注意!これは景太郎X素子小説………のはずなんですけど……

*これは『愚か者が想いを貫き 卑怯者が想いを裏切り 臆病者が想いを繋げる 夜』の続きです
*途中で『こんなんむつみさんじゃない!』『なんで成瀬川がこんな役なんだ!?』と感じても、とりあえず最後まで読んでみてください。
*景太郎存在感薄いなあ……


――――しってる?

なっちゃんのお父さんに聞いたんだけど

アイしあう二人がトーダイってとこに入るとね

『シアワセ』になれるんだって

――――ふーん

……けーくん

なっちゃんのことお嫁さんにしたいんでしょ!!

ね、そう言ってさそってみたら?

えっ……

ほら、リッド君かしてあげるから

う、うん

よーし……

ねえ、なっちゃん

僕と一緒にトーダイに行こーよ


それが私の、最初の記憶
それが私にとっての、全ての始まり
それが私の―――――

 




ラブひなEX

千切れた約束が織り成すは 終わりの始まりと始まりの終わり

 


 

 

「むつみさん!?」

その日、歩道を歩いてると突然名前を呼ばれました。
懐かしい声です。半年振りくらいなんですけど、それ以上に懐かしく思えるのはなぜでしょうか。
私は笑顔を浮かべながら振り返―――
「浦島く…」
ろうとして、そのとき背負っていたスイカが反対側に振り回されて電柱にひっかかった反動で私の体はバランスを崩し回転する視界いっぱいに
映ったのは道路に転がったスイカ―――

ごん

なにやら鈍い音が聞こえると共に私の意識は一瞬だけ暗くなりましたが、すぐに回復しました。
でも変です。
何で私の体が足元にあるのでしょうか?
なんで浦島君がその体を抱えて大騒ぎしているのでしょうか?
あらあら…道路を歩いている皆さん、何かに驚いていらっしゃるようです。なんでしょうか?
と、気付いてみると私の手や足はなんだか半透明になっていました。変ですねえ。
あら、この音楽はなんでしょう?向こうに見える光の方から聞こえてくるような……
気になりますねえ、いってみましょうか?

「むつみさーん!逝っちゃダメ―――!」




 

人は、信じられない事を知った時どうするのだろう?
あるいはそれが、信じたくないものだとしたら?
まず混乱するのだろう
そしてその混乱の後、絶望と共にその事実を受け入れる
理解の光
それは人間という生物の最も優れた点の一つかもしれないけど、それこそが不幸の始まりになるのかもしれない
理解さえしなければ、苦しむ事も多くはないはずなのに
でも人として生きる以上、それは常に働いてないといけない
なくなれば動物に堕ちるだけだから
でも……それでも私は…時折、動物に堕ちたいと、思う





シャッシャッシャッシャ……

そのとき私は刀を研いでいた。
浦島の部屋で
そのとき私は正座をして浦島を待っていた。
白装束を着て
そのとき私は悲壮な目をしていたのだろう…
『浦島………』
思ったのは、ふすまのすぐ向こうまで足音がたどり着いたからだ。
私にはそれが、浦島のものだと分かる。

ガラッ
「あれ?素子………ちゃ…ん…?」


だんだんと語尾が小さくなりながらも、最後まで言い切った浦島は、まあ立派だろう。
今の私の格好は、普段とは少々違ったものだったから
それだけでなく、全身を負の空気が覆っていただろうから
ゆらり…と立ち上がる。

「……浦島……」
「ど、どうしたの素子ちゃん?そんな、白装束着て目をキュピーンと光らせちゃったりなんかして…?」

なにやら錯乱気味な事を口走る浦島の疑問に、答えてやる事にする。
冥土の土産というやつだ…

「先程、駅前でお前を見かけた……」
「えっ…そうだったの?声かけてくれれば……」
「その時お前は……見知らぬ女性を道路の真ん中で押し倒していた……」
「へ…?それは……」
「あの時お前は言った……『他の女性を見たら殺してくれてもいい』と……」
「って、まさか……」
「安心しろ浦島……」

浦島の頬を汗がツー、と流れた。
チャキン、と研ぎ直したばかりの止水を構える。
その時、私の頬には涙が伝っていた。

「一人では逝かせない………私も一緒に……」
「ちょ……素子ちゃん、目が本気と書いてマジなんだけど……」

緊迫する空気。
浦島一歩あとずさるのに合わせて一歩踏み込む。
浦島がもう一歩下がった瞬間、私は斬りかかっているだろう。
さらばだ浦島……来世でも再び……

「神鳴流最終決戦奥義――――真雷光…」
「あの〜、ちょっといいですか〜?」

今まさに自らもろとも最終奥義を発動(今ならできそうな気がした)させようとしていた私は、突然横合いから聞こえてきた声に思考を中断されてそちらに顔を向けた。
場にそぐわないのんびりとした声の持ち主は、一人の女性だった。
よく見ると、ついさっき浦島が押し倒していたはずの女性だ。
……何故、ここに?


「はあ…そうだったのですか。すみませんでした」

数分後
私は浦島から、隣の女性についての説明を受けて、肩身が狭くなっていた。
まあ、要するに、その………誤解だったと
浦島はただ、突然倒れた知り合いを介抱していただけだったらしい。
その女性、乙姫むつみさんは、浦島の隣でニコニコと笑っている。
どうもその笑顔がこちらを責めているように感じられて

「本当に…すみませんでした、乙姫さん」
「いえいえ、気にしないでください」
「そう言って下さると気が楽です…」
「あの〜……二人とも、死にかけたのは俺なんだけど…」
「男が細かい事を気にするものではないぞ」
「いや、生きるか死ぬかは細かいことじゃないかと……」
「そうですよ、浦島君は男の子なんですから。私なんかしょっちゅう死にかけてますし」
「む、むつみさんまで……(泣)」
「あ、私のことはむつみでいいですよ」
「あ、はい、むつみさんですね。それでは私のことも…」
「はい、素子さんですね。うふふ…」
「ははは…」

部屋の隅でいじけだした浦島を尻目に、むつみさんから浦島と知り合った経緯を聞く。
彼女が浦島と同じ三浪生で、東大を目指していること
傷心旅行中の浦島となる先輩に偶然出会ったこと
彼女の実家である沖縄まで送ってもらい、再会を約束したこと
そして、受験のために上京してきて先ほど浦島と再会したこと

「で、成瀬川にも会いに来たんだよ」

ようやく復活してきた浦島が、そう言って締めくくった。

「今度は素子さんの話をお願いしますね」
「は、はい。ええと……」
「素子ちゃんは京都の道場の娘で、うちで預かってるんですよ」
「まあ、そうなんですか」

つい口篭もった私を浦島がフォローしてくれた。
神鳴流の事を吹聴することはできないので、その辺りの説明が妥当な所だろう。
そうなのだが…
もうちょっとこう…なんか言ってくれてもいいんじゃないんだろうか?
一応…仮にも、彼女という立場にある私としてはそう思ってしまうのだ。
と、私の考えを読み取ったかのように、浦島がもう一度口を開いた。

