ラブひな IF       〈白夜の降魔〉

 

 

 

悲灯 「忘却の歴史―――――後編」

 

 

 

「今までの映像が全て本当にあったことだとすれば……何とも皮肉な話だな」

 

 再び闇に包まれた空間にて―――――景太郎は開口一番にそう呟いた。

 

「遥か昔にも、俺のような馬鹿が居たとはな…………いや、あそこまで抗った以上、俺よりはましか」

 

 右手で顔を覆い表情を隠す景太郎。その口元は嘲笑するような笑みが浮かんでいた。しかし……

 

「響子……」

 

 手で覆い隠した部分から顎に向かって、二筋の水滴が流れ落ちた。

 

 

 

 そして、闇の空間に光が満ち…四度目となる光景を映し出す。

 その光景は……一言で言えば、まさに地獄であった。

 

 夜空にある満月の光が降り注いでいる平野に、数えきれないほどの骸が野晒しにされていた。

 首を切り落とされた者、胴体を切断され上下に分かれた者、脳天から股間にかけて二つに裂かれた者、四肢を断たれた者。おおよそ、楽には死ねなかったであろうと思われる骸ばかりが大半を占めていた。

 そして、その骸から流れる血が地面に広がり、大地を仮初めの血の海に仕立てていた。

 

 そんな屍山血河の中、一人の男が積み重なった屍の上に腰掛けて休んでいた。

 その男はボロボロの着物で身を包み、髪は伸び放題……一見ただの浮浪者だが、手に持った刀と瞳がそれを否定していた。
 刀はつい先程まで扱っていたように抜き身であり、瞳は殺意の光と負の闇が同時に宿っていた。

 

 冥府魔道を生きる修羅か羅刹…はたまた悪鬼か。男を見た者は何れかの印象を受けるだろう。

 

 暫しの間、男は休んでいたが突如前方を…夜の暗闇に閉ざされた空間を見据えた。

 すると、その闇の向こうから強大な妖気を漂わせた、小山のように大きな存在モノが現れた。

 

「撒き餌につられ、ようやく現れたか」

 

 その現れた存在に、男は薄ら笑いを浮かべつつ腰掛けていた屍の山から立ち上がる。

 

「並大抵の術者や武芸者ではもはや大した糧にはならん……だから貴様らのを貰うぞ」

 

 盛大な血と肉の臭いに惹かれて現れた人ならぬ存在。端から屍を貪欲にむさぼる悪鬼達に向かい、男は刀を片手に歩み寄る。

 

「糧となれ…」

 

 男の姿がぶれるように消え―――――鬼達の背後へと姿を現す。その次の瞬間、その鬼達は細切れにまで分断された。

 肉片にまで細切れになった鬼達の身体は重力に引かれて地に落ちる。すると、地に落ちた鬼達の肉片は黒い蒸気のようなものを放ち、それと比例して干涸らびる。

 そしてその黒い蒸気のようなものは須く男の持つ刀に吸い込まれ、刀身が心無し輝きを増した。

 それを確認した男は、刀身を暫し眺めた後、口惜しそうに舌打ちをした。

 

「チッ……よもや、鬼の魂ですら大した糧にはならんとはな。やはり大物を狙うしかないか」

 

 

「それで……今までにどれだけの命を奪ってきたのですか……」

「ん……?」

 

 背後から聞こえた声に男はゆっくりと振り返る。

 そこには、美しく艶やかな黒髪を馬の尻尾のように頭の後ろでポニーテールに纏めた美しい女性が立っていた。そしてその表情は己の内の激情を必死に抑えている…そんな何とも言えない顔をしていた。

 

「誰だ、貴様は……」

 

 見覚えのない女性に対し、男は胡乱そうに睨み付けながら言い放つ。そんな男の態度に、女性は途端に冷たい顔となって男を睨み返した。

 

「本気で仰っている様子ですね、兄上……」

「兄? お前、もしかして燕か?」

「もしかせずとも、私は〈青山 燕〉です」

 

 男…龍斗の言葉に、燕はきつく言い返す。

 そんな燕の態度に龍斗は喉を震わせて笑う。どちらかと言えば可愛らしかったその外見は、この数年で見違えるように美しくなっていた。が、そんな態度は昔とまったく変わっていない。

 

「綺麗になった……と、言ってやるべきだな」

「そんな事よりも……神鳴流の戦士達を、そして父上を殺してから今までの『三年間』、一体何をされていたのです」

 

 龍斗の言葉を燕は一言で切って捨てると、更に強く睨み付けて言い募る。

 

