もともとニューオリンズはジャズやクレオール文化以外にも、陸海空路の要所だった。ルイジアナのミシシッピー河口に位置する場所に存在し全米でも有数の港湾が存在する。そして、人種的にも問題がある土地だった。今回の騒動もあるが、空前の大災害があったときですら、大多数の貧しい黒人と裕福な白人・・・・・・その運命がはっきりと分かれた場所でもある。もちろん、不幸のすべては黒人、その他の有色人種に覆い被さる。なんとなく、南アフリカに似たような土地になってきた。 「海路はまず無理だな。」 広大なアメリカ南部の土地を指しながら、日向ガールズ+1は無意味に地図のしみを見回した。海路を占めす赤い線を書きながら、可奈子はいやな顔をした。そこには、アメリカの要所、パナマ運河が横たわっている。常識的に考えて、そこに、身元の怪しい日本人が乗る船舶が通過できる可能性は低い。 「喜望峰周りはどうなの?」 成瀬川の能天気な言葉に全員が振り向く、常識を知る何人かは無視したが、場羽亜は、にこやかに「一体何日かかるんだ?」と問い、それ以来誰も発言していない。 「空路は、無理ですか、スーパーステリオンならひとっとびだと思いますが」 「東部側の防空網が見逃してくれたらですが・・・」 「はぁ・・・」 地上でもっとも高価な防空レーダに守られたアメリカ上空・・・すでに、非常事態宣言とともに全米が飛行禁止空域に指定されている。ヘリなんかが飛んでいたらホークか、SAMが飛んできて・・・・・・ 「ヒュー、バンッ!!」 おどけたように手のひらを開く場羽亜を殺意のこもった瞳で睨む、そして、大きく息を吐いた。全員が絶望的な答えを言うのをためらっている。 「それでは行きましょうか、混乱と内戦、暴動渦巻く土地を・・・」 「かくて我等は魔法の海上を、夢想すら及ばぬ静寂をぬって船を進めん」 「そは虚ろな砂漠なればこそ」 可奈子の唱えたモームの詩の後に続く成瀬川・・・そして、場羽亜がニマリと不気味な顔をする。彼女たちは一抹の不安を覚える。もし、この詩のとおりだと二人の内心は、例えようのない不安に満たされるからだ。 戦場まで何マイル? つまり、西部の勢力圏といえるアリゾナから車に乗り込み東に一路進路を取る。さすがにネオ・コンの本拠地とも言えるテキサスは迂回するが、それでも、恐ろしいことには変わりが無い。ガソリンを馬鹿喰いするHMMWVを乗り回しながらとりあえず、北海道へ傷心旅行と同じような緊張感の無い5人と周囲を警戒する3人を乗せている。 途中、ラジオをつける。南部に大統領の演説が響いていた、なんでも、テロがどうとか、アメリカの自由がどうとかと言っている。 「で、場羽亜さん、どうなんですか?」 いいかげん暇な可奈子が口を開いた。iパットで何かを聞いていた場羽亜が振り返りもせず何かを口ずさむ、信じられないことに、深夜に放送しているアニメソングだった。可奈子はなにの遠慮もなしに、イアホンを引き抜いた。 「何するんだ?」 「ふざけないでください、どうして私たちをこんなところに連れてきたんですかッ」 ボリボリと頭を掻き、ハンドルを握るてはまったく動揺していない。 「言うと、君たちを殺さなくてはならないのだが・・・」 「私も、無料で聞こうとは思っていませんッ」 カチャリと安全装置が外れる音、シグのザウエルの引き金に手をかける。寝ているカオラや、その他の少女たちも異変には気付いていないが、素子だけが、信じられないという表情をした。 「んじゃ、ヒントだけ言うぞ―――」 言うと、急ブレーキ音、全員が前につんのめると、場羽亜がフロントガラスを指差した 「クソ、検問だッ」 封鎖線が張られた道路に並ぶ警察車両と、恰幅のいい男性がサイドガラスを叩く、多分、ウインチェスタの散弾銃を構えた警官と民間人が警戒する中、有色人種と銃を持っていない人間はいなかった。 「ちょっと、を身分書を見せてもらうかね?」 柔和な笑顔を浮かべた中年男性の問いに、こちらも笑顔の場羽亜がパスポートを見せた。もちろん偽造されているそれをみて、一言「引き返せ」と言ってきた。 全員が息を飲む、ルイジアナ6まで10キロの地点、小さな田舎町に続く道だった。 アメリカの特徴、とくに自治意識の強い南部の特徴が出ている風景だった。自警団を組織した彼ら、混乱の中、彼らはまず自分たちの保全を確保しようと躍起になっている。一部では、かつての南北戦争のように合衆国から独立する州が出現するのではないかとささやかれている。 そんな1865年以来体験していない内戦状態に突入した米国のアウトバーンで繰り広げられている問答も、仕方がないといえば仕方がないものだった。もともと南部の田舎は排他的な土地であり、外国人・・・・・・特に、有色人種を嫌っている。もちろん、ひなた荘の女子たちは、美しく知的であるがアジア人には変わりが無い。 「ちょっと、なんでよッ!?」 ショットガンをもった男性にくってかかったのは成瀬川だった。白人男性は困った顔をしてショットガンの銃口空に向けた。 「そう言われてもなぁ」 「じゃぁ、どきなさいよッ」 南部訛の保安官に食って掛かる成瀬川、それに、苦い顔をした場羽亜、そして、全員がそれを見る。 