第17話『解呪の交換条件』
「はぁ……」
月戒、いや、ギルバートは溜息をついていた。
今に始まったことではない。
ここ3日間、ギルバートは意気消沈していた。
誰が話しかけても、
『ただいま留守にしております。発信音の後に、ネタを入れてください』
と、呻くばかりだった。
頭からはキノコが生えかけており、すっかり苗床になっている。
宿木でもされたかのような勢いで、3日足らずでゾンビとなっていた。
「どうしたんだい、ギルバート先生」
そんなギルバートに、タカミチが声をかけた。
海外出張から帰ってきて、朝のHRを終えたばかりだった。
つまり、HRにも参加せずにギルバートは悩んでいたことになる。
そんなことは気にも留めず、タカミチはギルバートに優しく接していた。
「ネタ……」
「ん?」
「生徒が楽しく授業を受けれる……ネタが足りない」
タカミチの言葉に反応したのではなく、幽鬼のように立ち上がる。
フラフラと職員室を出て行くと、そのまま授業に向かって行った。
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「ここの方程式を用いて、問2を解いた方が効率的です」
やつれた顔と死人のような眼で、ギルバートは教鞭を振るっていた。
ちなみに、教鞭といっても鋼鉄製である。
しかも、警棒ばりに太いので、最早ただの武器だった。
ギルバートの授業は、静寂に包まれていた。
生徒達の唖然とした表情は変わらないが、今回はちょっと違う。
ギルバートのやつれ様に、生徒達はビビッていた。
ワックスで固められていた髪の毛は日に日にボサボサになっていく。
ヤル気に満ちていた目は、永久に光を失ったかのようだ。
美しい色白の肌は、病的な感覚を見る者に与える。
ハッキリ言って、ただの不健康体だ。
もし今倒れて、実は末期ガンだったと言われても、誰も疑わないだろう。
ギルバートには、生気が全く無かった。
が、授業はしっかりとやる辺りから、教師としての責任は感じているようだ。
「じゃあ、長谷川さん」
「わかりません」
教室は、未だに静まり返っている。
霊安室だって少しは騒がしいかもしれない。
死んだ魚のような目で、ギルバートは千雨を見つめる。
小さく笑うと、その顔に不気味な笑みを浮かべた。
クスクスと笑い、教室の中に声を生み出した。
「長谷川さん」
「わかりません」
再び、クスクスと笑う。
「長谷川さん」
「……わかりません」
今度は、口元だけを歪めて笑った。
「長谷川さん」
「……2x+3です」
「正解です」
やつれた顔と死んだ目で、にやりと笑う。
絶対に何か企んでいるとしか思えない。
しかし、実際のところは精神状態が窮まっているだけである。
少しでも揺さぶれば、粉々に崩壊しそうだ。
「え〜、では。今日の授業はここまでです。皆さん、予習復習を怠らないように」
一言残して、ギルバートは教室を後にした。
どの生徒も『明日には戸籍がなくなってるんじゃないか?』と疑わざるを得ないような顔で。
絶望というか、投げやりに近い表情だった。
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「ねぇ、ネギ。副担任のさ、ギル……なんとかって、なんかあったの?」
寮の一室・アスナとこのかの部屋で、ネギは問われた。
自分も聞こうと思っていたことだったので、少しばかり戸惑った。
だが、互いの情報を知っておく必要があるだろうと、アスナの質問に答えた。
「いえ、詳しくは分かりませんが……授業が滞ってるとかで」
「え!? 最近のアイツの授業って、結構テンポよく進んでるんだけど……」
2人の意見は、あっさりと食い違った。
どうやら、こういうことのようだ。
ギルバート本人は滞っていると思っているが、実際はそんなことは無い。
単なる勘違いで悩んでいるようだった。
