第13話『コヘレトの華麗なる一日 / 月戒の波乱たる一日』

 

 

「おい! コヘレト! ……コヘレト!」

黒髪の女性が声を荒げる。
つややかな黒髪は、きっとロングヘアだったのだろうが、今は短く切りそろえられている。
袴に日本刀といった変わったスタイルで、とある女子寮を闊歩していた。
慌てた様子で管理人室の隣の部屋の障子を、力強く開く。

と、そこには布団があった。
中心の辺りが著しく膨張しているので、人がいることは明白だ。
素子はズカズカと部屋に入り込み、勢いよく布団をはがした。
そこには、1人の男がうずくまって寝ていた。

いかにも眠たそうな半開きの目で、男は素子に進言する。

 

 

「なんですか、素子。挙式は6月のはずでしょう? それとも、まだ実家のほうがうるさいんですか?」

「そうじゃない! この間、弟を麻帆良に送り込んだらしいな!」

「えぇ。近衛家の護衛やら友人の護衛やらのためにちょいと」

「ちょいと、じゃない! 相当大変なことになった!」

「……詳しく説明しなさい」

コヘレト、と呼ばれた男は、布団から出てきて隣の管理人室に移る。
管理人は買い物に行っているので、管理人室にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

さて、コヘレトはちょっと変わった容姿をしていた。

髪の毛の色は鮮やかな深紅をしており、右目の色も同じく深紅だ。
しかし、左目の色は普通の日本人と同じ黒である。
日本人なのだろうが、西洋人的な顔つきと体つきをしている。
ちょいとばかり足が長いので、余計に日本人のように見えないのだろう。
知的な顔に、申し訳程度の大きさの細眼鏡が不恰好に乗っていた。
青一色のパジャマ姿ではあるが、本人の気品や端正な顔立ちは曇らない。
長い足を器用に正座に組み、机を挟んで素子と向き合った。

 

「関西呪術協会については知っているな?」

「えぇ。この間、なんか雑魚の悪魔どもの始末の依頼がありましたね」

「どうやら、10数人ほどだが、不穏な動きを見せているらしい」

「……別に大丈夫でしょう。最悪、華楠をよこしてやれば」

「いや……。近衛家の一人娘が狙われているらしいんだ」

「月戒に任せれば問題ないでしょう。学園内には被験体を何人か配置してますし」

「果たして、そんな連中で相手になるのかどうか……」

「…………どういうことですか?」

 

素子は目の前にある、まだ熱いお茶を一飲みにする。
少しむせ返ったが、すぐに本題に戻った。

 

 

 

 

 

 

「ヨシュアが絡んでいるそうだ」

その一言を聞いた途端、コヘレトは『お手上げ』のポーズをとった。
その後、軽くあくびをして、両目を擦る。
素子が不思議そうな顔をしたが、笑顔で返す。
その、少し不自然な笑顔のまま、コヘレトは言った。

 

「なるほど。少しは考えましたね。関西呪術協会と組んで、関東魔法協会を潰す。
 でもって、優秀なもの以外は全て自分の手で殺し、精鋭部隊を作る。
 そして、私や華楠。月戒にシズクにキヨネにサヨ……不限人を皆殺しにする気ですか」

「……なんでそういう推測をするんだ? ただ単に、意味も無く協力していると言う可能性もあるだろう?
 お前にしては、可能性の排他と言うことはかなり珍しいが…………無論、根拠があるのだろうな?」

 

 

眼鏡を中指で持ち上げると、コヘレトは淡々と答える。

 

「ヨシュアは、まぁ、私と華楠を除けばですが、最強ですからね。
 破壊に関しては華楠と肩を並べていますが、総合的な戦闘能力は私のほうが上です。

 と、くればですよ?
 一対一で私や華楠に挑むようなマネはしないでしょう。
 ある程度戦力となりそうな者を捨て駒にして、消耗したところで自分が打って出る。
 私のような相手との実力差を埋めるんだったら、そういう手が1番有効でしょうね。

