男子棟の前の門



二人の男に視線が集中する。




一人は、モヒカン・金髪・大柄である。

もう一人は、身長は高いが、細く、眼鏡だ。






モヒカンのほうは、髪型はまあともかく、ごつい体つきをしている。
しかも、鼻ピアスによって更に凶悪に見える。
常に睨むような視線で周りを圧倒している。





眼鏡の方は、格好良いとは言わないが端正な顔立ちである。
だが、モヒカンと対峙しているせいか、更に細く見える。
眼鏡のせいか、デスクワークが向いているような感覚を与える











「ちょっと失敬。職員室はどこかしらないか?」

「あぁ!?いま忙しいんだよ!殺すぞコラァ!!!」







キーンコーンカーンコーン…………




虚しくチャイムが鳴り響いた……。



第2話・『迅速』の不限人(ふげんびと)







モヒカンが眼鏡にバタフライナイフを付きつけた。
空いている左手で襟首を掴む。

イキナリのことだからか、眼鏡は一歩も動けなかったようだ。
ナイフの刃先をじっと見つめる……。


「ヘヘッ……!ビビッっちゃったか?オイ?」
















実はというか、こうなるまでには少し時間があった。












『8時28分16秒』

眼鏡の少年(月戒)が全力疾走したせいで、通り道が滅茶苦茶になる。
遅刻寸前のほかの生徒も、有無を言わさず吹き飛ばされる。

そんな変人が声をかけても、誰も反応してくれないのは当然だ






『8時29分02秒』

何の目的か、一人出歩いている生徒に声をかける。
当然だが、誰一人としてまともに話さない。
皆、警戒するのである。(されないのも問題だが)





『8時29分54秒』

ちょうどそこに、モヒカンの彼が現れる。
反対方向から来たのか、無傷だ。














そして、今に至る……。




眼鏡の少年は臆したわけではなかった。
その証拠といわんばかりに、バタフライナイフを素手で掴む。
少年の血が滴り落ち、自らの袖とモヒカンの男の袖を汚した。



少年は、にっこりと笑って、
「良いナイフだな。俺に届くんだ。よし。後で買いに行こう」

などと、悠長なことを言っている。




「な…………!」


モヒカンは動けなかった。
何も言わなくなった少年から、物凄い重圧を感じる。
しかし、勇気を振り絞った。(これが勇気というならば)


眼鏡がナイフを掴んでいた左手から、ナイフを引き抜く。
眼鏡の手の平から鮮血が散ったが、そんなことは関係無い。
きょとんとしている眼鏡の顔を見て、
モヒカンは優越感に近いモノを感じていた。




特に反応のない眼鏡に対し、モヒカンは眼鏡の左肩口めがけて、ナイフを突き立てた。








眼鏡の左肩に、ナイフが突き刺さる。

突き刺さる。

突き刺さる。

突き刺さる。

突き刺さる。

突き刺さる。








「ヒヒャッ!ヒヒャハハハハハハハハハ!!!」

何度も何度も、執拗に左肩を突き刺す。







が、モヒカンがもう一度突き刺そうとナイフを振り上げた、まさにその瞬間。


眼鏡の少年は、右足の足刀(足の小指側)で、モヒカンの足を払った。
モヒカンはバランスを崩し、右側に倒れる。



周りの生徒から悲鳴が聞こえる。









どちらへの悲鳴だろう?
俺のか?
それとも、コイツのか?



