大量破壊兵器の発見という偽りの大義を掲げつつも、石油メジャーと軍需産業の利権のためにだけイラク戦争を仕掛けたブッシュ政権と、取り巻きの保守派ネオコン勢力。――その後ろ盾になっているのは、世界有数の投資機関カーライル・グループである。
だがここにきて、そのからくりが、英国BBCテレビの取材などで次第に明らかになり、米国世論もようやく反ブッシュに目覚め始めた。
そんな中、民主党を支持するリベラル勢力が開催した反ブッシュを掲げたデモ集会に、ネオコンを盲目的に信じる熱狂的共和党支持者の一団が乱入し、多数の負傷者が出る事件が起きてしまった。この騒ぎは全米に拡大。各地で暴動並みの衝突が頻発している。 これに対してブッシュ大統領は、本来は被害者でもあるリベラル派だけの集会・デモ隊の排除を州兵に命令。多くの一般市民が負傷し、さらには一部地域で強行された実弾射撃を伴う排除で、死者が続出するという最悪の事態にまで発展してしまった。 これを受けて世論は一気に、ブッシュ政権の強権的手法を糾弾する方向に傾くかに見えた。 ところがネオコン勢力はこれに怯むどころか、逆にこの騒動を、自分達の権力基盤の強化に利用しようと画策。大統領は全土に非常事態を宣言し、合衆国憲法の一時停止を表明。同時に、大統領へのさらなる権限委譲を押し切ってしまったのである。 現在、これを看過できない、西海岸を中心とするリベラル派勢力が各地に結集しているとの情報が確認されている。一部では、州軍・米軍の兵士も、基地単位・部隊単位でこれに合流し始めているという。 一方、この抵抗勢力を排斥したい東海岸を中心とするネオコン派勢力は、非常事態下でのこの動きは国家に対する反逆に他ならないと激しく糾弾。徹底的な制裁と処分を実施すると明言した。 そして本日西部時間早朝4時、両派はついに内戦状態へと突入した。 南北戦争以来の、自由と真の正義をかけた戦いの火蓋が、今切って落とされたのである。 戦場まで何マイル? ひなた旅館のリビング・・・暗く沈んだ空気をかき回すようなテレビの雑音が響く 「可奈子ちゃん・・・その・・・」 住人の全員がそんな空気を嫌ってか、あまり近づかなくなったその場所に、今日もテレビを食い入るように見ている少女・・・画面には派手な爆発音と力強い兵器が羅列され、粉飾甚だしい戦火と、プロパガンダ臭い放送を垂れ流すリポーターが写っている。 しかし、彼女の瞳にはそんなものは写っているのか・・・米国三大放送を拾ったニュースが終わり、日本のジャーナリストが映される。溜飲を下げたようなニュースキャスターに吐き気を覚えながら、次のレポートを食い入るように、聞き入る浦島可奈子・・・ 『それでは、東側に拘留されている日本人の情報ですが・・・・・・』 「・・・・・・おにいちゃん・・・ッ・・・」 そこで、少女が初めて感情らしいものを顔に浮かべる・・・彼の義兄、アメリカに留学した青年、アメリカの馬鹿馬鹿しい内戦に巻き込まれ、強制収容所うに抑留された、愛すべき人・・・その名前が、画面の端に踊る。 そして、それを見つけ頬に熱いものが流れる・・・まだ、生きている・・・生きているんだ。 それだけを伝えると身体のすべての力を無くしたように、床に崩れ落ちた・・・本当に良かった・・・誰かが、自分の身体を抱き留める。でも、お兄ちゃんは、生きている・・・本当に、よかった・・・ 「断るッ!!」 「そこをなんとか・・・」 軽薄そうなコートの男が食い下がるのを青山素子は一蹴した。日向荘の屋上、タバコの煙が清浄な空気を汚しながら、どこまでも不似合いな男がニヤついた顔で頼み込む、と、言うよりも下手な商人のように、作り笑いを浮かべている。 「そういう仕事は、姉上の管轄のはずだ。」 「彼女はいま、半島の方に行っている。あっちが騒がしいですから」 そのとおりだった。今回の混乱に米軍は朝鮮半島の即応部隊を鳥山、軍山から撤退した。皮肉にも、ノ・ムヒョン政権の反米感情と合致した形となってしまったことで、また、38度線が慌しくなってきている。 