「それで、その………」
「?」
「素子ちゃんは……俺の大切な人なんです!」
「う、浦島……」

たしかに恥ずかしかった。
けどそれよりも、胸が熱くなった。
浦島は耳まで真っ赤にしていたが、私だって負けないくらい真っ赤だろう。
何しろ、涙が溢れてきそうなのを必死で堪えていたくらいだから。
だからその時、部屋の中に一瞬だけ沈黙が訪れた時に、むつみさんがどんな表情をしているかなんて事は分からなかった。

「……あらあら、ラブラブなんですね、素子さん」
「い、いやまあその………はい」

あの笑顔のまま言われて私は更に赤面した。
それ以外に何ができるというのだろうか。
だから次の言葉には完全に不意を突かれた。

「それで素子さんは浦島君とどこまでいったんですか?」
「いや、それが接吻も未だ……って、何を言わすんですか!!」
「あら、そうなんですか。私なんて、好きになったら誰でもキスしちゃいますよ」
「わ、私はそんなっ……」

そうなのだ。
付き合いだしてから3ヶ月あまりも経とうというのに、接吻もまだなのだ。
一度人工呼吸ができる……いや、しなければいけない機会があったが、直前で浦島が意識を取り戻したために断念……もとい、助かったこともあった。
確かに私は奥手だし浦島も(私以上に)奥手だから、それまでと言えばそれまでなのだが…
やはりこれは一方的に告白した私から迫るべき…って何を考えているのだ私は!
どうせなら浦島の方から優しく……って違う違う違う!
そんな破廉恥な…………ん?さっきむつみさんはなんと言った?
『好きになったら誰でも…』……って、まさか!

「むつみさん!まさか浦島と……あれ?」

気がつくと誰もいなかった。
目の前で爆弾発言したはずのむつみさんも、おそらく硬直していたであろう浦島も。
私が自らの思考(妄想)に没頭している間に、二人ともどこかに行ってしまった。
……一体何処に?



知らなければ良かったのに
そんな事はたくさんある
思い出さなければ良かったのに
忘れてしまいたかった出来事というのも、必ずある
それでも私は
一度知ってしまった事を、そして思い出してしまった事を、再び忘れることはできない
私が私でいる限り…


パキン

音を立ててシャープペンの芯が飛んだ。
なんでもない、よくあること。
でも、たったそれだけのことでさっきから滞り気味だったペン先は完全に止まってしまった。
芯を引き出してしばらく集中しようとするけど……

「はあ……」

私は諦めてシャープペンを机に置いた。
買ってきたばかりの問題集は、3ページも進まない内に閉じられてしまう。
書き込んだ部分だって間違いだらけなんだと思う。答え合わせをしなくたってそれが分かる。
そんなことが分かるために、今まで勉強してきたのではないのだけれど。
発作的に上半身と両腕を机の上に投げ出してみる。
頬にざらざらした感触。投げ出されたままの辞書だ。
眼鏡が机に当たって視界が傾く。

「なーんか………全然だめね、私……」

気が乗らない、というレベルではなかった。
今まで当たり前のように出来ていた事が、急にできなくなってしまったみたいで。
気分転換をする気にもなれない。それが意味のない事だって分かっているから。
そうでなければ何ヶ月もこんな気分でいるはずがない。
その間、ずっとこんな調子だった。学力は間違いなく落ちている。
この前の模試はかろうじてA判定だったけど……この調子では2回目の受験も怪しい。

「景太郎の事、笑えないじゃない…」

ポツリと呟いたのは、自分でも思いがけない言葉だった。
景太郎。
何でだろう。最近は、その名前を呟くことも少なくなったはずなのに
本当に…何でだろう。
なんで……こんなことになったのかな……
………

しばらくその姿勢のままでぼうっとしていた私は、扉の叩かれる『トントン』という音に反応して、ゆっくりと体を起こした。

「どうぞ」

意識して出した声は、内心の思いを映し出すことなく響いてくれた。
その事に少し安心する。
けど
その安心はすぐさま吹き飛ばされた。

「成瀬川…」

扉を開けたのが景太郎だったから。
猛烈に鏡を見たい欲求に襲われたのは、涙が出てないか確認したかったから。
いまさらそんなことができるはずもない。
彼の前でそんなことができるわけがない。
…と、景太郎の後ろにいる女性にようやく気付いた。

「むつみ……さん!?」


「お久しぶりですねえ、なるさん」
「は、はい……ホントに久しぶりですよね。なんでひなた荘に?」
「受験で上京してきたんですよ。それで街で浦島君と会って…」
「むつみさんを送ってびっくりしたよ。下宿がひなた荘の隣だったんだから」
「そこからなら、すぐにひなた荘に遊びにこれますね」
「むつみさん、私たち受験生…しかも浪人生ですから、遊んでちゃダメですよ」
「あらあら、それなら3人でトリオでも結成しましょうか?『ローニンズ』とか」
「おっ、いいですね」
「そ、そんな浪人生である事を強調しないで…」

あはは、と3人で笑う。
そう、私も笑っていた。
みんなを誤魔化すための作り物の笑いじゃなくて、自然に心から。
笑うということ。
それは生きる実感というものに直結していると、素直に感じられる。
最近ずっと、笑えなかった私は。
きっと、生きていないのと同じだったろうから。
だって今、こんなにも。

「あはははははは…」
「いつまで笑ってるんだよ、成瀬川」
「あらあら…楽しそうですね、なるさん」
「…はい、本当に」

世間話で盛り上がる。
話の折に、あははと笑う。
むつみさんはいつでも笑顔でいたけど、私が一番笑っていたと思う。
景太郎だけ、時々不思議な表情をしていた。それがまたおかしくて笑う。
受験生らしく、勉強の話題が多かったけれど

「この前の模試、Z判定だったんですか!?」
「ええ、そうなんです。名前を書き忘れてしまって…」
「あはは……むつみさんらしいですね」
「笑い事じゃないだろ、成瀬川。このままじゃむつみさん四浪しちゃうよ……いや、俺も人のこと言えないけどさ」
「困ったわね…もう11月なのに…」
「まあ……何とかなるのではないでしょうか?」
「「なりません!」」
危機感ゼロね、この人は。ある意味羨ましい。
きっと何も考えてないのではないだろうか……と思ったら。
「それじゃ、みんなで勉強会でもしましょうか?」
「勉強会…?」
「ええ。ちょうど受験生必須アイテムが手に入ったんですよ…どうでしょう?」

勉強会………か…
最近ずっと1人で勉強していたから、それもいいかもしれない。
それに…むつみさんもいるのなら、気まずくなったりはしないと思う。
そんな打算めいたことまで考えてしまう。
でも……それだけ、当たり前のようにやっていたことができなくなっているんだ。
ちらりと景太郎の方を見ると、なんだか気まずそうな顔だ。きっと私と同じ事を考えているんだろう。
――なに考えてるのよ、バカ。3人で勉強するだけなのよ――
『いつも』みたいに言おうと思ったのに、口から出たのは全然違う言葉で。

「私は別にかまわないけど……」
「俺もみんなで勉強したいですね…」

景太郎から目を逸らして
視線の先にいたむつみさんは、いつのまにか笑顔を消していた。
感情のまったく読み取れない、不思議な表情。
全てを見通すような、不思議な目。
そういえば……笑顔以外の表情、はじめて見た気がする
そんなはずはないのに、そんなふうに感じてしまうほど印象的な顔。