眼鏡の少年は、面倒になって考えるのをやめた。





代わりに、眼鏡の少年は別の行動をとった。
自分に無駄な時間と傷を負わせた男への、軽い報復だ。



「少年。若いうちからで申し訳無いが、世の理を知らしめてやろう」




そう言うと、眼鏡の少年は距離をとった。

その際、自分の左肩に刺さっていたナイフを抜く。

そして、モヒカンの方に、放物線を描くようにして投げる。

モヒカンは目を点にして固まっていた。

だが、眼鏡の少年の行動が彼を再び動かした。


勝機はある、と思ったのだろう。

モヒカンは自分の頭の横に落ちたそれを、しっかりと握る。





「アハハハハ♪アハハハハハハハハ!!!」




モヒカンは、立ちあがると同時に距離をとった眼鏡に急接近し、
逆手に持ったナイフを振りかぶる。

ナイフが振り下ろされると同時に、眼鏡がモヒカンの懐に飛び込む。

右足で踏み込み、右肩で胸の辺りを軽く押す。
つまりは体当たりである。

虚を突かれ、モヒカンはバランスを崩すが、ナイフを引き寄せ眼鏡の左腕を斬る。

眼鏡は少し表情を歪めたが、目は座っている。

モヒカンはそのまま後ろに倒れそうになった。














何かが、すんなりと折れる音がした。

もっとハッキリというなら、新鮮なゴボウが折れたようなアノ音。




倒れかかったモヒカンの左脚に、眼鏡の右ローキックが入っていた。
だが、左足だけでなく、右足も折れている。



気のせいか、眼鏡とモヒカンの距離が開いていた。


モヒカンは悲鳴を上げようとした。

が、その悲鳴よりも早く、眼鏡の右足が振り上げられる。


今度は、先ほどよりも若干距離が縮まっているように感じる。



眼鏡の右カカト落しがモヒカンの顔面に入った。
鼻をカカトでとらえる、見事な一撃。






結局モヒカンは、声を上げる間も無く倒された…………。










「最後の一発は、かなり手加減したぞ。制服代、払わなくて良いからな」




気絶したモヒカンを一瞥し、眼鏡の少年はようやく駆けつけた教師に向かって歩いた。






























「では、あなたが『国級 月戒(くにしな つきみち)』君ね?」

少年はテーブルを挟み、しずなと話していた。
入校手続きの確認程度なので、しずなが頼まれてしまったのだ



まぁ本当は、わが身可愛さから他の教師たちが押しつけたのだが。


「ええ。『国級カンパニー』の筆頭株主の三男坊ですが。何か?」


淡々と包帯姿で語る月戒に、しずなは気味悪くなった。
いくら頭が良いとは言えども、同じく秀才のネギからは不気味さが感じられない。

だが、不気味だからという理由で逃げるわけにはいかない。




「では、プロフィールを確認します。さぁ、どうぞ?」


極力笑顔を作り、しずなは促した。


「本名、国級月戒。血液型はA。出身はドイツのボン。戸籍は現在日本国。
 身長170cm、体重51kg。特技はテコンドーとカポエラ。あと走ること。
 大学は、ワシントン大学と英オックスフォード。とりあえずは、前科無し」


月戒は、表情を崩さずに答える。


しずなは資料に目を通すが、載っていないことまで言っていた。

ますます無気味になる。



この場合、『質問は何ですか?』という返答が返ってくるのが普通だ。
なのに、イキナリ解答を始める。
余分なことを言ったにせよ、必要事項にはちゃんと触れている





月戒も、しずなから手渡された資料に目を通す。



クラスは2−A。出席番号9。
男子校舎二階の一番奥だ。




「じゃあ、用は済みましたか?」




月戒は、物憂そうにしずなを見た。

同じような目つきだな。
そう思うが、口にはしない。
たぶん、怒り狂うだろう。
この手の女には裏がある。

もちろん、私生活が表で集団生活が裏になるのだが。







「いえ、まだ朝礼集会での自己紹介が残ってます」



面倒くさい。


そう思いながらも、しずなに付いていった…。














「え〜みなさん。もう知っている人もいますが、今日新しい御友達が……」




友達でもないのに、何故そう言うんだろう?


十歳のだからか、ボクにはまだわからない。
いや、年齢のせいにしてはいけないんだ。

三十歳の人間が、同じように答えに窮しているかもしれない。
各々によって窮する問いが違うように、また、答えも違う問い
なのだろう。
そもそも、出題されてもいない問いというのは現代社会において成り立ちにくい。
現代の子供たちは、出題された物意外は問いとして受け止められなくなっている。


非常に悪い傾向だ。

自然発生する問に対して解答意欲がないことは、自我形成にも大きく影響を及ぼす。
1+1が2であることに疑問をもてない者は、遅かれ早かれ数学が嫌いになるように、
自然発生の疑問を疑問と思わない者、または答えを追求しようとしない者は、
遅かれ早かれ、イイ意味での『個性』を失う、ないし形成できなくなる。


だが、その疑問が疑問であるからこそ価値のあるものもある。
なにがそれに相当するかなどということは誰にもわからないと
言っても過言ではない。








ネギは教員席にいた。
当然といえば当然だが。
少しばかり違和感がある。









いつも思う。


こんな話に何の価値がある?


今日は雲があるのに、何故『雲一つ無い』と言う?
何故生徒が倒れても話をやめない?
何故わざわざ集まる必要がある?






