の下のほうにある占いと番組欄と四コママンガしか読 まないとか。
朝はアメリカンホームドラマ見て大笑いしてるとか、
お笑い番組はほとんど欠かさず見てるとか……。






「あ……あのですね、違うんですよ」

ネギの言葉に、その場にいた生徒全員が反応した。
さっきまでマシンガンのように言葉を飛ばしてきたのが嘘のようだ。
みな、息を飲んでネギの言葉を聞こうとしている。









ネギは、少し息を吸って、気分を落ちつかせてから口を開いた 。


「友人のヨシヒサから聞いたところ、そうではないんですよ」


ネギは続ける。

「勤勉で妙なところでやさしくて、特に女性や子どもには手を上げないとか、
 毎日新聞の下のほうにある占いと番組欄と四コママンガしsヌまないとか、
 朝はアメリカンホームドラマ見て大笑いしてるとか、
 お笑い番組はほとんど欠かさず見てるとか……………………………………」













誰も反応しなかった。





むしろ、「え?それって無関係じゃん」といった目線でこちら を見ている。









なんとか切りかえさねば。
何か証明できるモノがあれば……。



う〜ん、と考え込んでいるうちに、誰かが声を上げた。






「いいじゃん。今度来たら叩き潰せば」


その無邪気(?)な発言に、みな同意していく……。


「いいね〜!それ!そうと決まれば武器の調達よ!」

「では、各々教室には武器を備えるというコトでよろしいです
ね?」

「ふん……。刀のサビにしてくれる……」

「じゃあ、リボンに画鋲でもつけようかな?」

「次は本気でヤってやるネ!」


みんなが意気揚揚としながら、クラスがヤバイ雰囲気に包まれていく……。


「さよーならー!」とか、「では、また後日」とか、各々で挨拶をして帰ってしまった。






結局、誤解はとけず終いだったが、ゆっくりとみんなに理解してもらうことにした……。









「ネギ先生!!!」

しずなが教室に駆け込んできた。
先ほどの生徒たちとほとんど入れ違いだろう。

ネギはきょとんとした顔でしずなに声をかけた。

「どうかしました?急ぎの用事でもありましたっけ?」


肩で息をしている。
よっぽど急いでいるのだろと、単純に考えていた。


「とりあえず、……しょ……くいん室に………」



まだ呼吸が荒い。

とりあえず休むようにネギが言おうとしたが、
すぐに走って出ていってしまった……。



少しばかり疑問を感じながら、ネギは職員室に向かった。









「とりあえず、救急車を呼べるだけ呼びました」

中年男性の教師が緊張した面持ちで言った。




「まさか1000人単位で生徒たちが倒れるなんて……」

「UFOでも来たんでしょうか?」

「いや、例の通り魔かもしれません」




とか、イロイロな声が聞こえてきた……。






「みなさん、静粛に!!!」

理事長が声を上げた。
みな、すぐに御喋りをやめる。

全身黙ったのを確認すると、理事長が口を開いた。



「みなさんに話さねばならないことが二つあります」

理事長は表情を変えずにに続ける。

「一つはもうご存知のはずですが、約1000人の生徒が原因不明なのですが、
 みんな倒れて意識を失ってしまい、病院に運ばれました………………………」

ネギは、「知らなかったです」とは言おうにも言えなかったので、
そのまま話を聞く姿勢をとった。


「もう一つは……通り魔らしき人物から脅迫状まがいの手紙が届きました」


理事長はそう言うと、紙を懐から取り出した。
おそらく、その脅迫状まがいの手紙なのだろう。



その紙を目の前で広げ、読み上げ始めた。


「『あなたは目が涙を流す。彼は彼女はそれらは欠けた』」



全くもって訳がわからない。

『あなたは目が』とあるが、文法的には『あなたの目が』となるはずである。
『彼は彼女はそれらは欠けた』とあるが、対象が多すぎる。
『それらは欠けた』としても、大きな支障はない。



理事長が、ざわつく教員に対し、「静粛に!」と再び一喝する


「ただのイタズラかもしれませんが、念の為、残っている生徒
は集団下校させてください。
 あと、各クラスの担任の先生は、連絡網をまわしておくように。…………以上です」


