前書き

番長。読んでる最中に解る人だけ解って下さい。

 

 それでは前編です。

 

 

 

    ラブひなSS
  『白色悪夢〜LightMare Syndrome〜症候群』
     前編

 

 

 

  〜 OtherSide 3日目〜

 

 1

 

  眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も『私』は意識を覚ます。
「うぅっ……はぁっ、全く」
高層ビルの屋上。貯水タンクに寄り掛かかり、身体を冷え切らせて起床する。
「昨日の『二択』は失敗したわ」
探すべきは兄。ライトメアじゃない。昨日は『そこ』を間違えた。
だから、また繰り返す………こんな『有り得ない現状』の日々を。

この世界は偽りに満ちていると言うのに、この世界は疑う事を決して許さず、この世界の中心で私の兄は、この世界を繁栄させる為に哀を唱う。

「お兄ちゃん待ってて下さいね」
そう決意を込めて呟き、
「そしてライトメア……」
フェンスの上に飛び乗って仁王立つ。
「貴方は殺すわ」
冷風を受けて両腕を広げ、
「さぁ……」
左手には『浦島の化身』を握る。
「It’s‐a‐Showtime!!」
私は5秒間の自由を求めて、
東京の大空へと跳躍した。

 

 

 2

 

 貴方の笑顔が見たくて。
貴方の幸せを考えて。
貴方を困らせたくない。
 何も変らぬ様にと。
貴方が幸せに成れば良いと。
震える唇で強がる。
 でも本当は、
私のココロが欲しいのは、
私のカラダが欲しいのは、
私を求める貴方の声。

 

 

 「本当に変ってない。ひなた荘が『まだ在る』なんて」
旅館の玄関に佇み、懐かしい全貌を垣間見る。『今のひなた荘』からは想像も出来ない、古風で暖かな我が家の姿。
「この頃は、良かったのに」
玄関を開け、変らぬ内装を覗き、リビングを覗く『私を見る』。
「ッ!? 昨日も見たけど、確かに……ソックリね」
容姿だけじゃない。行動まで酷似して。
だから解る。
ソックリだから解る。
私が現れた事にも気付けず、幸せそうに魅入ってる。
リビングに見える大切な人の寝顔を、微笑みながら見詰めてる。
「ああ……」
きっと私は嫉妬深い。
「ダメだ……」
だってもう我慢出来ない。
「これ以上は……」
この世界に来てまで、お兄ちゃんを取られたくない。
「私の思いは……」
眼前の偽りを斬り殺せと、獣の心身が吠え捲る。
「こちらに向き直れ、フェイクドールッ!!」
お兄ちゃんは昼近くになるまで起きない。この世界は『そう言う風』になっているのだ。
故、多少の咆哮等、問う処では無い。
「女の嫉妬は哀れなだけよ。負け犬の可奈子」
もう一人の私が勝者の駄弁を語り、ゆっくりとこちらに向き直る。
「へぇ……この世界でしか生きられない貴女が、私の何に勝ったと言うの?」
むかつく、ムカツク。ムカツク!! 私を見下す余裕の表情。コイツは絶対にアレを言おうとしてる。真意はどう有れ、精神的優位に立とうと思えば、ハッタリの一つもカマすだろう。私の最も傷付く最悪の言葉をコイツは……
「だって私、お兄ちゃんに抱かれてるし」
笑顔で言いやがった。
「そんな嘘、私に付いてどうなるの?」
私は至って平静………を装う。
どうせバレてるのに。
「嘘だと思うなら、指をしゃぶって眺めてれば良い。お兄ちゃんは、今日も私を抱いて呉れるわ」

