第18話『メンターはイタチ科?』
小気味の良いチャイムの音が鳴り響く。
爽やか中座が窓を通過し、教室の中を撫ぜていく。
太陽の心地よい光が、教室を満遍なく照らす。
平和、と言う言葉以外に形容のしようが無い光景である。
「え〜、今日は58ページからです。予習はキチンとしましたか?
ま、別にやらなくたっていいんですよ。授業で全部理解してくれればね」
副担任・ギルバートも、昨日までに比べて平和に見えた。
髪の毛は以前のツヤを僅かながら取り戻し、背筋もシャンと伸びている。
スーツも再度糊付けをしてあるし、ネクタイも曲がってない。
肌も力強く感ぜられるし、顔色そのものも相当良くなっている。
そして何より、彼の目には、ここ数日に比べて生気が篭っていた。
「この間は確か、方程式の簡略……どうかしましたか?」
ギルバートが顔を上げると、生徒全員の目に緊張が走っているのに気が付いた。
その視線をその身に受けて一瞬たじろぐが、すぐさま体勢を立て直す。
そして、最も近い生徒、いいんちょこと雪広あやかに代表になってもらった。
「雪広さん。何か、あったんですか?」
「……先生、ちょっと失礼」
折角異常な視線の正体を聞き出そうとしたのに。
というギルバートの思惑とは関係なく、いいんちょは席を立った。
そして、いきなりギルバートの腕を掴む。
怪我人を扱うかのようにゆっくりと袖をめくると、いいんちょの顔が引きつった。
でもって、叫ぶ。
ヒステリックに叫ぶ。
ギルバートの鼓膜を突き抜けるように、叫ぶ。
……というか、ギルバートの鼓膜を物理的に貫いた。
血が垂れてきそうな耳にハンカチを当てながら、ギルバートは苦い顔をした。
それはそうだろう。
大体、いきなり人様の腕を掴んでおいて、袖までめくってだ。
手首を見て大声出して、それで鼓膜を破られては堪ったもんじゃない。
「雪広さん、私は貴方に何かしましたか?」
だが、当のいいんちょは頭を抱えたまま宇宙人でも見るかのような目でギルバートを見ている。
ギルバートがもう一度聞こうとしたときに、いいんちょの口は開かれた。
「ギ……ギルバート先生の左手首に、きききききき……切り傷が!」
瞬間、教室は絶叫と悲鳴に包まれた。
いや、全部悲鳴だったかもしれないが、ギルバートの耳には半々に聞こえた。
とは言っても、いいんちょの叫び(?)で右しか聞こえない状態なのだが。
ギルバートはとりあえず、この場を沈めることにした。
……無駄だと知りつつも。
「お〜い。これは昨日ですね、料理をしてたときに飛びつかれて……」
「なんで私たちに相談してくれなかったんですか!」
懸命に諭そうとしているアスナ。
ネギが最近ギルバートを心配していることもあって、より敏感になっていたのだ。
ギルバート……いや、月戒の悩みが、まさかそこまでのものだったのか。
そんな勝手な解釈が、アスナの頭の中で縦横無尽に走り回っていた。
「……神楽坂さん。だからこれは、昨日料理をしていたときに」
「隠さないでください!」
「いや、隠すも何も」
月戒は必死で弁明したいところだったが、不可能だった。
アスナは、ギルバートの正体を知っている人物の1人である。
だとすれば、調理中に木々原黒蓮に抱きつかれた、と説明すれば済む。
ついでに『私を調理してくださいな♪』などとワケのわからんことを言われたのも愚痴りたい。
他の生徒にも、誠心誠意を以って伝えてやりたかった。
だが、そうすると正体がバレる。
正体がバレると、任務に差し支える。
任務に差し支えると、家に帰れない。
「では、今から数学の授業を中止し、ギルバート先生のリストカット再発防止会議を……」
「だれがリストカットしましたか! 私はマゾヒストじゃないんですよ!」
「マゾヒストじゃなくてもする世の中ではありませんか! 確実に悪い傾向ですが……。
なんと言おうと、この雪広あやか! ギルバート先生の暗い人生に終止符を打って見せます!」
聞こえないように舌打しながら、月戒は諦めた。
もう勝手にやってくれ、と自暴自棄になる。
なんだかアホらしいので、一番後ろのエヴァの席の隣に座った。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「では、今から会議を始めます!
