「絶対に嫌です、こんな奴が担任なんて!!」

 バンッと机を叩いて明日菜は抗議の声を上げた。彼女の目の前に座るのは、白いひげを蓄え、ヒョウタンのような頭をした老人――この学園の学園長にして、明日菜から少し離れた場所で成り行きを見ている少女近衛木乃香の祖父、近衛近右衛門である。
 近右衛門は、フォフォフォと笑うと、

「まあ、そう言わんでくれんか、アスナちゃんや。ネギ君も悪気があってのことではないのじゃろ――」

 「悪気があったら、それこそタチが悪いですよ!」

 ごもっともな意見である。無論、ネギ自身悪ふざけで言ったのではなく、あくまで親切として教えたつもりである。

(……たしかに、いきなりすぎたのは悪いと思うけど、だからって蹴るのはどうかと思うなぁ)

 口に出せばまた蹴られるであろう事を胸中でつぶやく。

「……まあ、この話題はこのくらいにしておくとしてじゃ。ネギ君の3−A担任はもう決まってしまったからのう、今から変更はできんのじゃよ。もちろん、彼は頭が良いから勉強面で不便はないじゃろうて」

「で、でも…………わかりました」

 さすがにここまでいわれてしまえば、反論することがなくなったのであろう、しぶしぶといった様子で明日菜は頷いた。

「フォフォフォ……わかってくれて何よりじゃ。それじゃあ、二人には先に教室に行ってくれんかの」

 近右衛門の言葉に、二人は彼に背をむけて扉へとむかった。ネギは、失礼しましたとだけ言って出て行く明日菜と、

「ほな、また後でなーネギ君」

 手を振ってくる木乃香に会釈をかえし、扉が閉まるのを見ていた。

「……しかし、修行のために先生をするとはこりゃまた大変な課題をもろうたのー」

「いえ、これくらいのこと師匠の修行にくらべれば軽いもんですよ」

 扉が閉まると同時に言葉を投げかけてきた近右衛門に、苦笑して言葉を返す。それを聞いて、頼もしいかぎりじゃと笑う近右衛門。……そして、急にまじめな顔になると

「それで、じゃ。《彼ら》との折り合いはあれからどうなってるのじゃ? 一年前に来たときはなかなか良い具合じゃったが」

「はい、それに関しては」

 指輪のはめられた右手を机の上において言葉を続ける。

「一年前と変わらず、良好ですよ。今回の修行についても、生徒の前には極力でないように頼んでありますしね」

 それにうむ、と頷く近右衛門。

「それなら安心じゃな。じゃあ、ネギ君や、君にはこれから三ヶ月間、教育実習として3−Aの担任および全教科の先生をしてもらおうかの」

「はい! まかせてくだ……さ……い?」

 意気揚々と答えようとして、近右衛門の言葉に妙な部分を見つけ硬直する。つぅ、と汗が頬を伝う……

「えっと……もう一度いってもらえますか?」

「じゃから、3−Aの担任と全教科の先生をじゃな……」

「いや、担当って英語だけじゃないんですか?」

 いきなりすぎる宣告にあわてて聞き返す。すると、近右衛門は机の引き出しから一枚の手紙を取り出した。そして、ひどく申し訳ないという様子で口を開いた。

「……実はじゃな、君の師匠、アルタイル君から手紙があっての。
 そこに、『師匠命令。ネギに一つのクラスの全教科の担当』と、書いてあってのう……そのうえ、これをしないとワシとネギ君をまとめて三途の川に招待する、と追伸がされていてな……彼ならやりかねんじゃろ?」

「確かに……師匠なら三途の川どころか、地獄めぐりさせられるかもしれませんね……というか、なぜにそんなことを?」

「それは、君に渡すよう同封されていたこの手紙に書いてあるじゃろう……多分」

 それを聞いて、机に置かれた手紙を開封し、その中の便箋を開く。

『アルタイルからネギへ

       前略。中略。以下略。
                  おわり』

 そこにはそれだけが書かれ、あとにはなにもない。だが、彼には十二分に師の言わんとすることが理解できた。

(ようは、そのほうが面白そうってことですか……師匠)

