冗談じゃない

ティーンエイジャーが読む、文庫本を放り投げ、布団に寝転がる

人生、ろくなものでないのはわかっていた。

最初にそれを知ったのは、1945年のベルリンで知り

中東、東欧、南米で同じようなことを考えたことをおぼえている

「中尉、中尉ッ・・・・・・課長がお呼びです」

面白みのまったく無い、スーツを着込んだ男性が、ドアの外に慇懃な声を響かせる

だらしなくネクタイを首に巻き、あごの下をしごく・・・・・・

無精ひげを剃るか迷いながら、結局は止めた

「また、どうせ生えてくる」

つまり、それが彼の生き方だった


美女と野ウサギのダンス


「なんだか、懐かしいシュチィエーションだな」

スチームディスクに肘を置く女性が細巻きタバコを咥えている。正直、愛煙家といって差し障りの無い場羽亜にすら、酷いと思える煙のにおいに顔をしかめながら、一応、直立不動を保つ、ここにも一応、軍隊という機能は生きている。

しかし、そのシステムにどこかで捻じ曲がった精神まで支配されていない場羽亜は、まことに健全というべきか、誰にも聞こえないように屁をひった。

「楽にしぃ・・・まぁ、最初から緊張なんかしてへんやろうが」

ばれたかな、こちらが風下のはずだが・・・最近の乱れた食生活で猛烈な悪臭を放つ体内ガスとタバコの煙、そして、不健全極まりない政治的な陰謀の空気で魔窟と化した室内で、防諜のために窓が無いことに殺意を思いながら、スチーム机の向こうの女性、はっきり言って美人だ。ただし、後藤田正晴以降、日本の情報機関の頂点・・・・・・ではないが、裏側に巣食う妖女であるならば話は別だ。

「なんですか、中国か北朝鮮ですか?」

「残念、そっちは今、1課と2課が担当してる」

事実だった。公安調査庁の潤沢な予算で、彼らは胡錦嘉や金正日と日夜戦っている。

「イギリス連邦国」

「MI6ですか?」

「いや、まったく不明や、昨日、こんなものが警察庁警備局から贈られてきたんや」

見ると、入国管理局経由で、色々な部署をたらい回しにされているらしい。行き着く先がここだったらしい。

どう見ても、スパイには見えない。まぁ、一目見てスパイとわかる人間は、情報調査員にはなれないが、メガネをかけた少年の写真を拾う。

「で、この少年がどうかしましたか?」

「どうも、身元が怪しすぎる。そんで、よく調べてみたら・・・」

「・・・・・・麻帆良学園?」

「その通りやッ」

あの学園は、言わばVIPの吹き溜まりのような場所、もちろん、そんな場所にお役所仕事の人員を配置するわけには行かない。権限が重なりすぎて、あらぬ足の引っ張り合いが起こりかねない。

「で、俺の番かッ」

「そうや、外注のあんたやったら死んでも書類を書く必要が無い」

青山鶴子・・・そう、名乗る人物は虫を払うように手を振る。それが命令だったらしい。その仕草に、場羽亜は鼻の頭を掻きながら「命令は文章でお願いします」とだけ言った。

彼も、誰も信用していないらしい。

 物事には、順序とタイミングというものがある。

 ちょうど今、桜の季節、巨大マンモス校であり、今後の少子化の波にどう立ち向かうのか、外国籍の人間が教員試験にどうやって通ったのかと不安を覚えつつ、自分も文部科学省の実に怪しげなルートを辿り、正規の教員として赴任することが出来た『麻帆良学園女子中等部』途中、電車の中で盛大なパンチラが出迎えてくれたが、最近の娘は発育がいいなぁ、という感想しか抱けない自分は、もう、とっくに始業のチャイムがなる、高台への坂道を、のんびりと歩いていた。途中、内ポケットをさぐると、数本きりのタバコが出てきた。

「・・・・・・潜入操作か」

 ちなみに、担当は現代文学らしい、どうせなら、ドイツ語して欲しかったが、もう、ずいぶんと使っていないので、話すのはともかく、書くほうには自信がなかった。

 それに、ここは馴染みのない場所ではなかった。旧軍時代、高射砲中隊に所属・・・と、いうよりも左遷されていた一時期、ここで花火屋をしていたこともあった。

 その時は、校舎と、その子供たちがいる宿舎、駅に寄生するような小さな町と畑以外何もなかった場所が、今は、こんなに立派な都市に生まれ変わって・・・

「・・・・・・感慨にふける場合じゃないな」

 いいかげん遅刻すぎている。本気でそう思いタバコを踏み消した。

 あと、図書館も有名だったし、学園長はどこだ、と、考えながら、静かな校舎を歩くことにした。

「今日から、この2−Aの副担任を担当する場羽亜勇樹です。よろしくおねがいします」

まったく聞いていない、女子中学生たちをよそ目に淡々と黒板にチョークを滑らす。全員が10歳の少年に夢中である中、玩具にされているネギ・スプリングフィールドを見た。どう見ても、英国の外套と短剣を職業とする紳士に見えない。

(まぁ、女子中学生なんてこんなものかな?)