まず第一に、ギルバート先生がリストカットに至った原因を究明すべきであり……」
「リストカットじゃありません」
「究明すべきであり、それから対策を練ろうと思います!」
いつに無く真剣ないいんちょに、月戒は消極的姿勢だった。
というか、勘違いでまとまりつつあるクラスそのものにネガティブだった。
「はい」
「朝倉さん、どうぞ」
さて、パパラッチ。
一体どんな根も葉もない噂で俺を追い詰めるつもりだ?
無駄に挑発的な月戒の心情を知ってかしらずか、演技がかった声で朝倉は言った。
「手首の傷の原因は……エヴァちゃんです!」
「は……?」
クラス中の視線が、一斉にエヴァに注がれた。
一瞬ビクッとしたエヴァだったが、すぐに冷静さを取り戻した。
さすが100歳を超えていることはある、と感心する月戒。
予想通り、理論的な意見で朝倉の意見に対して反論した。
「おいおい。何で私がこんな木偶の坊の自虐行為に関係があるって言うんだ?」
「あれ〜? 私は怪我をした物理的な原因を言ってるんだよ?
私が言いたいのは、これはリストカットなんかじゃないってこと」
「だから、これはコイツの自虐行為……」
エヴァが全ての言葉を吐き出すよりも早く、朝倉の懐から一枚の写真が出てきた。
余裕と言うか、それに近似する笑みで朝倉は写真を高々と掲げた。
その写真に写っているのは、カンフー着の月戒だ。
ある建築物に入ろうとしているようだ。
その写真に注目が集まる中、エヴァは一瞬で青ざめた。
その建築物の正体を知ってしまったのだ。
「エヴァちゃん、ギル先生。……ここ、どこだか分かるよね?」
「……コインランドリー?」
ギルバートの絶妙な意味の無いボケに、エヴァの鉄拳が入る。
別に、めいっぱい殴っただけでなく、本当に鉄拳なのだ。
魔力で強化された拳は鉄のように硬くなり、ギルバートの頬に突き刺さった。
奇妙な音が響き渡り、ギルバートの首はちょっと270度くらい回転して止まった。
そして、すぐさま270度が60度にまで戻る。
口をパクパクさせるが、声帯がやられて声が出なくなっていたようだ。
『もっと普通にツッコメ!』とでも言いたかったのだろうが、文字通り声にならかった。
そんな寸劇とは全く関係なく、事態は更に悪化していった。
朝倉だけでも厄介なのに、もっと厄介な奴が発言を始めたのだ。
その発言は正確無比にして、真実である保障は100%の人物(?)
エヴァの下僕(?)の茶々丸だ。
「それは昨日の午後11時20分04秒のマスターの家の前の写真ですね」
「茶々丸さん、何か知ってんの?」
「待て、茶々丸!」
茶々丸は、昨日月戒と遭っている。
ギルバート・ホーエンツォレルンとして処理されている分まだマシだろう。
そんな月戒の思いは、僅か3秒で裏切られた。
「ハイ。ギルバート先生が突然お尋ねになりました。
そして、マスターが『席を外せ』とおっしゃり、私はその間ラボに戻っていました。
朝帰ってきたときには、上半身裸のギルバート先生とマスターがベッドの上で談話を……」
「ちゃ……茶々丸〜!」
最後の砦が崩壊したと言わんばかりに、エヴァは絶叫した。
エヴァの絶叫に重なったのは、女生徒の嬌声だった。
もちろんのこと、月戒はさらにヤル気を失う。
『どうにでもなれ』が『どうにでもなっとけ』と、さらに投げ槍になる。
必死に弁明しようとするエヴァを無視して、朝倉は笑みを強め再び口を開いた。
「その傷ってもしかして、エヴァちゃんに引っ掻かれてできたのかなぁ〜?」
「ちちちち違っ……オイ、ギルバート! お前も何とか言ったらどうだ!?」
「いや、茶々丸さんの言ったことはあってますよ」
ギルバートは肯定した。
『オォ!』と言う歓声と『キャア!』と言う嬌声が混じる。
とは言っても、ギルバートの耳には半分も届いていない。
女生徒の盛り上がりを一切無視して、ギルバートは続けた。
「進路指導に関して話をしていて、徹夜になったのは間違いないです。
上着ですけど、コーヒーをこぼしてしまって気持ち悪いから脱いだだけですよ?