 だてに趣味が『弟子イジメ』ではないな、と改めて確認させられた。

「して……なんと書いてあったのかの?」

「……」

 ネギは無言でこの手紙を近右衛門へと手渡す。彼はその手紙をしばらく見た後、

「……彼はいったいぜんたい何を考えとるんじゃ?」

「なーんにも考えてないかと」

「……大変じゃな、君も」

「はい……」

 お互いに大きなため息をつく。
 と、近右衛門が話題を変えるように口を開いた。

「ところでネギ君、こっちではどこに住むつもりでいるのかの?」

「あ、いえ、まだ決まってないんですよ」

 そういえば決まっていなかったな、と今になって思い出した。

(……さすがにこの時期に野宿はキツイかなあ)

 義姉の部屋にでも泊めてもらおうかと考えていると、目の前の近右衛門がポンと手を打った。

「よし、それならこのかのところに泊めてもらえるよう頼んでみようかの」

 沈黙。

「えっと……もう一度いってもらっても?」

「じゃから、このかのところに泊めて――」

「なんでそうなるんですか!? 女の子の部屋に男が泊まるなんて非常識にもほどがありますよ!」

 あまりに突然で非常識な展開に――自分が考えていたことを棚に上げ――声を荒げて反論するネギ。だが、近右衛門はふむ、と息をつくとゆっくり口を開いた。

「それはじゃな、君がこちらにきたことで《やつら》の目が学園へといずれは向けられるからじゃ」

「そ、それはそうですけど――」

「そうなれば、まず狙われるのは関東魔法協会理事であるワシの孫であり、関西呪術協会の長の子である……このかじゃ。じゃから、君にはこのかとできる限り同じ空間にいてほしいと思うての」

 確かにそうである。もし《やつら》がここへと襲撃をかけるのならば、自分を狙うよりもさきに、手ごまにして最も有効な使い道があり、かつ容易にそれのできる者を襲うであろう。

(それを案じて先手を打つなんて、さすが学園長先生!)

ネギは、目の前に座る玄人たる老魔法使いを尊敬のまなざしで見る。そして、どんっと自分の胸を叩く。

「わかりました! そういうことならお任せください」

「フォフォフォ……頼もしいかぎりじゃな。それと……」

 近右衛門はひげをなでながら一呼吸空け

「間違いのひとつやふたつくらいは起こしてくれてもかまわんからの」

 再度、沈黙。

「え?」

「いやー、ネギ君のような子が孫になってくれるとわしとしても安泰じゃからな。
 おお、大丈夫じゃぞ、アレの親もネギ君ならば大歓迎だと言っておるからの」

(本音はそっちか……)

 あっけらかんと笑っている近右衛門に半眼になって胸中でうめく。

 ……とにかく、この学園生活は波乱に満ちているだろう、とちょっぴりセンチな気分になったネギであった。

NEGIMA!―オルタナティヴ ヒーロー―
第二話〜新任先生はおこちゃま!?〜

 麻帆良学園本校女子中等学校。
 長々とした名前の建物の中をネギは重い足取りで自身の担任となった教室へ向かっていた。

「――――でも、その年で先生だなんて、やっぱりすごいわね、ネギ君」

 となりを歩く自分の指導教員、源しずなの言葉に、はぁと気のない返事を返す。そして、先ほどの学園長とのやりとりを思い出し、さらに肩を落とした。

「はぁ〜。師匠といい学園長先生といい、むちゃくちゃですよ、ほんと」

 ため息をつく彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいたりする。

「……たしかに、1クラスとはいえ《全教科担当》なんて、簡単にはできないものねえ」

 彼のぼやきにしずなが苦笑まじりに答えた。

(それだけじゃないんだけどなぁ……)

 そんな事を重いながら、チラリとしずなへ目をむける。
 メガネをかけた温和そうな美顔と抜群のプロポーション……おそらく、ネギが今まで見てきた女性の中でもトップクラスにはいる美貌である。

「……そういえばしずな先生、クラスの名簿とかあります? さっきタカミチにもらいそびれちゃいまして」

 とりあえずその思考を頭の片隅に追いやってから、ネギは尋ねた。しずなは、ああと言って小脇に抱えていた黒表紙の冊子を手渡してくれた。

「はい、これ」

「ありがとうございます」

「早くみんなの顔と名前を覚えれるといいわね」

「はい、がんばります!」

 早速手渡されたクラス名簿を開く。そこにはズラリと31人の2−A生徒の顔写真が並んでいた。

(うわあ、いっぱいいるなあ……)