 さらに言えば、陰陽術やら呪術ってのは、基本的には直接戦闘に向いてないんですよ。
 ……まぁ、素子も勿論知ってるとは思いますけどね。
 敢えて例えるならば、西洋魔術は刀や銃やナイフであって、
 陰陽術とか呪術とかは……まぁ、魔法の手錠とか縄とか思っていただければいいかと。
 ……まぁ、例外も無いことも無いって感じなんですけどね。

 ヨシュアの一撃があれば、華楠以外の大抵の物体は粉々ですからね。
 縄で絡めて大砲でぶっ飛ばす、って感じですね」

 

 

コヘレトは、コキコキと首を鳴らして面倒くさそうに言い放つ。
口元に手を当てて、再び、大きな大きなあくびをする。

 

「あぁ。なんでそういう推測かって理由でしたね。
 これでは『ヨシュアがどうして加担しているか?』って理由になってしまいますか。
 じゃ、ついでにお話しておきますよ。
 ヨシュアはですね、唯一正式軍事投入された不限人なんですよ。
 で、軍事登用されなかった私たちを劣等とみなし、消したがってるんですね。
 それに、ヨシュアだけが何の欠点も背負っていない歴代唯一の不限人ですから、
 そういう風にひねくれた考え方をしてしまうのも、まぁ、分からないことも無いですけど」

 

イキナリ多くの事柄を話すコヘレトに、素子はたじろぐ。
いつものことなのだが、どうにも慣れないのだ。
自分の中で論旨を展開し、不平不満を言われる前に察知して、それにも対応してしまう。
最終的には、必ずパーフェクトな答えを出す。
……のだが、口数が妙に多いのだ。
頭で考えてから声に出せばいいのだが、『論旨展開の勉強と思いなさい』と頑なにやめようとしない。

今度は、反応に困っている素子のそれを感じとったのであろう。
少し微笑んで見せてから、ゆっくりと口を開く。
その声は、先ほどまでの堅苦しい声とは違った。
柔らかな絹で包み込むような声だ。

 

 

「ま、大丈夫でしょう。月戒以外にも、優秀な魔法使いがいますからねぇ」

「はぁ……貴様の楽観主義にはかなわんな…………」

「楽観主義とは失礼な。貴方が尼になると言ったとき、死に物狂いで止めに行ったでしょうが」

「う…………」

「とにかく、学園内なら絶対安全です」

 

 

 

 

そういうと、コヘレトはぐ〜っと伸びをした。

 

「それよりも、喫茶店でも行きましょうよ。今日は東大も休みますから、デートでもしません?」

「そうだな。店先で倒れない自信があるなら構わんぞ?」

素子がさらりと返す。
この前までは恋愛経験の少なさから、こういったことには赤面しっぱなしだった。
だが、コヘレトのあからさまな言葉の数々が素子を逞しくしていた。
この程度の言葉には、素子はもう動揺しない。

 

 

「ま、付加能力で補助してますけど…………いざとなったらお願いしますよ?」

コヘレトは、パジャマの上から自分の胸をさする。
うっすらと筋肉の付いたその部分は、何故か弱々しく見える。
完成された人間の、ただ1つの欠陥がそこに秘められているかのようだ。
表立っては見えないのに、第六感が、そこが欠けていると宣告する。

 

 

「まったく……華楠の弱点を私が背負うとは」

呆れた顔をした英知の不限人は、ゆっくりと立ち上がる。
長い足はさらに長く見え、白い肌は透き通るように輝く。
真紅の髪は限りなく艶やかになり、漆黒の左眼は闇よりも深くなる。
ピアニストのような指で髪をかきあげると、素子の方に向き直った。

 

「じゃ、着替えるんで。見たかったらいいですけど、見たくないなら出てくださいね?」

 

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俺は何か悪いことをしたのだろうか?
いや、そんなことはない。
真面目に授業聞いてたし、テストもオール満点だった。
HRにもやんごとなく参加するし、掃除だって一度もサボっていない。
俺の髪の毛と目が緑色なのは元々だから仕方が無いし、サバゲー部だってちゃんと5人以上集まった。
すれ違った教員には笑顔で挨拶しているくらいだ。
だが、これはどうしたことだろうか?

