ジークが地底図書室に辿り着いたのはあれから20分後の事
これは彼の知るところではないのだが、彼が最下層に辿り着いた頃のネギたちは危機的な状況に曝されていた
というのも、メルキセデクの書と共に落下したゴーレムの一体と鉢合わせてしまったのである
しかし、落下していたのは一体だけではない
間の悪いことに、ジークが到達した地点の間近にもう一体のゴーレムが存在していた
空中にてその姿を確認したジークは軽く舌を打つ
付近に術者と思しき人物も見当たらないが、ゴーレムはこちらを敵と認識しているようだ
「あまり時間を掛けていられないな」
本日何度目かになるのか、疲れたように溜息を吐く
ここに辿り着くまでにも体力や魔力を消耗しているが、気を取り直すように始動キーを唱える
「……ジーゲル・オーダー・シュテルベン」
そしてそのまま加速し、ゴーレムへの迎撃体勢に入った
第4話:図書館島へ―中篇
「キャーッ!」
水浴びに興じている最中の突然の悲鳴
静まり返っていたこともあってか、それは遠くまで響く
何事かと身構えるネギだったが、動き出すまでもなく原因はやってきた
「ま、またあのデカイやつ!?」
正確に言うならゴーレム
ネギは、若干焦りながらも律儀にそれを訂正するが、今はそんなことを言っている場合ではない
悲鳴の出処はそのゴーレムの手の中、捕らえられていたまき絵だ
「よくも僕の生徒をいじめたなっ
いくらゴーレムでも許さないぞ!」
怒りの言葉もそこそこに、小声の詠唱を開始する
「くらえ、魔法の矢!」
人差し指と中指を揃えてゴーレムに向け、素早く詠唱を完成させる
今唱えた呪文は『光』の属性を持つ魔法弾で、ネギの得意とする風より破壊的なものだ
たとえ頑強なゴーレムといえど、至近距離で直撃すればダメージは避けられない
そうして放たれた“光の矢”は、目標を寸分違わず射抜く
……ハズなのだが、このときネギは失念していた――自分が封印した魔法の事を
「まほーのや?」
静寂に支配された空気を破ったのは古菲
もちろん、聞き慣れない単語に首を傾げたのは彼女だけではなかったが
「な、何でもないですっ、ホントに!」
冷や汗が背中を流れるのを感じながら、必死に訂正の言葉を探す
しかし、幸か不幸かこの状況のおかげでそれ程気にされてはいないようだ
とりあえずその事に胸を撫で下ろしたものの、それ以上に追い詰められる事実がゴーレムの口から飛び出す
「ここから出られんぞ、もう観念するのじゃ
迷宮を歩いて帰ると三日はかかるしのう〜」
どことなく安堵したような気配を醸し出しながら、不気味に笑う
衝撃的な宣告を受け、黙っていられるわけがない
口々に動揺の声を上げ始めた
「みんな諦めないで!」
そんな彼女らを元気付けようとした結果なのか、それともネギ自身が一番動揺していたのか
ただ墓穴を掘りかけたといえば充分伝わる失言
「僕の魔法の杖で飛んでいけば一瞬だから―――」
「ネギッ
何さっきから訳の分かんないこと言ってんの!」
慌ててネギの口を塞ぐアスナ
それに次いで誤魔化しの言葉を並べ立てるが、あとは忘れてもらうことを祈るだけだ
「と、とにかくみんな逃げながら出口を探すのよっ」
慌てたアスナが声を張り上げた時
「みんな、あの石像の首の所を見るです!」
被さるように夕映が驚きの声を上げる
言う通りに見てみれば、捜し求めていたメルキセデクの書がそこに引っ掛かっていた
「そうか
魔法の本とゴーレムも僕たちと一緒に落ちてきてたんだ……」
ネギが一人で納得している間
夕映の指示を受けた楓と古菲が、まき絵の救出も兼ねた“魔法の本”強奪の為に動き出す
先手は古菲
素早い身のこなしでゴーレムの足元へ
そして、地面を強く踏み込んでの強烈な突きを、人間の足のふくらはぎの位置する部位に叩き込む
その衝撃に体勢を崩し、地面から離れた左脚には大きなヒビが入っていた
片足立ちになり、バランスを取る為に動きの止まったゴーレム
古菲はそのまま踏み込みの力を利用し、まき絵を掴んでいる右手を目掛けて跳躍する
跳躍の姿勢は、誰がどう見ても蹴りの形をしていただろう
勢いの付いた古菲に蹴り飛ばされた右手からまき絵が放り出された
それに驚き、ゴーレムが停止した一瞬の隙を逃さない
いつのまにか空中に居た楓が、タイミングよくまき絵を受け止める
しっかりと抱きとめると、ゴーレムの肩を足場に地面へ向かう
その間まき絵が大人しくしているわけもなく、得意のリボン捌きでメルキセデクの書を奪取していた
ちなみに、まき絵にリボンを渡したのは楓のようだ
「ま、待つのじゃ〜!」
絶妙のコンビネーションを披露し、まき絵の救出と本の入手を完了させる
他の用事もない為、もうあとは逃げるだけだ
「あのゴーレムの慌てよう、きっとどこかに出口があるです」
「よし、目的の本も手に入ったことだしズラかった方がいいわね」
木乃香が持ってきてくれていた服を着ながら、手っ取り早く話し合いを済ませた
残るは最後の探し物、“出口”を求めて全ての力を振り絞る
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ゴーレムから逃げ出して30分は経過している
捕まっていたまき絵を助け、メルキセデクの書を奪い取ったまではよかった
だが、まとまっている人数をよく数えると二人ほど足りない
二人、というのはネギとアスナである
「そういえばあの本持ってるのってアスナじゃなかったっけ?」
不意にまき絵が、誰ともなしに問いかける
それを聞いた古菲が一言
「それでゴーレムが追ってこないアルね」
納得したように何度も頷く
アスナが持って逃げているのなら、彼女の身体能力的にも大丈夫だろう
と、特に気にされている風でもないようだ
「では出口でも探しておきましょう」
夕映の提案に異論を唱える者もなく、五人は先を急ぐのだった
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「ちょっとネギ!
