夢、ですか?
そうですねぇ…
もしも、ひなた荘がなくなって
ここにいられなくなったとしても
自分達の意志で
今みたいな生活が続けられたのなら
楽しいと、思います…
ラブひなEX
If もしも………
verむつみ
朝―――――もとこさん
私は扉を開けて、うーんと伸びをした。
おまけに深呼吸。
マンションの通路にも冷たい空気は流れていて、肺の中に流れ込んできた冷気に少しびっくりした。
体をほぐすように体操の真似事をしてから、新聞と牛乳4本を手にとって
中に戻る―――前に風景を眺めてみる。
色とりどりの屋根と、灰色のビルにアスファルトと、小さな緑が混ざった光景。
少し遠くに見える赤い電波塔。オフィス街と呼ばれる密集したビル。規則正しい並木と埋没してしまいそうな公園。
生まれ育った故郷の沖縄とも、少し前までいたひなびた温泉街とも違う場所。
排気ガスと汚れた水と熱い大気とせわしなさを代償に、利便を追求する街。
―――本当に、遠くまで来たのだと
ふとそんな感慨を抱いてから、私はきびすを返した。
みんなのために、朝食を作らないと。
とんとんとんぐつぐつぐつじゅうじゅうじゅう
そこそこ広い、ダイニングと一体化したキッチンに、お味噌汁の匂いが充満する。
グリルの中のアジの開きも、いい具合に焼けてきているようだ。
私は漬物を刻む手を休め、焼いた魚を取り出して小皿を四つ、食卓に乗せた。
ついでに漬物も皿の上に盛り付けておく。
それだけでは食卓が寂しいので、即席のサラダを作ろうと思う。
冷蔵庫からレタスを取り出し水洗いしたところで―――
「おはようございます、むつみさん」
「おはようございます……あ、もう少しで食事なんで待っててくださいね」
素子さんはいつものように、食事ができる前に戻ってきた。
シャワーを浴びた後なので髪が少々湿っているが、ジーンズにシャツというさっぱりとした軽装。
ひらひらとした服しか持っていない私としては、そんな格好が似合う彼女が羨ましい。
その性根も生一本の真面目なもので、まさしく理想の
「男の子、ですねえ」
「は?」
「いえいえ…あ、お暇なら冷蔵庫からおかずになりそうなもの出してくれませんか?」
「ええ…わかりました」
レタスのヘタや食べられない部分を包丁で切り落とし、剥がして器に盛る。
これでドレッシングでもかければ即席サラダの出来上がり。
かなり手抜きだけど、幸いにもこういった和風で質素な食事の方が私たちの中では主流だ。
現に素子さんは冷蔵庫から豆腐と納豆を人数分取り出している。
…というより、素子さんの嗜好に皆が引きずられていったというのが本当のところ。
最初は元々和風好みだった浦島君が、そして食に大してこだわりのない私が
なるさんは、頑固でいまだに抵抗を続けているけど
それもまたいいのだろう。
「でも、いつまで経っても見た目がよくならないのはなんででしょうね」
「まあ、あの人は根本的に不器用ですから…」
「あそこまでアンバランスな料理をつくれるのは、ある意味器用ですけど」
「初めて見て、食べた時は驚きました。昔はもっと酷かったそうですが…」
「著しく食欲が阻害されること意外は、特にデメリットはありませんよ」
「味とレパートリーだけは進歩しているんですから…不思議です」
本人がいないのを良いことに、言いたい放題の私たち。
その辺のOLや女子高生と、やっていることは何も変わらない。
けどまあ、そんなものかもしれない。
東大生二人でも、話すことは大して変わりはしないのだろう。
私たちは共に住んでいるから、互いのことを多少は分かり合っているだけで…
私はお茶碗と味噌汁の器を用意しながら、ふと思い出してテーブルの上を示した。
「そういえば、素子さん宛てに手紙が来てましたよ」
「…これですか?」
「はい」
「これは……」
手紙を手にした素子さんの表情が曇った。
こちらから見える差出人は…どうやら、素子さんのお姉さんらしい。
一度会ったことがある。『完璧な人』という印象が強かった。
それは多分、素子さんの面影があるとか大人の女性であるとかそういうのとは関係なく
完璧な人間はいないという、それを踏まえた上での矛盾を含んだ『完璧』だったような気がする。
おそらく私も似たようなものだ。
「どうかしましたか?」
「いえ…たいしたことではありません」
「けど、顔色が悪いですよ」