「つまり、ギルは勘違いしてるんですか」
「そういうことになるわよね」
「ネギ君、早いうちに教えてあげんと」
このかがそう言うと、ネギが苦笑いした。
「ギルですけど、他人からの助力を嫌うタイプなので……」
「プライドが高いんやね」
こんなほのぼのとした会話をしている3人。
だが、真相はそんなものではない。
彼は今、危機に直面していた。
今すぐではないが、ゆくゆく世界を滅ぼすものとの対峙。
それだけが、今の彼の頭の中にあるのだった。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
月戒は、いつものようにパソコンの前に座っていた。
黒蓮はというと、コーヒーとチョコバットを買いに行かせている。
コンビニにチョコバットが売っていなかったので、駄菓子屋に行かせたのだ。
ちなみに、この2者は、同じ店で手に入ることはまずない。
まして、駄菓子屋の無い『麻帆良学園都市・節見通り』から買いに行けば、3時間はかかる。
北にある『麻帆良学園都市・平坂』で駄菓子・チョコバットを買い、
西に位置する『麻帆良学園都市・獅子寺跡地』でコーヒーを買うしかない。
しかも、線路が通っていない節見からでは、無駄骨とも思える買い物だ。
もちろん、理由あってのことだ。
月戒の眼前のパソコンには、人物の名前がいくつも羅列されている。
そして、右隣には、特異な能力や付加能力が打ち込まれていた。
当然だが、特殊な技術に関するものも全て。
それぞれの個体を可能な限りレベルで換算もしてある。
言わば『月戒版・部隊データ編集』である。
ここにたどり着くまでには、月戒以外なら5時間はかかる仕組みになっている。
パソコンを起動した段階で『月戒君の幼少時の写真集』と書かれたディスクを使うのだ。
実際には、データまでのショートカットプログラムが組み込まれている。
ちなみに、普段は黒蓮が死守しているので、何人たりとも入手不可能だが。
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国級月戒…『迅速』
『付加能力…雷炎』
『付加能力…セルフ・コピー』
戦闘レベル…100
格闘レベル…100
安定レベル…100
信頼レベル…100(これを上限とする)
(ただし『迅速』を排除した場合のみ)
(これを基本値とする)
国級コヘレト…『英知』
『付加能力…ユナイト・オーラ』
『付加能力…オーラ・ストリングス』
『付加能力…ヴァニッシュ・シャドウ』
『付加能力…マグナム・ヒート』
『付加能力…アクセル・バースト』
『付加能力…デコイ・ドールズ』
『付加能力…パーフェクト・ショット』
戦闘レベル…987
格闘レベル…775
安定レベル…45
信頼レベル…91
(ただし『英知』を考慮した場合、戦闘・格闘レベルは測定不能)
木々原黒蓮…『付加能力・オートグレイヴ』
戦闘レベル…89
格闘レベル…155
安定レベル…70
信頼レベル…100
三年坂白桃…『付加能力・SW(シックス・ウェポンズ)』
戦闘レベル…174
格闘レベル…102
安定レベル…88
信頼レベル…100
狛犬帝…『獣化』(←期待はしない方がよい)
『付加能力・神速剣』
戦闘レベル…33
格闘レベル…83(ただし、剣術は99)
安定レベル…76
信頼レベル…67
芥子丘玖珠八…『付加能力・キマイラ』
戦闘レベル…20
格闘レベル…94
安定レベル…89
信頼レベル…32
ネギ・スプリングフィールド…『西洋魔術』
戦闘レベル…47〜
格闘レベル…12〜23
安定レベル…47
信頼レベル…89
長瀬楓…『甲賀流忍術』
戦闘レベル…131
格闘レベル…83
安定レベル…99
信頼レベル…7
エヴァ…『西洋魔術』(←聞いた話では)
戦闘レベル…89
格闘レベル…不明
