どこをどう歩いたかわからない。
ただ赤く燃える森の中をさまようようにして歩いた。
行き先など無い。
決めてすらいない。
ただ赤く燃える炎を避け。
ただ生き残る。
それだけを考えて俺は歩きつづけていた
もうどのぐらい歩いたのだろうか。
既に時間の概念すら頭に無い。
ジェイクにやられた傷を、シャツを破いて作った簡易の包帯で縛り止血。
背負った咲には外傷はなく、ただ気絶させられているのみ。
気が付くまで待っている訳にはいかなかった。
その場に呑気にいたら、火に囲まれてしまう。
さすがにそれはまっぴらごめんだった。
俺は、すぐ傍に転がっていた咲のカタナを鞘に納めると、
それを杖にして、まだ火の移っていない方向へと足を運んだ。
体を走る痛みや疲労、普通で考えれば身動きが取れない状態。
だが、おれは俺の脚は歩みを止め訳にはいかない。
もし止めたら、先には恐ろしい運命がまっている。
生きたいか、死にたいかを俺は運命に問われている。
だが、俺にはそんな余裕はなかった。
無我夢中に体を動かす。
だが、それだけだった。
ただ、これだけは思っていた。
このまま咲に死んでほしくない。
ただそう思っただけで俺の脚は前に進んでくれた
今の俺を……
今の状態の俺を見て
アイツは、クレアはなんていうだろうか
その度に……
(仕方がないわね…)
俺よりも年下の癖してお姉さんぶるクレアの苦笑が頭に思い浮かぶ。
「あぁ…こうなる前に対処すべきだったんだよな…」
と後悔の念を口にするが……
言ってみたところで何もかもが手遅れ。
どうにもならないという事実だけが容赦なく俺を包み込む。
今まで必死こいて戦ってきたこと。
数多くの仲間を死なせてしまったこと。
クレアを死なせてしまったこと。
そして、いま咲が俺と一緒に絶体絶命の状態であること。
逃げる事が出来ない事実だ。
「けど……最後まで諦めたくはないんだよなぁ……」
命令に逆らって俺を撃たなかった優しすぎるドク。
命令に従うを由とせっず一人悩んでいるクレイ。
俺がジェイクにやられそうになったときに必死に助けてくれた咲。
クレイの背中の上でクレイを案じる瑞樹。
ドクに必死にすがる思いでドクを追っていった恵理。
できれば……
できれば全員で生き残りたい。
たとえ俺が駄目だったとしても咲だけは何とかしたい。
せめてこいつだけは……
「あいつなら…クレアなら笑って許してくれるよなぁ…」
きっとアイツは怒るだろう
自分はともかく、咲達を悲しませてしまった。
それをきっとアイツは俺にこういうだろう。
「おつかれさま…ジェイ…」と……
いつの間にここまで来てしまったのだろうか。
火の海をかいくぐるようにしてたどり着いた先。
それは、くしくも俺と咲があの日の夜、共に生き残ると誓ったあの祠。
爆撃の後が生々しく、白い外壁などは影も形も無かったが、
その入り口、あの時と同じように黒い口をあけてそびえる瓦礫の山は、
紛れも無くあの祠だった。
周囲には木々が無かったせいか、あたりに火の気配は無い。
入り口にたどり着くと同時に、安心感が体中を駆け巡り、
途端にその場に倒れそうになる。
「くっ! まだだ。まだ終わりじゃねぇっ!」
体を奮い起こし、両足に力をこめると同時に、ついていた刀を入口の壁に立てかけ……
そっと咲を地面に置く。
未だ眼の覚めぬ咲。
咲のささやかな胸の辺りが上下するのを見てほっと息をつく。
限界。
咲の様子を確認したと同時に駆け抜ける脱力感。
両膝を突いてうつぶせに倒れそうになるのを、
なんとか入り口の壁にもたれかかることで乗り切る。
「なんだか気が抜けてきやがった…」