「…もう1年程で、卒業ですから」
「はい?」
「卒業した後は戻ってくるようにと、ただそれだけです」
「そう、ですか…」
いやなかんじ
彼女が京都のとある道場の跡取であることは知っている。
こうして大学に通っていても、剣の修行は欠かさず続けているということも
毎朝、それこそ新聞が届くよりも早く起きて、マンションの屋上で一人剣を振っているということも
そうして実家に戻るということは、ここでの生活が終わるということも
理解している。
つまりは本来居るべき場所があるということ
ザア―――という音がする
「まあ、少し寂しいけど仕方ないですね」
「それに卒業できたらの話ですし」
「あら素子さん。卒業できないほど成績悪いんですか?」
「…まあ、あまり良くはないです。また教えてくれれば有難いんですが…」
「私の得意分野でよろしければ」
朝食の支度をしながら、朝日差し込む部屋でそんな言葉を交わして
時折大学での授業の進展具合を話しあって
―――ふと、会話が途切れた。
「………」
「………」
「……あの」
沈黙を破って
先程の手紙のせいだろう。
素子さんが、そんなことを聞いたのは
「むつみさんは、その浦島と…」
「なんですか?」
「いえ、その……なんでもありません」
気まずい雰囲気
私にも、素子さんの言いたい事が分かった。
分かった上で、笑顔でとぼけた。
本当は素子さんも勘づいているのだろうけど、正面から聞くには彼女は生真面目すぎる。
だからそれらしいことをいうことでカマをかけたのか、あるいは本当は最後まで言うつもりだったのか。
どちらにせよここは、ヘタに何かをいってボロを出すべきではない。
…そんな、せせこましい駆け引きばかり上手くなっていく私。
結局、居心地の悪い無言の空間は、なるさんが起きてくるまで続いた。
「あの……この時期で3年生ということは、私は2浪しているのですか?」
昼―――――うらしまくん
私はまだ、東大で学生をやっている。
正確には大学院生という立場で、とある研究室にて研究を続けている。
今年卒業だが、研究室に残ることが決まっている。
研究を続けられるのは、それは嬉しい。
ただ、やることは変わらなくても学生から研究員になるにあたって様々な手続きが必要になった。
そんな作業に忙殺され、最近は肝心の研究がおろそかになっているのは本末転倒かなあと思う。
そして今日もまた学務課と研究室と教授の部屋を往復して
ふとお腹が減って、食堂に向かう途中で
彼を見つけた。
「こんにちわ、むつみさん」
「用件は済みましたか?浦島君」
食堂の前にいくつも並んでいるベンチに座って、浦島君は電話をしていた。
彼の邪魔をしないように、横に座って待った。
かなりの間――だいたい10分程だろうか――だったので、空腹感は更に増したけど
それは特に構わない。
発掘に出掛ける事が多く、棟も違う彼と学内で会うことは珍しい。
(今となっては)太陽の下で浦島君と話す機会は本当に少ないのだ。
――――本当に、色々なことが変わってしまったのだと
ふとそんな感慨を抱いてから、私は彼を昼食に誘った。
なんとなく、他愛ないお話をしたかった。
「むつみさん、研究の方はどうですか?」
「いろいろ手続きがあって…それに、一日にできる申請は限りがあるんです。だから中途半端に時間が余ってしまうんですよ」
「へぇ…でも、楽できていいなあ」
「あら?浦島君は研究が楽しくないんですか?」
「楽しいんですけど…あの人に付き合ってると、世界中飛び回されるんで…」
「楽しいじゃないですか」
「疲れますって…明日もオーストラリアに出張ですよ」
「あらまあ…それは急ですねえ」
「決まったのついさっきですから…」
はあ、と溜息。
時間としてはかなりずれているため、食堂はガラガラだった。
その一角に差し向かいで座り、スパゲッティとうどんを啜る。
安いから、というなんとも情けない理由なのは、諸々の事情にて財政が逼迫しているから
けどまあ、かなりの安値の割にはなかなかの味だ。
私はくるくるとフォークにパスタを絡めながら、ふと聞いた。
「そういえば、さっきの電話ご家族からですか?」
「え?まあそうですけど…なんで分かったんですか?」
「なんだか浦島君が、すごく信頼しているような口調だったので…盗み聞きしてすみませんね」
「……むつみさんにはかないません」