 

 

 

 

 

 

「え〜……。また先生が胃痙攣で倒れてしまったので、今日の授業は補習です」

 

18人目だ。
俺が転校してから18人の教職員が胃痙攣で学園を去った。
うち4人は精神病院でカウンセリング状態らしい。
まぁ、多分俺のせいだろう。
正確には国級の名前が大きな要因なのだろうが、直接的な原因は俺にある。
悪いことをしちゃいないが、いるだけで胃にくるらしい。
俺は頭にくるが。

 

 

 

「と、いうはずでしたが、教育委員会から特別に教員が派遣されてきました!」

犠牲者を無駄に増やすつもりなのだろうか?

 

「では、鳴里圭吾(なるさと けいご)先生! どうぞ」

ん…………?
なるさとけいご?

 

 

青い髪の毛。
青い目玉。
ショートカットの超長身。
足が短め。
笑顔が無駄に爽やか。
鼻が高い。
顎が細い。
肌白い。

なるさとけいご?

 

 

「教育委員会から派遣されてきました、鳴里です! 残りわずかな期間ですが、みなさんと一緒に」

「貴様は滅べぇぇぇぇええ! コォォォオのロリコン兵士がぁぁああ!!!」

 

鳴里圭吾!
刺客じゃねーか!
兄貴の野郎、なかなか洒落たマネしてくれるねぇ!

 

「喰らえい! 秘技、『閃龍業炎脚』!」

喰らうがいい!
オレの全体重を乗せて、尚且つ炎を凝縮し添付した胴回し蹴り!
回転速度も超怒級だぜ!

 

「ごもるれっ!」

「…………ククク……やった! ついにやったぞ! 鳴里圭吾!」

 

はっはっはっはっはっはっは!
噂ほどではなかったな!
顔面に直撃して一撃KOだぜ!
なぁにが『コールド・キングダム』か!
なぁにが『極寒の狂戦士』か!
氷属性とかいったら物凄く相性がいいじゃねーか!
アドルフ・スキャンダルの生き残りだからって調子に乗ってるからだぜ!
覚えたての必殺技で一撃KO!
ソウ・クゥゥゥゥゥウル!

 

 

「……国級君。で、できれば、後で職員室に…………」

「……あ」

 

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「おい……コヘレト!」

「どうかしましたか? あまり怒ってばかりいると、可愛い顔が台無しですよ?」

喫茶店の中である。
至って普通の格好をした素子と、至って異常な格好をしたコヘレトがいる。

素子は、ロングスカートに長袖のカーディガンを纏っている。
一応、この時期ではお目にかかれないことは無い服装だ。

コヘレトはというと、あまりにも怪しげな格好だ。
黒地のジーパンに、群青色のロングコートを着ている。
背中には、十字を切るようにして大小の西洋剣が、飾りのように引っ付いていた。

 

「その格好はやめろといつも言っているだろう!」

「仕方ないじゃないですか。他はタキシードくらいしか残ってないんですから」

「通販でも何でも使えば良いだろうが!」

「あぁ。折角だから服を選ぶのを手伝ってもらえませんか?」

「あぁぁぁああ! 貴様は会話の論点がずれているのに気づかんのか!」

 

コヘレトは、素子の話を無視するかのように、目の前のコーヒーに砂糖を追加する。
ガムシロップとコーヒークリームも4つずつ追加し、コーヒーは真っ白になりつつあった。
もう少し砂糖を追加しようと手を伸ばしたコヘレトに、素子はあきれた声で言った。

 

「まぁ、服くらい見立ててやってもいいが…………」

 

コヘレトの手を、懐から出した扇子で素早く叩く。
コヘレトの手から砂糖の乗ったスプーンが落ちた。
あきれた顔をする素子に、きょとんとするコヘレト。
自ずと二人は目が合ったが、素子がすぐに目を伏せる。
顔つきと同じように、あきれた声で言い放つ。

 

「少しは健康に気を使え」

「私は頭使うのが仕事らしいので、糖分を大量に摂取する義務があると言えます」

「はぁ……。ほら。もう行くぞ!」

「あぁ、ハイハイ。相変わらず、落ち着きが無いですねぇ」

「誰のせいだと思っとるんだ!」

「そりゃあもう、私、国級コヘレトのせいでございましょうよ」

コヘレトは席を立ちながら、にやにやと笑って答える。
素子は、見るからにイライラした様子で席を立つ。
コヘレトは、素子よりも少しだけ早くレジに向かい、懐から黒いカードを出した。

