俺の周りに漂う紫煙は

 

 

悲しい時も

 

寂しい時も

 

 

貴女がいつも側にいてくれる気がする

 

 

 

 

貴女がいるから

 

俺はここに存在する

 

貴女の笑顔が恋しい

 

今すぐにでも、貴女を抱きしめたい

 

 

だけど、

 

それは叶わぬ夢なのかもしれない……

 

 

 

貴女の気持ちが

 

アノ人に向かっているのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『届カナイ愛ト知ッテイルノニ、愛シ続ケタ……』   

 

     第十七話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◇◆◇

 

あの後、俺はいつの間にか日向まで来ていた。

 

いつものようにドアに手をかけようとした……けど、俺はそれをためらってしまった。

俺は、ゆっくりと建物を見上げた。

いつもと変わらないはずの日向。

 

そう、変わらないはず……

けれど俺には、遠くに浮かぶ陽炎のような、手に届かない存在だと、その時思った。

 

 

 

 

 

 

こんな事を思ったのは初めてであった。

彼女とは、あの事故から十年以上一緒に暮らしてきた。

その後、彼女はこの日向に移り住んでしまったが、浪人生の頃もこの店に毎日のように足を運び、

いつも彼女に逢いにきた。

 

そう、彼女のことを想いながら……彼女に悟られないように……

 

 

 

 

けれどあの夜……あの電話がかかってきたあの日から、彼女の様子がいつもと違っていたことに俺は気付いていた。

 

 

電話の向こう側にいた相手……それが『瀬田さん』だった。

 

 

 

 

 

 

彼女の側にいつも居ながら唯一知らなかった事、それは大学での出来事であった。

 

彼女は決して大学での出来事は口には出さなかった。

何故、話さなかったのかは俺もわからない。

けれど、大学から帰ってくる彼女が妙に嬉しそうだった事を覚えている。

 

 

 

 

彼女と瀬田さん…………本当に友人だけの関係だったのか?

 

そう、俺は知らないのだ……一番彼女のことを想っているのに………

 

 

 

 

 

 

その事を考えた瞬間、俺の心はどす黒い感情に包まれた。

 

 

          

 

 

        ―――――『嫉妬』―――――

 

 

 

それは、幼いときに感じた時よりも……深く……黒く……闇のような嫉妬であった。

その嫉妬は……じわり、じわり、と俺の心を染めてく。

 

 

 

武道館の前にあるベンチで知り合った瀬田。

人に好かれそうな性格の彼だけど……あの人でも彼女に近づけたくない……

俺は心の中で、ポツリとそう呟いた。

 

 

 

彼女に対する気持ちがどんどん深まるにつれて、一つの感情が大きくなっていく。

 

 

 

 

彼女への    ―――――『独占欲』―――――

 

 

 

気付かないうちに俺は、いつしかそれに染まりきっていたのだ。

 

今俺にとって、彼の存在は………俺の心を酷く乱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――チリン』

 

ドアの上についている鈴が静かに鳴り響いた。

その音はとても小さい筈なのだ。

しかし、今の俺には耳にこびり付くようなそんな音であった。

 

俺は暖簾が垂れ下がった入口を通り抜け、店の中に入っていった。

 

 

「―――おはようございます」

 

いつものように、挨拶をしながら店の中を進んでいくと、俺は店内にいるはずの彼女の姿を探していた。

 

 

 

 

 

―――――けれど彼女はいなかった。

 

動悸が激しくなるのを俺は感じた。

何故いないのだろう?

いつもなら、彼女はここにいるはずなのに……

 

俺は言いようのない不安に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――はるかさん!」

 

俺は叫んでいた。

不安が俺の中を染めていく。

 

けれど彼女は一向に姿を現さなかった。

 

 

 

 

 

 

( もしかしたら………)

 

そう思った瞬間、俺はドアに走り出していた。

もしかしたら―――ひなた荘に行ったのかもしれない。

けれど、それなら裏の階段で彼女と会うはずだ。

 

俺の思考は不安にかき乱されていた。

 

その時、俺が一番望んでいない事が頭の中をよぎった瞬間、俺は勢いよくドア開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん? なんだ、景太郎か」

 

―――が、俺は不意に聞こえてきた声に、驚いたように振り返った。

そこには・……そう、彼女の姿があったのだ。

 

 

 

