ラブひなSS
  『白色悪夢〜LightMare Syndrome〜症候群』
   0〜2日目

 

 

 プロローグ『それに至る過程』

 

 12月23日。
ひらひらと初雪が降った。

 

街はゆっくりと白に染められ、唯一色のメイクアップを遂げて行く。

「すごいね。僕を見つけるなんて」

そして一人。
降り続く雪に誘われて、白色の街に導かれて、俺は一人の少年と出会う。

「ご褒美に『君の願いを叶えて』上げるよ。あっ……勿論、代償は貰うけどね」

高層ビル間の細い路地奥。数メートル前後で二人は対峙し、互いに姿を確認し合う。

「さぁ、願い事の準備は出来たかな?」

少年の髪はシルバーアッシュ。根元まで同色の天然物。顔の幼さや身長から推測すれば、年齢は15程度だろう。
少年の服は 白地の『タンクトップ』。胸元にアルバのロゴが入り、ホワイトゴールドのスカルネックレスを首から垂らす。
パンツとブーツも白で統一され、白の風景に現れた白の支配者。

「良い夢を………『浦島 景太郎』」

少年は俺に向けて左手を翳し、『背中に生えた白い双翼』を大きく広げる。
途端。

「永遠への手向けだ、僕の名を刻んで落ちると良い」

ぐらりと、全身の力が抜けるのを実感。
膝から崩れ落ち、視界の中すらも白に侵されて行く。

「僕の名はライトメア=フィアード。白色悪夢のライトメアだ」

耐え切れず………
俺の思考回路は闇に落ちる。

 

 〜LightMareDays 1日目〜

 

 太陽の様に明るい笑顔を持つ貴女。その活力が僕にまで感染する。今日も頑張ろうって気にしてくれる。

 

 1

 

 眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を覚ます。
「ふあぁ………っと。ううっ、寒い寒い」
一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
理由は即効で理解。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「おはよう可奈子」
最愛の声に名を呼ばれ、起立してから返事を返す。
「朝食はどうしますか?」
ここは『ひなた荘』。今日から暫くは、可奈子と二人きりで過ごす事になっている。
「今日ぐらい、朝から外食にしよう」
なるも、素子ちゃんも、しのぶちゃんも、きつねさんも、カオ……………
……………………………
……………………………
……………………………
…………スゥちゃんだっけ?
違うな、『カオスゥちゃん』じゃない………………んっ!? 待て待て。何で名前を間違えるんだ? もう一度、ちゃんと、思い出せ! いや、『思い出せ』ってこと自体がオカシイ。オカシイ。何かがオカシイ。
「お兄ちゃんどうしたんです? 固まってますよ?」
可奈子の問いすら答えれない。それまでに不可解。それまでに不理解。刹那で陥った最高級品の疑心暗鬼。
「ふぅぅっ、はぁぁぁっ……」
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
即座に深呼吸で気を落ち着かせ、再度その名前を羅列させる。
落ち着けよ、ゆっくりで良いんだ。ゆっくり、ゆっくり、名称しろ。

なみ、もかちゃん、しろちゃん、きちさん、カオスちゃん……………………………………あれっ? さっきと違う気がする。

最初から、もう一度。

な×、も××、×××、××××××××××××××××スちゃん。

例え名すら出て来ない。
「ッッ!!?」
一筋垂れて、頬に汗さえ伝う。この寒い冬に汗……どんな意味か自分でも分かっている。
だから俺は、思い出せない不安を拭いたくて、
「可奈子、今日ってみんな何してるんだっけ?」その解答を可奈子に求めていた。
「えっ……と、お兄ちゃん?」
表情で分かる。これも駄目。これもオカシイ。可奈子はオカシイ台詞を紡ごうとしている。

「『みんな』って、誰の事を言っているんですか?」

やっぱり言った。可奈子も忘れているのか?
「ほらっ、ここで一緒に暮らしてる……」
まだ諦めれない。可奈子が別意味で解釈した可能性も有る。
頼む、答えてくれ可奈子。俺の不安を払拭してくれ!
「………お兄ちゃん『何を』言ってるの? 私達は、ずっと二人だけで生活して来たじゃない」
本当に分からないと言った顔で返してくれた問いの答えは、本当に分からない問いの答え。

ずっと? 二人で?
ずっと、二人で。
ずっと、二人で………

「そう……だったね。ゴメン可奈子、何だか寝ぼけてたみたいだ」
そうだ。俺と可奈子は、ずっと二人だけで暮らしていたんだった。『みんな』何て最初から居ない。
「もう、今日ぐらいはしっかりして下さいね」
「ああ、分かってるよ可奈子。今日は特別な……日だから」
一年で一度の聖夜。こんな神聖な夜になら神様も目をつむっていてくれる。例え兄妹でも……愛し合う二人が育む、禁忌とされる行為を。

 

 2

 

月の様に優しい微笑みを持つ貴女。その気丈な言葉は、僕の身体を落ち着かせ、暑くする。明日になれば、また太陽の様な笑顔を見せてくれると信じて、今日も僕は眠りに着く。僅か隣りに、貴女の吐息を感じながら。

そんな可奈子に、これ以上何を求めたら良いのだろう?