この後もしばらく職員室は騒がしかった。
教師一同の結論は『ただのイタズラ』ということだ。




……今はただ、そうでないことを祈ろう…………。


























その頃の月戒は?というと…………。





「はぁぁぁぁぁああ!このモンブランの美味なるコト!坊ちゃんの愛が!
 そう!『愛』がひしひしと感じられますわ!」

「普通に美味しいですよね。なんか申し訳無いですね。月戒様




月戒は自宅にたどり着いていた。
途中、何度か小走りしたので結構早く帰ってこれた。
現在7時ジャスト。



侍女にねぎらいの意味をこめて買ってきたケーキをあげたところだ。
無論。自分も食べてはいるが。


月戒は、右手に持っていた小さなフォークを皿の隅に置く。


「愛を込めた覚えは無い。ねぎらいの気持ちくらいが適切だろう」
と、黒蓮に言い放つが、全く聞こえておらず、身もだえしている……。












「ところで月戒様。学校の方はどうでしたか?」

ふと白桃が語りかけた。
まずは薄く笑った後、月戒が口を開く。



「被験体を発見した、神速剣とキマイラだ」








白桃が、ピューと口笛を吹く。


そんな白桃の素振りを気にせず、月戒が続ける。


「神速剣はまだ昇華していない。キマイラは順調そのもの。あえて言うなら……雷炎もな」

「それは月戒様の能力では?」


すかさず白桃が突っ込む。
クスリと笑う辺りから、いつもの冗談なのだろう。



「…………報告義務ですか?」


2人とも微笑みながら会話を続ける。
その2人は、ある種の不気味さを空間に持たせていた。



「まぁな。ところで、今月の刺客は誰だ?兄貴や姉貴じゃないよな?」

「ええ。今月は鳴里(なるさと)と猪谷(いのたに)と、
 えーと……。狩野(かのう)と、あとは……新人のグラードルです」





月戒が左手で頭を抱えた。
ちゃっかりと言うべきか、フォークは持ちっぱなしだ。

一気に疲労がたまったような顔をしている。





「はぁ〜……。なんで『アノ事件』のヤツが3人もいるんだ? 」

月戒は間髪いれずに言う。

「アノ『アドルフ・スキャンダル』のヒーローどもが、だ」











『アドルフ・スキャンダル』

1998年。つまり、最初の『被験体』が造られてから60年

『滅(ほろび)』・『歪(ゆがみ)』・『聖戦士連合』・『アザーワイズ』の
四種類の特殊部隊が作られる。名目は『第三次世界大戦未然防止部隊』である。


この四部隊のうち、『歪』と『アザーワイズ』が共同し、クローン技術を完成。
アドルフ・ヒトラーの死体を探し出し、そしてヒトラーのクローンを造った。


このクローンの先導力を使い(無論、ヒトラーとしてではなく )、
第三次世界大戦を引き起こそうした。
(まぁ、自分たちの存在価値とやらが欲しかったのだろう)


その直後、『滅』の隊員13人が、『歪』を根絶。
『聖戦士連合』(こちらも隊員13人)と共同し、『アザーワイズ』に挑む。


その際、『アザーワイズ』の隊員との交戦があり、
『滅』・『聖戦士連合』のうち8人が死亡、5人が重症。
『アザーワイズ』は壊滅した。


余談だが、ヒトラーのクローンは厳密にはクローンではなかったらしい。
誰か別の人物の遺伝子と掛け合わされており、性格は一変、平和主義者であった。
そのため、現在国連にて保護・教育されている。


その生き残りの中に、『猪谷』と『鳴里』、『狩野』がいたのだ。
つまり、世界大戦を止めた、『ヒーロー』となる。
(また余談になるが、月戒の兄のヨシヒサもこの中にいたそうな)









「流石にオールスターとまではいかないようだがな」、と月戒は補足した。




白桃は淡々と返す。
が、薄っすらと笑っているところから、状況を楽しんでいるようにも見える。


「仕方ありません。そもそも、刺客はヨシヒサ様がお決めになっていますから」



月戒はゆっくりと左手を頭から離し、
その左手を右手と組む。
(しかしフォークは放さない)


少し前かがみになって白桃に話しかけた。








「何故だ?ヒサ兄にそんな権限無いよな?カナン姉だろ?」

月戒は続ける。

「大体、何が悲しくて刺客雇うんだ?敵は始末し尽くしたろ?