「何してんだ? 景太郎」

 

店の奥でキョトンとした彼女が不思議そうに俺を見つめている。

 

「――――何か外にでもいるのか?」

 

彼女が怪訝そうに外を覗いた。

 

 

彼女がそう思ったのは当たり前だと思う。

今、俺はドアを開け放った状態で固まっていたのだから。

 

 

 

「あっ……なんでもないです。気にしないでください」

 

俺はそう言って再び彼女の姿を確認すると、ほっと安堵した。

不安に満たされていた心が晴れていく。

 

 

 

 

俺はドアを閉めると、ゆっくりと彼女の方に歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってろよ」

 

そう言って彼女はいつものようにカウンターの中に入って、コーヒーを作る準備を始める。

煙草の香りがする。

多分、彼女のマルボロの香りだろう。

 

コポコポと、サイフォンの沸騰音が耳に入ってきた。

紫煙の香りはコーヒーの香りと交じり合って、いつしかコーヒーの香りに消されていった。

 

 

俺は安心したように、いつものようにカウンターの席に座ると、彼女が作るコーヒーに視線を移してみた。

カウンターの向こうでは、彼女が黙々とサイフォンを睨みながらコーヒーを作っている。

俺はマルボロに火を灯すと、ボーと彼女の姿を眺めながら、じっと待ちつづけた。

 

 

 

この待っている間の時間は嫌いではない。

むしろ、この時間が俺は好きだった。

 

 

彼女と話をするのは楽しいし、彼女がたまに見せる仕草もかわいいと思う。

 

だけど、こういう何も会話のない時間。

二人だけの空間……二人だけの時間……

話をするよりも、すぐ側で貴女を感じられる事。――――それが俺が欲していたこと。

 

 

 

この瞬間が、俺を一番安心にさせる。

 

 

 

多分、他の女性では、俺はここまで安らぎに満たされる事はないだろう。

 

彼女だから……彼女だから俺はここまで心を露にできると、そう思う。

 

 

 

 

ふと、灰皿にある吸殻が目に入った。

そこにポツンとあるマルボロ。

彼女が吸っていたやつだろう。

俺は、ちょん、と指先で吸殻に触れてみる。

吸殻に残っていた灰が落ちて、コロコロと灰皿の中を転がった。

 

 

 

少し、顔がほころんでしまう。

周りから見たら変な奴と思われると思うけど、その吸殻もまた俺を愛しくさせるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

 

「あっ―――ありがとうございます」

 

俺がそんな想いに陥っていると、不意にはるかさんがカップ差し出してきた。

俺は煙草を灰皿でもみ消すと、彼女が差し出したカップを受けとろうと手を出した。

 

「ん? ―――どうしたんだ? その手」

 

いつものように手を出したのだが、気付かずに俺は包帯に巻かれた手のほうを差し出していた。

 

 

 

 

 

「あっ……これですか? ちょっと転んじゃいましてね」

 

 

包帯の巻かれた手に俺は触れながら、そう笑った。

 

 

 

 

 

 

―――ズキン

 

 

心が痛んだ。

 

 

 

拳の痛みより、こっちの痛みのほうが俺には堪えた気がする。

 

 

 

彼女に嘘をついた。

彼女には知られたくなかったから……

 

 

 

 

 

 

 

「―――だけど、血が滲んでるじゃないか」

 

心配そうに彼女が俺を見つめてきた。

 

「たいした事ないですよ―――ほらっ」

 

俺は安心させようと包帯に巻かれた手を握ってみせる。

そのたびに激痛が走るが、顔に出ないように俺は気をつけた。

 

「その様子だと大丈夫そうだな」

 

安心したように彼女が微笑を浮かべると、徐に煙草を取り出して吸い始めた。

そんな彼女を見てほっと安堵すると、俺も傷付いていない手でコーヒーを啜った。

 

 

 

 

 

 

 

だけど、包帯に巻かれた手は鈍痛に侵されていた。

 

 

 

俺は今すぐにでも忘れてしまいたかった。

忘れてしまわないと、俺の心が壊れそうだった。

 

拳の痛むたびに、キツネの顔が頭をよぎって、俺を苦しめる。

彼女が悪いわけではないのに……

それから逃げようとする俺が心の片隅にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◇◆◇

 

「―――そういえば、景太郎」

 

「? なんですか?」

 