突然の突風、そして、悲鳴・・・・・・乱れ飛ぶパンツに眼のやり場に困りながら、コホンと咳をする。

授業のチャイム・・・・・・バラバラと下校する少女の中で、やっと解放されたネギ先生に手を差し伸べ

「色々、大変ですね。先生」

「そうですね、お互い頑張りましょう、場羽亜先生ッ」

お互い握手などしてみる。背中が妙に、むずがゆい。

(・・・先生か)

タバコを吸おうと、うちポケットを探った。切らしているのを思い出す。

もらいタバコ・・・思いながら、持っているはずがないと苦笑する。自販機を探さないと、場羽亜は窓の外の校庭を見回した。

(結局、無駄足なんじゃないのか?)

馬鹿馬鹿しい調査対象を追うのをあきらめ、タバコを吸う場羽亜、単なるサボリだが、確信にも似たダルさとやる気の喪失で、空に紫煙を吐き出す。

そう、あのチビッ子MI6の少年、どう考えても情報部員の匂いがしない。どう言っていいのか、隠し事が出来る顔に見えないのだ。もし、そう言う種類の人間だとしたら・・・・・・いや、どんな、しょうもない隠し事でもスグにばれてしまう、ようするに、そう言う人種なのだ。

空に向かって紫煙を噴出す。見ると、前髪で顔を隠した少女・・・名前は覚えていない、その女の子が、自分の身長よりも高い本を抱えている。

(危ないなぁ・・・)

タバコを投げ捨て踏み消す。ちょっと、心配になってきたところ。

――少女がバランスを崩した。

(言わんこっちゃないッ)

一応駆けつける。間に合わないと確信しながら、手を伸ばすが

一瞬浮き上がる少女の体、そして・・・・・・

(・・・・・・杖と呪文)

メガネの少年、ネギ・スプリングフィールドが唱えた魔法が少女を浮きあげさせた。と、思えないが、なにがなんだか、とにかく奇跡が起こった。羽根のように浮き上がる少女を抱きとめた少年、まるで、小説の中のヒーローのようなそれと、ヒロインの少女

(そして、俺は悪の手先Aか?)

馬鹿のことを考えながら、手持ち無沙汰の場羽亜・・・と、余所見をしている間に少年が消えたが、前髪で半分かくれた赤い顔はその場に残っていた。

「・・・・・・もしかして、これ、俺が後始末するのか?」

言いながら本を拾ってみる。

一冊の拍子を見ると、ヘッセの『車輪の下』原版だった。

「『ハンス・ギュベラントは、間違いなく一頭地抜き出た天才だった』・・・・・・か」

興味なさ気に数冊拾う。まだ、遠くを見る・・・・・・と、言うより恋する乙女の頭をなでてみた。

突然のことで気が動転している少女・・・・・・思い出した。宮崎のどか、2−Aの生徒だ。

「・・・あの、その・・・本・・・・・・」

「ああ、スマン」

持っている本を手渡す。多少緊張しているのか、また、あの荷物を持つのかと、うんざりしながら

彼女と一緒に本を拾い、そのまま持ってやる。

最初、困ったような顔を見せた宮崎のどか、その隣で、本を運ぶ男

「で、どこに運ぶんだ?」

「あの・・・いいです・・・その」

「これ、どういう話か知っているか?」

「あの・・・ヘルマン・ヘッセですよね」

「ああ、だいぶ前に読んだ。」

皮肉な表情の男に、言いよどむ少女・・・少し息を飲み込み、唇が動いた。

「「勉強のやり過ぎで、頭がおかしくなるという話ッ」」

顔を見合わせる。場羽亜は少し片眉を上げただけだが、宮崎のどかは限界だったらしい。じつに、麗しい音色の声で笑い、本当に楽しげな笑顔だった。

やっぱり女子中学生か・・・場羽亜は、またタバコを探した。切らしているのを思い出す。

隣を見た。楽しそうに本の話をする少女の横顔を見て、禁煙をするか・・・適当に答えながら、そんなことを考えてみた。


 あとがき

『陸上防衛隊まおちゃん』というのはあかまつけんの書いたマンガだと思っていました。違うらしいですが、とんでもないデキなので好きです。というのは関係ありません

 で、書いている内容の、防諜組織は、結構いいかげんに書いています。その辺は、突っ込みがありますが、国内防諜は公安調査室がしていると思っていました。実際は警備局がしているらしいですが、色々な組織にまたがった活動は足の引っ張り合いになると思います。詳しくは『踊る大走査線』なんか見てもらうと判るとおり、まぁ、内閣合同情報会議で情報の共有をしているらしいですが・・・日本のFBIみたいなものが出来るかもしれません。その、情報活動の暗部に巣食う組織として「神鳴流」を位置付けてます。別に、妖怪退治なんてしてません。執拗とあれば、鶴子さんはロシア人とベットをともにすることもあります。実際は、日本は札びらで頬を引っぱたくという作戦が多いらしいですが、まぁ、中国人のスパイと寝て、そのまま、国会議員をしてる人間もいますから。

 など、微塵も出てこないつもりです。健全な、のどかさん中心のSS、一度書いてみたいです。