ラブひな IF       〈白夜の降魔〉

 

 

 

第十三灯 「年明けて、白き炎は『帰郷』する」

 

 

 

 

 

「「「「「新年、明けましておめでとうございま〜す」」」」」

 

 

――――― 一月一日 ―――――

ひなた荘の前でその身を美しい晴れ着で包んだ住民達が、異口同音で景太郎へ新年の挨拶が成される。

タイプが違えど見目麗しい少女達が様々な柄の着物を来ているその姿は、壮観というか眼福としか言えない。

ただ…少々残念ながら、素子はこれから神社のバイトのために巫女装束なのだが、

それも”大和撫子”風な外見と相まってよく似合っていると言えるだろう。

 

そんな艶やかな華達に向かい、景太郎も新年の挨拶をする。

 

 

「こちらこそ、明けましておめでとうございます。それじゃあ行ってくる」

『行ってらっしゃ〜い』

 

 

爽やかな笑顔を見せながら玄関から出て行く景太郎を見送るなる達。

しかし―――――

 

 

『って、ちょっと待ちなさい!!』

 

 

それぞれ語尾は違うが、皆はそろって景太郎につっこみを入れる。

 

 

「ん? みんな何かな?」

 

無意味なまでに爽やかな笑顔で振り向く景太郎。

しかし、注意深く見ればその目が泳いでいることがわかっただろう。

 

「そんな嘘臭い笑顔で騙されないわよ」

「ちゅうか、あんたがそんな笑顔をする事自体が胡散臭いわ」

「おいおいそこまで言うかよ…」

 

 

なるとキツネの容赦ないつっこみに本気マジで少々へこみ、気落ちする景太郎。

爽やかなスマイルを無料タダでふりまいたのにまったく効果はない。当たり前だが……

 

 

「なぁなぁけーたろー。どこ行くんや? どっか行くんやったらウチも連れてって〜や」

「だめ。行ってもつまらないよ。偏屈が多い上に堅苦しいところだからね」

 

 

スゥに諭すような言葉を返す景太郎。

その穏やかな口調とは裏腹に、表情と言葉の端々に苦いものが見え隠れしている。

 

 

「ならば行き先ぐらいは教えてくれても良いだろう。

何らかの事態になったとき、管理人の連絡先が不明では困るからな。それとも、言えない事情でもあるのか?」

 

非常時そんなときには携帯に連絡すればいいだけだろうが…まぁいい。以前、煉君が来たのは憶えているだろう。

その時にも言われたが、ひなた荘ここに来て以来神凪うちにほとんど連絡を入れてないんだ。

一昨日、宗主からその事について連絡があってな、新年の挨拶くらいは顔を出せと言われたんだ」

 

 

苦笑しながら答える景太郎。

神凪家・宗主『神凪 重悟』は、景太郎がこの世で頭が上がらない数少ない人物の一人なのだ。

 

 

「あ、あの……」

「ん? なんだい、しのぶちゃん」

 

「先輩…クリスマスの時もそうですけど、たびたび何も言わずに出かけていって……

もしかして、私達と一緒にいるのが嫌なんですか?」

 

「そんなことはないよ」

 

 

涙目になって訴えかけるしのぶの言葉を即座に否定する。

そしてしのぶの目線辺りまで腰を屈めると、優しく頭を撫でる。

 

 

「俺はね、皆と一緒にいるのが嫌なわけじゃないんだ。

クリスマスの時も今回も、俺にとっては外せない大切な用事なんだ。

クリスマスの事は言えないけど、今日の用事…神凪家にはね、路頭に迷っていた俺を救ってくれた恩があるんだ。

特に、宗主であり義理の父である重悟様にはね。だから不義理はできないんだ。解ってくれるかな?」

 

「す、済みません先輩。私ったら失礼なことを言って…」

 

「良いんだよ、しのぶちゃん。本当に悪いのは、何も言わずに出かける俺なんだからね。

―――――そうだ、お詫びと言ったら何だけど、お土産でも買ってくるよ。何がいい?」

 

「そ、そんなに気を使わな「酒!」「バナナ〜」

 

遠慮するしのぶを押し退け、大きく挙手しながらねだるキツネとスゥ。

どうでもいいが先程までの暖かい雰囲気がぶち壊しだ…

 

 

「そうくると思いましたよ、二人とも…スゥちゃんはともかく、キツネさん。

前々から思ってたんですけどね、あなたは未成年じゃないですか」

 

「チッ、ばれてもうたか」

 

景太郎の指摘に舌打ちするキツネ。

自分が大人びて見えるのを利用して歳を誤魔化していたのだ。

若いうちにしかできない荒技だ。歳をとるたびにその行為は逆転するのだから…

 

 

「はぁ…まぁいいですよ。適量なら酒も薬ですからね」

「おっしゃ、話がわかるな〜さすが景太郎や。今度二人でじっくり飲もな」

「あくまで適量ですよ、適量…それじゃぁ、皆にもお土産を買ってきますんで、後を頼みますよ」

 