と、今まで身もだえしていた黒蓮が口を開く。
何故か頬が紅潮しているが、無視しておこう。

「なにやら、『つっきーの暇つぶしよ〜!』とかカナン様が……」




はぁ、と短く溜め息をつき、月戒の首ががっくりと垂れる。

それを見て、くすくすと笑う白桃。
何かもっと別な意味の笑いをしている黒蓮。
(これも余談だが、黒蓮の左手には超小型カメラがあったらしい)






月戒が口を開いた。


いかにもだるそうな声で、覇気が感じられない。
いや、いつもだるそうではあるのだが、そういった感じではない。

ワンツーでもモロにくらって、気力で立っているボクサーのようだ。
いや、真っ白に燃え尽きてはいないが……。




「あの馬鹿姉貴が……。暇な時間は適当に潰すっつってんのに……」


黒蓮が何か言おうとしたが、月戒が先に言葉を発する形となった。

月戒の声が、何故か鋭くなっている。
文法的に鋭いので無くて、言葉が重く感ぜられるのだ。



「本当は『The World War ?』の訓練だろ?
 わかってるさ。コトが起こる前に、俺らが………………。
 いや、起こるんじゃないな。『起こされる』前にだ。しかし

 わざわざ俺が『ヒーロー』になる必要は無いよな。…………
 …………まさかとは思うが、アザーワイズの」



と、月戒が途中で言葉を切った。


そして、壁にかけてある時計に目を移す。


中世ヨーロッパを思わせるような古時計。
月戒の趣味だろうか?
振り子の音が小気味よく聞こえる……。


「7:30か……。よし、ケーキも食い終わったなら帰ってくれ」

2人のほうに向きなおし、月戒が答える。
会話を切ったことに関しては問題無かったようだ。

2人とも、そこは何もつっこまない。





白桃はすぐに立ちあがり、「ごちそうさまでした」といって去ろうとしたが、
黒蓮は口に入っているケーキをいつまでも噛もうとしていた…
…。

結局、白桃が黒蓮の襟首を持って、引きずって帰っていった。








二人が出ていったのを確認すると、月戒はリビングを出た。
そして、左に曲がり、昇りの階段を昇る。

真っ直ぐ階段を上り二階につくと、ドアがある。
月戒はそのドアから部屋に入り、施錠をする。

かと思うと、机に座り、紙とペンをとりだした。


「さて。何部にしようか……。じっくり考えるか……」

そう言って、月戒は紙に文字を書き始めた…………。

















次の日の朝、といっても月戒は寝ていない。

目の下のくまが、それを見事に証明している……。
一応着替えてはいたのか、長袖長ズボンのパジャマ姿である。


別に徹夜が疲れた訳ではない。
ふだんは使わないようなことに頭を使ったから疲れたのだ。



カーテンを勢い良く開けると、風が入り込んでくる。

「あぁ……。生きてるってなんてすばらしいんだろう……」


いつもは言わないようなことを言ってしまう。
きっと、よほど疲れているんだろう……。









階段を降りようとすると、足を踏み外した。

が、壁に左腕を突き刺し、かろうじて落ちるのを防ぐ。
……きっと修繕が必要だろう…………。




無言のまま浴室に向かう。
パジャマを脱ぎ捨て、わざわざ拾いなおして洗濯機に入れる。
全裸のまま、適量の洗剤を入れ、洗濯機のスイッチを入れる。



浴室に入ると、シャワーを浴び始める。
二分ほどして、ようやく給湯器のスイッチを入れる……。



頭も体も手際よく洗って、浴室から出る。
タオルで体を拭き、そのタオルを腰に巻いたまま廊下に繰り出す。








階段の前で、月戒が消えた。








しばらくすると、二階から足音が聞こえてくる。
どうやら着替えをしに行っていたらしい。






階段を降りると、すぐにリビングに入る。
パンを二枚ほど出して、トースターに入れる。

その間に、牛乳とビンを冷蔵庫から出す。
ビンには『絶倫!すっぽんマムシ蜂の子ドリンク!!!』と記入されている。
裏には『これで二十四時間安心!』とまで書いてある……。