「黙れ………」
私は、こんな人外にすら負けてしまうの?
「確かに私はライトメア様に造られた存在だけど、この気持ちは嘘じゃない。お兄ちゃんの事、本気で好きなの」

「黙りなさいよ……」
私は負けたんだ。それが悔しい。どうせ無駄だと、告白すらしなかった自分に腹が立つ。ズルズルと後悔ばかり引き摺って、兄は結婚した身だと諦めて、私は何もしなかった。
「Your Looser……さっさと『この世界』から消えて。お兄ちゃんと私の生活を邪魔しないで」
ライトメアの人形は私を左手示指で差し、早く出て行けと罵る。
「黙れって……」
お兄ちゃんを解放する為には、私の偽者も殺さなくてはいけない。
でもそこに感情なんか無かった。
「言ってるでしょッ!!」
でも、でも、でも。コイツを殺したいと全身から殺意が溢れて来る今は、純粋な嫉妬で動いてる。
「ガラクタの分際で愛を語るなんて生意気過ぎ………………………………………ふっ………くっ、ははっ……は」
……あーあ、
自笑してしまう。
結局、全然吹っ切れてないんだ。
もう結婚しているのに。
自分の姿に嫉妬する程、兄を何時までも愛しているんだ。
「この愛も本物になるわ。本物の貴女を殺し、お兄ちゃんと二人で生きて行く」
私は誰にも……そう、あの人にだって『お兄ちゃんを渡したくなかった』。聞き分けの良い妹だと思われたくて、お兄ちゃんの為だと思って、あの場は偽善的に『ああ』言っただけ。「お兄ちゃんを殺して私も死ぬ」って言えなかっただけ。
「なれば、その淡い恋心を抱いたまま……」
左手で浦島の化身……『童子切安綱』の鞘を持ち、右手を柄に添えてガラクタを睨む。
「死に逝け」
左半身前で脚を開き、重心と上体を極限まで低く。
「今日から私が本物になる。貴女には、消えて貰うんだから!!」
ガラクタも階段に置いて在った『抜き身の刀』を右手で掴み取り、正眼の構えで私に対峙する。
「人に仇成す悪を滅すは」
私は気付けた、私の本当の思いに。だから私は、ちょっぴりだけどハイになってるらしい。
こんな饒舌に成り、ガラクタに同情さえ覚えて。
「浦島八卦が断罪剣、浦島可奈子……」
さあ、さっさとガラクタを壊し、ライトメアを殺し、お兄ちゃんを救うんだ。振られても良い。もう一度キチンと、納得の行く様に、告白する。
「参ります!!」
言い終わりと同時、空気は冷気に、冷気は殺気に、油断は墓標に、周りの摂理が瞬間可変。
「負け犬の貴女とは違う。私は本物になって、この愛を叶えて見せるッ!!」
ガラクタから迸る黒い殺気は、痛い程に私の身体を射抜いている。
「私は……本物に成るんだぁぁぁぁぁぁッッ!!」
叶わぬ恋と知りながら、造られた愛と知りながら、二人で生きると夢を見るのか。それでも、と。もしかしたら、と。
「無理よ貴女には。だって……」

「五月蠅い!!」
ガラクタは続く台詞を遮る様に巨声で廊下を蹴り飛ばし、
「死んでよッ!!」
次瞬にして私の寸前で刀を振り落とす。
「だって無理よ……」
ガラクタの初動も、向かって来る剣神レベルの剣速も、私と同等に早い。

「死ぬのは、ガラクタの貴女だし」

でも『それだけ』。確かに強いだろうが怖くは無い。何故なら、兄の記憶からライトメアが造り出した物は全て……

「えっ?」
無惨成る『機械』だから。

「胴体を斬り飛ばしたつもりだったけど、流石は私ね」
優ったのは、居合い抜刀で切り上げた私の剣。
ガラクタの剣は私に届かない。握った右手ごと廊下に転がっている。
「ッッ……どうしてよッ!? スピードもパワーも同じなら、先手を取った私の剣が勝つ筈でしょ?」
血液に似せた機物を垂れ流し、手首の切断面を押えてガラクタが叫ぶ。
「やっぱり、『そこ』まではコピーされてないのね」
所詮はライトメアの造り出した模造品。上辺だけの三流品だ。
「ふざけるなッ! 硬度や強度は私が上なんだ、人間の貴女より劣ってるモノなんてない!!」
ふっ………硬度? 強度? とうとう化けの皮が剥れて来たわね。そんな人間離れした事を言い出すなんて。
「そうね、夢の島行きの前に教えて上げるわ」