 

「これでお勘定お願いしますね」

「は…………はぁ……」

それは、紛れも無くブラックカードだった。

 

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「だぁかぁらぁ! 足が滑ってバランスをとろうとしたところ、先生にぶつかったんですよ!」

月戒は職員室にいた。
面倒くさいことが嫌いなのだが、これを機に退学などになってはたまらない。
だったら、適当になんかでっち上げて逃げてやろうと、そう考えて職員室に来ていた。

 

「五月蝿い! 貴様は退学処分だ!」

薄らハゲの男子校エリアの生活指導員が叫ぶ。
隣には、弁髪の生活指導員と、鬼の新田がいた。

 

 

 

 

 

 

 

現在、この3人による悪魔の説教が4時間も続いていた。

 

最初の一時間は、道徳についてやんわりと語られた。
そこで納得して置けばよかったのだが、『先生方も道徳の勉強をなさっては?』などと返したため、
ぶちきれた薄らハゲが、弁髪を呼んで更に説教を開始した。

 

次の一時間は、弁髪による任侠話だった。
聞き流せばよかったが、『俺だったその場で一人残らず殺すでしょうね』などと胸を張っていったため、
ぶちきれた弁髪と薄らハゲが頭ごなしの説教を始めようとした。

 

さらに次の一時間は、二人の暑苦しい男による生きることのすばらしさについての話だった。
素直に聞けばよかったのだが、『俺ってガンとか白血病とか無関係なんで』と言い切ったため、
機嫌を悪くした弁髪が新田を呼びに行った。

 

このさらに次の一時間は、新田による、将来についての話だった。
黙っておけばよかったのに、『俺って大富豪の息子ですから関係ないんじゃないですか?』とあざ笑ったため、
キレかかった3人は、不平不満をぶちまけた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。
元々、たいした忍耐力を持っていない月戒だが、いい加減面倒くさくなっていた。

右のポケットから携帯電話を取り出し、ボタンを押して、耳を傾ける。
新田が注意しようとした瞬間、会話が始まった。

 

「もしもし、ヒサ兄? 俺俺、月戒。あのさぁ、麻帆良の教師でちょっとしつこいのがいるんだよ。
 今月の給料半分でいいからさぁ、そいつらの戸籍消しといていい?
 あ〜……あぁ。別に本人の抹消くらい今すぐできるけどさぁ。
 うん? 目撃者? 全部消し解けば問題ないっしょ?
 あ! 別にいい? さんきゅ〜ヒサ兄! 恩にきるぜ! それじゃ!」

 

今まで見たことも無いような爽やかな笑顔のまま、月戒は新田たちに向きなおった。

「と、言うわけで。今から消滅するか、それとも俺を解放するか。好きな方をお選びくださいな」

 

 

ニヤニヤと笑いながら拳銃を取り出した月戒。
一瞬顔が引きつったが、『どうせオモチャだ!』と思い直した教員一同。

この後、月戒による『現代風・ウィリアムのリンゴごっこ』が繰り広げられるのだが、
近くを通りかかった帝の必死の説得によって、幕を閉じる羽目になるのだった……。

 

 

 

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「こんな服はどうでしょうか? ……素子。何で目をそらすんですか?」

「……なんでレディースコーナーにいるんだ?」

「貴方の服を見立ててあげようかと。おっと! コッチのコートなんかも可愛くて良いんじゃないんですか?」

「貴様の服を買いに着たんだろうが!」

素子とコヘレトは服屋にいた。

これがなかなか有名な店で、『佐野洋裁店』と聞けば知らないものはいないと言うくらいの店である。
世界各国の有名メーカーから直接卸した安価なブランド服や、
お値打ち価格の割に人気の高いカジュアル服などをそろえてある。
いわば、『服のドンキ・○ーテ』とかいった感じの店なのだ。
ちなみに、大企業であるにもかかわらず、国級に属していない企業の一つでもある。