「任せとき。その代わり、上等なもん頼むで」

「バナナ〜」

「期待しないで待ってるわ」

「私は何でも良いぞ」

「わ、私はその……」

 

「遠慮しなくても良いから。じゃぁ、行って来ます。

何か大変なことがあったら、はるかさんに頼むように。俺からも頼んでおきますんで」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

 

なるの言葉に微笑すると、景太郎はしのぶの頭を軽く撫でて外出していった。

なる達は、そんな景太郎に向かって「気をつけて」や「早く帰ってこい」等の言葉と共に送り出した。

ただ一人…念を押すように酒を頼むアル中親父みたいな女性も居たが…まぁ、それはご愛敬かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数時間後……

 

 

「ちょっと離れていただけなのに…なんだか妙に懐かしいな」

 

 

日向しから数駅を経由し、神凪家に一番近い駅に到着する。

この地を離れてたった数ヶ月ながら、それまで見慣れていた駅を妙に懐かしく感じていた。

それほど、ひなた荘に馴染んでいたと云うことなのだろう。本人も気がつかないほどに……

 

(しかし予想通り凄い人混みだな…移動するだけでも一苦労だ)

 

 

ホームにごった返す人々を見ながら少々嘆息してしまう。

ちょうど、他の大きな神社に初詣に行く人と、そこから帰る人が鉢合わせてしまったのだろう。

行きと帰りの電車が重なったゆえの一時的な混雑だろうが、少々辟易してしまうのは致し方ないだろう。

 

早く来たのが裏目に出た。これなら時間帯をずらした方が…と、景太郎が考えていたその時、

混雑している駅のホームの一角…特に凄い人混みができているのが目に入った。

 

 

「あんたはいつもいつも邪魔なのよ! 一体どこから出没したのよこのホ○ゴリラ!」

「誰が○モゴリラだ! 俺と煉の清い友情に倒錯した思想を押し付けるんじゃねぇ! この『不純”異性”交友』推進者が!」

「『不純”同姓”交友』推進者に云われたくないわよ!!」

 

 

男女の二種類の怒声―――――男はともかく女の方は幼い声音、おそらくは少女―――――がホームに響く。

そこそこ離れ、なおかつホームには正月の喧騒が満ちているのにも関わらず、

はっきりと耳に入ってくる怒声―――――いや、罵声に景太郎は軽く眉を顰める。

まったく知らないからではない、知っている声だったからだ。

本当なら知らないふりをしたいところなのだが、この声があるところにの姿があるため見過ごすことができない。

それに、残念ながら(本当に残念ながら)景太郎の炎術師としての感覚が彼の存在を感じていた。

 

……本音では彼の健闘を祈ってその場を去りたい。

 

 

「………そう云う訳にはいかないよな」

 

 

誰に言い訳するわけするわけでなく、景太郎は溜め息と共にそう呟くと、

人混みをすり抜けながら騒ぎの中心人物―――――その原因たる弟分の元に近づいた。

 

 

「このゴリラ! あんたはさっさと動物園に帰って観客に暑苦しい顔でも見せてなさいよ。

あら? それとも今日はお正月休みかしら? それなら偶には家族サービスでもしたら。

あんまり出歩いてると、雌ゴリラの奥さんに愛想つかれて浮気されるわよ」

 

「黙れ! お前のような性悪淫婦の好きなようにさせてたまるか! 『俺の煉』は俺の命を賭けて護ってみせる!」

「『私の煉』に汚い言葉を聞かせないでほしいわね。可愛いお耳が腐ってしまうわ」

「人のことが言えた口か!」

 

 

可愛い振り袖姿の少女と180センチはあろうかという男が睨みあいながら罵り合う姿が目に入る。

近寄った分だけ間近で聞こえる二人の舌戦に近づいたことをさっそく後悔する景太郎。

やはりここは……

 

 

「あ、景兄様!」

 

 

……回れ右をしようかと真剣に悩んでいる景太郎を見つけた煉が、気弱な笑顔で声をかける。

煉もこの二人の騒動に、どうやって対処しようかと悩んでいるらしい。

 

さもありなん―――――この二人の騒動によって周囲には人だかりができてしまってるのだ。

余程できた大人でも、周囲からの多数の好奇な視線に晒されれば動きにくくもなる。

それでもさらに舌戦を加熱ヒート・アップさせているこの二人は大物か、それともアレかは判断しにくい所だが……

 

 

「明けましておめでとうございます、景兄様」

「ああ、明けましておめでとう。煉君」

 

 

とりあえず、煉は目の前の光景より、兄貴分への挨拶を優先させる。(やや現実逃避気味)

その内心に気がついてか、景太郎も内心苦笑しつつ挨拶を返す。表に出さないのが大人のマナーだ。

 

 