「何をしていたと思う?」

「大体の事は知っています。ですが、兄上の口から聞かせてください。何故あのようなことをしたのかを……」

 

 再び激情を抑える顔となった燕の言葉に、龍斗の表情から笑みが消えた。

 その際、この場で初めて向けられた龍斗の眼を見て、燕は思わず息を呑む。三年ぶりに見た兄の瞳に宿る、闇のような黒い淀みに……

 

「事情を知りつつもなお聞くか……いいだろう。そんなに聞きたいのなら話してやる。
 三年前…牢屋から出た俺は、まず最初に青山の屋敷に赴いた。総代を斬るためにな」

「父上を……」

「途中、邪魔する奴らを斬り捨て、最後に総代を斬った。他の連中はともかく、総代は良い糧になった。危険を冒してまで狙った甲斐はあったよ」

 

 ククク……と、暗く笑う龍斗に、燕は苦い顔をしてギリッと歯を食いしばる。

 

「斬った存在モノを糧に……情報から推測していましたが、やはり【死魂の禁呪】を……」

「ああ、【ひな】に施した。斬った存在の血肉や魂を糧として力を上げる、あの禁呪を。強くなるためには、一番効率のいい方法だからな」

「そこまでして…………」

 

 言葉を失う燕。何のために、どうしてそこまで力を求めるのか、それは燕も知っている。だが、その為にそこまでやる兄に、燕の心は引き千切られそうなほど苦しかった。

 その燕の苦悩を知ってか知らずか、龍斗は一笑すると続きを話し始める。

 

「そして、俺は旅に出た。本当なら、浦島の宗主も斬り殺して糧にしてやりたかったんだが、そこまでの力はあの時にはなかったからな。だから、俺は宗主を…そして〈涅槃〉を滅ぼせるほどの力を得るため、この国のありとあらゆる所を渡り歩いた。
 本当にいろいろ斬ったぞ……最初は名のある武士や術者を、途中からは妖魔を中心に。人程度の力では糧にならなくなってな、妖魔は質も量も良いからな。
 そうそう、術者で思い出したが…神凪の術者も斬ったぞ。分家だったが良い糧になった。宗家を斬れば、さぞかし力が上がることだろうな」

「その各地で起こった術者や武芸者の虐殺のお陰で、兄上の行動を調べるのは容易でした……」

 

 そんな事で知りたくはなかった……そう言外で言いつつ、沈痛な面持ちになる燕。

 そして、腰に差した刀…【五龍】を握りしめ、真っ直ぐに龍斗を見据える。

 

「兄上……神鳴流戦士として、そして身内として、これ以上の凶行を食い止めます!」

「やめておけ。今更お前如きが俺の相手を務まると思うか」

「この三年間……力を求めたのは兄上だけではありません」

 

 静かに【五龍】を抜刀する燕。その身体より発せられた膨大な神氣が【五龍】を通じ、五頭の龍を顕現させる。

 木龍、火龍、土龍、金龍、水龍……五頭同時に出したとは思えぬほど高密度の秘奥義に、龍斗はニヤッと笑う。

 

「なるほどな……どうやったかは解らないが、かなりの力を身に着けたようだな。いいだろう……認めてやる。お前は【ひな】の糧になれるほどに成長したとな」

 

 龍斗の身体から立ち昇る黒い氣。それは土氣ではない、闇のように暗く澱んだ氣…邪気だ。その邪気が【ひな】の黒き刀身を通じ、一匹の巨大な鳥となって顕現する。

 

「それは…………」

 

 赤ではなく、闇の如き黒で形成された擬似神獣に燕は僅かに目を見張る。

 

「クックックッ……【黒烏くろがらす】 これが俺の力の現れだ」

「兄上……」

 

 【ひな】から顕現する擬似神獣の色は持ち主の本質を表す―――――と、燕は以前龍斗本人から聞いていた。それが黒く変わるということは…………

 もはや、何もかも手遅れだという事実に、燕は悲しみに叫ぶ。

 

「兄上ぇっ!!」

「来い……」

 

 両者が放った擬似神獣が接触した瞬間、凄まじい閃光が放たれ―――――またもや世界が暗転、闇へと変わった。

 しかし、それも束の間…数秒の間をおいて、世界は闇から別の光景を映し出し始めた。

 

 その現れた世界は……龍斗と燕以外には何も存在しなかった。

 一体どれほど激しい戦いが行われたのだろうか…二人の周囲にはあれだけあった屍も、地に染みついたはずの血も、雑草や木、小石すらも存在しない平野―――――否、荒野と化していた。