 

「いいじゃないですか。妻の服を見立てるくらいのこと」

「ま……まぁ、悪いとは言わんが、当初の目的とずれてるんじゃないかと私は言いたいわけで……」

微笑を浮かべるコヘレトに、素子は少しドキッとする。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かってしまうのが、さらに素子を恥ずかしくさせた。
普段は滅多に笑わないコヘレトが笑うのだ。
しかも、元々かなりの男前なので相当格好いい。
周りにいる女性までもが赤面するほどに、コヘレトは格好いいのだ。

と、コヘレトの顔が普通に戻る。
懐から携帯電話を取り出すと、とっとと電話に出た。

 

「月戒ですね? どうかしたんですか?
 ふむ。なるほど。それだったら、学園長にキツく言っておきますよ。
 で、ネギとは仲良くやっていますか? む……………………」

チョット不機嫌そうな顔をしてコヘレトは通話を断った。

 

「まったく……。途中で電話を切るとは何事でしょうかねぇ?」

「どうした? 弟に何かあったのか?」

「いえ、間違い電話だったみたいです。……それより、コッチのスカートはどうです?」

 

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「ったく。堅物どもをいなすのも面倒臭いモンだねぇ」

 

月戒は教室にいた。
教室といっても、そこは月戒のホームルームではない。
皆様ご存知の2−Aだ。
夕日も結構沈み始めていて、オレンジ色の光が教室に差し込んでいた。

そこにいるのは、もちろん月戒だけではない。

 

ロングヘアでお馴染みのクスヤに、日本刀がトレードマークの帝。
それに加えて、楓・パル・風香に史伽・那波に村上にいいんちょがいた。
そして、サバゲー部顧問のネギもだ。

 

そう。
ここは麻帆良学園サバゲー部。
人数が十人を超えたので、同好会の予定だったものが部に発展したのだ。

ちなみに、入部理由は原則として聞かないことになっている。
これは、月戒が考案した部員を増やす手段の一つである。

 

 

それはともかく、サバゲー部・初のミーティングが始まろうとしていた。

 

 

「では、これより各人にポジションの希望を聞こうと思うんだが……ポジション分かるか?」

「あ、あたしは分かるよ? これでも、3回くらいやったことあるし」

「他は?」

と、月戒が聞くと、全員首を横に振る。
予想通りといわんばかりに、月戒は用意していたプリントを配った。

そもそも、サバイバルゲームと言うのは普及度が低い。
年齢によって持てる銃に限りがあるし、体力の消費も激しい。
その上、近年増加傾向にあるトイガンを使った犯罪の増加からも、サバゲー事態毛嫌いされているのだ。
『サバイバルゲーマーは戦争で人を殺したいんだ』という偏見もあるくらいである。
そんな社会から若干避けられ気味の競技を、普通の女子中学生が知っていると思えなかった。
ちなみに、ルールを知っているのは、この中では月戒とクスヤと帝とパルだけということになる。

 

プリントを配り終えると、月戒は黒板に簡単なフィールドを描いた。
屋内のフィールドのようで、ややっこしくないよう一階だけになっていた。
特にこれといって障害物も無く、道も特別複雑でなかった。
敵・味方のスタート位置に『 FLAG 』と書いてある。

 

 

「じゃ、これからポジションの説明をする。

 簡単にポジションを分けると、『アタッカー』と『スナイパー』だ。
 名前から分かるとおり、『アタッカー』は相手の陣地に攻め入ることの多い遊撃兵みたいなもんだ。
 対して『スナイパー』は主に守備に回ることが多く、移動の機会も比較的少ない。

 でもって、さらに細かいポジションを説明する。

 情報伝達などの多くの仕事を『アタッカー』の仕事とともにこなす、『ミドル・アタッカー』
 完全に陣地のフラッグを守備する『ディフェンダー』。コイツはフラッグ戦にしかないポジションだな。
 普通のスナイパーよりも攻撃的な『アクティブ・スナイパー』ってのも最近増えてきたな。
 ちなみに、ゲーム中の生存率はスナイパー型のほうが圧倒的に高い。
 トップが『ディフェンダー』で、ついで『アクティブ・スナイパー』ってのが俺の出した統計。