またやっているようだね」

「ええ…」

 

飽きもせずに罵り合う二人を横目でチラッと見る煉。

話に出てきた『鈴原』と『芹沢』は煉のクラスメイトである。

 

 

振り袖を着た少女が鈴原…フルネーム『鈴原 花音かのん

名は体を表す。その通りに彼女は『花音かのん』と云う字面に相応しい可憐な容貌の美少女。

しかし、その性格は別の『かのん』…『大砲カノン』に相応しい程、暴虐非道な性格をした少女とも周囲に認識されている。

 

そしてもう一人…大人顔負けの体格をした少年が『芹沢 達也』

身長180少々は先に述べた通りだが、それに見合う体格と筋力(こちらはやや多め)の持ち主。

繰り返すが彼は中学一年生。時に飛び抜けて体格の良い子供が居るが、

それらをぶっちぎりで通り越して存在するその肉体は、軌跡を通り越してある意味驚異な存在だ。

 

 

薄々と気付いているだろうが…この二人はお互いを敵(宿敵ライバルではなく殲滅すべき存在)と見なしている。

こんな二人の唯一と言っていい共通点は、『神凪 煉』同じ人物に並々ならぬ愛情を持っていることだ。

(片方は性別的に問題が大有りなのだが…昨今の風潮で周囲の者から生暖かく見守られている)

ゆえに、二人は煉の寵愛を一身に受けんが為に、常日頃から対立を繰り返しているのだ。

つまり…今回のこの馬鹿騒ぎも、御多分漏れずにその一環だと云うことだ。

 

 

「で、今回は何なんだい?」

「鈴原さんに誘われて隣町の神社まで初詣に行こうとしたんですが、芹沢君が急に……」

「隣町に? ああ、そう云うことか……」

 

 

隣町には『縁結び』の神社がある。花音はそこへ煉とともに行こうとして、芹沢が阻止しようとした…

そういった話の流れだろうと予測した景太郎。

しかし、花音の思惑はそれの斜め上を行っている。

まさか景太郎も、花音が”帰り道にある『大人のお城』であわよくば…”とまで考えているとは思ってもいない。

 

 

「何というか…久しぶりの光景だな」

「僕にとってはいつもの光景です」

「……去年は何もできなかったからね」

「…………そうですね」

 

 

少しだけ…寂しそうな、そして暖かな微笑を見せる煉。

煉の脳裏には優しく微笑んでいる『大切な彼女』の顔がありありと浮かんでいる。

 

そして、自分と彼女が最後の一時ひとときを静かに迎えられたのは、景太郎のおかげだと思っている。

誰にも知られたくなかった切り札を、自分のために惜しみなく使ってくれた敬愛するもう一人の兄のおかげだと…

 

 

「煉君…強くなろう。もう二度と失わないためにね……」

「はい」

 

 

とびっきりの笑顔で返事をする煉。

その煉の笑顔に反応したのか、芹沢が振り向き―――――隣にいる景太郎に気がついた。

 

 

「あ、景太郎さん。どうも―――――」

 

 

愛しい煉の兄貴分に礼節をつくして挨拶、好印象を…という思惑の元、新年の挨拶をする芹沢。

だが―――――これが決定的な隙となり、彼の失敗となった。

 

彼が視線を逸らした瞬間、花音の目が鷹の目の如く鋭くなり、キランと光る(比喩的表現)。

そして右足を力強く一歩踏みだし、芹沢の腹部に唸る拳(くどいが比喩的表現)を叩き込む!

 

 

ドスンッ!!

 

 

「ぐはぁっ!!」

 

 

やたら重い打撃音と共に芹沢が呻き声と共に体勢を崩す。

そして花音は左腕をアッパーカットのように腕を振り上げ―――――

 

 

ゴスッ!

 

 

持っていた小さく可愛らしい巾着袋が、下がっていた芹沢の顎に直撃してその衝撃で後ろ向きに倒れる。

せいぜい大人の握り拳よりやや大きめの巾着袋が当たったような音ではない。決して…

 

それと、まったく本筋には関係ないが、景太郎を含めた目撃者達は、

その時、芹沢が仰向けに倒れる様がスローモーションで見えたとか。

 

 

「えっ? あれ? どうしたの芹沢君」

 

 

景太郎の方を向いていて今の戦闘(瞬殺行為?)を見ていなかった煉は、

いきなり倒れた芹沢を心配して駆け寄ろうとしたが、その前に花音が手をとって引き止めた。

 

 

「大丈夫よ煉君。このホ…芹沢君はいきなり眠たくなったって寝ちゃっただけだから。

きっと大晦日だからって夜更かししちゃったのね。可哀想だから起こしちゃ悪いわ」

 

「え…っと、このまま置いておくのも悪いような気が……」

「大丈夫。後のことは景太郎さんがなんとかしてくれるから」

 

「何で俺が……」

 

「さ、行きましょ。煉君」

「で、でも……」

 

 

景太郎の言葉を黙殺した花音は煉の腕に自分の腕を絡ませると、ちょうどやってきた電車に向かって歩き始める。

それでもやっぱり芹沢が心配なのか、煉はチラチラと芹沢を見るが、花音の強引さを推しきるまでではない。

まぁ、日常茶飯事に同じ事をしているため、あの程度のダメージでは問題ないと知っているからなのだろう。

 

それと同時に、このまま芹沢は気絶し、煉は花音に連れ去られてしまう…と云う流れが『いつも』だった。

しかし―――――煉の『貞操の危機』(大いに問題あり)を察しているのか、今日の芹沢は一味違っていた!

