桜が澄み渡っている

 

 

 

その小さな花弁を

 

春風にゆだねるかのように

 

まばゆい青空へとその身を散らしていく

 

 

 

時が満ちている

 

 

桜は時間の流れに逆らう事をせず

 

自らの姿を華麗に変化させていく

 

 

 

そう、時は止まらない

 

 

 

けれど、私の時間は止まったまま……

 

 

過去に囚われたままの私の心

 

 

 

終わったはずの恋

 

私はそのトンネルを抜け出す事ができずに

 

 

時の流れに身をゆだね

 

今を生きていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『届カナイ愛ト知ッテイルノニ、愛シ続ケタ……』   

 

     第十八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◇◆◇

 

目を覚ますと、障子の向こうから暖かな日差しが差し込んでいた。

眩しい光が目の中を覆い尽くして、私は少し顔を歪めた。

しばらくしてから、私はベットから重い身体を引き剥がして身を起こした。

 

その時、酷い痛みが頭を襲った。

 

 

……痛い……身体がだるい……目が霞む……

      

……気持ちが悪い……

 

 

私は頭を抱えながら、部屋の中をみた。

 

いつも綺麗にしているわけではなかったが、そこそこ整理はしていた。

けれど、私の視界に広がるのは、哀れもない光景だった。

 

 

空になった酒瓶がゴロゴロと転がっている。

ヤケ酒の跡だ。

酔ったら気が紛れると思い、私は部屋にある酒類をほとんど飲み尽くしていた。

けれど、余計に気が滅入ってしまった。

酔いが廻るにつれて、彼の顔が消えるわけでもなく、より鮮明に思い出してしまったのだ。

 

その代償が、これ。

頭が割れんばかりの頭痛と、胃の底から這い出してくるような嘔吐感。

私は頭を抑えたまま、虚ろな瞳でまたぼんやりと部屋の中を見わたした。

 

 

すると、テーブルに置いてあるものを見つけた。

 

そこには朝食がそこに並べてあった。

多分、ついさっき作られたものなのだろう。

いつも使っていたお椀には白い湯気を上げている白米と味噌汁が添えられていた。

 

 

 

私は壁に壁にかけてある時計に目を移した。

 

もうすぐ九時を迎えるところであった。

 

 

 

知らないうちに誰かが運んできてくれたのであろう。

私はそう思った瞬間、酷く胸が痛んだ。

 

 

 

 

自覚はしていた。

いつまでもあの時の事を引きずっている自分の所為で、周りにまで迷惑をかけていることを……

 

 

 

 

それを見つめていると、お椀の下にふと白いものを見つけた。

私はそっと、それを手にとって見る。

 

 

 

 

 

『午後から花見をするから、一緒に参加しようね』

 

 

 

小さなメモ紙に丸っこい字が書かれていた。

それは、なるの字であった。

 

それを見た瞬間、私はそれを握り締めて胸が押し付けていた。

 

 

 

私は必死に押さえ込もうとしていた。

なるに対する罪悪感ではない、それ以上に胸を締め付けていたのは『彼』の存在だった。

 

 

 

 

 

目じりに涙が浮かんだ。

あの夜から何度も流した涙だけど、それは枯れることを知らなかった。

彼を忘れてしまいたいと思う気持ちが、何所か心の奥底から湧き上がっているのは自分でも分かっている。

そして、彼がまだ心の中にいるから壊れそうになる自分もわかっていた。

けれど、私の存在を救ってくれているのも彼だった……

 

 

 

 

 

 

ああ、なんて矛盾しきっているのだろう。

 

 

 

 

彼から離れてしまいたいと願う気持ちと、彼と一緒にいたいという私の心。

私は小さな紙切れを握り締めたまま思った。

それは……果てる事のない輪廻のように、永遠に続く私の運命なのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるさん、ここでいいでしょうか?』

 

『いいわよ〜。 しのぶちゃん、それ置いたらこっち手伝ってちょうだい』

 

『わかりました』

 

 

私は虚ろにベットに座りこんでいた。

すると不意に障子の向こうからなる達の声が聞こえてきた。

気が付くと、私はその声に誘われるかのようにベットから離れ、部屋の外に足を踏み出していた。

 

 

 

 

『なるさん、コレはここでいいんでしょうか?』

 

『オッケーよ、素子ちゃん』

 