 ……ま、運動神経に自身のあるヤツは『アタッカー』に回るべきだな。
 我慢するのが苦手なヤツも『アタッカー』になったほうが良いだろう。
 逆に、運動神経に自信が無かったり動くのが嫌いだったりするヤツは『スナイパー』をお勧めする。
 まぁ、参考に言っておくが、俺は勿論『アタッカー』だ。
 状況に応じてスナイパーとかもやるんだけどな。

 じゃ、わかったか? 各自、配った紙の裏に名前を書いて提出してくれ。とりあえずモデルガン渡すから」

 

何故か全員無言で紙に書き始める。
予想はしていたが、妙な雰囲気が空間に漂っていた。
なんというか、言い表し難い微妙な空気である。
気まずい感じはしないことも無い気もしないのではないか、という空気である。

 

「ハイ、できたよ〜!」

「私も書けましたよ、月戒さん!」

以外にも、風香と史伽が一番に書き終えた。
「どれ、一体どこにしたかな?」などといいながら、月戒は紙の裏を見る。
風香は予想通りアタッカーだった。
さらに予想通り、史伽はスナイパー(特にディフェンダーを指定)を希望していた。

 

「よし! それじゃ、モデルガン渡しとくぞ」

そういうと、教室の角に山積みになっている段ボール箱から拳銃とサブマシンガンとライフルを取り出した。
それを器用に運んで、風香と史伽に渡す。
サブマシンガンは風香で、ライフルは史伽だ。

 

 

「言っても分からんとは思うが、一応いくつか説明しておくぞ。
 
 今二人に渡したのは『電動ガン』っつって、バッテリーで動く。
 意外と重いが、装弾数……撃てる弾の数も多くて、サバゲーでは主にこれが使われる。
 

 風香に渡したのが『ヘッケラー&コック MP5 A5』っつう、サブマシンガンだ。
 弾数もそこそこあるし、ストックも動かせるから初心者でも扱いやすい。安心しろ。
 ちなみに、結構軽く作ってあるから風香みたにちょいとばかり小柄なヤツでも使いやすい。

 
 次に、史伽に渡したライフルだが、こいつは『ファマス スーパーバージョン』って名前だ。
 ま、形が形だから、トランペットて呼ばれたりもしてるがな。
 後ろにマガジンを差し込む『ブルバック』って変わったやつだが、そこは心配ない。
 逆に、小柄なヤツが運ぶときにはコッチのほうがいいと思うぞ?
 前に重心があると、前にばっかり意識が言って逆に危険になることが多いからな。
 ま、俺の一個人の見解ではあるんだが…………実際に使った奴の意見だと思って聞いといてくれ。

 
 で、二人に渡した拳銃は『グロック26』って小型拳銃。
 意外と命中精度いいし、片手撃ちができるから…………ま、懐刀ってところだな」

 

「へぇ〜。意外と格好いいもんだね♪」

「こ……この大きい銃、重いですよ〜!」

「む。……まぁ、すぐ慣れるさ。ディフェンダーだったら、銃の重さはそんなに気にしなくていいし」

 

風香がクルツを構えて月戒に照準を合わせようとする。
冗談半分でやっているとわかっているので、月戒もあえて照準に合わせられてやっていた。
いつもだったら、軽く反復横跳び(測定不能だった)でもするところだが、
モデルガン如きにビビるのもチョット格好悪いので、平常心を保った顔で風香と向き合った。

 

「おいおい! おもちゃの銃だからっていっても、人は怪我するんだぜ?」

「バーン!」

風香と月戒は同時に言葉を発した。
月戒の警告がよく聞こえず、風香は引き金を引いた。
次の瞬間、クルツから無数の弾丸が月戒に向けて放たれる。
ビックリした風香は、トリガーを引いたまま銃口を月戒に向けっぱなしにしていた。
気を抜きすぎていた月戒は、マガジン一本分の銃弾に打ち抜かれた。

 