咲の安らかな顔を眺めているうちに感じる手足からの脱力感。
「まったく戦争中だっつうのに、なんてシアワセそうな顔しやがるんだ。人が必死こいて
ここまで来たっつうのに……」
まだ、手足に力が入るうちにと、咲を抱き起こし、そして怪我の無い右肩に咲の頭をあ
てがうと、俺は静かに語りかけた。
「なぁ……咲。その、ありがとうな。最後の最後まで俺は俺ででいられた。クレアと交わ
した何とか約束の一部は果たせそうだ。何よりも、守りたいと思ったお前を、守ることが
できた。そのシアワセそうな顔で。その笑顔でずっといてくれよ」
いかん……そんな咲の表情を見ているうちに、眼の前がかすんできた。
咲の小さな吐息以外に俺の耳には入ってこない。
まあ、強いて言えば、爆撃の音と燃え盛る炎の音ぐらいか……
「最後に…約束…果たせなくて…ゴメン…」
俺は静かに眼を閉じる。
ただひたすら眠るのみ。
そして、咲と共に戦争中ではありえない安らかなときを感じていた。
ラブひなOSS 「サクラが咲く季節に」 第15章 「Last Regret」
まただ……
目の前には白い世界。
いつも見る黒く塗りつぶされた悪夢ではなく……
一面に広がる白い世界。
上も下もわからない。
何やってるんだろう。
寝ているのかもわからない。
目の前に広がっているのが白一色で塗りつぶされているということ。
それが分かっていること。
手も足も動かせない状態。
とうとうお迎えが来やがったのかとも思えど……
白い世界は幾ら経っても変わらない。
(なんなんだろう、一体……)
つぶやきすら自分が発したとしか認識できない白い世界。
耳元に響いているのは無音。
何も何もかもが音を発していない白い世界。
(来るなら、さっさと迎えに来やがれってんだ!)
あれだけ散々戦争中に人を殺した罪人の俺。
行き着く先が住み良い場所じゃないことは確かだ。
自分のしてきたことを悔いるつもりは毛頭ない。
ただ自分ができなかったこと、どうにかできたんじゃないかと思うこと。
それに対する悔いだけが俺の中に残っている。
きっと、俺はそれをずっと悔いていくことになるだろう。
(あいつに……クレアにだけは謝りたいなぁ……)
ふとクレアの顔が思い浮かぶ。
これまで散々見てきたクレアという名の悪夢。
俺は不覚にも目の前で彼女を失ってしまった。
少し近づけば彼女に手を差し伸べられた。
撃ったのはジェイク。
けれども、彼女を救うことができなかったのは紛れもなく俺。
(……っ?)
ふと、俺は誰かの気配に気付いた。
すぐ傍で俺の頭を見下す誰かの気配。
(そうか……俺は倒れたままなのか)
その誰かは俺が今この場で会いたかった者。
一緒に居た時間はほんの数日しかなかったが……
ひと時たりも俺の頭の中からその表情は離れることはなかった。
彼女の最後を看取った俺。
その彼女の笑顔。
あの時と同じ笑顔をしたクレアの顔があった。
(よぉ、クレア……元気だったか)
既に亡くなっている奴に対して元気かはないだろう。
自分で考えてみてもそれがおかしいことはわかっていた。
でもそれ以上にクレアに会えたことがうれしかった。
最後の最後でクレアに会えたことがうれしかった。
言いたいことを言うことができて……
(なんとか……お前の二の舞だけは防げたと思う)
ゆっくりと胸のうちに溜まった言葉を短く吐き出す。
(最後まで……諦めなかったぞ……俺は……)
最後まで咲を守ったという充実感。
俺の胸の中にこみ上げる達成感。
ふとクレアの顔を見るとなんだかうれしそうであるんだけど……
どこかしら不満気な顔をしている。
(そうふてくされるなよ……あいつも……やっぱり大変だったんだぜ)