そして日本は、過去と違い、表向きに海外の国際紛争に介入するわけには行かなかった。特に諜報活動においては、明石大佐のように露骨な国益誘導を行うわけには行かない。と、いうわけで、明治以降、脈々と受け継がれていた“政治的”に関係が無い組織がその代替を行っている。特に、彼女の姉はその活動に積極的であり、CIA、SVR(ロシア連邦対外情報部)、中国国家安全部の政治局、と、何故か韓国の国家安全企画部にも彼女の分厚いファイルが存在している。 この国の、誰も知らないところで再び諜報戦の春が始まろうとしていた。 その尖兵なのか、日向荘に来たこの男、まずは、営業のサラリーマンのように渡した名刺には、統合幕僚会議情報本部の肩書きと場羽亜という怪しい名前以外書いていない。ようするに何も書いてない長方形の厚紙を見た。いや、一つだけわかるのは、ろくでもない人間ということだ。いや、考えてみたら自分の周りにろくな人間がいた記憶が無い。姉上もマタ・ハリのようなことは無いだろうが、その手がキレイだったことはほとんど無い。そのせいか、結婚して三年近く経つが、赤ん坊が生まれたという話は一度も無い。まぁ、自分が女だったら血に濡れた手で、赤ちゃんを抱こうと思わないが 「とにかく.気が変わったら電話をください。いや、まぁ、すぐに返事がもらえるに越したことは無いですが」 ヒラヒラと薄い髪封筒を振った。ほとんどが黒い棒線で簡単な情報規制をしているが読める部分だけで内容を把握すると、東部邦人の保護という美名が踊っていたが、内容はわからない。現場でなにをさせられるかも、まったく解らない。もしかしたら売国奴とてし働かされるかもしれない。 そして、何より気に入らないのは、自分がこの誘いに乗るだろうと予想できるからだ。もちろん、それを見越してこの話をもってきたのだ、ニューオリンズにある、日本人収容キャンプ、そこに、われ等が管理人殿がいる。 気が付いた時、自分の部屋に寝かされていた。 目の前に、寮の前原しのぶが心配そうにこちらの顔を覗く 「か、可奈子さん?」 「・・・・・・ッ」 静かに目を開けた彼女、身体を起こして部屋の中を捜す。しのぶがそれに気付くと、慌てて部屋の中に移動したテレビのスイッチを押した。 「可奈子さん・・・あの、少し何か食べたら・・・」 「あの・・・喉に通らないので・・・」 「でも・・・」 出した膳を戻す。彼女の腕は、ぞっとするほど細かった。 もう、3日は何も食べていない彼女・・・3日前、以前から政情が不安になっていたアメリカに、留学していた浦島景太郎の消息が不明になった日だった。 以前より単独主義に傾いたアメリカで、市民活動が暴動に発展し、大統領が非常事態宣言を発令したかの国は、完全に理性というものを忘れていた。 特に、大統領の地盤、南部地域が酷かった。人種問題や経済の停滞が相まって、怪しげな外国人が、移動が難しくなったというニュースが流れてから、彼女の兄からの電話では「大丈夫だよ」と、優しげな声を信じ、祈るように悪化する治安を心配していた可奈子にそれが、兄の最後の言葉と乗ってしまった。 そして、事体は着々と最悪な方向に進んでいる。最初は暴動の鎮圧が警官だったのに、いつのまにか州兵が動員され、主要人物の予備拘禁がはじまり、夜間外出が禁止され、その混乱に乗じて、テロや犯罪が増加した。 警察や軍は怪しいというだけで暴行、逮捕し、人種や貧富の差などアメリカの問題が一気に噴出した形になった。そして、自業自得というにはあまりにも、世界に与える影響は大きい。 まず、国連というものが完全に機能が停止した。ニューヨークに戒厳令がでたので当然といえば当然だが、一部はオランダのハーグに機能を移したが、それでも、国連軍を組織するなど不可能となっている。ただでさえ、世界中で、アメリカの軍事力という枷が緩んだせいで特に極東で、軍事的バランスが崩れようとしているなか、世界の軍事大国の内戦に干渉しようとする国など存在しなかった。 