安定レベル…0
信頼レベル…2
茶々丸…『最新兵器』
戦闘レベル…97
格闘レベル…99
安定レベル…100
信頼レベル…エヴァ次第
鳴里圭吾…『付加能力・コールドキングダム』
戦闘レベル…342
格闘レベル…433
安定レベル…71
信頼レベル…55
鳴里風翼…『付加能力・フリーウィング』
戦闘レベル…198
格闘レベル…1433
安定レベル…83
信頼レベル…82
(多分来ない)
猪谷勝彦…『付加能力・五行剣』
戦闘レベル…233
格闘レベル…488
安定レベル…96
信頼レベル…61
笹本正信…『付加能力・マインドミュージック』
戦闘レベル…81
格闘レベル…42
安定レベル…10
信頼レベル…79
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画面を見て、月戒は大きな溜息をついた。
別段、この味方達に不安があるわけではない。
充分な戦闘能力を持ち、尚且つ、ほとんどが信頼できる。
仲間としては、文句なしであった。
だが、そんなことは彼にとって問題ではなかった。
このメンバーでは、ヨシュアに勝てない。
コヘレトと風翼がどうにかしてくれるかもしれないが、それでも五分だ。
なんとしてでも、決定打が欲しかった。
「やっぱ、エヴァと茶々丸だな」
月戒は、2人の部分に目を通す。
目を通すといっても、わずかに一言『詳細不明』だ。
この2人の能力が判明すれば、戦いを行うのが非常に楽だった。
鳴里達も充分強いが、それも付加能力を考慮した場合だ。
純粋な戦闘では、ハッキリ言って通常の軍隊レベルだ。
それに、このメンバーは笹本以外の全員が個人戦闘に優れている。
ヨシュアに個人で敵うのはカナンくらいだが、カナンは出撃できない。
団体攻撃が可能ならばいくらでも勝機はあるが、どうにも時間が足りない。
できれば今回で倒したかったが、退けるので精一杯のようだ。
だが、この2人の能力が判明すれば、勝てるかもしれないのだ。
ヨシュアは、魔法を防ぐことはできないのだから。
さて、詳細不明といったが、実はある程度の情報は集まっている。
エヴァは、サウザンドマスターに魔力を封じられている。
満月の日は魔力がある程度元に戻る。
普段はただの女子中学生(ナマイキな)である。
呪いを解くには、大量の血が必要。
茶々丸は、エヴァと主従関係を持っている。
格闘術に関しては、相当なものである。
学校の帰りに、野良猫に餌を与えている。
一家に一体欲しい、二足歩行メイドロボ。
月戒が特に注目しているのは、エヴァだった。
かつては魔法使いの団体から、指名手配されていたほどの力の持ち主だ。
凶暴性をどう抑えるかが問題だったが、期待はしていた。
彼女が本来の力を取り戻せば、先制攻撃が決まればヨシュアなど恐るるに足らない。
そして、期待を確実にすべく、月戒は1つの行動を取った。
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「茶々丸、そういえば修学旅行があったな」
「えぇ。行きたいのですか?」
「まさか」
エヴァは自宅にいた。
今日は三日月。
外に出ても大したことはできない。
雲も多いし、花粉もひどい。
外に出るメリットは、彼女には何も無かった。
そして、いつもの如く茶々丸と他愛の無い話をしていた。
トマトジュースを煮詰めて濃くしておいてくれだの、花粉症の薬を買って来いだの。
大抵が命令に変わってしまうので、息が詰まるようなときもあった。
そして、例によって例の如く、茶々丸と話をしていた。
今日は修学旅行のことだ。
ネギから聞いた『サウザンドマスター』が生きているという情報。
そして、京都に手がかりがあるのではないかということ。
あからさまな話だったせいか、茶々丸に『修学旅行に行きたいのか?』と聞かれてしまった。