 

 

「寒くないか可奈子?」
サラサラと冬なる冷気の風が、頬と肩を撫でて過ぎ行く。
舞い落ちるパウダースノーは、それだけで冷たさを連想させる。
「私は暖かいですよ。お兄ちゃんは、寒いですか?」
「いや、俺も暖かいよ」
街を歩く俺達は、きっと兄妹に見られていない。
可奈子は俺の左腕に身を寄せて、微かな隙間も空けない様に両腕でしっかりと抱いて居る。
俺の鼓動は可奈子に聞こえて、可奈子の鼓動は俺に聞こえて。相乗効果で心拍数は更に上昇。顔は紅潮し、身も心も暖かく。
「これから、どうするんですか?」
可奈子は俺の上腕に頭を預けながら、ショッピングビルの液晶モニターで『2時30分』と言う時刻を確認して、信号待ちの次行動選択を促す。
「ん……可奈子は行きたい所とか有る?」
二人で同色の黒いダウンジャケットを羽織り、ひなた荘を二人で出て、二人一緒にファーストフードで遅めの朝食を取ったのが11時。そこからクリスマスイルミネーションの施されたセンター街でウインドウショッピングをして、長い信号待ちの今に至る。
「私は……お兄ちゃんと離れなくて済む所だったら、本当にどこでも良いんです」
俺の顔を上目で見つめ、離れたくないと願う妹の顔は、焦がれる程に愛しく思えて……
「可奈子と離れるなんて、考えもしなかったよ」
甘ったるい台詞を囁き、微笑んで可奈子の瞳を見つめ返す。
「お兄……ちゃん」
可奈子は潤んだ瞳を静かに閉じて背伸びをし、
「可奈子……」
俺も僅かに顔を下げ、妹の頬に右手を添える。

「ずっと、好きだった」

それに今まで言えなかった告白を加えて、

「「んっ……」」

唇を重ね合った。
温もった声さえも重なる、とても神聖で、禁忌とされる行為。
横を通り過ぎて行く視線を気にせず、気にならず、時間さえも止めて、二人だけの世界で愛を唄う。
「っ……はぁ………信号、また赤になりましたね」
惜しむ様に唇の重ねを解き、俺達は揃って目立つ赤を見る。
「ああ、ゆっくり行こうよ。まだまだ今日は長いから」
言い終わる直前に赤は消え、人波を動かす緑にシフトした。
そして俺は、幸せな時を歩む。

 

二人で恋愛映画を見た。人気が無いのか、客入りの少ない作品だったけど、俺達は充分に楽しんだ。
愛し合う義理の兄妹が、周りの祝福を受けて一緒になる話し。
どんなに幸せなんだろうと、画中の二人に嫉妬しながら、決定済みのハッピーエンドを見守ってた。
兄と妹の結婚式。現実の俺達には決して許されない背徳の儀式。
可奈子は俺の左手に自らの右手を乗せたまま、声を殺して涙を流す。

遠い日の可奈子と交した約束。『大きくなったら結婚しよう』。そんな幼い子供の盟約すらも無に返す、くだらない法律が存在する現実。
ああ……
ああ……神様どうか。
ああ、神様どうか教えて下さい。いったい俺達は、どこに行けば許されるのですか?
哀れな小羊達は、どこに行けば愛し合えるのですか?
小羊達の愛し方を、どうか教えて下さい………

 

 〜LightMareDays 2日目〜

 

 1

 

 眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を覚ます。
「ふあぁ………っと。ううっ、寒い寒い」
一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
理由は即効で理解。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
確か昨日は可奈子とデートしたんだ。ウインドウショッピング、映画、高級レストランで食事、その後はラブホテルで可奈子と………………………
……………………………
……………………………
……………………………
…………ん? 何か記憶が抜けてる。可奈子と一緒に寝た筈なのに、どうして俺は『ひなた荘』で目覚めているのか? そもそも昨日は何でデートしたんだ? デートするなら、『イヴで有る今日』だろうに。
「状況を把握する必要が有るな」
椅子を引いて起立し、パジャマから着替える為に自室へと向かう。
オカシイ。嫌な……予感がする。
「可奈子、まずは可奈子を探さないと」
行動を起こすなら今だ。
思考能力が『正常』な今だ。
動いて、考えて、結論を出せ。
何を考え、どう動くべきなのかを…………