「うふふ……それで、ご家族はどうですか?」
「父さんも母さんも、変わりませんよ。いつもの通りでした。ただ…」
「ただ?」
「父さんが、その、はやく孫の顔が見たいって」
「…あらあら」
「母さんは別に興味なさそう…というか、なんか冷やかしてましたけど」
「どんなふうに?」
「『あなたと一緒になってくれるような人が居ればの話だけど』だって」
「まあ…うふふ」
浦島君にしろ、素子さんにしろ、なるさんにしろ、そして私にしろ
今の状態を、そのまま家族に伝えるようなことはしていない。
それは、最初に決めたことだった。
この決して優しくない世界で、身を寄せ合って生きていく場所を守るため。
…ただ、どのように伝えるかは個人の裁量に任されている。
私は、お母様だけにはほとんど包み隠さず話している。
――私と彼だけの公然の秘密を除いて――
けれど浦島君は、家族には『一人暮らし』だと伝えているはずだった。だからこういった、家族からの介入は
終わりのきっかけともなりうるもの
ザア―――と崩れる音がする
「それで浦島君は」
「はい?」
「誰に子供を産んで欲しいんですか?」
「っ―――むつみさんっ!!」
顔を真っ赤にした浦島君は、怒っているようで照れているようで
私はくすくすと笑う。
未来はよくわからないけど
ただ一つだけ、決まっていることがある。
浦島君と結婚をするのは、なるさんかもしれないし素子さんかもしれないし、他の誰かかもしれないけど
それは、私ではないと
…そんなことが赦されるはずがないと
くすくすと笑いながら、思った。
「俺は考古学者かあ…まあ、まだ瀬田さんのお世話になってるみたいだけど」
夜―――――なるさん
私たちの住んでいるマンションは、3LDKというだけあって三つの部屋がある。
そして、玄関から見て手前の二つをそれぞれ素子さんと浦島君が
ベランダに面した一番奥の大きな部屋を、私となるさんが共同で使っている。
部屋の中にはベットが2つ机が2つ本棚が2つクローゼットが2つ。
…家具の種類は同じでも、その整頓状況に大きな差があるのはなぜだろう。
何も乗っていない彼女のきれいな机と、書類やら資料が山積みになった私の机。
薄い教科書が整然と並んだコンパクトな本棚と、分厚い専門書や色褪せた古本が大量に詰まった大ぶりの本棚。
きっちりと洗濯されて皺一つないシーツと、くしゃくしゃな上に脱ぎ捨てたシャツやらが乗っかったシーツ。
クローゼットすら、片方が傷だらけに見えるのは不思議です…
こんな所で性格というのは如実に現れるものなんだなあと、思う。
意外と几帳面で状況を整理整頓する彼女と、見た目通り大雑把で感じるままに動く私。
とりあえずそんな彼女であったから
日々のストレスをまともに受けて、椅子に座ってぐでーっとしてしまうのかもしれなかった。
「お疲れですねぇ、なるさん」
「はぁー…今日は本気で疲れました」
「今度はなんですか?また授業中に麻雀とか…」
「それはもう注意しました。今度は、掃除の時に野球ごっこをしていて窓ガラスを割ったグループがいまして」
「まあ…わんぱくですねえ」
「本当に高校生なのか、時々疑うほどですって」
そんなことを愚痴交じりに語りながら
それでも彼女は、どこか楽しそうだった。
教え子が居るというのはどんな気分なのだろう。
なるさんは現在、都内の公立高校に英語教師として勤めている。
新任で新米の先生だけど、一年の一クラスの担任も任されている。
これが本人の能力によるものか、単なる人手不足なのかは知らないけど
人気はとても高い…らしい。
気さくな態度、わかりやすい授業、その可愛らしさ。
男子女子生徒教師を問わず人気が出るのは当たり前だろう。
ぐったりとするほど疲れているのも、それだけ熱心に生徒の指導を行っていたからで
健全に、一生懸命に生きる彼女は
成瀬川なるという女性は、輝く太陽のような存在なのだから
―――本当は、日のあたる道に向かえる人なのだと
なぜだろう、ふとそんな感慨を抱いた。
今朝から続いた、嫌な予感のせいかもしれない。
「あの…なるさん」
「はい〜〜?」
「ご家族の方は、どうしてますか?」
「う…」
私の唐突とも言える問いに、なるさんは露骨に顔を強張らせた。
…薮蛇だったのかもしれない。
彼女が、実家とうまくいってないことはうすうす知っていた。
それは会話の節々とか、家族の話題が出た時とか