コーヒーを啜っていると、サイフォンを片付けていた彼女がカウンターの中から出てきて、

俺に話し掛けてきた。

 

 

 

 

「明日、花見をするらしいじゃないか」

 

「………あれっ?」

 

俺はその言葉にキョトンとしてしまった。

何でだろう。彼女にはまだ伝えていないはずなのに……

 

「どうして知ってるんです?」

 

「なるが昨日教えてくれたんだ」

 

「ああ、なるほど・・・・・・」

 

俺はそう呟くと、コーヒーを啜った。

なんとなくわかる気がする。

昨日あれほど スウ達がはしゃいでいたのだ。

そのまま はるかさんにまで伝わるのが妙に納得してしまう。

 

 

 

「景太郎が計画したらしいが……なんで私に黙ってた?」

 

「いや、ええっと……」

 

「その様子だと、どうせ今日喋るつもりだったんだろ?」

 

「…………はい」

 

図星であった。

本当は彼女を驚かせようと、今日まで黙っていたのである。

俺は恐る恐る彼女の顔を覗いた。

しかし、俺の予想とは裏腹に彼女は穏やかに微笑みを浮かべていた。

 

「まあ、受験とかで忘れていたしな。いいんじゃないか?」

 

そう言うと、彼女は俺の隣に座ると、手に持っていた煙草を吹かし始めた。

ほっと俺は安堵した。

どうやら怒ってはいないらしい。

 

 

 

「ただしなぁ……」

 

その言葉を聞いて俺はドキッとした。

慌てて彼女の方を向くと、俺を覗き込むように彼女は薄笑いをしていた。

 

「―――私の酒代はお前持ちな」

 

「ええっーー!? ―――ちょっと待って下さいよ! 俺、この前の買い物でほとんど金がないんですよ!?」

 

「お前、預金があるだろ?」

 

「うっ……」

 

そう、俺には銀行に預金してある金があるのだ。

高校の頃からコツコツと貯めて、今や結構な額にもなっている。

この前のスーツもそうだ。

貯めていた預金から下ろしたのである。

 

「でも……ほとんど金がないし……」

 

「あ〜、誰だったかなぁ? 前日まで何も準備をしていなかった奴に手伝ってやったのは?」

 

意地悪そうに彼女が笑ってみせる。

俺は結局、折れてしまった。

 

「わかりました……わかりましたよ! 払えばいいんでしょう……」

 

俺は半分泣きながら、彼女に視線を送った。

そんな俺を見て、彼女はおかしそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ここだけの話。

結局は彼女のために貯めていた話なんだから、これはこれでいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇◆◇

 

そんな話が一段落ついて、俺は彼女といつものように他愛もない話をしていた。

店の中はというと、相変わらず俺たち二人だけ。

コーヒーの香りと彼女のマルボロの香りだけが、この空間に漂っていた。

 

 

俺が少しおかしな事を言ってみると、彼女はおかしそうに笑ってくれた。

 

いつもと変わらない光景が、店の中で繰り返された。

 

二人だけの空間で、いつも俺の横には彼女いる。

俺はコーヒーを啜りながら、横目で彼女を見てみると、彼女が美味しそうに煙草を吹かしていた。

そんな彼女の横顔を見て、また心の中が安らいでいくのがわかった。

 

 

 

 

 

 

やはり俺にとって彼女の存在は大切なものなのだろうと思う。

そして、今の俺にとって一番手放したくないのは、彼女の存在であるのと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-―――それでですね、灰谷のやつがまた振られちゃいましてね。なんでか―――――」

 

『ピリリリリリリリリッ』

 

俺が浪人生時代の話を彼女に話しているとき、不意に俺のポケットの中からシンプルな電子音が鳴り響いた。

 

「―――ん? 電話か?」

 

彼女が俺を横目に見ながら、話し掛けてきた。

 

「みたいですね―――ちょっとすいません」

 

俺はポケットから薄い青色の携帯電話を取り出すと、小さなディスプレイに現れている文字を読み取った。

 

 

 

 

 

それを見た瞬間、俺の手が止まった。

 

 

 

 

 

 

―――――――『瀬田』―――――――

 

 

 

 

 

そう、彼からの電話であった。

 

 

「……もしもし」

 

俺はゆっくりと電話を繋げると、彼女の視線から逃げるように、窓際の方に顔を向けて喋り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「――――はい、―――はい、わかりました。今からそっちに行きます」