 

 

「ま……待て」

 

 

頭部に相当な衝撃を受けて倒れたはずの芹沢が、呻き声を上げつつも立ち上がろうとしている!

あの打撃音(本当に打撃音)からして、脳を揺さぶられる一撃であったはず。

通常では立ち上がることすら不可能なはずなのに、それでも彼は煉を行かせまいと全ての力を振り絞って立ち上がる。

 

ただ一つの感情―――――『煉への愛』―――――ゆえに、彼は再び立ち上がろうとしているのだ。

 

それは、さながら悪い魔法使いにさらわれようとしている美しきお姫様を護ろうとする騎士の如き勇姿。

この場にいる者達は、〈愛〉と云う名の想いの強さと、偉大さを知る。

ちなみに、言わずとしれているがキャスティングは『悪い魔法使い(魔女)=花音』

『美しきお姫様=煉』、そして『騎士=芹沢』…明らかにミスキャストだが妙にしっくりくるのはなぜだろう。

 

その感動の光景を冷めた…いや、汚物でも見るかのような目で魔女…もとい、花音は一瞥すると、

手に持っていた巾着袋をポイッと芹沢めがけて投げ捨てる。

その巾着袋は―――――

 

ドフッ!

 

「ぐげっ!」

 

 

やたら重々しい音と共に芹沢の腹部(狙ったのか人体急所の一つ『水月』)に落下し、

当人はカエルが潰れたような声を出して完全に気絶した。

 

そして、今また、人は脆くも崩れ去った〈愛〉の儚さも知ったのだった。

 

 

「さ、煉君。電車が出ちゃうから早く行こ」

「え、あの…ちょっと鈴原さん」

 

 

一仕事終えた後のような輝かんばかりの爽やかな笑顔を浮かべた花音に、力ずくで連れ去られる煉。

その二人を乗せた電車はつつがなく駅を出発していった。

 

後に残されたのは、美少女が行った容赦のない…えげつないとも云う…行動に呆然とする野次馬連中と、

後始末を半ば強引に押し付けられて嘆息している景太郎だ。

 

「帰った早々これか…新年早々厄日か?」

 

愚痴を言いながら倒れたままの芹沢に近づき、花音が残した巾着袋を持ち上げる。

意外なまでに…ある意味予想したとおりの…ズシッとした重量感に、景太郎が巾着の口を開けると、

中には丸い鉄の塊(砲丸投げに使用されるアレ)がデンっと入っていた。

 

「おいおい…そこまでするか?」

 

改めて『鈴原 花音』と云う少女の恐ろしさを感じる景太郎。

それと同時に、煉の行く末に一抹の憐憫も感じていた。

 

(煉君は…いや、煉君和麻さんと一緒で、あんまり女運がないようだな)

 

彼らの周囲に現れる個性あふれる女性人達を思い浮かべながら、景太郎は彼らに対して哀悼の意を示した。

もし彼らがそれを聞けば、自分のことを棚に上げるな! と、容赦ないつっこみがあっただろう。絶対に……

 

 

 

 

 

それから―――――

景太郎は気絶した芹沢を駅員に任せると、さっさと神凪家に向かった。

 

そして神凪家についた景太郎は、正月の宴会を行われている広間に出向き、

神凪家・宗主〈神凪 重悟〉…養父の元へと挨拶に参った。

 

 

「明けましておめでとうございます。並びに、お久しゅうございます宗主」

「ああ、本当に久しぶりだな」

 

 

御前にて畳に手をつき、深々と頭を下げる景太郎に対し、重悟は痛烈な皮肉を持って返す。

こちらから出向いた後、電話の一本、手紙の一つすら寄越さないのであれば、その対応も致し方ないだろう。

 

 

「今まで連絡を滞らせておりました事に対しては弁明のしようもありません。

如何様な処罰をも受ける所存にてございます」

 

 

頭を下げたまま、堅苦しく謝罪を述べる景太郎。

そんな景太郎の態度とは正反対に、重悟は表情を崩して気さくに笑いかける。

 

 

「何、気に病むことはない。元を正せば、渋っていたお前を行かせたのは私なのだからな。

責めるつもりはない。それに、便りがないのは元気な証拠とも云うからな」

 