「うぐ! ……ゲホッゲホッ! と、りあえず、そこに……置いと、け」

「あれぇ〜〜〜〜〜〜〜?」

「間違えて……実銃、持って、きてた……みたいだ」

「って、大丈夫なの!? 全弾命中してるよ!」

風香のいうとおり、月戒には全部の弾が当たっていた。
ほとんどが、足か腹部に集中しており、映画で見たことありそうな光景になっていた。
血反吐を吐きながら『大丈夫大丈夫。これくらいならすぐ治るから』と月戒は言うが、
そのまま地面に突っ伏して動かなくなった。
で、結局、那波が呼んだ救急車で病院に運ばれる。
……サバゲー部最初の部活動は、失敗に終わった。

 

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「えぇ。分かりました。では、鳴里には引き続き教員の仕事を続けさせなさい」

コヘレトは、電話の受話器を置いた。
……素子の部屋の。

機嫌の悪そうな目で、素子がコヘレトを見つめる。
キョトンとした目で、コヘレトが素子を見る。

 

「……用は済んだのか?」

「えぇ。当初の目的は達成できませんでしたけど」

「しつこい!」

「あっはっはっはっは! 怒った顔もかわいいですねぇ♪」

 

なんでコヘレトが素子の部屋にいるか?
意外と簡単な話である。

コヘレトが夜這いをしにいったのだ。

が、素子が起きていたため失敗に終わり正直なことを話すが、
中途半端に寝かけていた素子は何を言っているかも分からず『別にかまわんが?』と言ってしまう。
しかし、『これはさっきまで寝てたのか』と認識したコヘレトは深追い(←?)せず、
ついでの用事を素子の部屋で済ませているのだった。

 

「と、それはそれとして。鳴里が負けたんですって。しかも一瞬で」

「なに! あの童女趣味の剣士がか!?」

「……まぁ、着眼点が何でそこにあるか知りませんが、確かな情報です」

「お前の弟も随分強くなってるな。このままではお前のほうが弱くなってしまわないか?」

「あぁ、大丈夫ですよ。私には奥の手がいっぱいありますから」

 

そう言ってにっこりと微笑む。
その笑みからは不気味さが感じ取れたが、素子にとってはいまさらどうってこと無かった。

 

過去に一対一で素子の姉の鶴子とかなりいい勝負をした。

…………もとい。
圧倒的な力を制御して戦った為、手加減しすぎて負けた。
コヘレトは、本気になった鶴子の考え得る行動パターンを全て把握していた。
が、『殺さないように』と思った瞬間に隙ができて真っ二つにされた。
でも、付加能力ですぐにくっつけて再生したりなんだりと、もうグダグダであったのだ。
とにかく、コヘレトは素子の知りうる中で最強の…………人間だった。

 

 

「そもそも、『迅速』が『英知』を出し抜くことは不可能なんですよ」

「…………ところで、今何時だと思っている?」

「思っているって……事実上は午前2時22分43秒ですけど?」

「……とっとと部屋に帰らんか〜〜〜!!!」

 

 

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「むぅ。まさか弾に当たるとは思わなんだなぁ」

「鈍りましたか? しばらく戦場から離れられていらっしゃいましたからね」

 

病室には、白桃が来ていた。
黒蓮も一応来てはいたのだが、あまりの五月蝿さに病院関係者から追い出された。
めげずに外から進入しようとしたが、白桃のトラップをかいくぐれず難なく落下。
別の病院でお世話になるために、現在国級のヘリが輸送を始めたところだ。
外では、草刈機の駆動音のようなものがバルバルと鳴り響いていた。

 

「離れていた? ま、確かにな。てか、俺って正々堂々戦うタイプじゃないだろ?」

「そうですね。月戒様の『迅速』の能力は敵地進入や破壊工作に優れていますからね」

「ま、戦闘が苦手とは言わん。俺の『迅速』は、むしろ接近戦で生かされるからな」

 

 

 

ここでの月戒の言う意味は、つまりはこういうことである。

 

・間合いの調整
・単純に攻撃のスピード
・攻撃の反応速度
・超高速回避

 

