やあ、こんにちわ。俺は浦島景太郎。
ひなた荘という女子寮で、管理人をやらせてもらってる……って、そんなことはみんな知ってるよね。
今は、俺がひなた荘に来てから半年くらい経った頃。東大目指して勉強中だ。
管理人の仕事も板についてきたし、みんなとも仲良くなれていると思う。まあ、時々殴られたり蹴られたり斬られたりするけど……
うん、その事がまた複雑な事態になっているんだけど……それは後で話そう。
さて、唐突だけど、俺はある女の子に恋をしている。
それはひなた荘の住人で……その気持ちに気付いたのは、かなり前だった。
……ホントは、ひなた荘に来てから1ヶ月くらいで気付いたんだけど……告白なんて夢のまた夢だ。
だってさ……恋心に気付いたのが、『素子ちゃんに吹き飛ばされた瞬間』というのは……かなり問題あると思う。
ラブひなEX
If もしも………
ver景太郎
1.始まり――いっそ一目惚れなら良かったのに
それは、俺がひなた荘に来て1ヶ月くらい経った頃。
それまで募っていた素子ちゃんの不満が(俺が偶然露天風呂を覗いてしまった事によって)爆発し、勝負を挑まれた。
「勝負だ!浦島景太郎!」
「う、うわ!ちょっと待ってよ!」
「貴様、男なら逃げるな!……ええい、喰らえ!奥義、雷鳴剣!!」
ズギャア!!!
「びぎゃぷっ!?」
「あ……」
ドサッ
結局その勝負は、吹き飛ばされた俺と体力を使い果たした素子ちゃんの両方が気絶する事により、引き分けになった。
何でも素子ちゃんは風邪を引いていて、少し錯乱していたらしい。
その時なのだ。俺の胸がときめいたのは……いや、決して高圧電流くらったせいじゃなくて。
そんな、絶対に普通とはいえない始まり方をした俺の恋。
前途は多難だ………
2.悩み――なまじ倫理に縛られてるから
ここで断っておくけど………俺はごく普通の男性だ。
決してマゾヒストじゃない!
少なくとも自分ではそう思ってきたし、こんなことは1度もなかった。
そこを踏まえておいてほしい。
その日から、俺の生活が一変した……というわけじゃない。
別に素子ちゃんに対して特別な態度を取るわけじゃない。それどころか、自分の想いなどおくびにも出さなかった。
他の住人の人と同じように接して……けれど内心は、ドキドキしていた。
そう、何しろ俺は恋をしていたのだから。
会うだけで、話すだけで幸せな気分になれるのは……それは好きということだろう?
でも……
「ま、待って―!着替え覗いたのはわざとじゃないんだよー!」
「うるさい、この破廉恥男!天誅ぅ!」
ズドォッ!
「はみれぱっ!」
一番幸せな気分になれるのが、素子ちゃんに吹き飛ばされている時だなんて……そんな酷なことはないでしょう……
俺が生まれついてのドジなのか、神様の悪戯か、それとも話自体がコメディだからか、俺はよく素子ちゃんに吹き飛ばされる。
大抵の怪我はすぐに治るけど、痛いものは痛い。快感を感じてるわけじゃないのが唯一の救いかもしれない。
俺自身、それはどうしようもない変態だと思うから……
俺は素子ちゃんのことが好きだ。
もっと素子ちゃんと親しくなりたい、素子ちゃんにも俺を好きになって欲しい。
その気持ちは至極真っ当なものだと思う……今はもう思い出の中にしかいない『約束の女の子』には悪いけど。
けれども俺は……素子ちゃんに嫌われている。
折をみて(不自然でない程度に)話そうとしているのだけれど、常にそっけない態度をとられている。
……まあ、当たり前かもしれない。彼女は俺みたいな『軟弱者』は嫌いだと公言しているし……ハア………
俺みたいな男に好意を持ちようがない。
むしろ、積極的に避けられていないだけマシだろう。
だから、俺はまだ自分を抑えていられた。
……笑っていることができる。
けど、もしも俺がそんな奴なんだとばれたら……考えるのも嫌だ。
だから俺はその想いを必死に隠し通していた。
3.相談――どれだけ追い詰められていたのか
けれど、それも限界だった。
素子ちゃんへの想いを隠し通して早五ヶ月、行き場を失った想いは俺を蝕んだ。
いつのまにか、わざと素子ちゃんに怒られるような事をしようとしている自分に愕然とした事もあった。
俺は素子ちゃんを悲しませるようなことはしたくないんだ!