「…それなら、いいですよね」

笑顔が戻る。
それを合図としたかのように、部屋の空気も正常に戻った。
私も笑顔で応じながら、少しだけさっきの表情を思い浮かべてみた。
あの、瞳。
まるで……底なしのような、深い瞳。



 

人は仮面をかぶって生きている
全ての人は、自らに『かくあるべし』と命じて生きている
そしてほとんどの人は……その仮面を自身と信じて生きている
私もかつてそうだった。
何も考えずに、ただ純粋に生きていた
それは美しくも愚かしく
…幸せなこと


翌日、勉強会が始まった。
初めは景太郎と長時間一緒にいる事を不安に思ったりもしたけど。
むつみさんのマイペースに引きずられて、いつしかそんな事は考えないようになっていた。

「わー、広い。まだ荷物出してないんですね」
「いえ、全部出しましたよ、ほら」
「沖縄から持ってきたのはスイカだけですかっ!?」
「せめて机がないと、勉強もできないですよ」
「うふふ。そこで秘密兵器の登場ですね」
「へぇー、コタツですか」
「いいですね。最近急に冷え込んできたし」
「ほら、半纏と大量のスイカもあるんですよ。私沖縄育ちですから、こういうのに憧れてたんです」
「あ、なるほど」
「それじゃ疲れましたし、おやすみなさい〜」
「「まだ何もやってませんよ!」」

二人してむつみさんのボケにツッコんでから、私1人あははと笑った。
なぜか知らないけど、すごくおかしくて。
私はこの3人でいる時に良く笑う。
笑うことができている。

「ねえ、むつみさん。今年落ちたら、また来年も受験するんですか?」
「はい、何年でも」
「何年でも…って」
「さすがに3浪すると、親とかうるさくありませんか?」
「いえ、全然。私って言い出したら聞かないとこありますから、親も諦めてるみたいで…」
「そうですか……俺はもう、勘当同然で家追い出されてるからなあ…」
「それに私、勉強するの楽しいんですよ」
「え?」
「4浪しようと5浪しようと、みんなで決めた目標に向かって頑張るのって」
「……4浪5浪は楽しくないですよ!」

むつみさんの一言にドキンとした。
『東大受けるんだったら、受験勉強だって楽しいと思ってやれるようじゃなきゃだめなんじゃない?』
ずっと前、景太郎に対して私が使った言葉。
最近の私は、その言葉の意味すら忘れていた。
ただ義務として、毎日勉強をしていただけだった。
身が入らなかったのも、きっとそのせい。
今は――――――久しぶりに、勉強した内容が頭の中にそのまま入ってきている。
そういえば、むつみさんの成績がものすごくいいことが判明した。
今までのむつみさんは、そして瀬田先輩がいた頃の私も、『楽しく』勉強していたからあれだけの学力になったんだろうか。
でも……『今』の私の学力が落ちている理由は……

「二人とも凄いよなあ……それに比べて俺は…」
「そのぶん頑張んなきゃダメって事でしょ?私が今まで、なんのために教えてあげたと思ってるのよ」
「そうですよ、浦島君。それに、私なんて今までずっとセンターで落ちてますし」
「むつみさんの場合、試験会場にたどり着けないとかでしょ……お願いしますよ、先生」
「あらあら、なんだか時代劇みたいでカッコいいですね」
「あー、ゴメン。悪いけど私、少し休むわね」
「ちぇ、なんだよそれ。もう勉強終わりか?」
「うるさーい。休憩も大事なのよ」

半身をコタツに入れたまま、上半身を仰向けに倒す。
そういえば私、いつのまにか東大目指してた最初の気持ち忘れてちゃってたな…
私が東大目指してたのは……

 


―――先輩。私、東大受けることに決めました―――
―――僕と一緒にトーダイに行こーよ―――
―――なっちゃんもけーくんのこと好きなの?―――

 


えーと……なんだっけ?まあいいや。
でも、こんなふうに友達と過ごす感覚、受験始まってから久しく味わってなかったなあ…
すごく安心する―――

「なんだかポカポカといい感じですね…ふわぁ…」
「そうですね。日当たりも良くて……ん、成瀬川?」
―――はずなのに

「お、おい、成瀬川、どうしたんだよ!」

気がつくと視界が歪んでいた。
あは……こらえきれなかったみたい…

この空間に
この3人でいられることが
涙が出るほど…
嬉しくて
愛しくて
切なかったから
それまで当たり前のように手の中にあったものが、急に消え失せて
無くしてから初めて、それが何よりも大切なものだと気付いて
うろたえて、嘆いて、沈んで、自分を呪って
諦めかけた頃に、突然それが戻ってきて
でもそれは、再び無くなってしまうと分かっているから――――切ない

「失礼しま……」

歪んだ視界の片隅で、誰かが入ってくるのが確認できた。
涙が邪魔でよくわからないけど、多分素子ちゃんだろう。手に何か持っているようだけど、お茶菓子か何かだろうか。
すぐにこちらの様子に気付いて、そのお茶菓子は床に放り出されてしまったけど。
仰向けのまま、涙をボロボロと流している私のところへ駆け寄ってくる。

「どうしたんだよ、成瀬川!」
「大丈夫ですか!?なる先輩!」

二人が心配して語りかけてくる言葉の、一つ一つが―――痛かった。
素子ちゃんがここに来た理由は明らかだ。
心配だったのだろう、私と景太郎が一緒にいることが。
もう、私と景太郎の間にはほとんど繋がりなんてものはないのに…
いつからか、素子ちゃんが……彼女の目が、景太郎の側にいるときにある事を主張していることに、私は気付いていた。
『私は景太郎のもの』
『景太郎は私のもの』
だから二人とも、私のことなんか心配しないで。
私がこんなふうに涙を流してるのは自業自得なのに。
二人のせいに、したくなってしまうから―――――



『私』は『約束』を果たす
障害は………排除する
何も考えずに……心なんて、いらない
だから痛くない
私が『私』でいる限り…



「少し、歩きませんか?」
「……はい」

私は歩き出したむつみさんの横に並んだ。
私がむつみさんの部屋に差し入れを持っていったのが10分前。
突然泣き出していたなる先輩が落ち着いて、眠ってしまったのが5分前。
そしてむつみさんが「話がある」と言って、私を部屋の外へ呼び出したのが…今。
私はつい、さっきまでいたアパートの部屋を振り向いてしまう。
今……あの部屋には、浦島となる先輩しかいないのだ。
信用しているとはいえ…

「そんなになるさんの事が心配ですか?」

唐突に、私の横で前を向いて歩いたまま、むつみさんが話し掛けてきた。

「大丈夫ですよ。浦島君が診ててくれてるんですから」
「…しかし、浦島一人に任せていいものかと……」
「あら…」

くすくすと、むつみさんがおかしそうに笑う。
付き合いの浅い私でもよく見る、いつもの笑顔だ。

「逆ですよ。浦島君が見ててくれるから、なるさんは大丈夫なんです」
「え…?」
「なるさん、最近勉強に全然身が入らなくて、学力が落ちているそうですよ。知ってました?」