それに、エヴァさんの部屋はベッド以外に座る場所がなかったんですから。
ちなみに手首の傷は、姉が後ろから冗談半分で飛びついたときに包丁で切れたんですよ」
「騙されないわよ!」
批判の声は、意外なところから飛んできた。
まず間違いないと思われるギルバートの意見に抗する女子。
ギルバートのことを相当疑ってかかっている、柿崎だ。
「何をどう騙しているでしょうか?」
「エヴァちゃんに何したか知らないけど、どうせマトモなことじゃないんでしょ?
その手首の傷だって、どうせどっかの暗殺者かなんかにやられたに決まってるじゃない!」
「……柿崎さん。確証の無い事は断言しない方がいいですよ。
この国のコトワザとか言うものにもあるでしょう?
『口は災いの元』って、経験に基づいた非常に含蓄ある教訓が」
ギルバートは、口元だけを歪めて笑った。
不気味と言うよりも、ニヒルな感じがする。
余裕……いや、絶対の自信が伺えるような笑みだ。
「さぁ、解決したところで授業を始めましょう」
「ちょっと! まだ話は……」
ギルバートの肩を柿崎が掴んだ。
確かに、柿崎は右手でギルバートの肩を掴んだ。
が、手応えがない。
空気を掴んだかのように、君の悪い感覚が柿崎の掌に伝わる。
その柿崎の両肩に、ポンと手が置かれた。
「今日の議論はココまでですよ。か・き・ざ・き・さん♪」
誰も気がつかなかった。
エヴァや刹那、クーフェイや龍宮でさえも気がつかなかった。
柿崎の後ろに『存在していた』かのように、ギルバートはそこにいた。
それは当然だといわんばかりに、冷ややかな微笑を浮かべている。
「さ、数学しましょう。遅れてるんですから」
自分より背の低い柿崎の頭を2,3度撫でると、ギルバートは颯爽と教卓へ向かった。
_____________________________________________
「……ねぇ、どう思う?」
神妙そうな顔をした村上が、隣の人物に問う。
もちろん、同意を求めるために聞いたのだが。
「普通ではありませんわね。恐らく、拳法か何かの達人かと」
村上の隣の人物、いいんちょは自分なりの意見を述べた。
当然、憶測の域を出ない意見だが。
「それはないアル。どんな歩法を使ても、誰か1人くらい気づくアルよ」
感心しているのか威張っているのか良くわからない表情のクーフェイ。
彼女はギルバートの移動を力技と知っているので、単に感心していた。
全ての気配を殺し、柿崎の後ろに誰にも気取られずに移動したことに。
「……しかし、私にも見えないというのは異常だぞ」
表情を崩さずに龍宮は言葉を放った。
だが、その無表情の下には焦りと不安が点在している。
ギルバートからは、今まで戦った誰よりも血の臭いがした。
ここは大浴場。
決して『大欲情』と書き違えることなかれ。
男にとって、更衣室と並ぶ聖域とされるそこは、ギルバートの話題で埋まっていた。
「でも、ギルバート先生って顔はカッコイイよね〜」
「ちょっと変態っぽいけどね」
「それ考慮したって相当なもんだよ」
「だよね〜。なんかこう……桁違いのカッコよさだよね〜」
「変な例えだけど、人形みたい」
「あ、それ言えてるかも」
それもそのはず。
女性を凌ぐ美貌に、掴み所のない性格と行動。
ミスマッチな組み合わせだが、何故か誰も違和感を感じない。
不思議な人間だった。
ちなみに、この浴場の中にいる生徒のうち、2人は国級の管轄の者である。