「きッ!」
ガラクタはバックステップで間合いを取り直し、階段から『二本目の刀』を左手で掴む。
「……普通は、始めに『殺そうとする意志』が在って、その後に剣が動く」
右腕を肩の位置まで水平に上げ、童子切の切っ先をガラクタへ。
「でもね、浦島の剣は違う。意志よりも先に剣が動くの」
呼吸を整え、最上級の殺意を込めてガラクタを睨む。
「どう、言う意味?」
浦島の平穏を奪う怨敵を倒す為……
「貴女の剣は私に届かない。そう言う事」
我が眼は険しく流移する。
「はっ、ははっ……そうか。私は上っ面だけの粗悪品なのね?」
ガラクタは呆れた声で含み笑い、
「お兄ちゃんに愛される資格すら無いのね?」
先の無い右肩に自らの刀を当て、
「くくっ………はぁぁははぁぁぁぁぁッッ!!!」
そのまま右腕を切り落とした。
「……バカね。まぁ、威勢と覚悟は買って上げるけど」
斬と音鳴り、断と音鳴って落地で離れ死ぬ。
「いたっ………ははっははははっ。どうせ『今日が終われば、私にはリセットが掛かる』。本物に成る為だったら、『こんな重り』喜んで捨ててやるわ!!」
私と対する様に残った左腕を上げ、互いに同刀の剣先を向け合う。
同じ構えを取り、同じ刀を持ち、コピーされた愛を信じ、兄が全てと思い込む。
「お兄ちゃんへの愛を、その思いだけ私が連れて行く。だから……安心して壊れなさい」
この時点で決着は付いてる。語り合う間も無く斬り伏せられた。ここまで長引いたのは、ガラクタに対する、私に対する、単なる『情け』が在っただけ。
楽に、楽に。
「「ふぅぅぅっ………」」
互いに一つの深呼吸。取った行為は同じでも、その意味合いは全く違う。
落ち着かせるだけの呼吸では、戦闘者としての低域を抜け出せない。
「このままだと、『今日の私』は出血多量で死んじゃうから………先に、仕掛けるわよ?」
目認出来るガラクタの体重移動。後在の右脚に乗せ、前脚の爪先を僅かに上げる。
「うだうだ言わずに……来なさい!!」
その体勢から繰り出されるのは打突のみ。剣技中最速で有る突きの構え。

「疾ッ!!」

人形が血溜まる廊下を跳ね飛び、二度目の攻防。二度目の後手。私の身体は木偶と成り、微動もせずに待ち受ける。
「んっ?」
やはり次瞬は眼前、相当に早い。体動のスピードだけで言うなら、私を超えるか?
ただ………
「お粗末ね」
私の剣は別だけど。
「お粗末過ぎるわガラクタッ!!」
迫る刀と待ち惚ける刀が交錯する刹那、初聴する金属音が鳴り、私の静はガラクタの動を内側からのパリイで弾く。
「蹴ッ!!」
しかしガラクタは止まらない。弾かれた左腕の反動を利用し、先に着地した右脚を軸とする胴回し後ろ回転蹴り、『龍迅尾』へと繋げて来る。
狙いは左腹部でしょうが。変化に乏しい、セオリー通りね。
「ふッ!」
重心を膝位置まで下げて身を屈め、左逆手の『鞘』を振り上げて龍迅尾を迎撃。
「「はっ」」
内脚筋へ決まり、ビタリと完璧に左脚は止まる。一瞬で終始する静止空間。横に働く力は、上へと働く力に相殺されたのだ。
「双ッ!!」
それでも止まらない。三撃目は必殺。頭部を狙った打ち落とし気味の右爪先蹴り、『落燕蹴』へと連絡。
この一連の流れこそ、浦島八卦が得意とする連環討路の一つ。
「単純で」
それ故に読み易い。自技の死角を最も知るのは、それを使う私自身。
だがこれは、『それ以前の問題』なのだ。
「容易いわ……」
瞬間に、
「ねッ!?」
頭が高速シェイクされる感覚。ベストタイミングで落燕蹴を食らったんだ。左耳前部から打ち抜かれ、頬に一筋血が垂れる。
……だけどね、
「貧弱ぅぅぅぅぅッッ!!」
結果は『それだけ』。必殺の技が見せたのは、ほんの微かな掠り傷。
「ッッ!?」
落燕蹴と同方向に首を逸して受け流しもせず、微塵も動かず受け切った。
「私の極技……」
鞘を手放して『硬気功』を解き、全身の集気を左掌に集約。
右脚で地を踏み締めて上体を上げ、ガラクタの晒す背面部に『その掌』を当てる。
「地獄の底まで持って行けッ!!」
後は流し込むだけ。内家から派生した浦島八卦の、浦島式の浸透勁を。
「撥ッ勁ッッ!!!」
これがキーワード。
これが断罪言。
これが、ガラクタを無に返す浦島八卦の純気功。
「がァッ!!?」
ガラクタが悲鳴し、爆発音を発して階段へと吹き飛ぶ。何度も横回転し、腹部を柱に強打して俯せに落ちた。