 自分が教えることになる生徒たちの人数の多さに驚くのと同時に、名簿に書き込まれたタカミチのメッセージに感謝をする。と、

「え?」

 名簿に自分の知る人物の名前を見つけ、思わず声をあげた。

「? どうかしたの?」

「え、あ、いえ、なんでもありません」

 こちらをのぞいてくるしずなに慌てて首をふる。そして、再び名簿を覗き込み、

(マナ……僕のクラスなんだ)

 18番のところに載っている自分の義姉の姿を改めて確認する。義姉に弟が教える、というのも妙な話だ、と胸中でつぶやき他のクラスメイトの顔写真を見ていく。

(……なんか、知ってる顔が妙に多いような…………)

 クラス編成に作為的なものを感じたが、とりあずこの場は無視してネギは右をむいた。
 目の前にある扉の上には《2−A》と書かれた表札がぶらさがってる。

「は〜……なんか緊張するなあ」

「ふふ、大丈夫よ、勇気をだして」

 バクバクと音を立てている胸を押さえて軽く深呼吸をする。

(落ち着け〜、大丈夫だ〜)

 大きく息を吐きながら心の中で自分に言い聞かせる。そして、

「――――よし!」

 キリリと表情を引き締め、扉をノックし

「失礼します!」

 ガラリと扉を開けた。

 + + + + +

 2−Aの教室。そこはもっぱら、新任先生の話題で持ちきりとなっていた。だが、

(なんであんな奴が担任なのよっ)

 神楽坂明日菜にとっては、そんな話題など自身のいらだちを増させるだけのものでしかたかった。

 ――「あなた……失恋の相がでていますよ。ドギツいのが」

 初対面での一言が頭の中をこだまし、はらわたが煮えくり返るほどイライラとしてくる。
 ……だが、さすがにそんなイライラとした顔をクラスメイトに見せるわけにもいかず、深く息をすい、はきだした。

「…………」

 深呼吸をして多少は落ち着いたが、完全にイライラが解消されたわけはなく、コツコツと机を指で叩く。
 と、扉のところでどう見ても小学生にしか見えない双子――鳴滝風香と史伽、茶色の短髪の少女――春日美空が何かしているのが目に入った。構成メンバーから察するに新任先生に対してイタズラを仕掛けているのだろう。
 ここで、教室に来るのが彼女の片思いの人、タカミチならば彼女は全力でそれを止めにかかっただろうが、彼女はそれを止めることなくただ見ている。
それどころか、罠にかかる新任教師の姿思い浮かべにやりと口元に笑みをつくった。

 ――――キーンコーンカーンコーン……

 そこで、授業開始をつげるチャイムがなり、ガタガタといすをひく音と共に、クラスメイトたちが席についていく。そして、皆が見るのは――扉から教卓までの間に仕掛けられた罠の数々。
 ……全員が、固唾をのんでそのときを待つ。 

 ――コン、コン

 シンと静まり返った教室にノックの音が響き、次に

「失礼します!」

 意気込んだ声と共に扉が開き――青年の頭の上に黒板消しが落ちた。

(やった!)

 ざまあみろ、と内心ガッツポーズをする明日菜。罠にかかった青年はほこりのように舞うチョークの粉に激しく咳き込みながら一歩を踏み出し、

「わぷ……なっ、なにこ、れぇぇぇぇぇぇ!?」

 仕掛けられたロープに足をとられ、激しく前へと転がる。その青年めがけて水の入ったバケツと無数のおもちゃの矢があたる。

 ここまでは良かった。

 だが、クラス中が笑い出そうとした次の瞬間、

 ――――ゴシャァッ

 青年の額がすさまじい音をたてて教卓のカドに激突した。

「「「「「――――!」」」」」

 突然の出来事に教室が静まりかえる。
青年の頭はそんな状況を知ってか知らずかズルリと教卓の影へとすべり(ゴツリという鈍い音に教室中がビクリと反応したような気がした)落ちた。

(んなっ――――)