次の瞬間、腹部を抑えてその場にうずくまる女性・・・安物のウインチェスターを持った少年が、震えていた。銃口から硝煙が何も無い空に向かって伸びている。 全員があっけに取られる中、一人腹部を抑える女性・・・白いワンピースが赤黒い染みに汚れていく、何かを口に出そうと成瀬川の口が動く、ゴボリと鮮血がアスファルトを汚した。 「クソッ!!」 悪態をつく場羽亜、アクセルを吹かせ、ハマーのタイヤから土煙が上がる。他の全員があっけに取られている中、素子と可奈子の反応だけが早かった。青山素子はすばやく成瀬川を回収し、可奈子は全員の頭を下げさせた。 そして、次の瞬間に、お決まりの銃撃戦・・・防弾性のガラスにヒビが無数に入り、怒号と悲鳴・・・そして、後を追いかけるパトカーのサイレン 「後ろの箱を開けろッ」 場羽亜が叫ぶ、素子が座席下の邪魔な木箱を開けると・・・FN‐MINIMI、西側諸国で幅広く採用されている軽機関銃を手にとる、鉄の重い感覚が両手に伝わり、弾帯を初弾に装填、天窓を開けて銃座を据えた。 全員が耳をふさぎ体制を低くする。相手も、めちゃくちゃに撃ってくるが、軍用銃と市販のライフルでは性能が違う、何台かのパトカーが煙を吐きながら停止した。 バックミラーを見る男が、口をゆがませた。が、それだけだった。後ろの座席では、紺野みつねが、成瀬川の身体を抱いて止血を試みるが、それもむなしい作業だろう。口から血が流れているということは内臓を傷つけている。はやく、施設の整った病院に搬送しなければ、助からない。 「どうしますか?」 冷酷極まりない可奈子の声が響いた。誰も答えない。硝煙と薬莢が充満する中、答えを出せないでいる。その中で冷酷極まりない答えを明るい口調で言う男 「どうにもならんッ」 「場羽亜さんッ」 「じゃ、どうする、また、あの検問所まで戻るか?他の街は?10キロは離れているぞッ、しかも、FBIは機能を停止してるが、州警察は生きている。このあたりの町には、俺たちの手配書が出回っているぞッ」 「・・・でも」 「・・・それとも、楽にしてやるか?」 ・・・この男は軍人だ・・・しかも、実戦の中、クソ溜めを何度も覗いた前線将校・・・可奈子のカンはそれを教えた。ダメだ、何を言っても無駄だ。何も映していない瞳の奥に実戦を知っているものしか解らない何かを全員が感じ、それいらい、誰も何も言わない・・・成瀬川の、くるし気な呼吸だけが車内に響く 「けい・・・たろ・・・ッ・・・」 キツネさんが、体温の急激に下がった手を握る。それ以外、何もしてやることが無い。 その、30分後、応急処置もむなしく、彼女は息を引き取った。死体は、アンカーソンの州道に埋め、位置を記憶した。 それ以外、何もしてやることが出来なかった。 道を行き交う徒歩やヒッチハイカーを無視して。幅の広い道路を走る軍用車両・・・ときどき、石を投げられる。子供や老人、男女様々な人々が街に背を向けていた。共通していることはひとつ、全員が黒人ということだ。 「こりゃ、『クリーニング』が行われているという噂は、ホントかもしれないなぁ」 「クリーニング?」 いぶかしげに聞き返すしのぶ、それを振り返り(運転はキツネさんに代わってもらっている)場羽亜がいやな笑顔を見せる。 「黒や黄色を、洗濯機に入れて、漂白する・・・・・・あら不思議、赤い洗剤を流したら、後は白くキレイな土地の出来上がり」 「州軍を動員しという話もありますが」 「そんなもの、当てになるかよッ」 確かにそうだ。アメリカは、そうでなければ、成瀬川が死んだ理由がわからない。たぶん、どちらに銃を向けていいのかわからない、パートタイマーを尻目に、お互いの自警団が街で抗争を始めているのだろう。有名な高級住宅街、フレンチクォーターが燃えているという話まで聞いている。 しかし、彼女たちにはそんなことは関係ない。締め切った窓(ルイジアナは熱気と蚊が多すぎる土地で有名だ)から見える荒野の中、ガタンと車が揺れた?いぶかしる可奈子? 「衛生情報では、日本人の収容キャンプはまだ先ですよ?」 「コッチでいいんだよ」 全員が怪しげな表情をするなか、ガタガタと道の無い場所を進む車・・・よくみると、他の車の轍もある。古いものだが車軸からみて、民間の車だが・・・・・・ さらに車が進み、いいかげん見飽きた荒野の中、すこし違和感のある風景・・・・・・コンクリート製の巨大・・・・・・というよりも、特撮映画の秘密基地を思い出させるもの、そして、一台のバンが止めてある。 「あれは?」 可奈子の表情が変わった。場羽亜は警戒の色を顔に出しながら、車外に出てコンクリートの建築物に近づく、バックアップなのだろう、素子がミニミの銃座で、銃を構えていた。 多分、ノックをして、一言二言唱えた場羽亜の表情が緩み、大きくてを振った。検問で、あらゆることに懲りた日向荘の面々が、一人二人、場羽亜の下に近づく 鉄製の重いドアが開き、以外というしかない人物が、顔を出した。 「いや、みんな・・・元気だった?」 冴えない作業着を着たメガネの男に可奈子が抱きつく 「お兄ちゃんッ!!」 |