そして、また、ニュースに目を向ける。画面では軍事ジャーナリストや政治家が意味の無い論議を繰り返している。ルイジアナの映像が入った。近年ハリケーンで多大な被害が出た土地に、バラックを建てただけの外国人保護地域・・・・・・すでに、疫病や処刑がはじまっているという情報も一部では流れている。 ぞくりと身体が震える。世界中を祖母と見ている自分は、そんな現実を嫌というほど知っている。かつてのアウシュビッツと同じようなもの、民族浄化や紛争で死んでいった名も知らない人たち、その、中に自分の最愛の男性が加えられる恐怖・・・前原さんが、そっと自分の肩を抱いてくれた。テレビの画面では、暴動を起こす市民と荒れ果てた街を飽きることなく垂れ流している。 フスマが開けられた音に気付かず、抱き合う二人を見つめる眼―― 「まるで、負け犬だな・・・」 どこまでも冷酷な言葉だった。 「そうやって、無意味にテレビの前に座っている以外、何も出来ないのか・・・浦島可奈子ッ」 「・・・ッ・・・」 何も言い返せない。巨大な荷物を背負った女性、青山素子は、侮蔑そのものの瞳で、見下げている。 「そうか、ならば私が浦島を助けに行く・・・ルイジアナは解放的な土地だからな、何か“間違え”が起こるかもな」 「・・・言っている意味がわかりません」 「そのままの意味だがッ?」 オロオロとする前原さんを無視して、彼女の目を睨み返す。窓から、断続的な人口風が頬をなぜる。大型ヘリ・・・CH60のロータ音、そして、自分の脳が横須賀に“おおすみ級”揚陸艦が入港中なのを思い出させた。確か、表向きはハワイ沖に演習のため、そして、実際は、西海岸側の反乱軍の視察を行う部隊・・・ 浦島可奈子の口の端が上がった。そういえば、笑うのも3日ぶりだった。笑いの種類を別にすればだが。 船に揺られたのは、長いのか短いのか解らない3日間だった 降り立った空母『ジョージ・ブッシュ』級に皮肉を感じつつ、可奈子は、とにかく東の方角に目を凝らす。サンディエゴのゴールデンブリッジが、その威風をさらしている美しい軍港・・・しかし、今はとにかく雑多な艦船が行き来している印象しか受けない。西部側(以後、反ブッシュ勢力をこう訳す)に参戦、応集した部隊が集結しているからだ、一時期、パナマ運河を破壊するのではないかという情報が飛び交ったが、現在は両方の勢力はまったくその場所に手を出していない。この状況で、南米やメキシコを刺激しすぎるからだ。専門家は、可能性としてパナマに運河機能の一部を譲渡するのではないかと考えているものもいる。 皮肉なものだ、浦島可奈子は表情をまったく顔に出さずに混乱に陥った大国を眺める。隣に、同じ表情の女性がならんだ、もちろん、合衆国の人間ではない。 「まってなさいよ、景太郎ッ、今度は捕まえてやるんだからッ」 隣に並んだ女性は、軍用のタクティカルベストを着てもその強調された胸を張っている彼女・・・私と同じように三日前までは死人のようだったのが嘘のように復活しているのに苦笑する。そんな私を、不思議そうに見る成瀬川なる 結局は、日向荘の全員がこの場所にいることになる。武器の使い方、現地でのサバイバリティなどは皆無に等しいが、行動力だけは、どんな歴戦の兵隊も及びもつかない彼女たち、だが、今回の旅行は北海道やパララケルスとは違う、何を考えているのかそれこそ、旅行代理店のように、にこやかな場羽亜だが、今向かっている場所は紛れも無い戦場なのだ、そして、彼女たちはパスポートや、身分書を破棄させたあの男の意図がわかっているとは思えない・・・いや、一人だけ紛れも無く警戒している人間がいるが、彼女は何も口にしていない。当然だ、彼女事体薄汚い犬である可能性があるのだ。 それでも・・・彼女は再び巨大で強力で、その出現により世界史を単純な力の往復運動にした大陸を睨んだ。 そうだ・・・たとえ、世界を敵に回しても、私には助けるべき人がいる。 |