年齢不相応に落ち着いた振る舞いの裏側にいるあいつ。
咲はいろんなものを抱えて戦っていた。
敵ではなく、場所でもなく……
まぎれもない自分とその不安に押しつぶされまいと……
気張っていた咲。
いつからだろうか……
出会ってそんなに経っていないにも関わらず。
あいつのことを思うようになったのは……
いつの間にか傍にあいつがいることが自然になっていた。
(そう……なんというか……おまえになんとなく似た奴だ…不器用なやつでな)
自分の気持ちをはっきりといえなかった咲。
最後にはあいつなりの素直さで表現していたっけ。
あの祠での夜に二人でなんとなく話した。
あいつらしいとても堅苦しい口調で生真面目さであいつ自身を物語るかのような……
その真っ直ぐな眼と心根で生きると誓った。
どんなことがあっても生き残ると誓った。
不器用なという点では俺も同じだな。
自分の言葉ではなくクレイの台詞を借りることでしか自分の気持ちをいえなかった。
そういう意味では、俺も似たようなもんか。
なんとかお互いに約束も守ることができたしな。
俺と咲。
お互いを守り抜くと誓った。
その誓いに偽りはなく事実。
俺はジェイクにやられそうになった咲を助け……
咲はジェイクにやられそうになった俺を助けた。
俺の独白を静かに聞いていたクレアはやっぱりどこかさびしげな顔をしていた。
(最後にお前に会えてよかった。本当に良かっ……た)
最後だから涙は似合わない。
だけど俺の中に溢れた気持ちがいやおうなしに涙腺をもろくさせる。
その気持ちはなんだろうか?
後悔?
それとも弔ってしまったクレアへの懺悔?
それとも、今まで自分が歩いてきた道程に対する虚しさ。
(お前とは、一緒に、行けそうもない。だから、ここで……)
物言わぬクレアの目線を真正面に捕らえ……
自分の中での最後の言葉をかみ締めるようにしてクレアに伝える。
(……っ! ……! ……!)
急に耳元が騒がしくなった。
雑踏の中での台詞のない喧騒。
それにも似た雑音が俺の耳元にこだまする。
目の前では、クレアが必死の形相で俺を怒鳴りつけているようだった。
しかし、俺の耳に届いているのはわけのわからない雑音の群れ。
(悪りぃ、クレア。何を言っているのか、俺にはわからねぇ……)
眠くなった。
どうしようもないほどまぶたが重い。
涙ながらに俺に怒鳴りつけるクレアと耳朶に鳴り響いてやまぬ叫び声にも似た雑音。
それを前に、俺は永遠にも似た眠りに入ろうとしていた。
(……! ……! ……じぇいっ!)
雑音の中ではっきりと鳴り響いた。
俺の名を呼ぶ声。
懐かしい。
そんなに思い出すようなほど古い記憶ではないはずなのに……
なぜか懐かしい。
そう呼ばれるのが自然でそう叫ぶようにして俺の名を呼ぶその声が懐かしい。
その生真面目な必死さが、その真っ直ぐな生き方が、なぜか愛しかった。
(あっ!?)
そんな思いにとらわれた瞬間。
俺の右ほほに伝わる鈍い衝撃。
振りぬかれたクレアの右腕。
クレアに思いっきりひっぱたかれたと気づくまでに数秒。
眼の前にいるクレアは先ほどよりもまして怒っていた。
何に対して怒っているのか、俺には分からない。
やはり先ほどから鳴り響く雑音でクレアの声は俺に届かない。
(悪りぃ……俺のことで怒っているんだろうが……って、おい、クレア!)
だんだんと霞がかったようにクレアの姿が薄らいでいく。
俺を怒りの目でにらみすえていたクレアが今はさびそうに微笑んでいた。
ゆっくりとクレアの口が開かれ……
消え行くクレアの姿の最後が俺の眼に強制的に焼き付けられていく。
(おい、待てよ。まだ……俺は、お前に!)