…知らなかった。
なる先輩はいつも自室で勉強をしていて、東大合格に向けて一歩も止まらないと、思っていた。
………そう、思っていたかった。

「なるさんがさっき泣き出した理由、わかりますか?」
「………」
「わかりますよね?」

問いかけではなく確認。
確かに私にはわかっていた。そして、なる先輩の学力が落ちているというのも……きっと、そのせいだ。
だが…
だけど……
それを認めるわけにはいかなかった。
それは無意識に、考えないようにしてきたこと。
私の『恐怖』
だが……むつみさんはそんな私を嘲笑うかのように、次々に私の『恐怖』を言い当ててくる。

「ねえ、素子さん。私が半年前になるさんと浦島君に会ったときは、とても好きあってたんですよ。素直じゃありませんでしたけどね」
「………」
「でも半年振りに会って……お二人とも、すごく無理をしてお互いを避けてたから…」
「だから……勉強会ですか?」
「はい。きっとお二人のためになると思いまして」
「………」
「でも、なんでお二人ともあんなに無理をしてるんでしょう……何があったんでしょうね?」

それも問いかけではなく、確認。
私にその事を聞いてくるということ。
そして、それは事実だから。
それこそが私の『恐怖』


「私の………せいです」



私の『恐怖』
それは、今のなる先輩の状況そのもの
なる先輩が送っている、鬱屈した日々
好きな人がいるのに、どうしようもない、何もできない焦燥
それは、以前の私の状況そのもので……だからこそ、怖い
私がやってみせたように……再び浦島が、なる先輩に傾く可能性がある、ということだから
そのことが、ものすごく怖い
いかに浦島が約束をしてくれようとも、薄れることはない。いや、浦島が私の事を想ってくれるほどに強くなる
なぜなら私は……なる先輩には、絶対に勝てないから
あの人は、燦然と輝く太陽だ
私はその影で、太陽がいないときだけ光を発する月に過ぎない
太陽が輝き出せば……月の光は霞んでしまう
それでも今は……太陽が沈んでいるから……宵闇の中、月は輝いていられる
『恐怖』に凍りついた、私という月が


「素子さんはなるさんのこと好きでしょう?」
「は………い……」

当たり前だ。
なる先輩には、私がひなた荘に来た当初からお世話になっている。
嫌いなはずが、ない。

「だったら……」

むつみさんの足が止まった。
いつのまにか私たちは、ひなた荘の近くの公園まできていた。
もうすぐ夕方なので数は少ないが、それでも何人かの子供がいる。
振り向いたむつみさんは……いつもの笑顔。
先程から、まったく変わらない笑顔。
私はここでようやく悟った。
この笑顔は、この人の仮面だ―――

「なるさんに、浦島君を返してあげてもいいですよね」

夕焼けに照らされたまま、まるで何かの名案でも話すかのような彼女の笑顔が
私にはひどく、残酷なものに見えた。

「…いや……嫌です……」
「あらあら……」
「せっかく…せっかく、浦島と心が通じ合ったのに……」

一度手放してしまったら、もう二度とチャンスは回ってこない。
そんな確信めいたことばかりが胸に浮かんで、私はまともに反論できなかった。

「でも、このままじゃなるさんが可哀相でしょう?」
「それは…そうです…けど…」

私は、なる先輩にひどい事をした……いや、今もしている。
私は……なる先輩のことが嫌いではないのに。
なる先輩と浦島の心が離れた一瞬につけこんで…浦島を奪い取った。
それも……なる先輩の『代わり』になるという……最悪の形で
いくら浦島が私を信じてくれていても。
私は私を信じることができない。
私が私自身の力で勝ち取ったものなど……何一つないのだから。


黙り込んでしまった私を、むつみさんは駄々をこねる子供のような顔で見つめた。
そしてくるりと背中を見せる。
見つめる先は……砂場で遊ぶ子供3人。

 

「素子さん。『愛し合う二人が東大に入ると幸せになる』って約束、知ってますか?」
「それは……浦島の……」
「その約束は、ここでされたんです」

 

私からは、彼女がどんな表情をしているのか見えない

 

「浦島君は『約束の女の子』に、もう会ってるんですよ」
「……え?」

 

その時、なる先輩の顔が浮かび上がったのはなぜだろう。
それは……最悪の事態を想定したからだろうか……
それとも……

 

「なるさん、ですよ……」

 


思考が、凍りついた。

 


「なるさんと浦島君は、結ばれるべきなんですよ……」

 

 

その後のことはよく憶えていない。
ただ、むつみさんの終始変わらぬ笑顔だけが、印象に残っていた。
何も考えたくなかった。

 




かつての私はきっと
在りし日の事を思い、言うことができた
――将来を約束した人がいるんです――
――私、浦島君の事好きですよ――
全てを思い出したあの時まで
言うことが……できた
今はもう言えない
――へへへ、負けちゃった――
言えない

 


「それじゃ、今日の勉強会を始めましょうか」
「……ねえ、今日は出かけてきたら?」
「えっ?どうしたんだよ成瀬川」
「ほら、ここんとこ勉強ばっかりだし。どうせ年明けたら遊ぶ暇もなくなっちゃうからね」
「それじゃ、浦島君となるさんと私で……」
「ゴメン、私今日はちょっと用事があるのよ。だから二人に、買って来て欲しいものがあるんだけど……」
「それならいいけど…」


嘘だ。
私は今日用事なんてないし、買って来て欲しいものというのもどうでもいいものだし、息抜きが必要なほど勉強をしているわけでもない。
私の虚偽だらけの作り話はばれなかっただろうか?
……わからない。二人とも、変な所で鋭いから。
それでも私は、今日1人になる必要があった。
昨日、気付いた事を……彼女に、話すために。
ふと見ると階段を下りる二人の後ろ姿。
ああしてみると、恋人同士に見えない事もないかな……
嫉妬の念など湧かない。
その事が、もう以前とは『違う』ということの証のようだった。


「はー、いい天気ですね」
「そうですね。なんだか街もにぎやかですし」
「12月ですからね。この辺はクリスマスセールとか、商店街がやってますから」
「あら、それじゃスイカもいっぱい買えますね」
「この時期にそんなもの売ってませんって」
「あら、あれはなんですか?」
「むつみさん、あんまり走るとアブな……」
キッ
ドコンッ!「あうっ!」
「わ――!むつみさーん!」


扉を叩いても返事がなかった。
灯りもついてないし、扉も閉じている……でも、部屋にいるのは間違いないはず。
一言「入るから…」と断ってから扉を開ける。窓を閉めてあるのか、中は真っ暗だけど……
闇の中で何かが動いた。
それが座っている彼女がこちらに振り向いたのだと分かるのに数秒を要した。
まだ闇に目がなれてないせいもあるけど……何より、彼女が闇に溶け込んでいたから
気配がない…と言うのだろうか。彼女が動かなかったら気付かなかったかもしれない。
いつからその場所に座っていたのか、考えさせられるほどに
それでも私は、当初の予定通りに話し掛ける。
私の中の、何か……恐怖を司る部分が壊れているのかもしれない。