 予想外すぎて明日菜もあんぐりと口をあけてそれを見るしかできなかった。すでに『いけすかない新任教師に一泡吹かせてやろう』という考えはどこかに消えてしまった。
 一秒……二秒と硬直状態がしばらく続いた後。ピクリッと投げ出されていた青年の手が動いた。
 教室中がビクリと(今度は間違いなく)反応する。……心なしか、イタズラを仕掛けた三人が震えているように見えるがあえて視線からはずし、明日菜はゆっくりと立ち上がる新任教師の動向を観察する。
 青年は黒板側を向いて立ち上がり、ゴシゴシとロングコートのすそで顔をこすったあと、クルリとこちらへ向き直り

「はじめまして、今日からこのクラスの担任兼全教科担当をすることになりました、ネギ・スプリングフィールドです! 皆さん、よろしくお願いします!」

 そんなことを言ってきた。

「「「「「「…………」」」」」」

 クラスからの反応はない。というより、思いっきりひいているといった雰囲気である。
 ……というより、邪念のひとかけらもない笑みを顔に浮かべつつも、それを己の血で真っ赤に染めているのを見せられて、ひく以外の反応できるほうがこの場合はすごい。

「あ、あれ?」

 そんなクラスの雰囲気をさっし、ネギが困ったように眉をひそめた。

「ね、ネギ先生、血が……」

 その状況で、いち早く我に返ったしずなが慌ててネギへとかけよる。

「え? ……ああ、ほんとだ」

 だが、当の新任教師は慌てるどころか、しずなを手で制すとコートのポケットからハンカチをとりだし顔の血を拭う。そして、べつのポケットからガーゼと包帯を取り出すと、慣れた手つきで額へと巻き、応急処置をすませた。

(むだに準備いいわね……)

 半眼でそんなことを思っていると、はぁと短いため息が聞こえたような気がして、明日菜は視線を動かした。その先には、黒の長髪をポニーテールにした少女 ――大河内アキラのポカンとした表情と、こちらは黒の長髪を腰までのばした褐色肌の少女、龍宮真名があきれたように額に手をあてているのが見えた。

(――――?)

 最初は、新任教師のあまりのふがいなさにあきれているものだと思ったのだが、顔を上げた彼女の瞳に――一瞬、おだやかな気色が見え――首をかしげた。
 その理由を考えるよりも前に、コホンという咳払いが聞こえ、明日菜は黒板へと目線を戻した。そこでは、ネギが教卓の後ろにピシッと背筋を伸ばし立っている。彼は軽く息を吸い、

「えーっと、それじゃあ改めまして。
 今日から2−Aの担任兼全教科担当をすることとなりました、ネギ・スプリングフィールドです。三学期の間だけですが、よろしくお願いします」

 ペコリ、と頭を下げた。と、明日菜はなにかひっかかるものを感じ、その自己紹介を心のなかで反復させる。

 ――「今日から2−Aの担任兼全教科担当をすることとな――――」

(ちょっとまったぁ!!)

 明らかにおかしな部分を見つけ、明日菜はピタリと動きを止めた。
 そこから彼女が、彼が『担任をするうえに全教科を教える』と言っているのだ、と理解するまでに数秒の間があき、

「ちょ、ちょっと全教科って――」

「「「「「「ぜ、全教科!?」」」」」」

 明日菜の言葉をさえぎってクラスじゅうから驚きの声があがった。
 やはり、全教科というのはどんな人から見ても異常なのだろう。

「は、はい、一応全教科を教えることになりましたので……」

 雰囲気に押されたようにネギが答えた。
と、ここであることに気づき明日菜は顔をしかめた。……彼が全教科を担当するということは、自分はあのいけすかない教師とほぼ一日顔を会わせなければならないのだ。

(あーもう最悪っ!)