消えていくクレアが最後につぶやいた言葉。
鳴り響いている雑音がその声を掻き消していたが……
その唇が……
最後まで言葉をつむごうとしていたその唇が……
はっきりと俺に最後の言葉を伝えていた。
「ありがとう…ジェイ。サ ・ ヨ ・ ナ ・ ラ 」
(なに……いってんだよ……俺の方こそ……アリガトウな……)
つぶやいた言葉の先にはクレアはいない。
ただ俺には耳の残った独白のみが残された。
先ほどまでの雑音がだんだんとそして俺に近づいてくるかのように大きくなっていく。
その声はどうやら俺を呼んでいるらしい。
(やれやれ、行き着く先はどんなところやら……)
雑音に惹かれるようにして薄らいでいく白い世界の俺の意識。
なぜか気分はやすらぎに満ち溢れているような気がした。
************************************************************************************************************************
先ほどの白い世界。
もう一度眼を開いてみると今度は別の世界となっていた。
目の前に移っているのは、木で作られた天井。
どうやらどこかの部屋に俺は寝かされているようだった。
体中に感じる布の感触。
目線の位置がやや高いことを考えると、ベッドのようなものに俺は寝かされているらしい。
「夢……か」
先ほどまでのクレアとの邂逅。
いつも見ていたあのときの光景とは違って、まるで物語の最後のようなあの情景。
忘れられぬ涙ながらに微笑んだクレアの顔。
「……ということは、まだ俺は生きてるってことか……」
気づいてみれば、左腕がやけに重い。
何かがのしかかるようにしているそれ。
寝返りを打ってそれを確認しようにも、てこのようにうごかないそれ。
なんとか首だけをそちらの方に向けると……
俺の左手を抱きしめ、なおかつ俺にもたれかかって眠る咲の姿があった。
「あぁ……」
なんとなく。
なんとなくだけど、胸のあたりが熱く感じる。
生きていた。
あの咲が生きていた。
果たせた。
果たせたんだ。
あの日交わした約束を……
俺の左腕にもたれかかるようにして眠る咲。
泣きつかれて眠ったのか、その目元にははっきりと涙の跡。
その瞑ったまなこに宿るは悲しみの伏せ目。
自然とあいている右手が咲の頭へと置かれる。
「ごめんな……心配かけたんだな……」
ゆっくりと咲の頭をなでる。
すっと滑らかに感じる咲の艶やかな黒髪。
こころなしかその表情に安らぎがかえってきたようにも思う。
そうか。
嫌だったのは。
何よりも嫌だったのは、守りなたい人に泣かれること。
クレアに泣いて欲しくなくて、俺は彼女を守りたかったんだ。
その笑顔を。
笑っていて欲しかった。
俺のすぐ傍で眠る少女。
咲にも。
彼女自身の微笑みを守りたかったんだ。
「……んっ……」
時折、くすぐったそうにしている咲。
この時間が何よりも変えがたく、そして愛しい。
今、俺達を取り巻く現状がどうなっているのか。
まったくわからない状況だった。
でも、そんなことなんて関係ない。
クレアの笑顔を守れなかった俺が、咲の笑顔を守れた。
そして、この先も守り通したい。
その思いが俺の中を駆け巡っていた。
ゆっくりと流れる時間。
かみ締めるようにその時の流れを感じる。
ゆっくりと流れる時間。
撫でている咲の髪。
俺のほほをうっすらと流れるこの部屋の空気。
南国特有のからっとしたにおい。
その全てが心地よい。
「……じ……じぇい?」
どうやら咲が目覚めたことに気づかず、ずっと咲の髪をなでていたようだ。
撫で続ける俺の右手をそのままに、あきらかに驚愕した顔で俺を見つめる咲。
どうやら突然のことに言葉が出ないらしい。
男の俺に自分の髪を撫でられていること。
咲の目の前であきらかに微笑んでいるだろう俺。
眼の前にある全てが咲の頭の中の想像を超えているようだ。
かといって、俺もどんな言葉をかけたらよいのかわからない。
気軽に挨拶するのか?
それとも、かっこよく何かを決めるのか?