「マスター。お客様のようです」
「客? この時間だから……タカミチか?」
「いえ、副担任のギルバート・ホーエンツォレルンです」
「はぁ!? ……まぁいいや。通せ」
「了解しました」
茶々丸が扉を開けると、そこにはギルバートが立っていた。
だが、格好がおかしい。
カンフーの時に着るような、いわゆる『功夫着』というヤツだ。
色が黒かったため、闇に溶け込んでいくようだった。
両腰に1本ずつ剣を携え、首元には水晶剣のネックレスが光っていた。
「よぉ、茶々丸。夜遅くにすまんな」
「いえ、マスターの活動時間内ですので」
機械的に言葉を返すと、茶々丸はギルバートを目で促した。
それに従い、ギルバートは部屋の奥に向かう。
「にしても、本当に吸血鬼の家か? あまりに少女チックでファンシーだぞ?」
「マスターは、固定概念に帰依していないだけだ、とおっしゃっていました」
「だけ、ねぇ……」
ギルバートは、部屋の中をジロジロと見回す。
ウサギの人形に、クマのコースター。
やわらかそうな羊の等身大(?)人形までもが陳列されている。
ここがエヴァの家と知らなければ、病弱な少女の部屋だと思うだろう。
ギルバートがそうこう考えているうちに、エヴァの部屋にたどり着いた。
「どうぞ」
茶々丸がドアノブに手をかける。
ゆっくりとドアノブをまわし、木製の扉を開いた。
なんの遠慮も無く、ギルバートは扉の奥へ足を踏み入れた。
「国級月戒。お前はどうやら不思議な格好が好きなようだな」
「あぁ。お陰で不思議の国の不思議な家にたどり着いちまったようだ」
お互いから全く目線を反らさず、2人は言葉を交わした。
一挙手一投足どころか、指の動きにさえ気を配っている。
魔法の詠唱がないか、唇の動きにまで注意している。
「茶々丸、席を外せ」
「かしこまりました」
月戒から全く目を離さずに、エヴァは茶々丸に命令した。
その目は、余裕に満ちていた。
月戒などいつでも殺せるかのような、自信に満ち溢れた目だ。
その目に臆することなく、月戒は部屋の奥に踏み入った。
適当な丸イスを持って、ベッドに座っているエヴァの前に立った。
丸イスを座る予定の場所に置き、扉を確認した。
当然だが、完全に閉まっている。
それを確認すると、ようやくイスに座った。
「さて、エヴァンジェリン。俺はお前に協力を求めるべくここに来た」
「ふん。この私が貴様のような生物に協力すると思っているのか?」
「交換条件だよ」
月戒は口元だけで笑うと、突然上着を脱ぎ始めた。
剣を地面に置き、功夫着の上を脱ぎ捨てる。
そして、エヴァの隣に座り、額がぶつかりそうなほどに顔を近づけた。
「俺の血を好きなだけ吸わせてやる」
「アッハッ八ッハッハ! バカか貴様は!」
エヴァは笑った。
この男の脳みそは、一体どういう構造をしているんだ。
そう思いながら、嘲笑した。
だが、当の本人は真剣に語る。
その内容を聞き、エヴァの笑いは凍りついた。
「今の俺は、お前と同じ真祖だ。理由はめんどうだから一切省く。
理由はどうあれ、俺の血液には大量の魔力が込められている。
不限人の能力も多少生きているから、血も作りたい放題だぜ?」
「何が言いたい……」
エヴァは分かっていた。
吸血鬼は、他者の血を吸うことで魔力を引き上げられる。
他者とは、吸血鬼も例外ではない。
そして、魔力を上げることは、己の呪いを解くことに直結した。
しかし、エヴァはそれでもまだ分かっていなかった。
国級月戒が未だ誰にも言っていない秘密に、エヴァはまだ気付いていなかった。
「くれてやるって言ってんだよ。サウザンドマスターの縁者の血を」
エヴァは、月戒が何を言っているのか理解できなかった。
サウザンドマスターと血がつながっているのは、ここらではネギだけだ。
月戒の言葉から察するに、ネギの血を取ってくるということなのだろうか?