あんたの魔法の封印ってまだ解けないの!?」
走りながら怒鳴るアスナだったが、心なしかいつものような元気さが伝わってこない
だがそれも当然の事だろう
現在彼女が陥っている状況はネギと二人、迫り来るゴーレムからの逃走劇なのだから
「それは明日の朝にならないと――」
弁解口調で焦るネギだが、やはり疲労感が拭えない
ところで、何故彼らだけがこのような事になっているかというと
遠因であるのはメルキセデクの書
最初はまき絵が所持していたのだが、着替えるのに邪魔だということでアスナに手渡されていた
またネギと二人になってしまったその理由だが
これも単純、単にネギが集団から遅れてしまったのだ
元より肉体的には普通の子どもであり、普段の身体能力の高さは魔法の補助があった
しかし、今のネギにはその補助が不可能である
別に普段から魔力にばかり頼っていたわけではないが、結果的には何も変わらない
「すみません、足を引っ張ってしまって……」
うなだれるネギを見て、軽く息を吐く
「いいのよ、気にしなくても
元々は私が連れてきちゃったんだし
それに最下位になってクラス解散の上、小学生からやり直しなんて嫌だから――」
「え、それどういうことですか?」
『キョトン』という表現が一番似合うであろう表情を、顔全体に浮かべるネギ
その様子を疑問に思ったアスナは、説明をする為に口を開く
「だから私たちが留年するって」
「いや、僕がクビになるってことしか聞いてないですけど」
ネギは息切れしつつもハッキリと言い切った
普通ならこの空間を満たすハズの静けさも、追ってくるゴーレムが破っている
一呼吸置き、先に言葉を発したのはアスナだ
「何よそれ!
じゃあ留年とか小学生ってのは全部デマなの!?」
「た、たぶん」
あまりの気迫に気圧されながら、これまた言い切るネギ
「あーもうっ
そんなんだったらこんな謎の図書館なんか来なかったのに!
やっぱりあんたが来てから踏んだり蹴ったりよ」
あまりの言われように、ネギは負けじと言い返そうとする
だが何の前触れもなく突然、轟音と共に地震の如き振動がネギとアスナを地面に転がす
いつの間に拾っていたのか分からないが、石で出来た得物の大槌を、彼らの背後の地に叩きつけたのだ
周辺に点在する古そうな本棚の上げる、軋みという名の悲鳴が聴こえる
「――――ッ!」
不気味に笑いながら近づいてくるゴーレムから逃れようと必死だ
それでも、一度止まってしまった体に疲れが押し寄せてくる
こうなってしまえば、体力に自信があったところでもう走れない
万事休す、絶体絶命、そんな言葉が最も似合う最悪な状況だった
その時
ネギは確かに
呪文始動キーのようなものを、聞いた気がした
「
続いて、いまやハッキリと聞き取れる呪文は
「
ラテン語ではなく、聞いた事のない言語で
「
攻撃魔法と推測されるそれは、不躾なほどの炎の塊り
ネギには理解出来ない呪文だったが、『槍』というより『円柱』というべき太さを持っていた
空気までもを焦がすような熱量の『槍』は、狙い通りにゴーレムに直撃する
「すまないな」
地に倒れ臥したゴーレムと、枯れた木々に燃え移った炎をバックに降り立つ青年
赤みのある髪と眼がこの風景にどうしようもないぐらい似合っている
「少々遅くなった」
悠然と構えるジークの声は、不思議なほどによく通っていた
〜あとがき〜
ようやくジークの登場シーン
途中から場面をオリジナルの方向へ持って行ってみました
本当はもっとジーク登場のシーンを格好よくしたかったのですが……
というわけで、次回で図書館島編は最後になる予定