「話、いい?素子ちゃん……」



「む、むつみさん!しっかりしてください!」
「てへへ、また轢かれちゃいました……」
じ―――――っ
「………むつみ、さん…?」
ドキン
「…じゃ、参考書買いに行きましょうか」
「あ、はい」


 


「話すことなどありません……」

いきなりの拒絶。
でもそれは、予想していた答えの一つ。
私はしばし間を空けて、用意しておいた答えを使う。

「…それなら、答えてくれなくてもいいから……聞いてくれれば、それでいいから……」

私は卑怯な人間だ。
一晩かけて状況を整理した。
自分が知りえた情報から推測を繰り返して、素子ちゃんが言うだろう言葉とそれに対する私のセリフを用意してきてある。
対して彼女は……見るからに落ち込んで、私の不意の訪問を受けている。
フェアじゃない。

「………」

無言を肯定と受け取って私は話し出す。
一晩時間を潰して、彼女を追い込んで、あの二人を騙して
それほどまでにして私が伝えたいのは

「私は――――」



「買うものも買ったし……どうしましょうか?」
「浦島君、あれに乗ってみない?」
「ボートですか?」
「なんだか気持ちよさそうですねえ」
「いいかもしれないですね。行ってみましょう」


 

「私は景太郎のこと嫌いだって言っていた」

本当のこと
なんとなく気付いていた……彼の、私への好意は
それに答えることができなかったのは…

「私は景太郎と友達でいたかったから」

本当のこと
居心地のいい場所、その関係を崩すのが怖くて
もしも告白を受けたとしても……私はどっちつかずの答えしか返せなかっただろう…

「今はもう、友達ですらなくなっちゃったけど……」

本当のこと
あの居心地のいい空間は、永久に失われた。
その…はず、だった……のに…

 

「そうなってから、はじめて気付いたの……」


じ―――――
「あ、あの〜、むつみさん?」
「浦島君……ちょっと頭貸してね」
「へっ?はうっ!?」
ガシ!グインッ、ポフッ
「へ?これって……膝枕…?」
「あんまり動かないでくださいね」
「ど、どうしたんですか?急に…?」
「………どうして、でしょうね……」


「景太郎のことが……好きなんだって…」

本当のこと
本当に、失ってからはじめて気付くんだね。
笑ってしまうほど、私はバカで素直じゃなかった。

「でも」

もうおしまい。
自分と周りの人全てを傷つけるような想いは、いらない。

「もう、いいの」

本当の……こと……
本当の事に…しないといけない…

「景太郎は……素子ちゃんのものなんだから…ね」

 


「………むつみさんは、なんで東大目指してるんですか…?」
「……大好きな、男の子がいたんです……」
「え?」
「あら、私ったら何を……言ってるんでしょうね…」
「むつみ…さん?」
「なんだか、今日の私は変ですね…」

 


私が今日、素子ちゃんの所を訪れたのは
気付いたから…自分の本当の気持ちに。
それは、景太郎の事を諦めるなんて潔いものではなかった。
奪ってでも
もしも昨日のような事がもう1度起きたら、抑えきれないと自分でも分かる。
だからその前に、取り返しのつかない事をする。
もっとも景太郎に近い素子ちゃんに……『諦めた』と宣言することで。
後は、私の意地っ張りな部分に……人間としての尊厳に、賭ける。
自分が……約束を破るような厚顔無恥な人間ではないと信じて。
でも……
ねえ、むつみさん。なんで私と景太郎を?

気付かなければ……こんな見苦しいことしなくても済んだのに……


「浦島君、なるさんとはどうですか?」
「ど、どうって……別に普通ですよ」
「そうですか?」
「………」
「浦島君。私……お二人って、ほんとにお似合いだと思うんですよ」
「……なんで…ですか?何でむつみさんは…そんな目をして……」
「あら、私は私ですよ」
「むつみさん……」
「私は、私なんです。何を思い出しても……私の気持ちと違ってても…」



用意してきたセリフは全部言った。
後は、当初の予定通りに帰るだけ。
そこで私は、初めて素子ちゃんの顔を見る余裕ができた。
素子ちゃんは……涙を流していた。
顔を真っ赤にして、眉を吊り上げて

「ふざ…けるな…」

普段の彼女からは想像もできないような言葉と共に、衝撃が走った。

「あなたは…いつもいつも……人の気も知らないで……」

立ち上がった彼女に襟首をつかまれ、体が軽くのけぞり、私は声も出せない。

「心にもない事を言って……私をもてあそぶな!」

素子ちゃんは涙を流しながらも、烈火のごとく怒っていた。
気圧されながらも、私は途切れ途切れの声で反論する。けど……

「違う……嘘なんかじゃ…」
「だったら何故…」

素子ちゃんの顔が歪んだ。

「何故、泣いているのです?」


 


「……そろそろ、帰りましょうか」
「…そうですね」

 



反射的に頬に手をやると、確かに温かい感触。
泣いていたの、私…?
それを見て、素子ちゃんの表情から急速に怒りが抜け落ちていく。
残ったのは……悟ったような、穏やかな声。

「あなたは……私に勝てるのです」

そして、何もかも諦めたような……疲れ果てた、無表情。

「本当の貴女は……私よりも、ずっと輝いている女性なのだから」
「そんなこと……ない……」

対して私は、嗚咽交じりのみっともない声だった。
もう、誤魔化しようがないほどボロボロと涙を流しながら。

「それに……景太郎には、素子ちゃんが……」
「私に、遠慮する必要はありませんよ……」

素子ちゃんは、優しく私の頭を撫でた。

「……自分に正直になればいいんです」

その一言が、私の防波堤を突き破った。

「うぐっ……うああぁぁぁぁぁ……!!」

泣いた。
私よりも背は高いけど、2つ年下の少女に縋り付いて泣き続けた。
そしてただ一つの単語を、嗚咽の間に発する。

「…ゴメンなさい…」

素子ちゃんはそれを聞いても、少し悲しそうな顔をするだけだった。
そして、彼女のかすかな呟きを、私は聞き逃していた。

 

「もう……潮時なのかも、しれないな……」

 


それまでずっと一つの目標に向かっていた私の
それは淡い恋心だったのかもしれない
なぜか惹かれた
私は彼にキスをした
けれど
『私』はあの時、ジャンケンに…負けていた


 



「なあ、浦島」

それはなんでもない日。
晴れ渡った空の下、私と浦島は物干し台の上にいた。
私はいつもの日課の剣舞、浦島はそれをなんとなく見つめていた。
そんな、なんでもない日常の一コマ

「私のことが好きか?」

剣舞を続けながら、あらぬ方向を向いて唐突に私が言う。
こんな事を面と向かって言えるわけがない。

「…好きだよ」

少々のためらいの後、照れくさそうに答える浦島。
急におかしな事を言い出した私に疑問を感じたのだろうが、それでもまず答えてくれた。

「そうか」

言葉を切る。
息を吸う。

「では、なる先輩は?」

息を呑む気配、そして沈黙。
私も動きを止め、刀を収める。
背中に感じる、浦島の視線
迷い、そして悩む人間の視線

「まだ……好きなんだと、思う……」

それは悲しむべきなのだろうか?
浦島の全てが、私に向けられてはいない事を。
それは喜ぶべきなのだろうか?
浦島の全てが、いまだ私には向いていない事を。
ただ私にわかる事は、浦島が苦しそうにしているという事と。
正直に答えてくれた事に対する感謝をするべきだということだけだった。