例えば私は、自分の家族を子沢山でにぎやかな幸せな家庭だと語る。
例えば素子さんは、尊敬するお姉さんのことをとても誇らしそうに語る。
例えば浦島君は、妹がいて両親も健在なごく普通の家だと語る。
そんな時になるさんは、寂しそうな羨ましそうな目をするのだ。
よくは知らない。彼女は語らないのだから。
「あの、ね。妹が…」
「妹さんがいるんですか?」
「ああ、えっと…父さんが再婚して出来た、義理の妹なんだけど」
「可愛いですか?」
「まあお姉ちゃんお姉ちゃんって慕ってくれてるんだけど、私としては……じゃなくて」
「はい?」
「それでメイは今年受験なんですけど、東大受けたいって…」
「まあ。良いことじゃないですか」
「で、一度東大を見ておきたいからそのうち上京するって…」
「あら」
「それで、その時は部屋に泊めて欲しいって…」
「あらあら……なるさん。ご家族にはなんて?」
「その、ルームメイトがいるとしか伝えてないんです」
「それはそれは…困りましたねえ」
語ってくれた事情は、なかなかにとんでもないことだった。
というか洒落になってない。
世間一般には同棲と呼ばれるこの状態を、家族はまったく知らないという。
まあ、確かにルームメイトというのは嘘ではないのだけど
そして部外者がいつ入ってくるのかわからないという。
これまで、本当にいろいろなことがあった。
けれど今度ばかりは、最後かもしれない―――
ザア―――と砂の城が崩れる音がする
「はあ……」
「ごめんね、むつみさん…」
「いえ、いいんです。なるさんが悪いわけじゃありませんから」
なるさんを恨む気にはなれない。
そもそもこんな生活は、彼女にとって不自然なのだ。
本当に普通の感性を持ち、本当に普通の幸せを掴める彼女だから
家族にそのままのことを伝えるなんて、できるはずがない。
疲れのあまり、椅子に座ったままうつらうつらし始めたなるさんを見ながら
悪いことをしているな、と思う。
全ては、私の我侭から始まったことだから
「高校教師って……さっき私が言った夢そのままなんですね…」
いつか語った私の夢は
表面上は何の問題もなく
だけど実際は、これ以上ないほど歪んでしまっていた
どこか私に似ている彼と、私とは違う世界にいる彼女と、私とは違う真っ直ぐさを持った彼女と
こんな遠くまで来て、それでも
あの頃とは色々なことが変わってしまって、それでも
日のあたる道を歩ける人を巻き込んで、それでも
こんな不健全で不自然な状態を続けたいと思うのは
間違いなく、私のエゴ
本当に、生まれてからずっと、こんなに強く
欲しいものを欲しいと思ったことなんて、なかった
だから
私は
深夜――――むつみ
午前、2時。
目を開いてみても、やはり何も見えない闇の中
私は音を立てないように、ベットからそっと起き上がった。
けど、疲労の重なった彼女の眠りはそう簡単に覚めないだろう。
それでも、少しでも音を立てないように部屋を出たのは
僅かにでも残っていた、罪悪感のなせる業だったのだろうか。
――――なんて、偽善。
ぺたぺたと、フローリングの床を歩く。
真っ暗闇でも、さして広くなく三年間過ごした場所なので不自由はない。
―――なにより、何回も繰り返した行動なのだから
ドアノブを探りあて、開ける。
キィと、小さな音と共に
私は、彼の部屋の中に入った。
「……むつみさん」
部屋の中も暗闇だった。
見えはしないけどそこら中に散乱しているはずの荷物。
ベットに座っているはずの浦島君。
うつむいているはずの…彼。
「もう…やめましょうよ、こんなこと」
闇の中を記憶を頼りに進む。
積んであるはずの本を避けて
並べてあるはずのダンボールを跨いで
カツン、と何かにつまずいた。
どうやら鞄のようだ。それも中身が詰まった鞄。
―――そうだ、明日は出張なんだった
だから、ここに来たのかと、不意に理解した。
「ねえ、浦島君…」
自分でも信じられないほど、艶めいた声が出た。
一歩踏み出して、もうベットのすぐ前。
ベットに座っている彼の、息遣いまで聞こえそうなほど近く。
するりと、衣擦れの音。
「むつみさんっ…!」
「静かに……素子さんが、起きてしまいますよ…」
言って、自分でもおかしく思った。
素子さんはきっと気付いているのだろう。
一ヶ月に何回も隣の部屋でこんな事をしていては、気付かないはずがない。