「ですが、ご心配をお掛けしたのは……」

 

「気にすることはない。お前の実力はよく知っているからな、気に病むほど心配はしておらん。

お前なら、如何様な非常事態になろうとも万能に対処できるだろうからな」

 

 

それは長年景太郎を見続けた養父ちちの意見か、それとも一退魔士としてなのか。

そのどれにしても、景太郎からしてみれば少しでも心配をかけたこと自体が心苦しかった。

ただ…その一方で、心の片隅でその事を嬉しくも感じていた。

 

 

「だから、いつまでも頭を下げていないで、ちちに元気な義息むすこの顔を見せてくれ」

「はっ…そう言って頂けて安心いたしました」

 

 

重悟の言葉にやっと顔を上げる景太郎。

ようやく見せた義息むすこの顔に重悟は微かに驚きの表情を見せた後、すぐに顔を綻ばせた。

それはよく注意していなければ解らない程度だったが、十年以上義息むすこをしている景太郎にはすぐに解った。

 

 

「私の顔に何かついていますか?」

「いや…暫く見ぬうちに、面差しが少々変わったな、と思ってな」

「そうでしょうか?」

「ああ。以前ほど張り詰めた雰囲気がない」

「そうですか?」

 

 

同じように答えた後、その言葉に首を傾げる景太郎。

本人にまったく自覚がないため、その様なことを云われても今ひとつ納得できていなかった。

 

 

「それはそうと…景太郎」

「何でございましょう?」

 

 

声を低くして改めて景太郎を呼ぶ重悟。まるでこれからの話を外部に聞かせたくないような声音だ。

それを感じたのか、景太郎の口振りも自然と緊張をおびる。

 

 

「煉から聞いたのだが……お前の居る所―――――ひなた荘なのだが」

「はい」

「そこには、見目麗しい女性が多数居るとか」

「………それがなにか?」

 

 

なんとなく嫌な予感…と云うか、くだらない予感をヒシヒシと感じつつも、とりあえず真面目に返事をする。

最初の間はギリギリの譲歩だ。

 

 

「そうか…いやな、お前が婚約者に隠れて浮気でもしているのではないかと「宗主」―――――なんだ?」

 

「恐れながら申し上げますが、ひなた荘そこに居るのは叔母であったはるかを除き、皆十代の未成年です。

年端もいかない娘達を私が相手をするとお思いですか?」

 

「はっはっはっはっ。いや、聞いてみただけだ。そんなに怖い顔をするな」

 

 

半分以上本気マジで怒っている景太郎の視線を受けながらも軽く笑い飛ばす重悟。

大抵の者が居竦むであろう景太郎の視線を受けながらもそんな態度をとれるのは大したものだが、

その評価を抜けば傍目にはただの剽軽なおっさん…ただのオヤジだ。

 

 

(まったくこのお方は…綾乃さんが居なくて良かったよ)

 

神凪宗主・神凪 重悟―――――神凪の神宝、炎雷覇の前継承者。

かつて神凪最強の炎術師…退魔士で、最強の炎…神炎の使い手である『紫炎の重悟』。

交通事故で片足を失い、現役を引いて『最強』の座を従兄弟である厳馬に譲ってはいるものの、

こと『炎』に関して云えば、その威力・技の双方は未だに最強。

現・炎雷覇の継承者である綾乃の父でもある。

 

その綾乃なのだが…神凪の宗主トップに相応しい威厳と風格を持つ父親をこれ以上ないほど誇りにしている。

世間一般では『ファザー・コンプレックス』…ファザコンと呼ばれるほどに父を敬愛しているのだ。

無論、景太郎以上に長年重悟を見ている人物なのだが、残念(?)ながら今のような重悟を見たことはない。

本人も綾乃が可愛いため、娘が誇れる恰好良い父親でありたいと思い、今までそう振る舞っていたのだ。

 

ただ…その反動なのか、景太郎に対しては崩れた態度やからかうことがままあったりするのが困りものだ。

普段、公然の場では威厳に満ち、神凪家の宗主トップに相応しい人物なのだが、

こうも極端な落差をしょっちゅう見せられれば、いかに景太郎といえど、その評価を暴落させてしまいそうになる…

 

もしこの場に綾乃がいれば、『百年の恋』ならぬ『立派な父への愛情』が木っ端微塵に打ち砕かれたことだろう。

短気で喧嘩っ早い所がある綾乃だが、景太郎にとっては可愛い『義妹』の一人なのだ。

無用なショックを受けて落ち込んだり自暴自棄になったりするところは極力見たくはない。

 

もっとも、今では徐々にその地を見せ始めているし、

綾乃には支える人物が側に居るのでそれほど深刻には心配はしていないが……

 

 

 

 

「け…ろう……景太郎!」

「―――――ッ! はっ、どうか致しましたか?」

 

