「このまま真っ直ぐ進んだ所に、地上への出口がある」
淡々と告げるジークが睨みつけているのは、上体を起こしつつあるゴーレム
やはり、あの程度で再起不能になるほど楽な相手ではないらしい
それでも上半身の側面をそれなりに大きく削り取ってはいるようだ
「残りの連中がそこを見つけたのも確認済みだ
行けば落ち合えるだろう」
「……ジークは、一緒に来ないんですか?」
ネギの問い掛けに対し、口元に軽く笑みを浮かべる
「しばらくコイツを足止めしておく
その後は、通って来た道をそのまま戻るだけだ
それに、突然ここに現れた――なんて他の連中にどう説明したらいいのかも分からないからな」
それを聞き、渋々ながらも頷きで返すと、ネギとアスナは先を急いで走り出す
第5話:図書館島へ―後篇
翌日の月曜日、つまりは期末試験の初日
2-Aの教室内では少々パニック気味だった
「もう予鈴が鳴ってしまいましたわよ!
あの
未だに姿を見せないバカレンジャーとネギ、図書館探検部2人の合計9人
ネギは一先ず置いておいても、試験を受けなければならない8人が学校にすら到着していない
というのも彼らが図書館島から無事脱出できたのが、今から約15時間前のこと
問題を解かなければ開かない扉、という実に面倒な物がいくつも仕掛けられた螺旋階段を必死に上らされた
そして、ようやく地上に戻って来たのが夕方の6時くらい
しかし大変だったのはその後で、とある事情から生徒達はすぐに寮に帰ることが出来ず立ち往生
結局落ち着いて試験勉強を始める頃は9時を回っていた
もちろん、何故彼女らがネギを引き連れ図書館島に行ったのか
そもそも図書館島に行ったということ自体をあやかの知る由もないことだった
「あ、見て!
バカレンジャー達が来た!!」
「図書館組とネギ先生も一緒よ!」
その声で一斉に外を見たクラスメイト達は、安堵の息を吐く
少なくとも、これであやかの言う『一人15点増し』は回避出来そうだった
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それより少し前
夜中まで勉強していた彼女らは、大方の予想通りに寝坊していた
「1時間で起こしてって言ったのにー!」
誰ともなしに喚き散らすアスナだったが、それはただ体力を消耗するだけに終わった
駅を出てから走り詰めだった為、息を切らしながら学校へ到着する
「遅れてスミマセン
この子足を怪我してて」
昇降口の前に待機していた教師に言い訳しつつ校舎内へと入っていく
遅刻者は別教室で――という指示に従い、急ぎ足で指定された教室へと向かう
そのどことなく元気のない足取りを見かねたのか、後を追いかけていたネギが声を掛けた
「み、みなさん試験頑張ってください!
僕のせいで魔法の本もなくしちゃったし、足を引っ張ってばっかりだったけど……」
言葉が見つからずに言い淀むネギ
そんな彼を見て、無理に笑顔を取り繕うと各々がネギを元気付け始めた
なんというか立場が逆である
「大丈夫よ、ネギ
私たちにも意地があるんだからさ
それに本を捨てたのは私で、あんたのせいじゃないでしょ
なんとか下から2番目くらいにはなってやるから、安心して休んでなさいよ」
無理に作っていることが分かるような笑顔で、最後にアスナが締めくくる
そして周りを促し、教室へと足を踏み入れた
試験が始まり数分が経過した時点で、既に集中力が切れかかっているということが見て取れた
しかし、それも無理もないことと言えるだろう
図書館島を数時間掛けて脱出し、休む間もなく勉強していた彼女らはもう限界だったのだ
「やっぱりみんな、この3日間の探検と勉強で辛そうだな」
遅刻組の別教室の入口から、そっと中を覗き込み心配そうに呟く
「よし、やっと魔法の封印も解けたんだ――」
そう言うと、呪文始動キーを唱えて詠唱を開始した
何ということもない、ただリフレッシュさせる為の魔法だ
それでも今彼女らにもっとも必要なことでもある
心配そうに微笑みながら、ネギはその場を離れていった
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学校中にチャイムの音が鳴り響く
異常に長く感じた3時間分も、なんとか終了した
と言っても、期末試験は3日間あるのであまり気を抜いてもいられない
満身創痍の遅刻組にもう遅刻しないようにと注意をし、新田は解答用紙を束ねて廊下へ出る
「――おぉ、遅刻組の答案はそれかね」
ふと背後から声を掛けられ、咄嗟に振り向く
