第4話・月戒君の部活動日記・2






「………ヘェイ!来ると思ったゼ!愛しの愛しの a friend of mine !」

居合部の前の柱に、腰に刀を下げた男が寄りかかっていた。
部室の前、つまり外にある入り口の柱だ。


落ち着いた様子で、訪問者に気軽に声をかける。

その周りにはギャラリーが大勢いる。
さっきのときより多いだろう。



「おぉ。お前がいると思ったぜ。数少ない友人の一人よ」

相対する月戒は、少し微笑んで言葉を返す。
帝も微笑みで返す。





「……部活破りしてるらしいジャン?ちょっとオレの相手してくんない?」

「帝。お前が一番強いなら、お前と戦うことにしよう………」




帝は、ゆっくりと、左腰に提げていた刀を、鞘ごと右側の腰にさしかえる。

普通の刀よりも、かなり短い。
忍者刀みたいなものだろうか?

そしてまた、ゆっくりと腰を伸ばし、構えなおす。
構えなおすと言っても、刀の柄を右手で逆手に持っているだけで、
ほとんど普通に立っていると変わり無い。
左半身を月戒側に向けていること以外は。


対する月戒も、右足を後ろにして、少し大きめに足を開いている。
膝を柔らかくしている辺りから、やはり蹴りが繰り出されるのだろう。
両腕は防御しやすいように、だらんと下げている。



このときの二人の距離は、大体8m。



「いくぜぇ!dear my friend!」

帝が声をあげて月戒に突進した。
月戒が構えを変える様子は無い。

一気に距離が縮まり、残り2m近くとなる。







キィン






金属音が聞こえた。




音が聞こえる前より二人の距離は縮まっている。

二人を見ると、居合刀と軍用ブーツが重なっていた。
正確には、居合刀の中間部分と、軍用ブーツから剥き出しになっていた金属がだ。


帝はさっきの瞬間、月戒を横薙ぎにしようと、そのまま振りぬいた。

月戒は横薙ぎにされることを予測し、
右足で外回し蹴りを放って止めた。






他人からすれば、一瞬にも満たないほど短い時間だっただろう

いつの間にかこの状態になっていた、という感じだ。

が、この二人とギャラリーのうちの四人には全てが見えていた
……。






「やるねぇ♪流石my friend!惚れ惚れしちゃいそうだよ♪」

「真剣を使うのは相変わらずだな。『神速剣』の帝!!!」




月戒は刀からブーツを引きぬき、すぐさま距離をとる。
それに遅れてか、ヒュン、と風を切る音がする。



距離をとり、かわしたと思った月戒の眼鏡に、横薙ぎのヒビが入る。

距離をとられた帝は、その刀を、ヒュンヒュンと、もう二振りする。



「やっぱやるねぇ♪一歩引くのが遅かったらあの世行きになってたのに……」


OH,my Goodness!といい、頭を抱える。
ただし、右手から刀は外さず、左手だけで。


「『神速剣・響(しんそくけん・ひびき)』か。相も変わらず得意だな」


月戒が、最初と同じ構えをとる。



「そっちがその気なら……コッチも手加減なんかしてやらねぇぜ!?」







バチンッ!







月戒の体が、一瞬光った。




帝は表情を落さなかった。
それどころか、新しい玩具をもらった子供の笑みになっている



「『雷炎』ね……!いいのかい?こんな所で使っちゃって?ん
ん!?」




フン!と鼻で笑い、月戒が答える。




「そうだ。お前と相性がとにかく悪くて仕方の無い『雷炎』だぜ!!!」













ドン!と、空気を割るような音がした。












「後ろぉ!」


帝が体を左に捻じ曲げ、後方を縦薙ぎに切りつける。


ヒュン、と虚しく刀が空を切る。









月戒は、帝の右側に、正面を向いて立っていた。
少し腰を落し、万が一のために備えていたようだ







「残念だな。『右』なんだよ」







そう言い放ち、月戒は上体を下げる。
両足を曲げ、右足を軸にして、体をぐっと左に捻る。
上体が先に回転し、下半身が追いついてくる。
と、同時に、右足が一気に伸びる。
そして、曲がっていた左足を一気に伸ばし力をこめ、
帝の顎をめがけて踵で蹴り上げる。