「それはこちらの台詞だ。いきなり黙って考え込みおって……もしや向こうで何か問題でもあるのか?」

「まぁ、それは色々と問題があるというか、問題人物が居るというか…」

「何をブツブツ言っておる?」

「いえ、何でもありません。お気になさらずに…それはそうと、厳馬さんや綾乃さんの姿がありませんね」

 

 

さすがに「あなたのことで悩んでいました」と面と向かって言えるはずも無く、景太郎は無難に話題を逸らす。

その事にさして疑問をもたず、重悟はその質問に答える。

 

 

「厳馬と綾乃は退魔に出ておる。厳馬は一人で…綾乃はいつもの通り和麻と一緒にな」

「新年早々に宗家の者が出張るほどの退魔ですか!?」

 

 

返ってきた思いもよらぬ答えに、少々眉を顰めて深刻そうに返事をする。

 

先にも述べたが、年始年末などの大きな行事が行われる時期というのは色々と不安定になる。

人…『陽』が大きく動けば、妖魔…『陰』の動きも活発になる。

それは景太郎も重々承知しているのだが、まさか宗家の者が行うほどの退魔があるとは思わなかったのだ。

宗主父親の過保護で割と安全な仕事を与えられる綾乃はともかく、

神凪 厳馬…現役最強の退魔士、蒼き神炎の使い手が出張るほどの仕事など尋常ではない。

それこそ都市一つをあっと云う間に滅ぼす妖魔―――――上級妖魔の類だ。

 

はっきり言って冗談ではない。もしそんな存在がほいほい現れたら、人類などすぐに滅んでしまう。

 

 

「大変ですね……一体何が―――――」

「ああ、気にすることはない。厳馬も綾乃も大した相手ではない」

「大した相手ではない? では、なぜ厳馬殿が?」

 

「ここ最近、アヤツも進んで退魔に出るようになってな。

本人は『体が鈍った』だの『リハビリ代わり』だのと言っておったが……

本当のところは、最近揺らいでいる『現役最強』を保持するために、戦闘の勘を取り戻したいのだろう」

 

「揺らいでいる…ですか。そうですね、綾乃さんも徐々に神炎を思い通りに使え始めています。

それに、息子の煉君も成長が著しいですしね。厳馬殿もうかうかしていられないんでしょう」

 

「それに、お前の実力もはっきりしたことだしな。義父ちちおやにまでずっと隠しおってからに…」

「宗主、それは……」

 

 

恨みがましい目で見てくる宗主に言葉を失う景太郎。

あれから一年以上経つのに、未だに実力神炎を隠していたことをネタにいびるのだ。

 

 

「まぁ、その事は後にとって置くとして…」

(そう言って一年以上も引いているくせに…)

「ん? 何だ?」

「いえ……それで、実のところ、退魔の仕事はどうなっているのですか?」

「上々…ではないな。持ち込まれる退魔の依頼の約半分…いや、七割をこなすのが精々だ」

「そうですか」

 

それもそうだろうな。と呟きながら頷く景太郎。

その事を予期していた景太郎の態度に、宗主である重悟は顔を顰める。

 

「お前が此処より離れ、神凪の退魔から抜けた穴は、綾乃や分家の者達で十分に埋められると思ったのだがな。

どうやら、その穴は私が思っていたよりも大きかったらしい」

 

 

溜め息と共にそう吐露する重悟。

こなせない依頼の約半分は近畿一辺よりも遠方にあるため、ある意味仕方がないと言える。

だが、残りの半分は完全な人手不足ゆえに、断っているのだ。

景太郎の功績を聞きつけて神凪に来る退魔の依頼が多い…と云うのも、大きな理由の一つ。

 

だが―――――それだけではない。

 

 

「宗主…その穴は私だけではありませんよ」

「解っておる…」

 

 

景太郎の言葉に完全に渋面になる重悟。大きな穴…それは何も景太郎だけではない。

今は無き下部組織『風牙衆』の存在がそのもっとも大きな要因であった。

風牙衆は風術師の集団で、戦闘力自体は低いが諜報・索敵に優れていた集団だった。

 

退魔では風牙衆が索敵し、神凪が見つけた妖魔を滅するという流れ作業だった。

しかし、今はその風牙衆が無く、妖魔の索敵を始め全てをほぼ神凪が担わなければならない。

だが、炎術は索敵等の術がほぼ皆無と言っても過言ではない。

ゆえに神凪の術師はまず一歩目から躓き、退魔の完了までに多大な時間をかけているのだ。

それが、神凪が退魔の依頼を数多くこなせない原因の一つでもあった。

重悟もそれを深刻に考え、新たな諜報ルート…警視庁所属の退魔組織『特殊資料整理室』と手を組んだのだが、

―――――やはり、以前のようには行かず、手間取っているのが現状だった。

 

もっとも―――――

 

 

「外弁慶も大概にしないから、周囲のヒンシュクを買うんですよ」

「なかなか言うな。当たっている分、私には何も言えんではないか」

 