雲が見えているのに。
各教員が伝えれば良いのに。
生徒の身を案ずるのが先なのに。




いまだにわからない。

無論、今日のことも例外に漏れなかった。





















「では、どうぞ」



生徒会長がそう言うと、朝礼台の上に少年が登ってきた。

短い黒髪に、淵のある眼鏡。
視線からは、あまり熱意などは見られない。
顔つきこそ端正ではあるが、格好イイとは言えない。
細身ゆえか、運動の類には縁がなさそうだ。



よくいるタイプの生徒。





生徒は壇上に上がると、会長からマイクを奪い取る。
手渡す手はずだったのか、会長の顔に動揺の色が見られる。







「国級月戒です。……別に友人になれとは言いません。深く干渉しないで下さい。以上です」



生徒の塊がざわめく。

こんな発言をされれば、騒ぐのも当然だろう。





月戒が再びマイクを握る。
マイクに、ミシミシと何かがきしむ音が入っていた……。






「うるせーんだよ愚民ドモが!!! 片っ端からぶち殺してやろうか!?あぁ!?」






群衆が静まる。


全く声が聞こえなくなってから、月戒は続ける。


今は亡き、アドルフヒトラーの演説を思い出させる雰囲気だ。







「俺はな、貴様らのような平平凡凡とした平和な環境で育った覚えが無いんだ」

月戒は続ける。

「これは一種の警告。平和ボケした愚民ドモが周りにいても邪魔だ………」



次に飛んできたのはブーイングだ。



「ふざけんな!」

「死ね!クソガキが!」

「うぜーんだよ!」







ありきたりなブーイングだな。
もう慣れたんだよ。
他人様からの低俗な言葉には。
自分が言われたら理性を失うくせに……。







教員側に目を向ける。



頭を抱える教師もいれば、ボーっとしている教師もいる……。
ちょっとだけ気味がイイ。



そんなことを思っている矢先、月戒の瞳に、一人の少年が映る





(……ガキ?学生…………じゃあないな。10かそこいらだろう)


月戒の推測は続く……。


自分の記憶と社会常識。
あらん限りの可能性を疑問にぶつける。
(飛び級か?いや、ありうる話だが……)




ここで、一つの結論に結びつける。
(兄貴の言ってた『ネギ』なんとかか?)




自分の記憶を引きずり出すが、該当する決定的証拠がない……。
が、彼の面倒くさがりな性格ゆえか、長くは悩まない。


(多分そうだな。兄貴の同級生にそんな奴がいるって言ってたもんな)


そして、思考を別の事柄に用いる。
(よし。あとで職員室に行こう。だがその前に…………ガキの頃の友人でも探すか)





その朝礼は、そのままブーイングで幕を閉じた……。















「全く!キミは一体何様のつもりだ!!!」

「少なくとも貴方に文句を言われる身分ではありません」



新田と月戒の攻防は続く。


朝礼台の前で説教されているのだ。



広域生活指導員としての新田のプライドが、
わざわざ墓穴を掘るようなマネをさせた。




「俺の周りにいると、短い生涯を終える確率が跳ねあがりますよ?」

新田が少し引いた。

にやにやと月戒が笑っている。















新田は思い出す。



ある程度、というべきか。
国級の人間が来ることが、すでに異常事態なのだ。




いわゆる、『裏社会』に名を連ねる会社。

『国級カンパニー』の子供たち。

各々が異常な力を持ち、人間を明らかに凌ぐ。

『落ちこぼれ』でさえもが、IQ200を越すらしい。

が、表舞台に名が上がるのは、ここ10年間の話だ。

今までに、雑貨・情報・人材派遣と……。

節操無く、あらゆるジャンルの仕事に手を出している。








「……わかったら、先生も近くにいないほうが良いですよ?」

「くっ…………………!」



新田は、「なんとかしよう」と思いながら、その場を去るしかなかった……。








月戒の笑顔が安堵の表情に摩り替わった。

(よし。これで当面被害は抑えられるな)











「えー……では………………」

担任は言葉に詰まっていた。



「何でこんな化け物よこされなアカンねん!」とか、

茨城人なのに大阪弁になってしまうくらい困っていた。



「一週間すれば、新しい先生が来るから」とか言われて、

『なんとかなるかな?』とか思ってしまった自分が憎い……。



「よし。保険金上げとこう」などと心に決めて教卓に立ったが……。

やはりというか、言葉に窮した……。













「席はどこですか?」

焦っている担任に、月戒は上目づかいで声をかけた。
余り身長は変わらないのに……。

「…あ、ああ。そこの、一番後ろの廊下側……………」

「どうも」

短く言うと、そのまま席に向かう。
どの生徒も、月戒が近くを通ると、やっぱり引いた。


席につくなり、HRが始まる。








(ふん。つまらない時間だ)


ふて寝でもしようかと月戒が考えていると、

絞り出すような声で担任が語りかけた。








「それと、キミ。部活には必ず入ってね?」




(覚えておこう)

月戒は返事をせずに、机に伏せて寝たフリをした……。




一時間目

二時間目

三時間目

四時間目




刻々と時間が過ぎていく……。

どの教科も、つまらないこと極まりない。




そして、食事の時間。



どうやら給食らしい。







(アホらしい。俺に集団生活などは、ほとんどいらんのだ)