廊下に出ると、その声は外から聞こえてきているのがわかった。

私はふらふらとした足取りで窓の側にまで歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

『スゥちゃん! 遊んでないで手伝いなさい!』

 

『ひゃー、なるやんが怒った〜』

 

 

私はガラス越しに外にある庭を見つめた。

庭にはなる達の姿があった。

私はガラスに触れながら、そっと彼女たちの様子を眺めてた。

 

スゥが走り回り、しのぶは料理の準備し、なると素子はシートを広げている。

みんな笑顔であった。

私は少しだけ孤独を感じた。

 

 

 

 

 

 

『景太郎〜! ちょっとこっち手伝って』

 

 

 

 

 

「!!」

 

私はなるのその言葉を聞いた瞬間、慌てて窓際から身を離した。

勢いが余って後ろの壁に激突してしまう。

 

心臓がが激しく鼓動を繰り返していた。

私は胸元を握り締め、落ち着かせるように深呼吸を繰り返した。

 

 

 

 

『はいはい、ちょっと待ってて』

 

 

私の耳に彼の声が入ってくる。

動悸は激しさを増す。

私は知らず知らずのうちに胸元を握り締めていた。

 

 

 

 

―――――彼の姿が見たい―――――

 

 

 

 

私の気持ちがそう告げていた。

けれど、その場から私は動けなかった。

足が崩れ落ちそうなほど小刻みに震えた。

 

 

 

 

――――恐い――――

 

 

 

 

何が恐いのだろう。

その答えを私は知っているのに、再び自問自答を繰り返していた。

 

もう嫌だった。

こんな事を繰り返している自分自身が。

何が答えなのか解らなかった。

彼を愛する事が正解なのか、彼を拒絶する事が正解なのか……

 

 

 

 

「…………もう……いや………………」

 

 

 

 

 

 

 

結局、私は彼の姿を見つめる事も自分に答えも出す事もできずに、その場に座り込んで涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――どのくらい時間がたったのだろう。

私は廊下に座り込み、ぼんやりとしていた。

頬には乾いた涙の跡が、薄っすらと浮かび上がっている。

 

 

外から聞こえてくる声はもうおさまっていた。

私はゆっくりと立ち上がると、再び外を覗いた。

 

 

 

 

そこには彼の姿はなかった。

 

 

 

私はそっとガラスに触れた。

自分の吐息がガラスを白く染め上げていく。

 

その時、不意に太陽が隠れた。

私を照らしていた日差しは途切れ、透明な硝子が鏡のように廊下に佇む自分の姿を映し出した。

硝子に映る私の姿。

髪は乱れ、目じりが紅く染められた自分の姿……

 

 

 

私は嘆いた。

この自分を、いつまでも過去を引きずる私を……呪い殺してやりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、時は止まらない

 

過去を置き去りにして、時は流れを止めることを知らない

 

時は止まらない

 

哀れもない自分を過去に置き去りにして、

私を独りにしていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ◇◆◇

 

立ち上る紫煙が、春風に揺られその身をゆだね、空へとゆっくりと消えていく。

春の陽気に小鳥たちが応え、暖かな日差しが店の周りを包み込むようなそんな感じ。

 

私は店の柱に寄りかかりながら、景太郎を待っていた。

そう、花見の買出しである。

 

私はぼんやりと空を見上げながら、再び煙草のフィルターに口付けをした。

すると、ほろ苦い煙と一緒に、ほのかな桜の香りが私の鼻をくすぐった。

 

 

今日は絶好の花見日和だ。

 

桜は神々しく咲き乱れ、舞い散る花弁は突き抜けんばかりの大空へと吸い込まれていく。

淡く広がる青の空は、まるで私の心を洗い流していくように晴れやかな気持ちにさせてくれた。

 

私は、腕の時計にふと目を落とした。

 

もう十一時を回っている。

しかし景太郎は姿を見せようとしなかった。

 

(―――いつまで待たせる気だ?)