 

苦笑する二人。手間取っている理由の大きな理由が『神凪の傲慢』だと知っているからだ。

どんな術師の大家も、他の術師を見下す傾向がある。血族による組織が多い日本では特に…だ。

日本最高峰の炎術師である神凪…その分家も例外ではなく、他の術師を見下している。

ゆえに、他の組織と否応なく摩擦が起こってしまうのだ。

特に、特殊資料整理室は設立から歴史が浅いため、その摩擦は特に酷い。

 

 

「良い機会です。他の組織とのつき合い方を見直す頃合いでしょうし。

ついでに、今まで怠けていたぶん、徹底的に実戦経験を積ませた方がいいでしょう」

 

「そうだな。綾乃を含め、相手の実力を見抜けぬ…いや、見抜こうともしない輩が多いからな。

少しは厳馬を見習い、実戦の経験と勘を培ってもらうとしよう。

ところで景太郎よ。何時まで此方に居られるのだ? 管理人である以上、いつまでも彼方あちらを留守にはできまい」

 

「それについては大丈夫です。私が行くまで管理をしていた者…『浦島 はるか』に頼んでおりますので。

個人的な感情を抜き、立場上を考えれば、その点に関しては信用に足ると判断しております」

 

「ほほぅ。お前が浦島の者に対してそこまで言うとはな。実に興味深い御仁だな」

「よろしければご紹介いたしますよ?歳は…確か、まだ二十代のはずです」

 

先程、浮気云々と言われた腹いせか、澄ました顔でそう言う景太郎に、重悟は顔を顰める。

 

 

「馬鹿なことを申すな。そんな娘と一緒にいようものなら、まず間違いなく不倫カップルにしか見られん。

そもそも、そんなことになろうものなら綾乃に何と言われるか……」

 

「そうですか? 意外と若い母親ができて喜ぶかもしれませんよ?」

「軽蔑されるの間違いではないか?」

「炎雷覇で刺される方が先かと……」

 

 

その可能性が高いことに頭をかかえる重悟。

その短気さゆえに、むやみやたらに神宝の剣を振り回す様をありありと想像できたからだ。

 

 

「育て方を間違ってしまったな。もう少しお淑やかにならんものか……」

「手遅れかと。可能性があるとすれば、和麻さんが綾乃さんを変えることぐらいです」

「そっちに期待するしかないか……」

 

 

二人とも、あえてその可能性も低いとは言わずに嘆息する。

今の二人の関係のままでは、綾乃はその凶暴性を悪化させる一方だと理解しているからだ。

 

 

それから―――――景太郎は重悟と差し障りのない会話を続けた後、頃合いを見計らって場を辞退した。

そして、屋敷…神凪邸より少々離れたところにある丘にある墓地に向かった。

そこに続く道は少々きつい逆になっているが、景太郎は速度を落とす事無く登り切り、

霊園に無数ある中の一つの墓石の前に辿り着いた。

 

 

その墓石には……『風巻家』と刻まれていた。

その名前は、神凪に居る者の誰もが知っており、今では疎まれている名であった。

 

一年以上前―――――かつて神凪の下部組織として存在し、諜報を担っていた『風牙衆』

約三百年もの永き時に渡り、神凪に尽くしてきた風術師の集団。

その風牙衆をまとめる頭目の一族―――――それが風巻家だった。

 

しかし…先にも述べたが、今はもう存在しない……

一年以上も前…頭目『風巻 兵衛』の扇動の元、神凪家に対して反乱を起こしたのだ。

 

兵衛の狂気の元、手段を選ばないその戦いぶりに、神凪は実に滅亡の危機にまで追い込まれた。

だが、神凪宗家の者達の活躍により、その反乱は阻止され、事実上『風牙衆』は壊滅した。

 

首謀者である兵衛は煉の手によりこの世から焼滅し、

妖魔に憑かれた…いや、融合したその息子『流也』は、

四年ぶりに帰ってきた和麻と綾乃の手により、父と同じく灰すら残さずに消え去った。

 

そしてもう一人……兵衛のもう一人の子供もその時にこの世を去り、今、この墓の下で眠っている。

 

 

「久しぶりだな。あの世で元気にしているか?」

 

返事が返ってくるはずはない。無論、本人も理解している。それでもなお景太郎は話しかける。

この下で眠る、自分の手で眠らせたもう一人の弟分に向かって…

 

「この前から神凪を留守にしててな。此処に来るのを疎かにしてしまった。

でも、また向こうに行かなくちゃならないんだ。これからも来る機会が少なくなる。本当に悪い……

しかし、向こうでもこっちでも墓参りに行くなんてな。案外、俺も死期が近いのかもしれないな。

その時は頼むぞ。もっとも、俺が行く地獄にお前が居たらの話だがな」

 

 