 幾つものクレーター、底が見えない亀裂、深く、長く抉られた溝。激戦の一端を感じさせる傷痕の中央にて、龍斗と燕の決着が着こうとしていた。

 

 燕の勝利という結果をもって…………

 

「兄上……」

「どうした……早く止めを刺せ」

 

 地に倒れる寸前の姿勢で止めを促す龍斗。倒れるのを我慢しているのではない、心臓を貫いた【五龍】により地に縫い止められ、倒れることが許されないのだ。

 そして、その手には【ヒナ】は無い。遠く離れた所に転がっていた。

 

「何を躊躇することがある……早く殺せ」

「兄上……」

「この姿を見て、なおも兄と呼ぶか……」

 

 皮肉げな笑みを浮かべる龍斗。その身体は既に人ではない。額には第三の目が開き、そこから覗く眼球は金色の爬虫類の如き瞳孔。その更に上には左右から伸びる二本の角。手には鱗、足には体毛などが垣間見えている。
 そして心臓を貫かれてもなお尽きぬ生命力……もはや人であろうはずはなかった。

 そんな龍斗を相手に戦い、燕もまた無傷で済むはずはなかった。服の端々は切り取られて半裸に近く、その露出している身体の部分に複数の切り傷を負っていた。
 その傷の殆どが【ヒナ】の手によるもので、傷口からの邪気の侵入を防ぐため、燕は身体に神氣の纏い、内部では常に浄化を行っていた……いや、行わざるを得ない状態だった。

 

「兄上……どうしてなのです。どうして“人”を辞めたのですか…………」

「理由は聞くまでもないだろう…………だが、あえて言うなら、強くなりたかったからだ」

「だからといって、人を捨てることはないでしょう!」

「お前に理解してもらおうとは思ってはいない。ただ、アレを滅ぼすほどの力を手に入れるには有限である人の身では駄目なのだ。そして【雛】の強さは使い手の強さ……俺自身が強くならなければならないのだ」

「ですが、兄上なら人を捨てずともいずれは―――――」

「無理だな。凡人である俺には人の限界は超えられない。才能もない、先祖からの積み重ねた血の研鑽も何もない、どこの誰だかわからない捨て子の俺ではな…………」

「―――――ッ! 知って…いたのですか」

 

 燕の問いに、龍斗からの返事はない。だが、その事が逆に答えているようなものだった。 

 親から子へ、そして孫へ……氣や呪術などの才能の継承と練磨の積み重ねは決して伊達や酔狂、格式だけではない。刀を打つように、代を重ねることにより才能を鍛え、いずれ人の身を越える力を得ることもできる。
 無論、継承途中に衰退することも多いが、青山は見事に練磨し続けている家系だった。

 その血脈でもない龍斗じぶんには、そうするしか手段はなかった……まるでそう言われているように燕は感じていた。

 

「力を手に入れるために人を捨てる……そこまで【涅槃】が憎いのですか」

「憎い…そして浦島も神鳴流も……〈楔〉の犠牲を当然とし、儀式と称して命を奪うあいつらもな……」

「………………」

 

 解っていたことではあった。だが、それでもなお兄の口からはっきりと語られる言葉と憎しみの深さに、燕は何も言えなかった。
 龍斗にとって、死んだ〈楔〉の女性…雫は、何者にも代え難い存在であったことは、ずっと妹として側にいた燕が誰よりもよく知っているのだから。

 

「燕…俺は貴様に敗れた。力無き故に……それは戦場の道理。それについて恨み言を言うつもりは毛頭ない。だが―――――俺は死なん! 俺の魂は【ヒナ】となっていずれ〈涅槃〉を、そして浦島と神鳴流を根絶やしにしてくれるわ!!」

「兄上、一体何を言っているのです!?」

 

 兄の宣言に燕が困惑する中、龍斗は狂笑を浮かべて【五龍】を引き抜き放り投げると、遠くに転がる自分の刀に顔を向ける。

 

「来い―――――【ヒナ】!!」

 

 呼ばれた【ヒナ】は真っ直ぐに龍斗に向かって飛翔する。その事に燕は慌ててその場を跳び退く―――――が、【ヒナ】は燕に危害を加える事無く、あろう事か主たる龍斗の身体を貫いた。

 

「あ、兄上っ!!」

 

 血は繋がらずとも、魔に堕ちようとも兄は兄。燕は急いで駆け寄ろうとするが、龍斗の腕の一振りと共に放たれた邪気の衝撃波に行く手を阻まれた。

 

「来るなっ! もう俺はお前の兄ではない…魔に堕ちたただの悪鬼だ」

 

 身体の末端から塵となってゆく龍斗……

 