ギルバート……月戒に有利な噂を流し、事態の悪化を防いでいた。
で、その生徒の1人、京極紫杏は、隣にいる大河内に焦点を定めた。
「ねぇねぇ〜、大河内さ〜ん?」
「どうした?」
頭にタオルを載せたまま、紫杏はゆっくりと大河内の近くに寄って行った。
だが、それに合わせて大河内も少しずつ逃げる。
2秒ほどしてそれに気付いた紫杏は、大河内の肩をガッシリと掴んだ。
大河内は声こそあげなかったものの、あまりの力強さにビックリした。
ぼ〜っとした感じの半開きのタレ目に、それに合った性格。
こんなぽけーっとした少女が出せる力とは思えなかった。
「ギルバート先生って、かっこいいよね〜♪」
「あ、あぁ、そうだね」
大河内は、この少女が苦手だった。
同じ水泳部のメンバーなのだが、執拗に自分に擦り寄って来る。
レズと言う噂が流れるくらいで、いつも身の危険を感じて生活していた。
風呂のときも、それは例外ではない。
しかし、話題がギルバートのことだと知って安心した。
少なくとも、彼女が『そういう気』があると言う確率がグッと減ったのだ。
「大河内さんは〜、ギルバート先生のこと、どう思う〜?」
「う〜ん……」
大河内は返答に困った。
確かに、ギルバートは美形である。
担任のネギと比しても端正な顔立ちだし、体のバランスも良い。
少々背が低いかもしれないが、そんなことは関係なかった。
ただ、ギルバートの美貌は、造型のような美貌であったのだが。
でも、どちらにせよ大河内にとってギルバートとは微妙な存在である。
外見は、確かに申し分ない。
問題は、彼の生態系……もとい、行動そのものにあった。
「ハ……」
「歯? ギルバート先生の歯がどうかしたの?」
「いや……」
キョトンとした顔をする紫杏に、大河内は遠慮がちに答えた。
「ハ、ハードゲイは、ちょっと困るかな……」
紫杏は、キョトンとしたフリをした。
先程は自然にだったが、今度は完全に演技である。
無論、それに気がつく人間など、この世に数えるほどしかいないが。
大河内の反応を、紫杏は当然のモノと考えた。
ギルバートが以前ハードゲイの格好をした際に、もっとも反応が薄かったのは大河内である。
で、何かしらのリアクションを欲していたギルバートは、執拗にグラインドした。
大河内の周囲で謎の踊りを始めたり、下腹部を執拗に強調したりと。
流石に顔に近づけてきたりはしなかったらしいが、戸惑うには充分だ。
外見と中身(?)のギャップの激しさが、混乱の原因だろう。
紫杏は、とりあえずそこで納得しておいた。
「でも、アレはアレでセクシーだよね?」
「…………………」
「ね?」
「………」
「ねぇ? 大河内さん?」
これ以上は間が持たないと察知した大河内は、タオルを身体に巻いて慌てて湯船から飛び出した。
急なことで紫杏も掴み損ね、バランスを崩して湯船に豪快に突っ込んだ。
目の前にタイルの角が見え、紫杏は思わず目を閉じた。
紫杏は、頭を打つはずだった。
目を閉じる寸前に、紫杏は間違いなくタイルの角を見ている。
ぶつかった時の衝撃に耐えるために、紫杏は覚悟をしていたのだ。
だが、紫杏の額に柔らかいモノがぶち当たった。
厳密には、タイルと紫杏の頭の間に挟まっている。
驚いた紫杏は、急いで湯船から顔を出し、その物体を掴んだ。
毛深い。
生暖かい。
手で掴める。
ビクビク動いてる。
「ヒッ!」
紫杏は、それをタイルに叩きつけた。