しかし、月戒は完全にネギの仲間の1人となっている。
そのようなことは、断じてありえない。
だとすれば、行き着く答えはたった一つである。
「……貴様、サウザンドマスターの息子か?」
「いいや」
月戒は続けた。
エヴァの思考が混乱し続けるのを無視して。
「俺は、サウザンドマスターの遺伝子を使って作られた不限人だ。
『壁目』の不限人の母の卵細胞を使い、それとかけ合わせられ作られた生物だ。
ご丁寧に、吸血鬼の遺伝子と発火能力者用の脳手術のおまけつきだ。
そのせいで、昼間は不限人だが、夜間になると真祖になっちまうんだよ。
まぁ、とにかく。
この俺が、サウザンドマスターの遺伝子を持っていることに変わりは無い。
気付いてると思うが、魔力の強さだけなら、今の俺はネギよりちょい下なくらいだぜ?」
エヴァの喉が鳴った。
生唾を飲み込む音が、静寂を破る。
その刹那、エヴァは月戒の首に噛み付いていた。
吸血鬼独特の八重歯から、月戒の血ををすする。
飲めば飲むほど、自分の体が満たせれていく感覚をエヴァは味わった。
そして、彼女にかけられた呪いは完全に解かれた。
サウザンドマスターの血を持つものによって。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「……テ、テメェ。必要以上に吸いやがったな!」
「好きなだけといったのは貴様だろうが」
「だからって、常人の致死量の10倍以上も吸うヤツがいるか」
月戒はゲッソリとやつれていた。
理由は先程の2人の会話から分かる通り、エヴァの吸血だ。
……月戒の予想の範疇を超えた。
月戒は一応、迅速の力を使って大量に血液を作った。
だが、それを追い越さんばかりのスピードでエヴァに吸血されたのだ。
最後は殆ど持久戦状態で、エヴァが満腹になるか月戒が倒れるかの勝負に変わっていた。
結局、エヴァは満足するだけの血を吸い、月戒は何とか動けるだけの血を残せた。
いわば、両者が勝利したというような奇妙な状況と化していた。
しばらくして腹のこなれたエヴァは、満足げに月戒に言い放った。
「貴様には感謝するぞ。お陰で、魔力も全盛期とほぼ同等にまで回復した」
「そりゃあ良かった。これであの男を殺せる」
「やはり貴様はバカだな。この私が貴様に協力するはず無かろう」
月戒はゲッソリした顔で笑った。
苦し紛れの笑いに見えるが、その割には自信に満ちていた。
「お前は、俺の血を吸ったんだよなぁ?」
「それ以外、何を吸ったというんだ」
「俺はよ、俺の体自体を炎や雷に変換できる。
……とは言っても、炎や雷は思考できないから、全身にやるのはできないけどな」
「……だから?」
「俺の血を吸ったお前を、完全に消し炭にできるんだよ」
エヴァはなんとも思わなかった。
消し炭にされたところで、どってこと無い。
不死身が売りの吸血鬼が、消し炭にされたくらいで死ぬはずが無いのだ。
月戒の脅しは、全くの無駄であった。
「それがどうした? 消し炭程度では私は死なんぞ?」
「知ってる。だが、再生は面倒だろうが。俺もやったことあるから分かるけどよ
それによ、お前は俺に恩がある。理由はどうあれ、これは1つ貸しだ。
お前が十年以上も悩んでいた呪いを断ち切ってやった上に、借りを返す方法もくれてやるんだからよ。
ハッキリ言って正味な所、割りに合わねぇと思うかも知れねぇがよ……。
たった1回手ぇ貸すだけで、今の分全部チャラにしてやるって言ってるんだぜ?」
「……私も話が分からん訳ではない。
一応、その手を貸す事柄についての内容を聞いておこうではないか。
もちろん、私を扱うのだから、それ相応の報酬は覚悟しておいてもらうがな」
月戒は、ようやくまともな呼吸ができるようになった。
いつもより多めに深呼吸すると、ベッドから立ち上がった。
そして、ベッドの上で胡坐をかくエヴァに突きつけた。
『破壊』の称号を持つ男・国級ヨシュアのデータを。
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国級月戒…『迅速』
『付加能力…雷炎』
『付加能力…セルフ・コピー』
戦闘レベル…100
格闘レベル…100
安定レベル…100
信頼レベル…100(これを上限とする)
(ただし『迅速』を排除した場合のみ)
(これを基本値とする)
国級コヘレト…『英知』
『付加能力…ユナイト・オーラ』
『付加能力…オーラ・ストリングス』
『付加能力…ヴァニッシュ・シャドウ』
『付加能力…マグナム・ヒート』
『付加能力…アクセル・バースト』
『付加能力…デコイ・ドールズ』
『付加能力…パーフェクト・ショット』
戦闘レベル…987
格闘レベル…775
安定レベル…45
信頼レベル…91
(ただし『英知』を考慮した場合、戦闘・格闘レベルは測定不能)
木々原黒蓮…『付加能力・オートグレイヴ』
戦闘レベル…89
格闘レベル…155
安定レベル…70
信頼レベル…100
三年坂白桃…『付加能力・SW(シックス・ウェポンズ)』
戦闘レベル…174
格闘レベル…102
安定レベル…88
信頼レベル…100
狛犬帝…『獣化』(←期待はしない方がよい)
『付加能力・神速剣』
戦闘レベル…33
格闘レベル…83(ただし、剣術は99)
安定レベル…76
信頼レベル…67
芥子丘玖珠八…『付加能力・キマイラ』
戦闘レベル…20
格闘レベル…94
安定レベル…89
信頼レベル…32
ネギ・スプリングフィールド…『西洋魔術』
戦闘レベル…47〜
格闘レベル…12〜23
安定レベル…47
信頼レベル…89
長瀬楓…『甲賀流忍術』
戦闘レベル…131
格闘レベル…83
安定レベル…99
信頼レベル…7
エヴァ…『西洋魔術』
戦闘レベル…681
格闘レベル…不明
安定レベル…88
信頼レベル…?