そしてきっと、なるさんも薄々は勘付いているはず。
それでも、こうやって夜中に来るのが止められないのは
「ねえ……いつもみたいに、抱いてくださいよ……」
するりするりと、衣擦れの音。
もともとパジャマしか身につけていなかった私は、既に下着姿で
足元にわだかまる布を払って、最後の一歩を踏み出す。
トン、と彼の膝と私の膝が触れ合った。
「明日から出張なんですよね?だから…」
「むつみさん、ダメです…」
「そうすれば、そうすればちゃんと帰ってきてくれますよね?」
「こんなことしなくても帰ってきます…!」
「でも私は恐いんです、不安なんです。だから…証拠が欲しいんです」
ばさ、と微かな音がして
私は彼にしなだれかかっていた
布越しに触れ合う、肌
温もり
鼓動
匂い
「でもこんな…んっ……」
「ん……」
味
乙姫むつみという存在は
にぎやかな家族がいて、人の良い隣人達がいて、帰るべき故郷があって
青山素子のように背負うべき責務もなく
成瀬川なるのような欠けた家庭でもなく
幸せな環境に育って
当然のように、幸せな人間になるはずだったのに
こんな、歪んだ心を持ってしまった
諸悪の根源たる、貴方―――
景太郎や
なあに?おばーちゃん
あれ…?誰なの?その子
しばらくひなた荘にいることになったから、仲良くしておやり
ふーん……あっ、リッド君だリッド君――!
リッド君、好きなの?はい、貸してあげる
わーい!
リッドーリッドー♪リッド君と♪仲間達――
しっぽをたてて――♪
あははは
僕は景太郎って言うんだ!君の名前は?
え、名前?
私の、名前は…
本当に、私と貴方は似ている
まるで鏡に映したように
本当は、幸せで平凡で自由な道を歩けるはずだったのに
幼き日の約束に縛られて
いくつもの可能性を切り捨てて
だから、かもしれない
こんなにも狂おしく、一つになりたいと思うのは―――
「「「―――って、むつみさん!!」」」
「はい?」
話の途中で、皆さんが急に叫び声を上げました。
なるさんは顔を上気させて怒った顔で
素子さんは眉を寄せて機嫌が悪そうに
浦島くんは顔を真っ赤にして俯いて
三人とも、どうしたんでしょうねえ。
「なんなんですか、それは!」
「そもそも、将来の夢を語り合っていたはずですが」
「はい。ですから将来の夢ですよ」
「む、むつみさん!だから何で俺がむつみさんと…」
「この!エロガッパァ!!」
「な、なんで俺…びこぱっ!!」
「あらあら……浦島く〜ん」
「まあひなた荘の外まで吹っ飛んだ浦島はどうでもいいとして」
「…自分でやっといてなんだけど、少し飛びすぎたかしら…」
「夢、という割にはやたらと不幸っぽいのですが…」
「いいじゃないですか、倦怠期とは無縁で」
「そういう問題じゃないです…」
「しかもですね」
「はい?」
「どうして浦島と関係を結んでいるのがむつみさんだけなのですか?」
「ああ、それが不満だったんですね」
「違う――!私は違う―――!二人ともおかしいよ――――!」
なるさんの悲痛な叫びを他所に、夜は更けていきました……
「……むつみさん?」
「――すう――すう――」
「寝ちゃったんだ……」
「――すう――すう――」
「ねえ、むつみさん。昔、みんなで将来の夢を語りあったことがあったよね」
「――すう――すう――」
「結局、むつみさんの言うとおりになっちゃったかな」
「――すう――すう――」
「でも、一つだけ言わせて欲しい」
「――すう――すう――」
「俺はね、こんなことしなくても、むつみさんことが大好きだよ」
「――すう――すう――」
「同じように、素子ちゃんと成瀬川のことも大好きだから」
「――すう――すう――」
「みんなと居ると幸せだから…どこにも行かないよ……」
「……本当ですか?」
「うわっ……むつみさん、起きてたの?」
「はい。それより、本当ですか?」
「あ、うん。どこにも行かないから…」
「その前です。『みんな大好き』ってホントですか?」
「えーと、まあその……はい」
「じゃあ…みんなで結婚しちゃいましょうか」
「えっ!?」
「できたら、いいですねぇ……うふふ」
ザア―――と砂の城が崩れる音がする
私はそのたびに、夢のかけらをすくって砂の城を創り直す
いつまでもいつまでも
この歪んだ心が、満たされるまで―――
FIN
back | index | next