「…私も、おまえのことが好きだぞ」

けれど、その好きという気持ちは本当に『恋』なのだろうか?
もしかしたらそれは、何か別のものを勘違いしているだけではないのだろうか?
かつて浦島に言われた言葉。
『それはただの異性への憧れだ。もっとたくさんの人と会えばきっと本当の恋が出来る』
そうかもしれない。
この、浦島の傍にいたいという狂おしい気持ちでさえ、恋ではないのかもしれない。
ならば私は、一体なんなんだろうか。
私は一体なんのために今、浦島の傍にいるのだろうか。
そして、いつまで浦島の傍にいれるのだろうか。

「ありがとう、素子ちゃん」

浦島の感謝の言葉。
それは確かに、私に向けられた想いの存在を告げている。
今は確かに、浦島は私を好きでいてくれる。
だが……未来は?
浦島
お前は、なる先輩のことが一番好きだったのだろう?
同じように……いつか、浦島は私を好きでなくなってしまうかもしれない。
けれど………本当に、怖いのは
私から、お前の傍に居たいという想いがなくなること。
自分が変わることが………死ぬほど、怖いんだ。
確たるものなど……私には何もないのだから。
あやふやな、恋とも愛とも憧れとも……勘違いとも、つかないような想いを抱えた私には

ひどく矛盾した、支離滅裂で身勝手な……私の本音

 

 

そんな事を思った日があった。


そして今、私は物干し台で待っていた。
その間、脳裏をよぎるのは、大切な思い出。
初めて会った時は大騒ぎをした。
私はどんな些細な悪事でも見逃すまいとピリピリしていた。
思えば、ずいぶんと嫌っていたものだ…
もしもあの時、浦島がここに留まらなかったら……私は、何をしていたのだろうな。
…分かるはずもないことだ。

 

そんな、取り留めのない事を考えていた。
何故か、浮かんでくるのは楽しい思い出ばかり
今からすることからの、逃避だったのかもしれない。
けれどそれは自分で決めたことなのだ。
ひと時の…そして最後の懐古を終え、私は階段に背を向ける。

「……素子ちゃん、話って…何?」

来た


むつみさんの話を聞いて、思ったこと。
なる先輩の話を聞いて、思ったこと。
すべきではなかったのだ、やはり。
はじめから、わかっていた事
だから私は
全てを終わらせる事に、決めた。


「なあ、浦島……」

今、私の感じているものは
恨みでも
妬みでも
嫉みでもない。

「前に約束したこと……あれな」

恐怖も
不安も
怯えも
私の胸からは消え去っていた。

「…なかったことにしよう」

終わりの始まり


 

「え…?」

人は信じられない事を聞いた時どうするのだろう。
あるいは信じたくない事を聞かされたとき

「素子…ちゃん?何言って……」

まず混乱するのだろう。
そして、絶望と共に……

「別れよう、と言っているんだ」

その事実を受け入れる。

「な、何で……なんで急にそんなこと……」

理解の光。
それこそが不幸の始まりなのかもしれない。
理解しなかったら……幸せのままでいられたのに、な…

「はじめから分かっていたことだ……お前には、私よりも相応しい女性がいる」

私は感情を無くしてしまったかのように言葉を紡ぐ。
恐怖も、悲しみも、怒りも、諦めも、悔しさも、そこにはない。
私は……

「俺は……素子ちゃんが好きなんだ!」

私だってそうだ。

「その気持ちが……皆を苦しめる…」

けれど
私はもう『恐怖』に耐えれそうにない。
なる先輩に奪われないかと怯えながら、浦島と付き合っていたら。
私は……狂ってしまう。

「お前から…その苦しみの元を解放してやる…」

止水を抜く

「嫌だ!」

私が何をしようとしているのか理解した浦島が叫ぶ。

「俺は、素子ちゃんがいいんだ!」

ありがとう、浦島。

「その気持ちも……私の事を忘れてしまえば…消える」

その気持ちだけで……私は生きていける。


「神鳴流奥義…」

そのとき脳裏に浮かんだのは
むつみさんの笑顔
なる先輩の泣き顔
この一太刀で
狂った流れを元に戻すために
約束を……果たせるように

「……斬魔剣……弐之、太刀……」

 

 




 

「ねえ、むつみさん」

浦島君と別れてなるさんの部屋を訪れた私は、彼女のお話を聞いていました。

「私は、憧れとか、代償行為とかじゃなくて、きっと純粋に」

なるさんの顔は、今までで一番輝いていました。
それは、恋をしている少女の顔。

「景太郎のことが好き…」
「………」
「…なんだと、思います」
「あらあら」

なるさんは赤くなって俯いてしまいました。
それが私にはとても微笑ましくて、羨ましくて
つい、笑ってしまいました。

「うふふ……」
「笑わないでください……今までずっとわけがわからなくて、モヤモヤ悩んでたんですけど、ただそれだけのことなんだって、気付いた…ううん、気付かせてもらったんです」
「…恋をするというのは、良いことですねえ」
「はい、本当に…これからは、自分自身の気持ちに素直になって生きていこうって、決めたんです」

そう話すなるさんは、やっぱり輝いていました。
私はなんだか彼女を正視できなくて、ふっと目を逸らしました。
視線の先にあったのは、古ぼけたぬいぐるみ。

「そういえば、むつみさんには好きな人とかいるんですか?」
「………」
「今まで私ばっかり話してたから、今度はむつみさんが話してくださいよ」
「私は………好きな人はいませんよ……」

ふっ、と私の手がぬいぐるみに伸びました。

「あ、それ私が小さい頃に抱き枕にしてたやつで…」
「懐かしいですね…」

持ち上げて、お尻のところを見てみれば

「…え?」

   乙姫むつみ

「なん……で?何でむつみさんの名前が…」
「憶えてますか?リッド君ですよ」

呆然としたなるさん
私は心の中で自問しました。
私は貴女が愛しいのでしょうか?
私は貴女が憎いのでしょうか?
答えが出ないまま……私は語り続ける。
笑顔で

「ここで…ひなた旅館でよく遊びましたよね…私と、けーくんと、なっちゃんで…」
「……うそ……」

なるさんの呆然とした声が、なぜか心地良かった。

ねえ、なるさん
私はね
なっちゃんとけーくんが幸せになってくればそれでいいんです
幸せになってくれないと困るんです
だから
あなた達が運命の二人だとわかれば
何の…問題もないですよね…?
ない…はず、ですよね?