勘違いのないように言っておくが、月戒の『迅速』とは『速い能力』ではない。
本質的には『速さの能力』である。
移動速度を上げるのは勿論のこと、反射神経から体液の分泌。
果てには、鼓動の速度から肝臓や腎臓の処理の速さまで操れる。
もちろん、人間の自然治癒力も同じだ。
速度を上げることが多いため、便宜的に『迅速』と名づけられているのだ。

確かに月戒は、速いことを常に意識している。
今までの戦いにしても、本気の速さを捕らえられたことは一度も無い。
だが、本当の月戒の強さはそこではない。
どんなに速い物体でも、ある程度のものなら目がそのうち慣れる。
月戒は、それを防ぐために速さに緩急をつけているのだ。
速さをつかませないことが、月戒の最大の強みであるのだ。

……とはいっても、大抵は長々と戦わないので、隙を見て最高速度で一気に決めるのが主だ。

 

 

 

チョット間が空いた。
その間の後に、月戒が口を開いた。

 

「なぁ、白桃? 俺の名前って、漢字で書くとどんなもんか知ってるよな?」

「月に戒める……って書くんですよね? それがどうかしたんですか?」

「これな、カナン姉とヒサ兄が考えたんだぜ。俺が7つの時にだ。とてもツキミチって読めねぇだろ」

月戒は、窓の外の月を親指で指した。

 

「……そう。月の戒めを受けるもの、ってな意味で……な。なんでツキミチかは知らねぇけどよ」

 

そう言い放つと同時に、ゆっくりと上着を脱ぐ。
血の付いた包帯を無理矢理剥ぎ取り、上半身裸の状態になった。
生々しい弾痕が残っていたが、見る見るうちに消えていく。

驚く白桃に、またしても茶化したような声で言った。

 

「人間かハイデイライトウォーカーか? ……俺は月に決められてるってワケだ」

 

それはまさしく、月に戒められた生物の体であった。
人間としての資格を失った彼の体は、淡い月明かりに照らされていた。

その日は、妙に月が綺麗だった。
十六夜の月にしては、輝きすぎているほどに。

 

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「……獣は焼け死ねば、本質的に獣ではなくなる。
 同じくして、矢は折れてしまえば、矢ではなく『折れた矢』となる」

細身の剣を片手に少年は呟いた。
艶やかな黒髪が、淡い月の光に照らされる。
欠けている月の光など飲み込まれてしまいそうだ。
その瞳もきっと深い闇のような色なのだろうが、ちょうど逆光となっていて見えない。
唯一その光が照らし出したのは、その手に握られている細身の剣だけであった。
レイピアのように、突くことを前提として作られた刺突専用剣。
剣からは血が滴り落ちている。
少年は、血の滴る剣を、己の目の前で膝を付く男の首に突きつけた。

 

「吐け。国級月戒はどこにいる……?」

「悪いな……。月戒様の場所は教えられん」

「なら貴様は用済みだ。消え去れ」

 

 

なんら躊躇せず、少年は男の眉間を貫いた。
と、突き刺された男が消滅した。
先ほどまで男が存在していた位置から、白い煙が上がる。

少年は溜息をついた。
そして、柄のほうから血を舐めとる。
ゆっくりと剣先まで丁寧に血を舐めとると、その剣を鞘に収めた。

 

「……獣は焼け死ねば、本質的に獣ではなくなる。
 同じくして、矢は折れてしまえば、矢ではなく『折れた矢』となる。
 だとすれば、『人為的に何かしらの影響を与えられた人間』とは、人間とはいえない。
 それは人間としての本質を失い、人間であることを認められない。
 さらに、それが人間に害を及ぼすと分かっていれば、生かしておく必要など無い。
 だが、この世界の腑抜けどもはそうは考えられなかった。
 その生き物が自分たちに奇跡と栄光をもたらすなどと勘違いし、そして保護した。
 だから、俺がそれを葬り去る。『不限人』など、この世には必要ないのだ。
 …………奴らは……奴らは、必ずこの世界を滅ぼす!」

 

少年は欠けた月を見上げた。
雲ひとつ無く、その光をさえぎられることも無く、のうのうと浮いている月を。
その鮮烈に輝く十六夜の月を、月の名を持つ男に重ね合わせながら。

 

 

 

 


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