その目線の先に居たのは近右衛門
「学園長先生、そのお怪我は?」
声を掛けられた意図よりもまず、頭の打撲痕に驚いた
「ちょっとその辺で転んでのう
ところで、あの8名の採点はワシがやりたいんじゃが」
問われて是非もない、それ以前に断る理由がない
新田は快諾し、答案用紙を近右衛門に手渡すと職員室へと向かった
いつもの自分の部屋
その中に見知った者の気配を感じつつ、扉を開く
「失礼ながら、立ち入らせてもらってますよ
鍵が開いていたもので」
腕を組み、壁に寄りかかって立っているのはジークだった
「それはおかしいの
ちゃんと鍵は閉めておいたはずじゃが」
「そうでしたっけ?」
近右衛門にも劣らない笑みを顔に貼り付かせる彼だが、どこか不機嫌そうな雰囲気を醸し出している
見ればその右腕、手の甲付近から肘辺りまでに長い傷痕が刻まれていた
それは遠目からでも分かる程の物で、決して浅い傷とは言えない
「これは図書館島にいたゴーレムにやられたんですよ」
近右衛門の視線の先に感付いたのか、ジークが口を開く
「治癒系の呪文は苦手なんで、治すには結構時間が掛かりそうです
かなり深くまで到達しているようですし……」
表面を隠すのが限界――と、わざとらしく肩を落した
完治までは1ヶ月近く掛かるらしい
「ところで、ワシに何か用かの?」
それまで様子を面白そうに眺めていたが、答案の採点を思い出し席に着く
ジークも話を長引かせるつもりは無いらしく、早々に本題を切り出すことにした
本題といっても、単なる確認事項だが
「あのゴーレムのことですが、あれは学園長先生が用意したものですよね?
それも最近じゃない、もっと前に
ネギや生徒達に危害を加えかけた感じからして、侵入者を排除するという指示のまま放置されていた
違いますか?」
ここまで一息に言ってしまうと、一旦話を区切り反応を待つ
「間違ってはおらんよ
そもそもあの空間を作ったのはワシじゃからの」
少々長めの沈黙の後、深く首肯しその意を示した
ジークは、近右衛門の返答に納得したのか、用は済んだとばかりに出口へ向かう
その去り際に一言、思い出したように振り返り最後の質問
「図書館島の地下にある空間、あの本の量はなんですか?
というか、魔法関連の貴重書よりも一般的な文献の方が圧倒的に多かった気もしますし」
そんな問いに返ってきた答えは、彼にとって予想外のものだった
「趣味じゃよ……あそこを管理している者のな」
益々困惑の色を濃くするジークを見て、近右衛門はいつものように愉快そうに笑う
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試験終了日、翌日
学内に充満していた、試験前や当日独特の殺伐とした空気も余韻すら残していない
それだけでなく、部活動の再開や春休み前ということもあってか、辺りは以前の賑わいを取り戻していた
「ジークも魔法使いだったんですね」
突然、思い出した風にジークに問いかけるネギ
今二人がいるのは広場である
そして不思議なことに、ここには下校する生徒の波が途切れるとしばらく人が来ない
なので、人に聞かれたくない話をするのには便利な場所だ
「あぁ、一応な」
答えるジークは、空を見上げる
相変わらずいい天気だ
「なんだ、神楽坂にはもうバレてるのか」
「はい
ここに来た当日に」
軽く苦笑するネギ
その時のことを思い出しているのだろう
「……そういえば、図書館島の地下でジークの使ってた魔法の事なんですけど
あれってラテン語じゃないですよね?」
古代語魔法の類でもなかったそれが、今ネギの頭に引っ掛かっていることの一つである
「知らなくても仕方ない、あれはヘブライ語だ
古代語の方はどうか知らないが、少なくともラテン語に直接繋がるような言語ではないからな
だが、魔法としての関係性がないわけじゃない
例を挙げるなら、ゴーレムなんかがそうだ
あれは元々“カバラ”の秘術とされていたもので、カバラとはヘブライ語で表記される
そしてそれがラテン語に翻訳されたというわけだ
その際に、ゴーレムの弱点を“魔力供給”という手段で――」
ネギがジークの話に付き合わされている間にも、日はゆっくりと西へ姿を消していく
〜あとがき〜
今回はちょっと短めに
というか、よく考えてみたらジークは丸一日以上図書館島の中で本を漁っていた訳で
何しに来てたんだか……
それと、ヘブライ語の呪文についてはその内まとめたいです
結構適当なので文章通りの意味にはなっていないと思いますが