私は全てを話しました。



 

あの時の約束、あの時の始まりは――――――



「――――――――!!!!!」

私は感情の奔流を抑えきれず、自分の部屋を飛び出した。
誰かとすれ違ったようだけど、私にはそんな事を気にしてる余裕はなかった。

「………ああ…」

むつみさんの話が、グルグルと頭の中を巡っている。

「………なんで…」

むつみさんの笑顔が私に語りかけてくる。

「なんで…」

その笑顔が私を追い詰める。

「なんで……」

走っても
走っても
逃れることは…できない

「なんで………こんな事に、なったの…・…よ………」


「なんで……こんな事になったんでしょうね……」
「……誰が悪いと言うわけではないのでしょう、きっと」
「ねえ、素子さん」
「はい?」
「少しだけ………正直になっていいですか?」
「…私でよければ」
「私は……傷心旅行の時、偶然逢った浦島君のことが、好きだったんですよ」
「………」
「でも…ある日突然、思い出したんです。浦島君の約束した女の子が、なるさんだって」
「…聞きました」
「私、そのときも浦島君が…けーくんが好きだったんですよ」
「………」
「うふふ……私、同じ人に2回も恋してたんですね」


気がつくと、私は物干し台にいた。
先客がいた。
今、私がもっとも遭いたくない人。
あるいはもっとも会いたい人。
……逢ってしまった人。

「成瀬川…?」

私は景太郎に向かって歩み寄った。
何の前触れもなく……さっき知ったばかりの『事実』が口をつく。

「ねえ、景太郎……私ね、あんたの『約束の女の子』なんだって」
「え…!?」

驚愕する景太郎を見て、私は薄暗い満足を覚えていた。
顔がひとりでに笑顔を浮かべる。
壊れた、笑みを

「ちょ、ちょっと待ってよ!たしか成瀬川言ってただろ?違うって…」
「そうよ、その時2歳だったんだから、憶えてるわけないでしょ」

つまらなそうに吐き捨てた後、私は怒りに肩を震わせた。
……胸の内に様々な感情が渦巻き、自分でもまったくコントロールできない。
それどころか自分の次の行動すらも予測できない。
けれども…頭の中の妙に冷静な部分が、冷静に状況を観察していた。
取り返しがつかない事を、していると

「ふざけるんじゃないわよ!」
「成瀬…川?」
「それじゃあ、何?私が東大目指してるのも、その約束のせいだって言うの!?」

憶えてもいない事に自分の人生を左右されている怒り。
そして……悲しみ

「それじゃあ……それじゃあ、私があんたのこと好きなのは、なんなのよ!」

幼い頃に会ってたから?
運命の二人だから結ばれる?
だったら…
だったら、今までの私の景太郎への想いは全部、偽物だったとでもいうのだろうか?
私の……やっと認めた恋ですら、本物ではないのだろうか
『それ』は、とても尊いものだと、あの娘に諭され、やっと気付くことができたのに
信じたものは、嘘だった
崩れて、散った



「私の中に、もう1人の『私』がいるんです」
「………」
「約束を守らせようと……なっちゃんとけーくんが幸せになるように必死な『私』」
「………」
「『私』がそこまで必死になるのは……けーくんをなっちゃんに譲ったから」
「譲った?」
「子供心に思ったんですよ。お嫁さんにできるのは1人だけ…って」
「………」
「『私』はけーくんのお嫁さんになる事を諦めて……その分、二人を応援しようと決めたんです」
「………」
「ずっと忘れてましたけどね」
「……辛くないですか?もう1人の自分の存在が…」
「辛い時もありますよ」
「………」
「でも…二人を応援する『私』も、浦島君を好きな私も、どちらも自分自身ですから」
「………」
「私が私であるために……必要なんです」
「………強いですよ、あなたは……」


「ねえ……景太郎……」

どうしようもなく悲しくなって、私は景太郎にすがりついた。
今まで張っていた意地とか強がりとか、そんなものは綺麗さっぱり消えていた。
そのことがまた、悲しかった。

「…全部忘れてた私が悪いの?」

何も知らないまま景太郎を好きになってしまった私が悪いのだろうか

「…瀬田さんを好きになった私が悪いの?」

物語の筋書きのように、景太郎だけを好きにならなかった私が悪いのだろうか

「いっそ、逢わなければよかったのに……」

好きにならなければよかったのに………

 

 

それでも私は景太郎のことが好きだから
だからこんなにも、苦しい
だから……

 

「……私が……『約束の女の子』だったら…景太郎はどうするの?」

言ってはならない事を私は言っていた。
今の私の想いを否定する言葉。
今の自分自身を否定する言葉。
もしも景太郎が応じてくれたとしても……それは私を選んだことにはならない。
今の私は『約束の女の子』ではないのだから
選んでくれても……それによってずっと苦しむ事になるとわかっていた。
でも
それでも私は
景太郎のそばに…いたい



「本当は、分かってたんですよ……なるさんは、もう『なっちゃん』ではないって」
「………」
「嫉妬してたんですね、なるさんに………強くなんかないんですよ、私は」
「……あなたは浦島に似ていますよ……」
「…それって誉め言葉ですか?」
「………」
「始まりは……約束は、もう終わってたんですね。貴女がいたから……」
「私のせい、ですか?」
「素子さんのおかげ、かもしれませんよ」
「………そう、ですか………」
「………」
「………」
「…なるさん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ………浦島が、全部受け止めてくれますから」
「……素子さんは?」
「私は………明日にでも、実家に帰りますよ」
「浦島君が許しませんよ?絶対」
「……今のあいつにとって、私は『他人』ですから……」





永久とも思える沈黙の後――――



「………約束守れなくて……ゴメン………」



始まりが、終わりを告げた





僕と一緒にトーダイに行こーよ

それで、幸せになるんだよ、なっちゃん

――しあわせってなに?――

えーと、なんだろうねぇ

そんなの簡単だよ。ほら

――てをつなぐ?――

こーやってみんなでいれば、幸せでしょ?

あっ、そうだよねぇ

――いっしょ――

うん、ずっと一緒にいようね



目が覚めるとそこに浦島がいた。

―――ああ浦島良かったそこにいてくれたのか―――

「君、誰?」

冷たい目

―――悪い夢を見たんだ抱きしめてくれ安心させてくれ―――

「何するんだよ」

伸ばした手が言葉と共に払いのけられる

―――どうしてどうしてどうしたんだ浦島―――

「気持ち悪いなあ」

立ち上がりどこかに向かって歩いていく

―――待って待って行かないでどこにも行かないと言ってくれたじゃないか―――

「誰だか知らないけど、ついてこないでよね」

そうして私は暗闇の中で独りぼっちになった

 

―――なんで―――
何故なら
―――私が一体何をしたというんだ―――
浦島を捨てたから
―――違う違う違う私は私は浦島が好きなんだ―――
そして浦島に捨てられるから
―――うそだ……―――


そんな、夢を見た






早朝。
私は支度を終え、部屋を出ていた。
手荷物はずた袋一つと止水だけ。
残りの荷物は、向こうに着いてから送ってもらえばよい。
ふと廊下の窓から外を見ると、風景に霜が降りてきらきらと輝いていた。
どうにも夢見が悪かったが、それで少し気がまぎれた。
「綺麗……だな…」
きらきらと輝いて見えるのは、外だけではなかった。
これで見納めとなると、周りのもの全てが輝いて見えるから不思議だ。