他の生徒の視線をかいくぐり、月戒は屋上に向かった……。

















「うん。いい風だな…………。屋上の醍醐味だ……」


軍事用の携帯食料を噛み締めながら思う。

(明日からはちゃんと作ろう)



そして、ゆっくりと屋上の入り口を見つめる。


「久しぶりだな。帝。玖珠八も……」


立っていたのは二人の少年。



一人は背が飛びぬけて高く、日本刀(?)を腰に下げている。
茶髪で、ブレザーの下から紅いシャツが覗いている…。
目の色も茶色で、カラーコンタクトをしているように見える。
服の上からわかるほどの筋肉質だ。
その顔を見て『ダンディー』と言う者もいるだろう。


もう一人は、月戒より少し低い。
髪は長く、そして黒い。
後ろで不恰好に縛ってあるのが印象的だ。
強い意志を感じさせる、真っ黒な瞳。
おかげで、ひ弱な印象は全く無い……。
むしろ、『猛者』という言葉が、彼にはふさわしいだろう。



「月戒!ひっさしぶり〜!小学校以来ジャン?」

「やっぱ変わってないな〜♪派手にやり過ぎだよ!」

月戒は笑顔で返す。
新田に向けたモノよりも、遥かに澄んだ笑顔で。

「上がり症なのは知ってるだろ?俺の精一杯だ」





『くだらない』おしゃべりが続く。
心許せる友人と話せる、すばらしくも『くだらない』時間……。
月戒は、この時間が好きである。


同じクラスなのに話しかけてこなかったのは、
やっぱ、月戒がやりすぎたから、ということだ。

そのくらいは自覚していたが。





(補足しておくが、背の高いほうが『狛犬 帝』で、背の低い方が『芥子丘 玖珠八』である)







チャイムが鳴る。

ようやく、掃除が始まるようだ







(二人とも、よく社会復帰できたな)


そんなことを思いながら、友人としばし別れた。


「クラスの奴には伝えとくから!」と言い残した友と。



その後は『つまらない』時間が続く。



五時間目

六時間目



家にはゆっくり帰る事にした……。






やっとのことで、帰りの『つまらない』HRが終わった……。

昇降口で靴を履き替える。











『靴が無い』






(御約束だな。……まぁ、慣れてるが)

仕方ないので、鞄の中にある部品を組みたてた。




鉄板に超高摩擦ゴム。防刃繊維と特殊ワイヤー。





ゴムの上に鉄板を重ね、防刃繊維をその上に置く。
ゴム・鉄板・防刃繊維には同じ個所に穴が開いており、
それを一度、一本目の特殊ワイヤーで結ぶ。

次に、スニーカーのようにかたどられた防刃繊維とさっき作った靴底を繋げる。
無論、特殊ワイヤーでだ。




十分後、軍用ブーツが出来あがる。






「まぁ、予想済みだったしな」

少しだけ、月戒が悲しそうな顔になっているのが見えた。

















靴を履き替えるたとき、後ろに気配を感じた……。

(闘気?いや、殺気か!?)




右足を軸にし、左後ろ回し蹴りを放つ。

間一髪で伏せる相手。

月戒の蹴りが直撃した下駄箱は、轟音を立てて吹き飛んだ。

相手が立ちあがると同時に、服装が見える。

(げ。女…………)









「あぶなー!当たったら死んでるね」











女性の方にあまり緊張感は見られなかった。

むしろ、今にもケラケラと笑い出しそうな顔をしている。



(しまった。無駄な労力を使った)




そのまま立ち去ろうとすると、「待ちなよ」と制止された。


「誰が靴盗ったか、知りたくない?」

「興味が無い」


にやけ顔で話しかけてくる女……。


(苦手な。いや、嫌いなタイプの女だ…………)



「コッチはアンタに興味があるのよ。一記者としてね」

さっきからテープレコーダーを回しているようだ。
記者の癖に、言葉に注意を払っていない。


「忙しいから帰るぞ。記者の相手をするほど暇じゃない」

「そんなこと言わずに!あたしは『朝倉 和美』!通称『麻帆
良パパラッチ』!」

「アホらしい。帰る」

「ねーねー!待ってってば!」


ぽん、と肩を叩かれた。

振り払う必要も無かったので、
そのまま無視した。


そうだ。いい言い訳がある。


「部活動見学があるんだ。邪魔するなよ」

女は諦めたのか、「仕方ないなー」といって、その場を去った…。


さぁ、言ったからには見学だ。

部活は男女混合らしいな。
清純なことで。








とりあえず、全部活見てまわることにした。



「……道場破りでもしてくか♪」


これが原因で、格闘系の部活には入れなくなることに、彼はまだ気づかない。

そして、課題を一つもこなしていないことにも、勿論気づいていなかった……









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