 

苛立ちが少し湧いたが、しばらくすると収まっていく。

それと同時に、私はすこし口元をほころばせた。

 

(……そういえば、昔にもこんな事があったな………)

 

私は懐かしい思い出を心の内に映し出すかのように、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは彼が私を呼び出した時の事だ。

 

彼が私を呼び出すのは別に珍しくもなかった。

大抵、彼が私を呼び出すのは次の学会の話とか発掘の事など、そんな些細な相談事が理由であった。

しかし、私はそのときの事をよく覚えていた。

 

理由は簡単。

その時、私は絶対にはかないはずのスカートを身に着けていたからだ。

今思い出せば、我ながら頑張ったと思う。

私は女性であるのにも関らず、女っぽいものを好まなかった。

まあ、趣味が合わなかったといっておこう。

 

けれど、スカートを身に着けない訳にはもう一つ理由があった。

他人に隙を見せたくなかったのだ。

 

 

 

 

 

小さい頃、私は ばあさんであるひなたの養子として浦島家に引き取られた。

その時からだ。

どこか他人と距離をとるように周りを避けていたのは。

 

何故、私が養子として引き取られたのか、今になっても私は知らない。

理由はどうとあれ、私は親に捨てられた……いや、そう思い込んでいた。

 

親戚の叔父に引き連れられ……ばあさんと出会い……いきなり、この人が君のお母さんになる人だよ……

誰が納得できるだろうか?

もちろん私は納得が出来なかった。

 

けれど、幼い私には

それを拒否する事も、それを受け入れることも

出来なかった。

 

 

 

そして、私は成長していったのだ。

他人を信じる事もできず、自分だけを信じ、幼い頃の傷を引きずり私は今まで生きてきた。

 

 

 

 

けれど、彼だけは例外であった。

だから、私はあんな出立ちで待っていたのだ。

 

それは、自分をさらけ出せる唯一の存在だったから………

自分が初めて好きになった大切な人だったから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おーい、はるか!』

 

いつも聞きなれているはずの声だったが澄んだように耳に響いたのをよく覚えている。

私は彼の声を求めるかのように視線を走らせた。

 

『いやー、ごめんごめん! トリケラトプスの化石が出ちゃって二時間も遅れてしまったよ』

 

彼の言葉を聞いて、呆れてしまった。

相変わらず彼の言い訳はスゴイと思う。

どうしたらこの日本でトリケラトプスの化石なんかが出てくるのだろうか。

 

 

 

『……いつものことだし、もーあきらめてるよ』

 

 

私は溜め息まじりにそう言葉を洩らした。

 

『スマンスマン、さすがは二年も付き合っている相棒だ』

 

『で……この忙しいのに今日はなんだよ。大事な話があるそうだけど』

 

『うん……実は……』

 

そう言って、ついさっきまで緩みまくった笑顔を消して、真剣な眼差しで私を見つめてきた。

何事だ? と、私は眉をひそめた。

 

 

 

 

『はるか……俺は君のことを一人の女性として信頼している。それで……君に受け取ってほしいものがあるんだ』

 

『えっ……』

 

その言葉を聞いて私は呆気にとられてしまった。

一人の女性……

その言葉が頭の中を幾度もなくめぐり響き渡った。

鼓動が早くなるのを感じた。

 

 

 

『な……なんだ?』

 

私はおずおずと彼に尋ねた。

期待が先走りしすぎて、頬が熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この化石コレクションさ! 俺、またしばらく海外に行くから保管しといてくれ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだった……こいつはこういう奴……

 

 

 

 

その後、走り去っていく彼に見事なオーバースローでアンモナイトの化石をぶつけてやったのをよく覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっくっくっ」

 

今思うとおかしくてたまらない。

あの時の彼はあんな調子だったのだ。

私がはじめてスカートを着けたのに、それにも目もくれずに用件を伝えて走り去ってしまう彼。

多少腹は立ったが、私はそんな彼が愛おしくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

「―――何笑ってんです? はるかさん」

 

空想に浸っている私の耳に突然声が飛び込んできた。

私は慌てて顔を上げた。

 

「―――なんだ、景太郎か……十分遅刻だぞ」

 

私の目の前に甥の景太郎がいた。

表情を見るとキョトンとした顔をしている。

まあ、当然といえば当然だろう。

 

 

「っとに―――少しは時間を守れんのか?」

 

少しだけ恥ずかしかった。その代わり、照れ隠しに嫌味言ってやった。

 

 

 

 

「すいません……ちょっと準備が大変でして……」

 

私が放った言葉に、ショボンと景太郎は肩をすくめた。

私はそんな姿を見ながら、煙草を片手に掲げ肺に煙を送る。

 