「聞け、燕! 何年、何百年かかろうとも、俺は全てを滅ぼす…………〈涅槃〉も、浦島も、神鳴流も……そして最後はこの世界を……雫の命を犠牲に…………のうのうと生きる連中を……全てを消す…………さらばだ!!」

 

 その言葉を最後に、龍斗の身体は一気に塵と化した。

 支えを失い、落下して大地に突き刺さる【ひな】―――――その周囲に小高く積もった龍斗のなれの果ては、一陣の風にさらわれて荒野に消える。

 

「兄……上……」

 

 その様を……燕は涙を流しながら、ただ黙って見ているしかなかった…………

 

 

 そして、世界は再び闇へと変わった。

 

 

 

 

 

「斯くして、妖刀【ひな】が完成したという訳か。それで、俺にこんな茶番を見せてどうするつもりだ」

 

 闇に向かって静かに問いかける景太郎。表面上はとても静かだが、その瞳には苛立たしげな感情の揺らめきが宿っていた。

 

「答えるつもりはない…か。いいだろう。俺もそうそう暇じゃない、帰らせてもらうぞ」

 

 手刀にした右手を軽く上げる景太郎。練氣・昇華された神氣が右手に収束し、手刀を覆い光の刃を形成する。

 本来の景太郎なら、氣よりも炎術を行使するが、外界から隔離されているのか、この闇の空間には炎の精霊が存在せず、召喚もできない。

 だが、問題はない。どんな状況に置いても戦えるよう、景太郎は自らを鍛えているのだから。

 

「五霊戦術 凶断・弐式……」

 

 闇の空間を斬り裂こうと右手の光の刃を振りかぶる景太郎。その時、前方の空間―――――否、闇が揺らぎ、そこから一人の男が姿を現した。

 その男とは、先程の光景で【ヒナ】の中へと吸収、同化した〈龍斗〉だった。さすがに死ぬ寸前のような傷だらけではなかったが、その姿は人外のものだ。

 

「青山 龍斗……」

 

 景太郎は目の前に現れた龍斗に警戒し、十分な間合いを確保しつつ、右手に収束させた氣の刃を維持し続ける。

 しかし、龍斗はそんな景太郎の態度を気にした様子もなく、それどころか友好的な笑みを浮かべた。

 

【ようこそ、我が同胞よ。貴様に会えたことを嬉しく思う】

「同胞だと? 俺は魔に堕ちた憶えは無い」

 

 冷静に、しかし口調に激情を秘めつつ吐き捨てるように言い放つ景太郎。だが、それでも龍斗の笑みは些かも崩れない。それどころか、ますます笑みは深くなっているようだった。

 

【本当は貴様も理解しているのだろう。お互いに大切な女性ひとをあの胸糞悪い儀式で奪われた者……俺と貴様は同じなのだ】

「ハッ―――――勘違いも甚だしいな。確かに俺は〈涅槃〉と浦島を憎み、神鳴流を嫌っている。だがな、己が身を魔に堕とそうと考えたこともない!」

【虚言をぬかすな……貴様は必ず一度は考えたことがあるはずだ。『力が得られるのなら悪魔にだって魂を売る』と……】

「…………」

 

 何も答えぬ景太郎。しかし、輝きが弱まった右手の氣がまるで肯定しているような錯覚に陥る。

 それを理解したのだろう、龍斗は手を差し伸べる。

 

【我々は一緒なのだ。たとえ手段は違えど、後の生を復讐に費やした貴様と俺は同じ―――――鏡に映った鏡像。違えた道が再び交差するときが来たのだ。さぁ!】

 

 更に手を突き出す龍斗。手を取れ、共に行こうと……

 その景太郎の返事は―――――冷たい一笑だった。

 

「フッ……言いたいことはそれだけか?」

【なに?】

 

 龍斗の笑みが初めて崩れる。

 

「もう一度言ってやる。俺は己が身を魔に堕とそうと考えたことはない」

 

 再び右手に収束された氣の勢いが戻り、太陽の如き強い輝きを放つ。

 先程、氣が弱まったのは同意や動揺などではない、そう見せかけて蓄積、及び更なる練氣を重ねていたのだ。

 

「誰が堕ちるものか。響子を奪った大元である〈涅槃〉と同じ存在なんぞに……」

 

 これが、景太郎が妖魔を嫌悪する大きな理由だった。

 命を奪ったのは浦島…だが、それの原因となったのは紛れもない大妖〈涅槃〉なのだ。それと同じ存在に堕ちてまで力を得るなど、景太郎にとってありえない選択肢だった。

 