……終わった、か。例え時間で身体がリセットするとしても、今回に限って言えば終前の一撃。空腸を、回腸を、胃を、肝臓を、完璧の手応えで完全に壊した。残る作業は、止どめを刺して上げだけ。
「ぁぁ……う、ぐッ……」
声に成らない声しか出せず、こちらに背を向けて上半身のみを起こすガラクタ。
「やっと、諦めたのね?」
私はゆっくりと歩き、再び左掌に気を集める。
ガラクタは……死を認めたのだ。『この世界の明日』は決して来ない。今日で終わる。即ち、これがガラクタで産まれて浦島可奈子として迎える最後の死。
「何か言い残す事は?」
真後ろで片膝を着き、左掌をガラクタの後頭部に当てる。
「わ………しいわ」
思えば、
「ん? 小さくて聞き取れなかったわ。もう一度お願い出来る?」
勝ちを確信した『この行為』こそが、慢心から出た油断だったのだ。
「『私一人じゃ寂しいわ』」
だから、
「ッッ………いい加減、お兄、ちゃんを……任せ、なさいよ」
僅かな可能性にも気付かなかった。
ドスッ……と。
ガラクタは刀を自らの胸に突き刺し、貫通させて私の腹部に突き刺していた。
「痛ッ……たたた………っと」
身体を後ろに引いて刀身を引き抜く。
痛みは有るが大丈夫。血は出てるが大丈夫。肉は切れてるが大丈夫。どれも外見だけだ、深くない。臓器は何一つ傷付いてない。全然と、支障ない。
「あっ、その声……生きてる、のね? ちく……しょう……」
ガラクタは断末を吐いて横に倒れ、事を切らせて息を止める。眠る様に、眠る様に。命の鼓動は永久凍結。
私を極限までトレースした機械は、誕生して数日で呆気なく死んだ。
「お兄ちゃんとの思い出を糧にして、やすらかに逝きなさい。もう二度と会う事は無いでしょうけど、一生分の幸せ……貰ったでしょう?」
直立して童子切を鞘に納め、右手で小さく十字を切る。
……どれ程に長く生き続けても、後悔しながら過ごす位なら、
「羨まし過ぎるわよ、貴女……」
兄に抱かれて死に逝く方が、どれ程に幸せだろうか。
「ふぅぅっ、と。お兄ちゃんもそろそろ起きるし、最後の仕上げを……しなきゃね」
童子切を『もう一人の私』の横に放り投げ、閉目して刮目。お兄ちゃんの寝顔を一瞥し、最重要の覚悟を決める。
「お兄ちゃん……私、行って来ますね……」
消え気味に呟き、血塗れの廊下を歩いて玄関を出、『存在しない』『ひなた荘』に最後の別離。
「さぁ、ライトメア。祖母の時代から続いた腐れ縁。そろそろ断ちましょう」
冬の空を仰ぎ、冷感の酸素を吸い込み、
「命乞いしながら待ってろ! ライトメアッ!!」
最大テンションで跳躍。一足で三桁を飛び越え、ビルの側面を駆け、東京を走る風と成る。

嗚呼……
唯々。
唯々、獣為れ。
他に何も考えず。
何よりも早く。
何よりも遠く。
何よりも高く。
それだけを展開。
それだけが展開。
思考はいらない。
唯々。
ひたすらに。

跳べ!!

 

 ――――――――――――。

 

嗚呼……
だから見落とした。
一途な私は気付かない。

「………………」

私の命を狙う、鬼の黒爪が在った事に。

 

 

 続く。

 Next LightMareDays

 

後書き。
確信部分何も書いて無いですね。すみません。でも次で終わります。何から何まで書きます。

次は、北斗、鬼浜、夢夢、SAGA2。こちらも分かる人だけ気付いてください。
それでは後編でー

 

 

 

 

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