その姿が『彼』の姿と重なるように見えて、私は自嘲した。

 

 

 

 

「ほら行くぞ」

 

そう言って私は足を歩めた。

緩やかな坂道を下りながら、私は再び空を空を見上げた。

 

 

うん、いい天気だ。

 

私は、そう心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◇◆◇

 

空はこんなに陽気なのに、街は少し寂れていた。

 

俺は今、はるかさんと共に小さな商店街の道を歩いている。

けれど、自分たちのほかに人の姿をほとんど見なかった。

 

 

元々、この街には温泉街だ。

神奈川では結構有名な所らしく、温泉客で溢れ返っていたという。

しかし、今となっては昔の事。

温泉客で溢れていたあの頃とはガラリと姿を変えてしまい、今では古い世代の大人たちが穏やかに過ごしていた。

 

 

 

 

 

「―――景太郎」

 

不意に彼女が声をかけてきた。

今まで黙々と道を歩いていたので、少々心細かった俺にはそれが嬉しかった。

 

「なんです?」

 

俺はなんだろうと期待しながら、彼女の返事を待った。

 

 

 

 

 

 

「――――酒代はちゃんと持ってきたか?」

 

 

『ガクッ』

 

俺は一気に現実へと引き戻された。

 

 

 

 

 

「はぁ……昨日のうちに準備しときましたよ」

 

俺の期待は虚しく崩れ、溜め息が弱々しく俺の口から零れていく。

 

「ん、ならいいんだ」

 

彼女は愉快そうに俺を見てから、ポケットからマルボロを取り出し始めた。

どうやらニコチンが切れてきたようだ。

 

「………歩き煙草はよくないですよ…………」

 

「むっ………」

 

彼女が恨めしそうに俺を見上げてきた。

その唇にはマルボロが咥えられて、火を点ける直前だった。

しばらく考えた後、彼女はしぶしぶといった感じで煙草を箱に戻し始めた。

 

 

 

 

―――してやった―――

 

 

 

ちょっとした復讐が上手くいき、俺は彼女を見ながら少し笑った。

すると、煙草を戻しながら彼女が呟いた。

 

 

 

「……景太郎……なる達にタバコの事バラすぞ?」

 

「……それだけは勘弁してください……」

 

 

やはり、彼女には敵わない。

俺は苦笑いを浮かべながら、彼女のほうが一枚上手だな、と思った。

 

 

 

 

静かな通りを二人で歩いていく。

青空から注ぎ落ちる日差しにさらされ、地面には二つの影が同じように並んでいた。

次第に俺の心が何かに満たされていった。

 

この穏やかな日々がいつまでも続くことを、俺は心の中で祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、俺たちは目的地に到着した。

 

「ごめんくださーい」

 

俺は間延びした声を出しつつ、その店に入っていく。

その途端、鼻の中を香ばしい日本酒の香りが満たしてきた。

 

「はーい! ちょっとまっててくださいねぇ」

 

店の奥から元気のよい女性の声が聞こえてきた。

俺はその女性が現れるのを待ちながら、店の中を見渡してみた。

店の壁には大型の冷蔵庫が並べてあり、その中は今時の酒瓶が並べてある。

 

 

子供の頃、婆ちゃんに聞かされた事があった。

 

昔、ここは酒造と店を兼ねていたらしい。

今は作るのを止めて売るのに専念しているらしいが、

昔の名残のためか店の壁に酒の香りが染み付いてしまったそうだ。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい―――あら、『景ちゃん』じゃないの。久しぶりねぇ〜」

 

そんなことを思い出しながら酒類を眺めていると、奥から声の主が現れた。

 

「……おばさん、もうその呼び名止めてくださいよ。もう十九ですよ?」

 

「いいじゃないかい。景ちゃんは景ちゃんよ」

 

あはは、と愉快そうにその女性は笑い声を上げた。

この女性は、この店の主人の奥さん。

幼い頃に婆ちゃんに連れられて来た時によく遊び相手になってもらった事がある人だ。

 

「こんにちは、おば様」

 

「あら、はるかちゃん、こんにちは。今日はどうしたんだい、二人して?」

 

「今日花見をしようと思いましてね、それで買出しに」

 

「あら〜、それじゃあ沢山買ってもらわないとね。 いいの揃ってるわよ?」

 

ニコニコとしながら奥さんは嬉しそうに手を揉んでいた。

まるで大坂の商人だ。

 

 

 

しばらく、はるかが店を見渡した。

すると目的の酒を見つけたらしく、その名前を言おうとした瞬間、俺は彼女の裾を、ちょいちょいと引っ張った。

 

(なんだ?)