謝りつつ、懐から取り出した布で墓の隅々まで、懇切丁寧に綺麗に拭く。

そして人通り掃除が終わり、持ってきた水筒で花やコップの水を汲み変えると、再び墓石に向き直る。

 

 

「枯れたりしたらゴミになると思って花を持ってこなかったんだが……無用な心配だったな。

ありがとう。俺の代わりに墓に来てくれていたんでしょう? 操さん」

 

わたくしには、貴男様の為にこれくらいのことしかできませんから……」

 

 

景太郎は少し離れた位置にある大きな木に向かって話しかけると、

木の裏側から、一人の女性がしずしずと姿を現した。

景太郎がこの場に来る少し前から、此処にいたのだろう。

墓参りに来た景太郎を邪魔しないようにと、離れた位置にいたのだ。

 

 

「久しぶり…それと、明けましておめでとう」

「はい、明けましておめでとうございます」

 

 

軽く微笑を浮かべつつ挨拶する景太郎と、儚げな笑みで答える女性。

彼女は『大神 操』―――――神凪の分家の一つ、大神家の娘。

ボブカットの髪の楚々とした雰囲気をもつ、『大和撫子』と言うのがピッタリな美女だ。

ちなみに、着物は今日が正月だからではなく、それは彼女の普段着でもあった。

 

 

「改めて…ありがとう。よく来てくれていたんでしょう?」

 

 

墓の状態から、こまめに掃除されていることに気がついた景太郎は、行ったであろう操に頭を下げる。

墓の主が主だけあって、神凪の者…特に身内を殺された者から、墓を壊されそうになったことが多々あったのだ。

神凪宗家の一員である景太郎の権限で『手出し無用』と申しつけたが、それでも手を出す者は絶えなかった。

 

自分が離れてからのことが心配だったのだが…操が護っていてくれたことに安堵した。

 

 

「先にも言いましたが…わたくしには、貴男様の為にこれくらいのことしかできませんから」

「操さん…」

「あの時、貴方様が庇ってくれなければ、大神家はお取りつぶし…そして私は処断されていました」

 

 

先の風牙衆謀反の後、様々な事情から大神家が〈八神 和麻〉に牙をむいたのだ。

内容は割合するが…最終的に当主は死に、巻き添えにされた操が生き残ったのだが、

魔に堕ちた大神家の者を処断することは、魔を滅する神凪家にとって当然の流れだった。

 

しかし、処断されるはずだった操を景太郎が庇ったのだ。

だが何の処罰も無しという訳にはいかず、宗主の一存で保護観察処分と云う事になったのだ。

表向きには、操を景太郎の『婚約者』という立場にして、身近に置いたのだ……

〈つまり、重悟が浮気云々と云っていたのは、婚約者の操が居るからだったのだ〉

 

だが、もうあの事件から一年以上…

ただ操られていただけのみさおに見張りは必要ない、とされ、監察処分は無くなった。

景太郎がそう重悟に報告し、正式に去年いっぱいで処分は取り消しになったのだ。

 

つまり…

 

 

「操さん…もう貴女は自由です。お墓のことは感謝しています。

でも、貴女を何時までも縛り付けるのは俺の本意ではありません。これからは……」

 

「お気持ちは嬉しゅうございます。ですが、これはわたくしの意志でおこなっているんです。

『婚約者』である、貴方様のお役に立ちたい…と」

 

「それは監察処分の終わりと同時に解消されたはずじゃぁ」

「いえ。宗主が『婚約まで解消しろとは言わない。好きにしろ』と申されまして…そのままにしております」

 

「あの方は…少し待っててください。すぐに撤回させますので「構いません」―――――はっ?」

わたくしは構いません」

「しかし、それでは操さんの人生が……」

わたくしはその方が嬉しゅうございます」

 

 

あくまで操の人生を気にして婚約解消を持ち出した景太郎だが、

当の本人…操の控えめながらもはっきりとした声と、微笑に言葉を失った。

 

『常に人を立て、意見が対立すれば自らが引く』と云うのが操の性格だ。

まさかその操が他人の提案を押し退け、はっきりと主張すると云うことに景太郎は正直驚いていた。

 

 

「それで…良いんですか?」

「はい」

 

 

しっかりとした短い返事と真っ直ぐ此方を見る瞳に、強い意志を感じた景太郎は軽く息を吐くと…微笑を見せた。

微かながらも本当に嬉しそうな…他人には滅多に見せない本当の笑みを。

 

 

「わかりました……何時までも此処にいたら風邪をひきます。帰りましょう」

「はい」

 

 

神凪邸に帰る景太郎に寄り添うように並ぶ操。

その様は、二人の関係を微かながらも現すかのように、なにも違和感を感じさせない光景だった。

 

そして―――――その二人に向かって、季節外れの暖かな風が優しく吹いていた。

先程まで二人が居た場所の…風巻の墓から………

 

 

 

 

―――――その2へ―――――

 

back | index | next