 ざわめくクラスを尻目に、胸中で悪態をついた。

「はいはい、みんな静かにしてくださいね」

 パンパンと手を叩く音と共に聞こえたしずなの声に、クラスが徐々にざわめきを小さくしていく。クラスが静かになったところで、しずなはネギに続きをうながす。

「えーっと、それじゃあ、質問がある人がいたら――」

「「「「「「ハイ! ハイ! ハイ! ハーイ!」」」

 その言葉に、まっていましたと言わんばかりの勢いで手があがる。それに驚いていたネギだが、気を取り直したようで、手にある名簿へと目を落としている。

「えっと……じゃあ、椎名桜子さん」

「ハーイ! 先生が全教科教えるってほんとうなんですか?」

 指名され、一番前の席のオレンジ髪を左右で結った少女、椎名桜子が意気揚々と質問した。

「はい、本当ですよ」

「なんでですかー?」

「あーそれはですね、僕のし――先生が、『全教科教えろ』って手紙を送ってきたからです。
 先生には頭があがらないもので」

 一瞬言いよどんだが、すぐにそういって困ったような笑みを顔に浮かべたネギは、彼が答えると同時に一斉にあがった手の中から次の質問者を選んでいた。

「えっと、それじゃあ、古菲さん」

「ハイアル! え〜と……ネギ先生は何でそんなに日本語がウマイアルか?」

 今度は、褐色肌の中国人(らしい)古菲が質問をした。

「ああ、これですか。実は僕、3歳くらいから先生に連れられて世界中を回ってたんですよ。
そのときに何回か日本に来ていて、それで覚えさせられたんですよ」

「へ〜、そうアルかぁ。どれくらいかかったアルか?」

 その質問に、ネギはうーんとうなった後、指をおって数字をかぞえ

「だいたい、3週間くらいです、ね……あんまり覚えてませんが」

「さ、3週間アルか……すごいアルね。私なんて三年たってもあんまり上達してないアルよ……」

 天才はいるものアル、などと古菲が感心する。つられて、クラスからもおお〜と感嘆の声があがった。無論、驚いたのは明日菜も同じで、目を丸くしてネギを見ている。
 その本人は、気恥ずかしそうにエヘヘと笑っている。そんな中でも、質問のための挙手は数を減らすことなくあげられる。

「それじゃあ、次は……和泉亜子さん」

「あ、いえ、質問とかやなくて……先生、キズは大丈夫なんですか?」

 あてられて少しあせっていた、薄い色の髪と瞳をした少女――和泉亜子が、おずおずと尋ねた。ネギは、やんわりと笑顔をつくると

「大丈夫ですよ。これくらい、先生の仕掛けた罠に比べればへでもありませんよ」

「そ、そうですか……」

 ……なぜか顔を赤くした亜子が、ホッと安堵の息をつく(同時に、例の三人組も息をついていた)。
そんな彼女を明日菜がいぶかしんで見ている間にも、質問の時間は進んでいく。

「それじゃあ、次の人は……じゃあ、朝倉和美さん」

「ハ〜イ」

 ネギにあてられ、一番前の席から一人の少女がたちあがった。後ろ髪をピンでとめ、パイナップル(を意識しているかは定かではないが)のような髪型の少女、朝倉和美である。
 ……立ち上がったのは『報道部部員』ということで、記者を意識しているのだろうか。そんなことをつい考えてしまう。

「それじゃあまず始めに、先生の趣味は?」

「アンティーク集めと楽器を演奏すること、が趣味といえば趣味ですね」

「なるほど。楽器というと、具体的にはどんな楽器を演奏するんですか?」

「えーっと……弦楽器が多いですね。ギターとかチェロみたいなのが」

 和美はフムフムと頷きながら、なぜかネギの回答を手に持ったメモへと書き込んでいる。
 ――『麻帆良パパラッチ』の通称をもつ彼女のことだ、新任教師のプロフィールでも作成しているのだろう。
 書き終わると彼女は顔をあげる。座らないところをみると、どうやらまだ質問をするつもりらしい。といっても、『一人につき質問は一つ』とは言われていないのだから、問題はないが。

「じゃあ、年齢は?」

「年は――――」

 そこで言葉をきったネギは目線だけをあさっての方向へとむけた。首をかしげるクラスメイトたちの視線のなか、二度三度示唆するような表情を作った後、

「朝倉さんからみて、僕は何歳にみえますか?」

 逆に質問を返した。これには『麻帆良パパラッチ』も想定外だったらしく、眉をひそめた。そして、少しの間をおいて

「そうですね……18、9ってところですか?」

(いや、それはないでしょう)

 いくら童顔とはいえど、教師をやる人間がそれくらいとは思えず、内心でつっこむ。同時に、当の本人であるネギも盛大なため息をついた。

「やっぱり、それくらいにみられちゃうんですか〜〜」

「え、ち、違うんですか? それじゃあ24、5とか?」

 明らかに落胆した口調のネギに、慌てて和美が言う。

(――まあ、それくらいでしょうね、普通)