 

(……あんまり高いの買わないで下さいよ?)

 

俺がそう彼女にそっと耳打ちをすると、彼女は悪戯娘のように楽しそうに微笑んだ。

 

(――――気が向いたらな)

 

そう、俺に呟いた後、彼女が読み上げる商品の値段に目がくらみそうになった。

 

 

 

 

……ああ、諭吉さんが飛んでいく……

 

そして、俺の財布から虚しく一万円札が消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◇◆◇

 

「まいど、おおきに〜」

 

大坂人でもないのに流暢な関西弁を喋りながら、奥さんは上機嫌で俺たちを見送ってくれた。

 

 

「おっ……重っ……」

 

俺はやっとの事で肺からその言葉を出す事が出来た。

 

「だらしがないぞ、景太郎」

 

「いやっ……これは………『想定外』っす……」

 

動けない俺を見下ろしながら、彼女はのんびりと煙草を吹かしていた。

 

 

 

これは、今までの花見の準備の時より……数十倍キツイかもしれない……

 

右手、日本酒(一升瓶)6本

左手、焼酎(1200ml)6本

背中、キリンビール(350ml)4ダース強!!

詳しく言えば、ビールは背中にくくりつけられているのだ。

 

推定10s以上のこの荷物を俺は担いでいるのだ。

 

しかし……今の指南より、ひなた荘のあの石段を上る事のほうが……つか、無理!!

 

 

 

 

「ほら、さっさと運ばんか。私だって荷物持ってるんだぞ?」

 

はるかさんはそう言って、自分の持っているビール箱(350ml)を俺に見せつけた。

 

「ぐっ……う…りゃ!」

 

俺は渾身の力を振り絞り、なんとか立ち上がった。

膝がガクガクと笑っている。

しかし、それを見た彼女は俺を置き去りにして、スタスタとひなた荘の方角へ歩き始めていた。

 

「景太郎、先に行ってしまうぞ?」

 

彼女は振り返りながら俺を見つめていた。

俺は重い身体を引きずるようにして、彼女の所まで歩いていく。

すると、彼女はまた可笑しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜえっ……ぜえっ・……」

 

ようやく地獄のような石段を登り終え、俺はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 

「おっ、結構早かったじゃないか」

 

不意に側から聞こえた彼女の声に俺は下を向いていた顔を上げた。

そこには荷物を下ろしたはるかさんが、のんびりと煙草を吹かしていた。

 

「―――今度からは手伝ってくださいよ」

 

「いやっ」

 

そう言って、彼女はまた可笑しそうに笑った。

そんな彼女をみて、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、ご苦労さん」

 

頭に柔らかな感触が落ちてきた。

見上げると、彼女が俺の頭を撫でていた。

 

懐かしい感じがした。

居心地が気持ちよかった。

彼女の体温がじんわりと手の平を伝わって、俺の中に染み込んでいく。

 

俺が幼い頃、こうして彼女に撫でてもらったっけ……

 

俺はいつもなら嫌がるのだが、こうしてじっと彼女に撫でられていた。

 

 

 

 

 

「―――ケータロー! 早くしなさいよ、こっちは準備できてるのよ!」

 

ひなた荘の方からなるの声が聞こえてきた。

 

「ほれっ、アイツらが待ってるぞ」

 

そう言って彼女は俺の頭から手の平を離した。

彼女の視線の先には、楽しそうに俺たちの帰りを待ちわびているなる達の姿があった。

 

 

 

 

「さてと、―――花見を始めましょうか」

 

そう言って、俺は地べたにつけていた腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     後書き

 

こんにちは、フェイカーです。

長らくお待たせしました、十八話目完成です。

今回はパソコンが使えないという非常事態に陥ってしまい、なかなか書けないという状況でした。

十九話はほとんど出来上がっていますので、すぐ掲載できると思います。

 

自分的ダメ出しは、序盤の詩が内容と合っていないような気がすることです……

 

これからも頑張っていくので、よろしくお願いします!!(;´Д`)

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