茶々丸…『最新兵器』
戦闘レベル…97
格闘レベル…99
安定レベル…100
信頼レベル…エヴァ次第
鳴里圭吾…『付加能力・コールドキングダム』
戦闘レベル…342
格闘レベル…433
安定レベル…71
信頼レベル…55
鳴里風翼…『付加能力・フリーウィング』
戦闘レベル…198
格闘レベル…1433
安定レベル…83
信頼レベル…82
(多分来ない)
猪谷勝彦…『付加能力・五行剣』
戦闘レベル…233
格闘レベル…488
安定レベル…96
信頼レベル…61
笹本正信…『付加能力・マインドミュージック』
戦闘レベル…81
格闘レベル…42
安定レベル…10
信頼レベル…79
_________________________________________________
エヴァは、受け取った紙を見て首をかしげた。
見慣れない名前から見覚えのある名前まで、データと共に記されている。
遊び半分にしては、あまりにもでき過ぎた資料だ。
そう思い、エヴァは紙をめくった。
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国級ヨシュア…『破壊』
(能力名…『アンチ・ブレイカー』及び『セル・ブレイカー』)
レベル表示不可能。
接触した物体を任意に破壊可能。
例えそれが霊的・魔力敵概念であっても、接触さえすれば無条件で破壊可能。
本人は破壊の能力の対象にならない。
あらゆる攻撃に対する耐性を持ち合わせている。
容赦の無い攻撃をしてくる。
駆け引きは通用しないと考えてよい。
今回の作戦における、最優先目標の1つ。
佐波 岩路…『付加能力…アシッド・リーダー』
詳細不明。
ただ、『迅速』を使うとの報告あり。
他・厳密なる敵戦力不明
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「なんだ? これは」
エヴァは再び首をかしげた。
国級ヨシュアと佐波岩路以外に、敵のデータが無い。
しかも、ヨシュアの能力を見ると恐ろしいことが書いてある。
平たく言えば『全ての物体を破壊可能』と言っているのだ。
触れられただけでも死に至る、と言うことだ。
その上、当の本人の防御は絶対ときている。
確かに、自分の力が必要だろうとエヴァは感じた。
月戒もそうなのだろうが、自分は不死身だ。
ちょっとやそっと破壊されたくらいでは、ビクともしない自信があった。
「なるほど、コイツは厄介だな」
エヴァの一言に、月戒は笑った。
苦笑いとも、自嘲的な笑みとも取れる笑い。
その笑いを見て、エヴァは不思議に思った。
月戒が紙を渡してからのエヴァの言動に、何もおかしい部分は無いのだ。
だが、月戒は笑いながら答えた。
「あぁ、厄介だな」
「どうした?」
「厄介なんだよ。この世に勝てる人間が、今んとこ、たった2人しかいねぇくらいな」
月戒は、高笑いした。
だが、目は決して笑っていない。
怒りに身を焦がすことが滅多にない月戒の目に、炎のような怒りがこもっていた。
殺意とも違う、敵意とも取れないような感情。
憎しみという感情が、月戒の目に詰まっていた。
「コイツを殺さなきゃ、世界が滅ぶ。
コイツは俺達から、なにもかも全部を奪おうとしてやがるんだよ」