ビンのふたを開け、グラスに注ぐ。
そこに、牛乳を混ぜる。

そうこうしているうちに、トースターが音を上げた。


パンを指に挟んで取り出し、椅子に座る。





リモコンでテレビの電源を入れた。










どうやら、周辺の中学校に脅迫状が届いたようだ。
昨日は何も無かったらしいが、いよいよのようだ。

いままで表立った犯行は無く、どれも不規則であるという。
ただ、各曜日1人ずつの被害者がいるらしいが。


(まるで待たれていたかのようだな。いや、偶然だろう)


ボーっとしながら、一枚目を食べ終える。
時計を見ると、まだ5時30分だ。



今度は世間的なニュースがやっている。



「小学校連続殺傷事件の犯人の死刑が、地方裁判所で……」


ついに、か。と月戒は思う。


大体この国は裁判に時間がかかり過ぎなんだ。
中には最高裁での判決を待たずして死す者もいるだろう。
死刑執行にも時間がかかる。
三審制だって、簡易裁判所から始まれば『四審制』だってあり
うる。


知ってたか?
『特別上告』ってのがまだ残ってんだよ。

まったく、教科書削減で今の中学生の教科書には載ってないのもある。
信じられんような状況だ。
『三審制』しか無いって教えたら、子どもに間違い教えてんだぜ?


失敬。話が脱線したな。





確か死刑執行とかの話だったはずだ。


正味なところ、死刑執行は被害者家族にやらせても良いのでは?
とか、思ってしまうときもある。
死刑は確か、絞首刑台で一発だ。
大量殺人犯でさえ、それで済んでしまうのだ。
一瞬のことで断罪されるなんて甘ったるいにも程がある。


「いっそ俺がさらって親族の前で拷問して殺してやろうか?」
などと思ったのは一度や二度ではない。


他人の気持ちを何一つ考えれない人間など、
どのように苦しめ殺しても、誰も文句は無い。
詭弁かもしれないが、俺はそう思う。

それが許されないのであれば、おもしろ半分で人の命を奪った

コイツらのような人間も、未来永劫、許されてはならない…… 。












そんなことを考えているうちに、ニュースの内容が変わってしまった……。


その後は、他愛も無いニュースだった。

なになに動物園でコアラの赤ちゃんが〜とか、
なになに議員がなになにをして問題になっている、とか。


とりあえず、今日クラスのみんなと話すための材料として記憶しておく。
本当はドラマとかが良いんだろうが、昨日はチョット見ていない。


そして、二枚目のトーストを平らげる。




先ほどのグラスを手に取った。

口元に持っていき、一気に傾ける。

何度も何度ものどが鳴り、それは飲み干される。


「うっ………………………」


一気飲みはきつかったのか、少し声を漏らす。

早足で洗面所に向かい、洗顔・整髪を済ます。


すると、また急ぎ足で二階に上る。
自分の部屋に入り、学生カバンに紙を突っ込む。
教材の確認も済ませた。
ちゃっかり窓の施錠も済ませたようだ。


そのまま玄関に向かい、靴を履く。
昨日奪われた靴とは違う、軍用ブーツ。
もちろん、組みたて式ではない。


玄関のドアの部を右手で開けようとしたが、
思い出したように右手を離す。


何をするかと思えば、下駄箱の上段を開けた。
少し体を曲げると、月戒の頭と同じくらいの高さになる下駄箱だ。



その下駄箱を開けると、プロテクターが入っていた。
(※正確には『下腕プロテクター』。ステンレス製)

一旦下駄箱の上に学生カバンを下駄箱の上に置き、
ブレザーの腕をまくり、それを装備する。
あまり目立たないようにか、腕にフィットしている。

携帯電話を胸のうちポケットから取り出し、時間を確認する。







『6時30分』








少し余裕を持って学校に着くため、もう家を出てしまった…… 。









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