 

 2

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
深い呼吸で溜め込まれた脳内酸素までが、小休止の無い運動で尽き果て朽ちる。
「はぁっ、はぁっ、っ……ぐはぁっ!!」
短いインターバルも取らずに走り続ければ、言わずとも出て来る当然の結果。

もう何分走った?
覚えていない。

何時から走った?
考えたくもない。

視線をズラし、液晶モニターで映される時刻が、11時45分。ひなた荘を出たのが11時。
簡単な算数。やっぱり疲れる筈だ、こんなに走ってるんだから。
雪が降り止み、夜の冷感温度でアイスバーンに変化した歩道。

そこを俺は、
「どこ……っはあっ、に居るんだよ可奈子」
12時間45分も走り続けたのだから………

「かな、こ……」
終に両足は動かなくなり、激痛を上げて中断を申告。
日付の変わる空を仰ぎ、異常な呼吸を正常に整える。
街には俺が『一人だけ』。他には『誰も居ない』。後は何処かに居る可奈子。
そう……
この世界は、俺達二人で出来ている。
後は存在しないし、『後』なんて無い。
記憶回路で覚えてる人名は、自分の名前と妹の名前だけ。たった『それ』だけなのに、それだけで満足してる。
誰にも咎められない。
誰にも非難されない。
この世界には二人しかいないから。
二人しかいないからオカシイ。
俺が立ち止まった先、横断歩道の向こう側。『ソイツ』は佇む。
全身を白で纏め、視界に現れて異端を晒す。
俺と『白』との距離は、目測で二桁メートル弱。
読唇術を会得してる訳じゃないし、声が聞こえて来る訳でもない。でも分かる。白は口角を一字一字はっきりと動かし、俺に意味を理解させる。
「う、た……」
言葉は5文字。
「が」
コンタクトに代えたとは言え、俺の視力も余り良くないし、読み違えてる可能性だって有る。でも解る。
「う、な」
意識下に直接で刷り込むかの如く、白の言葉が頭に響く。
「うた、が、うな?」
奴の言った台詞は、
白の放った初言は、
「疑うな!?」
その存在以上にオカシイ内容だった。
「どう言う……事だよ畜生!!」
分かれ、分かれ、解れ。
この状況を、この現状を!!
「畜生、畜生……」
分かる、分かる、解る。
俺は何をするべきなのかを。
「俺は、俺は……」
今はただ、この溢れる感情のままに。
「俺はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
東京の闇を降り払う為の咆哮。それまでに俺の叫びは大きく、
「ダメよ、お兄ちゃん」
俺の驚きは大きかった。
「ッッ!? かな…………………………こ?」

身体中に小規模な衝撃が伝達。
「この世界が全て。私とお兄ちゃんだけの叶えられた世界」
可奈子の右手が腹部に見える。
「それを『疑う』なんて、絶対に駄目!!」
きっと……可奈子に背中から抱き締められてる。
「か、な………がはッ!!」
それなのに俺は、最愛の名を呼ぶ事さえも許されない。代わりに口から溢れるのは、ハイペースで流れ落ちる鮮かな血液。
「もう一度やり直しましょう。直ぐに『元通り』になるから」
確かに可奈子の右手は腹部に見える。
「何、を言って……」
右手は腹部に見える。
右手は腹部から『生えて』見える。
背面から貫き、『腹部に穴を空け』て血塗れの五指だけを見せた。
「『次は』私だけを考えて下さいね、お兄、ちゃん」
後ろを振り向く事は出来ない。
下を向けば血溜まりが造られ、
前を向けば、
「な、ん、で……」
白と可奈子が戦っていた。
白は双翼を広げ、可奈子は長い刀を振るう。
白と戦うのは、『もう一人の可奈子』 。
そう思いながら、俺の意識は消えて行く。
痛みなんて全く感じてないのに、死ぬんだなって理解出来た。
ぞぷりと可奈子の右手が引き抜かれ、俺の身体に風穴が空く。
「お兄ちゃん!!? 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
駆け寄って来る可奈子の絶叫を聞きながら、雪面の白夢に倒れる。

 

 

  〜LightMareDays 3日目〜

 

 

  眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を覚ます。
「ふあぁ………っと。ううっ、寒い寒い」
一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
理由は即効で理解。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。

 

そして視線をズラせば赤。

 リビングの入口、

 血沼に浮かんで、

 『可奈子が死んでた』。

 

 

 続く。

 Next LightMareDays

 

後書きは。

ライトメアのモデルが解った人凄い。

 

 

 

 

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