第3話・月戒君の部活動日記・1
「ぐぉが!!!」
鍛錬場から妙なうめき声が聞こえた。
空手の胴衣を着た生徒が吹き飛んで、壁に直撃する。
生徒が飛んできたと思われる位置には、月戒がいた。
月戒がくるりと振りかえる。
「え〜と……。次、先生いっときます?」
ぶんぶんと勢い良く首を振る顧問。
その後ろには、気を失っている生徒がたくさんいた。
「さて……あとは、『居合部』と『剣道部』、『合気道部』に……結構あるな」
柔道部も空手部も、大したこと無かったな。
いや、柔道や空手が弱いんじゃない。
あいつ等が弱かったんだ。
まぁ、どうでもいいが。
『居合部』と『合気道部』は後回しだ。
『友人たち』なら、もしかしたら負けるかもしれないしな。
いや、玖珠八ならともかく、帝には負けんな。
なにせ玖珠八が本気を出したらこの街なんか一撃で吹き飛ぶだろうし、
帝も俺相手ではかなり闘いづらいだろうし……。
そんなことを思いながら着替えを終え、『剣道部』へと向かった。
「たのも〜〜〜〜〜〜!!!」
月戒の大きな声が響く。
一瞬静まる剣道場。
そこには、柔道部の生徒がいた。
ふむ。
この空気から察するに、待ち伏せされていたな。
『剣道の一段は他の武道の散弾に匹敵する』と覚え聞く。
よし。テコンドー六段だが、どこまで通用するか試してやるか
。
月戒が息を少し吸い、声を上げる。
「用件はわかっているな?自信のある奴はかかってこい」
一瞬間を置き、大柄な男が歩み寄ってきた。
(おお!190cm超えてんな……)
「剣道部の主将、『亀田』だ」
亀田は、もう一歩近寄る。
身長差ゆえか、亀田の迫力が増して見える。
「俺が相手をしてやる。貴様のような武道の精神も持たぬ者には負けん」
「俺は負けないぜ?貴様のように戦場と死の恐怖を知らん男にはな」
顧問が審判になる。
互い、軽く一礼する。(ちなみに剣道ではもっと正式な挨拶がある)
月戒も竹刀を握っていることから、剣道の試合のようだ。
防具もちゃっかり着ている。
「始めっ!」
顧問の声が鳴り響いた。
お互いに間合いを計る。
亀田は中段で構える中、月戒はフェンシングスタイルで構えていた。
「おいおい!剣道やりにきたんだろ?」
「馬鹿じゃねーのコイツ!?」
いまさら、そんな言葉に動じるか。と、月戒は思う。
_______その刹那____________
「メェェェエン!!!」
パァン、と、竹刀のぶつかる音が聞こえる。
少しよそ事を考えた瞬間に、この一撃。
手加減しては負けるな。
月戒は強く心に刻んだ。
ぶつかった竹刀は弾け、二人の剣士は互いに距離をとる。
月戒は踏み込まない。
竹刀の先を揺らしているぐらいだ。
ここで亀田が、再び攻撃に移る。
「胴!!!」
大きく飛び込んだそれには、隙があまり無かった。
左側からの胴を、右にステップして避ける。
と、亀田は一気に距離を取った。
中段から構えを変えず、二歩以上かかる距離を。
「どうした?貴様は守りしかできん臆病者か?」
亀田の言葉に、月戒が答える様子は無い。
代わりに、竹刀と別の言葉が返事をした。
「小手!」
パシィン!と轟音を上げ、
月戒の竹刀の先が、亀田の小手にたたきつけられた。
亀田は呆気に取られる。
おかしい。
俺とコイツの間合いは計った。
一足飛びが来ても防ぐ自信はあった。
いや、むしろ来るはずが無かったんだ。
篭手は予想できていた。
手首の力を利用して少ないモーションで来ることも予想できていた。
なのに何故?
互い、中心で一礼しながらのことだった。
月戒が防具を外し、亀田に歩み寄る。
そして、亀田に言い放つ。
「お前、古流武術やってんだろ?太刀術。さっきの構え、『中段』じゃなくて『正眼』だな」
目を点にして、亀田が答える。
「……よくわかったな。俺の完敗だ」
「そんなことはねぇぜ」
亀田の言葉に、月戒がすぐに反応する。
「あの一瞬で、この俺に防御させたのは凄いぞ。来年全国行けるぜ」
そう言い残し、その場を去った……。
「さあ、楽しい楽しい『居合部』にでも行きますかね」
(今までつまらない思いしてまで、心の準備させてやったんだからな)
月戒はブーツを履き、居合部を目指した……。