【ふん……所詮は生まれついて力を持っていた者。力無き存在の苦しみなど真に解らぬか】

 

 完全に笑みを捨て去り、景太郎を侮蔑するように睨みながら吐き捨てる龍斗。彼も解ったのだろう。景太郎は自分の手を取らない……共にあろうとはしないことを。

 だが、龍斗は勘違いしている。景太郎の炎術の才が開花したのは響子が死せし後であることを。同じ境遇となった時は、景太郎は自分よりも遥かに弱かったという事を。
 そして…それでも、景太郎は選ばなかったという事を。龍斗と同じ道を……魔に堕ち、早く力が得られる選択肢を。

 

【仕方がない……同じ境遇の者、できれば同意の上で行いたかったのだがな】

 

 周囲の闇がより一層深くなると同時に、全方位から威圧感を感じる景太郎。

 

「やはり、俺を糧にするつもりか」

【違う、同化だ。俺と貴様は一つとなり、強大な力を得るのだ】

「断る!」

 

 闇の空間から生えてきた複数の触手を右手の氣の刃で切り裂く景太郎。

 だが、その程度で終わるはずもなく、周囲の闇から伸びてきた触手が景太郎に襲い掛かる。

 

「フッ―――――」

 

 右手ではなく両手、更には両足に氣を収束させた景太郎は迫り来る触手を片っ端から斬り、消滅させる。しかし、いくら消滅させようとも後から後から触手は湧くように現れ、一行に数が減る様子はない。

 

(端末をいくら消しても無意味。本体を叩かなければ―――――)

「邪魔だっ!」

 

 景太郎の身体から強烈な神氣の波動が放たれ、触手全てを一気に消滅させる。そして―――――

 

「消え失せろ―――――過去の亡霊!!」

 

 獅隼脚を使い龍斗との間合いを詰め、零距離で強烈な神氣を一点に収束させた『凶断』を解放―――――龍斗は光に呑み込まれて消滅する。

 欠片も残さず消え去る龍斗。だが―――――

 

(手応えが浅い)

「擬態か!」

【その通りだ―――――】

 

 空間そのものから聞こえる龍斗の声。同時に先の数倍太い触手の群が至近距離で発生し、景太郎の四肢と胴体を一瞬にして絡め取り、身動きを封じた。

 

「クッ―――――」

 

 景太郎の身体から立ち昇る神氣の光。だが、その光は次々現れる闇の触手に遮られ、身体は瞬く間に覆い隠されてゆく。

 そして景太郎は触手に引き寄せられ、闇の中にどんどん沈み始めた。

 

(触手を破るだけの氣を練る時間が足りない!)

 

 思考が冷静に状況を把握する。だが、最期の一瞬まで諦めるつもりは毛頭ない。可能な限りの速さで練氣を行う―――――が、やはり間に合わない。

 

 

【同胞よ、今は俺の闇の中で眠るがいい……そのまま俺と融合し、復讐を果たそうではないか。愛しい人を犠牲にし、のうのうと生きる者全てに……】

 

 

 

(くそっ……たれが…………)

 

 龍斗の言葉を聞き、微かに悪態を吐きながら…………景太郎の意識は、【闇】の奥底へと沈んでいった。

 

 

 

 

―――――消灯―――――

 

〈三十四灯に続く〉

 

 

 

 

《あとがき》

 

 どうも、ケインです。

 今回は本編…というよりも、その裏側です。龍斗が景太郎の肉体を則る、それまでの僅かな短い時間での、精神世界においての話でした。頃合いとしては三十三灯の冒頭部分に当たります。

 本当なら、三十三灯と共に出すべきだったのかもしれませんが、三十三灯自体のネタばらしも過分に含まれていますから、こういった感じに出そうと判断しました。

 

 さて…今回の話についての少々捕捉というか説明を。

 青山 龍斗が景太郎に過去の映像を見せた理由…それは同情を引こうとしたり似た者同士である事を教えようとした…訳ではありません。あったとしても僅かです。

 龍斗の狙いは、自分と景太郎との境遇が似ている事を示し、共通の思いがあることを景太郎に自覚させることです。それを触媒に、〈雛〉固有の力を利用し、根本からの融合を促したんです。ここら辺りの話は、本編中で鶴子と龍斗が言いあっています。

 

 そして…龍斗という闇に囚われた景太郎。融合は徐々に進み、いずれは龍斗であり景太郎である状態となります。

 その結果はどうなるかは本編にて……

 

 

 では、次回は聖痕編…景太郎と和麻の戦闘の話を投稿する予定です。よろしければ読んでやってください。ケインでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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