 それくらいが妥当だな、と明日菜も胸中で頷く。だが、

「はぁ〜〜〜〜……」

 青年はさらに大きなため息をつき、肩をがっくりと落としていた。そして、弱々しい声で

「しずな先生。答え、教えてあげてください……」

「わ、私がですが?」

「だって、僕が言っても信じてもらえなさそうですし……」

 突然話を振られて驚くしずなに、そんなことを言う。するとしずなは、少々困ったような納得したような微妙な表情をつくり、わかりましたと一言いいクラスへと体をむけた。

「えーっと……みんな信じられないと思うんだけど……ネギ君はね……
 10歳なのよ」

 瞬間、クラスが固まった。

「……へ?」

 今、ネギの横で苦笑している教師は何を言っているのだろう。唐突すぎて思考がついていかず、間抜けな声をあげてしまう。
 ……ひどく間を空けてから、ようやくその意味に気づき

「「「「「「え、ええーーーーーっ!?」」」」」」

 クラスメイトと一緒にすっとんきょうな声をあげた。

「じゅ、10歳?!」

「うそでしょー!?」

「うそですよね、しずな先生?」

「い、いえ、本当よ……私も最初は驚いたわ」

 衝撃の大きさに、クラスが騒然となる。明日菜自身も、しずなの言葉にただ唖然とするしかできずにいた。そんななか、隣の席の親友は

「へー、あんなにかっこええのに10歳なんか〜」

(そうじゃないでしょうがっ!)

 外人は成長早いんやね〜、などとのんきにつぶやいており、ガクッと肩をこけさせた。
 体勢を立て直すと、眉をひそめ半眼でネギを見る。

「うぅ〜、やっぱり信じてもらえないよ〜〜」

 ルルーと目と同じ太さの涙を流しながらうめくその姿は、いわれてみれば10歳に見えなくもない。が、やはり違和感がありありである。

(ウソだと思いたいけど……)

 チラリと苦笑しているしずなへ目を動かす。

(しずな先生がウソをいうとは思えないしねえ)

 認めたくはないが、やはり本当なのだろう。そう結論づいたところで、大きくため息をもらした。
 自分はやはりついていない、改めてそう思わされ明日菜は額に手をあてた。

「え、えっと……と、とりあず質問の続きを……」

 いまだ新担任の年齢について議論――というより、おしゃべり――をしているクラスの雰囲気に圧倒されつつはあるが、和美が質問の続きを話し始めた。

「はい……なんでしょうか?」

「えーっと。そ、それじゃあ、先生の好きな女性のタイプは?」

 半泣きの顔をむけられ、若干たじろぎながら質問をする。それに対してネギは、大きく深呼吸をし、一拍間を空ける。そして、軽く涙を拭うようなしぐさをし、

「好きな女性のタイプですか。そうですねえ……」

 少々沈んだような雰囲気であごに手をあてた。……吹っ切ったというより、あきらめたといった感じがするのはこの際無視しておこう。
 彼が軽く天井を見上げて考えている中、クラスは水をうったように静まりかえっている。
 さすがに年頃の女の子ともなると、ネギのようにかっこいい(自分はそうは思っていないが)先生の好み、というのは気になるのだろう。

「すいません、そういうのは考えたことがないんで……特にはないです」

 ゆえに、申し訳なさそうに言う彼の言葉に何人かが落胆しているのも仕方がないことなのだろう。
 そんな様子に嘆息すると、明日菜は担任へ細めた目を向けた。

(あーもー、ほんっとに最悪っ)

 本日何回目かの悪態を胸中でつぶやく。だが、いくら悪態をついたところで現実が変わるなどということはない。
 あのいけすかない青年(少年?)は自分の担任であり全教科を教える先生、愛しの高畑先生は担任ではなくなった。

「運がないわね……私」

 ポツリと出た言葉が、クラスの静かな喧騒にかき消された。

 

@あとがき
 どうも、颯(はやて)です。というわけで、第二話をお送りしました。
 ここまで連続での投稿でしたが、これから先は少し連載スピードが遅くなると思います。ご了承ください。
 色々な伏線を張りながら、なので構成がむずかしくて……

 これからも、皆様に楽しんでいただける作品作りをもっとーにしてがんばりたいと思いますので、応援していただけたら幸いです。
 それでは、失礼します。

(乱文・乱筆申し訳ありません)



 

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