皆には何も言わずに、人知れず発つつもりだった。
別れが辛いとか見送りはいらない等という理由ではなく、ただ奴にだけは会いたくなかった。
それに……告げればきっと皆に引き止められてしまうだろうから。
それに抗う自信が……私には、ない。

だから私が玄関で遭遇したのは、予想外の出来事ではあり
浦島の後ろ姿が、そこにあった。

今から走りにでも行くのだろうか?ジャージ姿で靴紐を結んでいる。
そういえば、むつみさんの体力をつけるために早朝ジョギングを始めたとか言っていた気がする。
見事にかち合ったと言うわけだ……だが、なる先輩が一緒でないのなら、最悪の事態ではない。

今の浦島がどういう状態なのか、私にはよく分かっている。
しばらく前の、私がそうだったのだから
自分自身を『斬って』浦島から逃げたのだから
今、浦島の心には空洞が開いているはずだ。
それは私の存在が『在った』場所。
どれほどの大きさかは分からないが……それはきっと、なる先輩が埋めてくれるはず。
だが、私と浦島が話すのはまずい。無理矢理思い出そうと――空洞を埋めようとすれば、精神に障害が出る危険すらある。
だから私は、もう二度と浦島に会うつもりはなかった。
京都に戻って修行を続けて……結婚をしないのなら、道場を継がなくてはならないのだから。


私はそのまま三和土に向かった。
誰だろう?くらいは思われるかもしれないが一瞬なら大丈夫だろう。
足音に気がついたか、浦島が後ろを振り向く。
他人を見る冷たい目。

他人だから
私の記憶がない浦島にとって、私はただの他人だから

耐え切れず、私は視線をずらして靴を履いた。
今にも、浦島の口から『君、誰?』という言葉が出てきそうで
さいわい浦島は興味を無くしたのか、すぐに靴紐結びに戻ってくれた。
すれ違う瞬間、私は心の中で囁いた。


―――――さらばだ………私の最愛の人―――――






























衝撃





























背中に温かい感触

「憶えて………いたのか………」

私の震える声

「素子ちゃんが……教えてくれたんだろ?とっさに『気』が使えた…」

私の背中にしがみ付いた浦島

「でもそれだけじゃない……」
「私が未熟だからか?」
「きっと……想いの力だと、思う」

浦島の顔は見えない
ただ間違いなく、泣き笑いの表情なんだと思った
もしかしたら泣いているのかもしれない

「ここでずっと待ってた……逃げられると困るから、他人のふりしてた……」
「………なる先輩は?」
「……比べて…選んだ…」

自分でも残酷な事を言っているという自覚があるのだろう
それを表すかのように、私を抱きしめる腕に更に力がこもった

「約束とか初恋とか……全部合わせたよりも……俺は素子ちゃんの方がいいんだ……」
「……大馬鹿……者が……」

 

こいつは
十数年間守ってきた約束よりも
数ヶ月前から付き合いだした私の方を選んだのだ
今まで自分が歩んできた全てよりも、自分を斬り捨てた薄情女がいいと言っているのだ
本当に、大馬鹿者だ
だが―――――女冥利に尽きる………

 

「離してくれないか?」
「離したら逃げたりしない?」
「ああ、逃げない」
「あと、弐之太刀も。素子ちゃんになら、いくら斬られたって平気だけど…あれだけはやめて欲しい」
「わかった。もうやらない」

その言葉を保証するかのように、私の腕から止水がすり抜け、カランと床で跳ねた。

「ただ……」

正面から、抱きしめたいだけだから


『恐怖』はまだ私と共にある
こうやって、浦島がなる先輩より私の方を選んでくれても、それは消えることはない
いくら浦島が私を好きといってくれても――――私は私を好きになることができないから
私には、人に好きになってもらえるような確たるものなど何一つないのだ
だから、私は私が………嫌いだ
そんな人間が、他人に何かできるわけがない
そんな人間が、他人の好意に応えれるはずがない
そんな人間が、他人を幸せにできるはずがない
現に私は、今まで多くの人を裏切り、傷つけている
そしてこれからも………結局、私には人を幸せにすることなどできないのだ
そんな私が浦島の傍にいたところで……どうせまた、その好意が重荷になって理不尽に責めるのだろう
そのうちに浦島本人の事も信じられなくなって……私がもっとも恐れる種類の破滅が訪れるのだ
そうなる前に、私のほうから離れる事……それが私にできる最善だと思った

けれど浦島は、それでも私といたいと言う
それを甘受してしまう、私の弱さ
『浦島が望んでいるから』という免罪符を手に入れた私は、心置きなく浦島を傷つけるのだ
浦島がどこまで私の事を好きなのか、確かめるためだけに
確たるものが何もない私は、そんな方法でしか安心ができないから
…………私も、浦島が好きだから

浦島を苦しめて苦しめて苦しめて……それを見て私はやっと安心するのだ
私が『恐怖』に押し潰されないためには、苦しみ続けるしかないのだ
これを地獄と言わずしてなんと言おう

けれど浦島は、それでも私といたいと言ったのだ

だから
姉上……

私も、浦島と共に地獄に堕ちます……




 

「素子ちゃん……あんまりきつく抱きしめられると、苦しいんだけど……」
「…………大馬鹿者」









 

エピローグ……あるいはプロローグ

 

――――1人の女が砂場で遊んでいる。
脇にぬいぐるみを置いて、砂山を作ろうとしている。
その公園には他に誰もいなかったので、その女は誰にも咎められることなく砂場にいることができた。
サラサラサラと女性の手から砂が零れ落ちるが、女は飽きる様子もなくまた砂山を作る。

――――どれほど経ったのだろう。公園に1人の男が現れた。
その男は砂場に近づき、女と2、3話してから、自らも砂遊びに興ずる。
置きっぱなしにしてあったスコップでトンネルを掘る。
時折、女と男は他愛もない話をし、笑う。
そしてまた砂山を造る。

――――そして辺りが夕闇に包まれる頃、もう1人の女が公園を訪れた。
その女は砂場に駆けより、男に怒鳴りつけた。
初めからいた女がぬいぐるみをもう1人の女に差し出した。
女はそれを受け取り、砂場に腰を下ろした。
そして3人で黙々と砂山を創る。

 

それは奇異な光景だったのかもしれない。
だが、もしもそれを見た人間がいたとしても、決して笑うことはできなかっただろう。
けっして


そして砂山は完成した。


じっと完成した砂山を見詰める三人。
十数年の重みが、そこにあった。
十数年前の光景が、そこにあった。
千切れた約束の名残が、そこにはあった。



最初に立ち上がったのは、初めから砂場にいた女

「私たち……やり直しましょう、ここから……」

 

次に立ち上がり、二人に対して話したのは男

「そうだね……ずっと一緒にいることはできないかもしれないけど……」


最後に立ち上がり、空を見上げ風に身を任せる女

「私達……東大に行っても、ずっと友達でいようね……」


一際強い風が吹き、砂山が崩れた


始まりの終わり

そして新たな約束

それはまた破られてしまうものかもしれないけど

その時はまた、何かが始まるから

終わりを恐れないで

そして前に進んで

あなた達は、きっと『シアワセ』になれるから―――――





                           fin
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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