けれども、素子ちゃんに吹き飛ばされている時にもっとも幸せを感じるのも事実。
なぜだろう。
本気で悩んだ。
答えは出なかった……いや、本当は認めたくなかっただけなのかもしれない。
自分が異常であるという答を……
このままでは取り返しのつかない事をしてしまうと感じた俺は、誰かに相談する事にした。
第3者の立場から、俺を否定して欲しい。そうすれば……諦めることが、できるかもしれない。
さて、人選だ。
キツネさんはこういう話には頼りになりそうだけど、秘密はだだもれになってしまう。
しのぶちゃんにこんな相談ができるわけがない。
スゥちゃんは論外。はるかさんは……どうもこういう相談はしにくい。
だから消去法・・・という訳でもないけど、誰に相談するかは決まっていた。
まあ、なんだかんだ言って口は堅いと思う。それに一緒に勉強しているだけにそれなりに仲がいいし。
そんなわけでその日、俺は勉強会の合間に成瀬川に相談をした。
素子ちゃんが好きなこと、自分が変態かもしれない事、全部を。
「……というわけで、俺どうしたらいいのか……って、成瀬川?」
「あ、あ、あ、あ、あんたねえ……」
「ど、どうしてそんなに青筋立てて怒気が噴出したりしてるの…?」
「知らないわよバカァ!!」
バキッ!
「ぱらっ!?」
なぜか思いっきり殴られた。
……けど、成瀬川に殴られて一つだけわかったことがある。
俺は、別に吹き飛ばされること自体に対して喜びを感じてるわけじゃない。
痛いしきついし訳がわからないしでろくなものじゃなかった。
俺が幸せを感じるのは、素子ちゃんだけなんだ。
俺は素子ちゃんがいいんだ。
4.告白――唐突といえば唐突だけど
そんな風にわかってみても、我が身はなかなかままならないもので。
俺はいつもの通りに素子ちゃんに話し掛けては、そっけなくされて落ち込むという日々を過ごしていた。
俺が吹き飛ばされて幸せを感じるような奴だって事は変わらない。
そんなある日、素子ちゃん宛に手紙が届いた。
管理人として、それを一番初めに手にする事になった俺は……正直、悩んだ。
でもやっぱり、それは人としてやってはいけないことだと思った。
……その手紙が誰からのものなのか、すごく気になったけど。
けれどそれは、一つのきっかけになると思った。
そんな風に感じる俺がいることが、ひどく新鮮に思えたから。
俺は変わってきている。
そしてそれは………
だから告白しようと決心した。
「素子ちゃん。手紙が来てるんだけど……」
「………そうか」
「あ、あのさ素子ちゃん。その手紙、家族から?それとも……」
「…姉上だ」
「そ、そうなんだ」
ホッとした。
そして安心した自分に気付いて、いよいよ想いを伝えなければいけないと思った。
「あ、あのさ素子ちゃん、俺……」
言え!言うんだ!
今言わなきゃ、いつまでたっても俺は『軟弱者』のままだぞ!
勇気を振り絞れ!
「俺……素子ちゃんのことが、好きなんだ……」
言った!
じっと見つめる俺。
ぽかんとした素子ちゃん。
素子ちゃんの部屋に空白が流れた。
「ふ…」
不意に、素子ちゃんの顔が赤くなった。
いや、耳まで。
更に首筋も。
おまけに、服から覗く手首も。
まっかっかだ。
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ……」
間
そして素子ちゃんは爆発した。
「ふざけるなぁ――――!!!!」
ズドギャッ!!