ピシャン!と、雷の落ちたような音が響いた。

月戒の足と帝の顎との接触部分が激しく光る。




そのまま、帝は大きく上に飛ばされた。





「『天雷龍』。刀で防がれても今のは効いた筈だぜ!?」




帝は、ドンッと、地面にたたきつけられた。

遅れて、刀が落ちてくる。













感電しているのか、動く様子は無い。










そして場が静まったが、それは一瞬のことだった。





生徒が、男女問わず悲鳴を上げている。
失神する者もいれば、教員を呼びに行く者もいる。





そんな中、帝はゆっくりと起き上がった。
苦悶の表情を浮かべ、顎をさする。


「痛った〜……ちょっとは手加減しろよぉ!dear my friend!」


「本気出したのはお前だろ?ったく、殺す気かよ!!!」



月戒には謝罪の様子が見られない。
お互い様だ、という思いからだろう。



「両方悪い!全く!皆にいい迷惑だよ!!!」




ギャラリーの方から声が響く。

少し小さいが雰囲気でわかる。


玖珠八だ。



「おいおい!そう思うなら止めろよ!」

「お陰で怪我しちゃったじゃん!ケッシー!」



2人とも笑いながら返す。


侮蔑の眼差しで玖珠八は返す。



「僕が本気出したらこの街が滅ぶでしょ?」




そして、2人に玖珠八が事を告げる。

「……先生呼んだよ。この人しか来なかったけど」




玖珠八が指差すのは、小柄な少年。

小さな眼鏡と大きな杖が印象的だ。
知的な顔つきである。


「2人とも!喧嘩は止めてください!」








月戒は目を見開いた。




やば。

任務、完ッッッッ全に忘れてた……。









帝は、「Oh ,no! Please help me! New teacher!」
などと言って、いきなり許しを得ようとしている。





「とにかく2人とも!今から職員室に来なさい!」



月戒も帝も素直に頷く。


「了解した。ネギ・スプリングフィールド」

「はいはい。今から行きますよ!teaceh!」


ネギは名前を呼ばれたのに、違和感を感じない……。









「っと、その前に……」

月戒が携帯を取り出した。
アドレス帳から番号を呼び出し、電話をつなげる。



「……よぉ!黒蓮!そこの木の上にいるだろ?」

月戒は続ける。


「三年坂 白桃(さんねんざか しらび)呼んで、コイツラの記憶消しといてくれ」

「時間はいくらでもかけていい」と言うと、カパン、と携帯電話を閉じる。






「さぁ、行きましょうか」


ネギが先導する2人の後ろで、
メモをとっている2人の人物は、互いに気がつかなかったろう










1人は、言わずと知れた『朝倉和美』。












もう1人は、『木々原黒蓮』だ。


ずいぶんと端正な顔立ちをしている。

目も髪も真っ黒で、東洋人のような容姿である。
しかしその肌は、透き通るように白く、黒蓮を弱々しそうに見せる。

長い髪の毛に、淡い緑のセーター。
紅いロングスカート。

どれも飾り気の無い質素な者だが、逆に黒蓮の魅力を引き立たせる。




朝倉は物陰に隠れながら、巧みにネギたちを尾行する。
黒蓮は、木の上から電話をしながら、その場の全員の顔を記憶している。





結局は互いの存在に気がつかないまま、
その場を過ごしてしまうのだった……。











「月戒坊ちゃん、大丈夫でしょうか?黒蓮は心配でなりません」

メモをとりながら黒蓮は続ける。

「しかし、坊ちゃんの命令が優先です。ああ、気になって仕方のない!」










「こりゃ大スクープの予感だね!!!明日の一面トップだよ!!!」

朝倉は巧みに音を殺しながら続ける。




「朝倉、お前何してんだ?」


眼鏡をかけた長身の少女が現れる。
彼女は『長谷川 千雨』。
みんなには秘密にしているが、ネットアイドルでありハッカーである。




「今ねぇ、例の転校生追ってんのよ!あんたも来ない?」


千雨はあからさまに嫌そうな顔をして、

「断る。……お前と違って命知らずじゃないんだ」

といって走り去ってしまった。


朝倉は、にまっと笑う。

「『あのこと』バラしちゃうぞ〜〜〜!!!」



たったったった……と、千雨が戻ってきた。

「よし、見に行こうか。いや、私も興味があったんだ」


再び朝倉が、にやっと笑い、「よろしい」という。








この朝倉の安直な行動が、後に2−Aの皆が真実を知るキッカケになるとは、

誰も予想だにしていない…………。



 

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