だが、その物体は器用に体勢を立て直した。
そして、見事にタイルの上に着地する。
ようやく他の生徒が気付いた。
しかし、既に遅かった。
謎の物体は、逃走しながら女生徒のタオルを剥ぎ取ってゆく。
しかも、あまりにも速い。
普通に走ったのでは誰も追いつけそうにない。
で、埒が明かないので、2人の生徒は打って出た。
謎の物体に向かって、龍宮が発砲する。
対人間用の麻酔弾だが、別にそこの生き物に使ったって良い。
どうせ弾薬費は学校持ちなのだから。
そんなことを思いながら、バスタオルを剥がれた屈辱を押さえ込んでいた。
無論、直撃すれば、麻酔の量が多すぎて標的は死ぬが。
三つ編みの中にアーミーナイフを隠していた紫杏が、タオルにそれを隠しつつ駆けた。
龍宮の足止めのお陰で、謎の物体に易々と追いつく。
あまり発育が良いとはいえない身体を隠しもせず、紫杏は高々と飛んだ。
元々、接近戦の訓練をサボっていた紫杏にとっては、かなり辛い行動だ。
ライフルが一丁あれば、一瞬で片付くのだが。
「やぁぁぁぁああ!」
スライディングをするようにして、謎の物体に急接近する。
その物体の真横を通過しつつ、ナイフで動きを封じようという算段だった。
紫杏は、運動神経(特に瞬発力)が決して良いとは言えない。
だが、彼女にはそれを補うだけの充分な経験があった。
そして、捕獲は成功するという確信にも似た自信が。
謎の物体まで、あと僅か50cm。
どこからか飛んでくる弾丸で、謎の物体は足踏みしている。
確実に距離は詰められている。
このスピードなら、あと2秒もあれば捕獲できる。
「そこか!」
「へ?」
謎の物体に向かって滑る紫杏を敵と認識した龍宮は、何の躊躇いもなく発砲した。
1発目は何とかガードしたが、2発目・3発目は腹部と首にクリーンヒットした。
意識を失った紫杏は、豪快に壁に激突する。
結局、タオルに包んだナイフを握ったまま、紫杏は小さな寝息を立てていた。
「紛らわしい!」
気遣うどころか文句を垂れる龍宮。
彼女の頭の中にあるのは『今のは勿体なかった』である。
話したこともないような紫杏の事など、微塵も考えていなかった。
「刹那! そいつを止めろ!」
「わかってる!」
龍宮も、何も無計画に追い回していたわけではなかったようだ。
相棒であり、信頼の置ける刹那の方に誘導していたのだ。
刹那もそれを承知していたが、如何せん武器は手元に1つしかない。
そしてその武器は、殺傷能力が低い。
だが、小動物一匹を打ち殺すには充分な代物だった。
「はぁぁぁぁぁあ!」
湯船から脱兎の如く飛び出し、刹那は咆哮した。
腰溜めに何かを構え、居合いの抜き打ちのように振りぬいた。
数瞬遅れて、刹那が振りぬいた物体が小動物に直撃する。
直撃を受けた小動物は、キリモミしながら壁に叩きつけられた。
湯煙の中、一糸纏わぬ姿の龍宮が、謎の物体に歩み寄った。
先程までの焦りの色は全く見られず、むしろ余裕が見て取れる。
形成逆転した今、龍宮の心は殺意に似たようなものに満ちていた。
ちなみに、彼女の頭の中には『どうやって拷問してやろうか?』でいっぱいだ。
「クックック……さぁて、一体どんな妖怪かな?」
龍宮がサディスティックな笑みを浮かべ、その物体を掴み上げる。
が、その瞬間怪訝そうな顔つきになる。
そして、頓狂な声をあげた。
「イ……イタチだと!?」
ぐったりとしているそれは、紛れも無くイタチ科であった……。