悲鳴をあげる暇もなく、俺はひなた荘の外に吹き飛ばされた。
色々と理不尽な気がしたけど、とりあえず俺は。
何故幸せを感じるのか、唐突に理解していた。
高校
全てが灰色に見えたあの頃
俺は、親友と呼べるような存在は持ったことがない
集団は、自分たちと少しでも毛色の違う存在は容赦なく弾き飛ばす
身の程知らずに東大を目指す男。それだけで充分だった
………いや、本当の問題は俺にあるんだ
誰に対しても一定の距離を保って
そうすれば、相手も曖昧な関係でいてくれる
それなら誰も傷つかない
親しい人ができたって……結局は、別れる
……あの娘のように
だけど俺の心は泣いていた
寂しいと
俺の心は、生きながらにして死んでいるようなものだった
盲目的に約束にすがって
そんな俺に
ありのままの感情をぶつけてきた少女
青山素子
たとえそれが敵意でも、俺の心は生き返った
世界に色がつく
生きる喜びを感じる
激しい感情が生まれる
吹き飛ばされるたびに、彼女が『何も持っていない俺』に意識を向けているのを確認できる
それが幸福感の正体
それが俺の恋
……どっちにしたってマトモなものじゃない
やっぱり俺は、素子ちゃんから離れたほうがいいのかな……
5.三分前――彼女には彼女の事情が
コホン………私は青山素子だ。よろしく。
さて、私は現在……ここ数ヶ月、ある状況に陥っている。
それは私の人生の中で初めて経験したもので、いかんともし難いもの……
恋、だ。
まったく、私ともあろうものがあんな軟弱者に……不覚だ。
今は部屋に1人でいるから、ごく冷静に考えることができるのだが……直接話したりするとドキドキして、つい素っ気無い態度をとってしまう。
恋とは、そんな厄介なものなのだ。
そんな小学生並みの反応をしている私だが、一つ大きな問題点がある。
奴の前ではどうしても素直になれないとか、そういうのよりも遥かに大きな問題だ。
先ほども少し述べたが、私は浦島と話したり会ったりするだけでドキドキする。だが……
一番ドキドキするのが『浦島を斬った時』だなんて……そんな酷なことはないでしょう……
ここで断っておくが、私は決してサディストなどではない。
他人を傷つけて喜ぶような、人間として最低の部類ではない……と、信じたい。
私はよく浦島を斬る。
浦島が筋金入りのドジなのか、誰かの陰謀か、話自体がコメディだからか。
そして浦島をひなた荘の外まで吹き飛ばした後の私は、胸をドキドキさせ、目を潤ませて真っ赤になっているのだ。
変態か、私は……
浦島はいくら斬られようが、気にした様子もなく私に話し掛けてくる。
少なくとも馬鹿だろう。
しかし、私はそんな馬鹿に惚れているのだ……
しかも吹き飛ばしてドキドキしているのだ。
私はどうしたら良いのだろう?
意味もなく浦島を斬ってしまって愕然とした事もあった。
私が、壊れてしまう………
そもそも、なぜ奴は私から離れていかないのだろう。
普通、こんな対応をしていれば……嫌われるに決まっている。
それは、私にとってはかなり辛いことだが……同時に、全てが解決する方法でもある。
何故、奴は私を嫌わないのだろう。
何故、私は……
ところで今、浦島が部屋に来た。
「素子ちゃん、手紙が来てるんだけど……」
間
「ふざけるなあ――――!!!!」
ズドギャッ!!
よりによって『私が好きだから』だと!?
フザケルナ
―――姉上―――
ふざけるな!
―――皆、姉上のように私の前からいなくなる―――
ふざけるな!!
―――いくら優しくしてくれたって、お前もいつか私を捨てる―――
ふざけるな!!!
―――なら、私は嫌われた方がいい―――
ふ・ざ・け・る・な!!!!
―――なのに何故お前は―――
私が浦島を斬るたびに胸を高鳴らせる理由
それは歪んだ愛
嫌悪でいいから私を見て欲しい……だから浦島に嫌われるような事をする
斬る
けれど浦島は、一向に私を嫌う様子もなく話し掛けてくる
わからない
でも……うれしい
それは――――――
―――皆、姉上のように私の前からいなくなる―――
―――いくら優しくしてくれたって、お前だっていつか私を捨てる―――
―――違うというのなら、証拠を見せてくれ―――
―――証拠を―――
「イテテ……いきなり吹き飛ばすのはひどいよ」
「………」
「あのさ、素子ちゃん。俺……」
「…………………戻ってきたな?」
「へ?」
「……戻ってきたな?」
「え?いや、はっきり断られれば諦められるかと思って来たんだけど……」
「戻ってきたな?」
「う、うん」
「馬鹿者」
「うっ……」
「阿呆、間抜け、お人良し、軟弱者、ドジ、身の程知らず、浪人」
「ううっ……」
「マゾ」
「うぐっ………もう、いいよ…」
ぎゅ…
「え?素子…ちゃん?」
「大好きだぞ、馬鹿………」
終
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