そんなことを考えていても、やっぱり俺は不器用なようだ。
「サキ、無事だったか?」
死線を乗り越えたのだというのに。
そのサキの顔を見る限り、俺を必死に心配していただろうことはあきらかなのに。
彼女にかけられた俺の最初の一言は無粋の限りだったにちがいない。
しかし、俺がかけた一言にサキは何も答えなかった。
俺の言葉に答えていたのは、彼女のその表情。
こらえ続けた思いがとまらない、まさにその表情。
まるで、激情のままに泣き始めた子供のように。
そして、ゆっくりと俺の胸に向かって倒れこんできた。
「……ばかものっ! ばかものっ!」
一緒に行軍する間、ずっと気丈な態度を崩さなかった咲。
その咲が俺の胸の上で弱弱しく震えている。
涙ながらに俺を罵倒する声を小さくつぶやきながら俺の胸をたたく。
ゆっくりと咲の頭を撫でていた右手を咲の背中へとあてがい、そして優しくさする。
そして、言葉にならない咲の声を俺の胸に刻み込む。
聞き覚えのある声。
それは行軍中に交わした咲の言葉とはちがう。
あの、最後の、クレアと会った、夢の中の声に似ていた。
いや、そうにちがいない。
だって、俺の胸を通して俺の中にこだまする咲の泣き声は、
あの時の声そのままだったのだから。
「すまない…本当にすまなかった…咲」
うっすらと俺の視界が霞がかったように揺らぐ。
俺の胸の上にいる咲の頭に、口付けをするようにして謝る。
きっと、咲の顔を見たらいえないだろう。
俺の視界は既にぼやけてしまっていて、まともに彼女の顔を、
彼女の目を見て話すことができない。
傍目でみればなんてハレンチな行為だろうと思う。
だけど、俺の今の気持ちだけは彼女に伝えたかった。
決めたはずの咲との約束。
共に生き抜こうと、俺と咲と、そして仲間達と全員で生き抜こうと決めたあの日の誓い。
彼女を守り通したと思って、自分のことを省みていなかった俺自身。
俺が死に掛けて、咲がどう思ったのだろうか。
俺が死にはぐってクレアの夢を見ている間、どれだけ咲が俺のことを思ったのだろうか。
そう思うと、言葉だけではなく、俺の今の気持ちの全てを咲に、咲の心に届けたかった。
その場に響いていたのは、咲の嗚咽と俺の嗚咽。
二人して、かみ締めるように、口からこぼれる感情を叫ぶまいとしていた。
抱き合ったままの俺と咲。
交わされる言葉などなかった。必要すらなかった。
ただ、共に感じるお互いの鼓動とぬくもり。
そして、感じているそれがなによりも脳裏に響き渡る。
「なぁ……咲」
ん、と顔を上げ、間近に見える俺の目を見ることで答える咲。
まだ、乾ききらぬその黒い瞳。
悲しみではなく、他の何かの感情に彩られたその瞳で俺に続きを促す。
「言っただろう……」
やっとのことで搾り出した言葉はやっぱり俺の言葉ではなくて。
でも、それが今考えうるおれのことば。
ともすれば泣いてしまいそうな俺の顔を無理やり笑うようにして言葉を続ける。
「俺達の予定表に……ここで終わりだなんていう……しけた終わりはねぇんだよぉ」
言いながら溢れてくる喜びが俺の体を揺り動かす。
とまらない涙をそのままに咲をぎゅっと抱きしめた。
叫ぶようにして繰り返す。
言い聞かせるように、咲に、何よりも自分に。
「終わりじゃない……終わらなかった……終わってねぇんだよっ!」
信じられなかった。
まだこの期に及んで信じられなかった。
眼の前に咲がいて。
俺もその場にいて。
あの戦場から生き延びて。
悪夢だったクレアのことが全てわかって。
今、この場に生き残ることができて。
腕の中にいる咲が現実であることを確かめるかのように、
俺は咲を抱きしめていた。
いる。
咲がいる。
俺の腕の中にいる。
嘘じゃなく、夢でもなく、ただ現実のものとして。
抱きしめられた咲は最初のうちは呆然としていたものの、
ゆっくりと両腕を俺の背中に回し、そして俺の心臓に向けて答えた。
俺の体から響き渡るようにして伝わるその言葉。
「あぁ……終わりじゃない……これからが始まり……そして……
俺達の予定表はまだまだ続くのさ」
next to Episode:1