 

そう言いうと、俺は静かに電話を切った。

 

 

 

 

「誰からだったんだ?」

 

彼女が何気なく聞いてきた。

 

「………『瀬田さん』からです」

 

俺は少し間を置いてから、彼女にそう告げた。

すると、彼女の表情がほんのわずかだが、悲しげに見えた。

 

「……呼び出しか?」

 

「まあ、そんなもんです…………すみません、ちょっと行ってきますね」

 

俺はそう言って、静かにカウンターの席から立ち上がった。

 

「―――気をつけて行けよ」

 

彼女が椅子に座ったままそう言った。

俺は、「はい」とそう彼女に答えてから、ドアを開けようと手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――はるかさん」

 

俺はドアを開けようとする手を止め、振り返りながら彼女の方に顔を向けた。

 

「どうした?」

 

ぼんやりとカウンターの向こうを向いていた彼女が俺の声に気がつき、振り返った。

 

 

 

 

「―――――瀬田さんとはどういう関係だったんです?」

 

 

 

俺の口からは、とんでもない言葉が飛び出していた。

彼女の顔が一瞬、強張った表情になる。

が、すぐに顔を緩めておかしそうに答えた。

 

「なんだいきなり……なんでもないよ、ただの友人だ」

 

「………本当に?」

 

「どうしたんだ? 景太郎」

 

不思議そうに彼女は俺を見つめていた。

俺は彼女を見つめたまま、ドアの側に立ちつづけた。

そう、彼女を見つめたまま……

けれど俺は視線を彼女から逸らし、少し自分の足元を見つめたあと、再び彼女を見た。

 

「―――いえ、なんでもないです……煙草一本もらえませんか?」

 

俺は少し微笑むと、彼女にそう告げた。

 

「……ああ」

 

そう言うと、彼女はマルボロの箱ごと俺に投げ渡してきた。

俺はそれを受け取ると、一本だけ煙草を取りだし火を点けた。

火が煙草に燃え移ると、ほろ苦い いつもの紫煙がが肺を満たしていく。

 

 

 

 

彼女は怪訝そうに俺を見つめていた。

少し視線が痛かったのを俺は覚えている。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行ってきますね」

 

俺はそう言って彼女に煙草を投げ渡すと、背を向け日向を出て行った。

口元は……そう、彼女と同じように煙草を咥えたままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◆◇

 

俺は日向を後にすると、東大に向かった。

東大にこうして出かけるのは入試以来である。

俺は路面電車に揺られながら窓の外をぼんやりと眺めた。

 

移り変わっていく景色が流れていく。

俺はそれを眺めていると、いつしか彼女の顔が浮かんでくる。

 

 

 

 

 

浮かんでは消え、浮かんでは消え……

 

俺は少しだけ寂しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は電車をいくつか乗りついで東大の赤門前まで来ると、そこには見覚えのあるボロボロのワゴンが止まっていた。

 

 

 

「景太郎君〜! こっちこっち!!」

 

ワゴンの側に瀬田さんがいた。

俺はワゴンの方に小走りで駆け寄った。

 

「オース、バカ」

 

「……こんにちは、サラちゃん」

 

瀬田の後ろからサラちゃんが顔を出してきた。

まだ出合って一日もたっていないのにこの扱いはどうにかならないのだろうか……

 

「あれっ? どうしたんだい、その手?」

 

瀬田さんが俺の手に気がついたらしく、驚いた表情で俺を見つめてきた。

 

「あっ……ちょっと擦りむいちゃいましてね」

 

「アハハ! バカらしいな!!」

 

 

 

 

 

…………ぶん殴ったろか?

 

おっと、いかんいかん。

俺は邪念を飛ばすように頭を振るって、悪い考えを飛ばした。

 

「大丈夫かい?」

 

「大丈夫ですよ。このくらいならなんとも」

 

俺は苦笑いをして、瀬田さんを見た。

いつものように彼は白衣姿だった。

この前と同じように白衣の端に土ぼこりがついている。

何故だか知らないが、何所となく彼はこの格好が非常によよく似合っている。

 

「よかった。それじゃあこの荷物からなんだけど……」

 

俺は瀬田さんが指す方向をみた。

そこには、山のように詰まれた土器の欠片たちが居座っている。

その量は入学式の時の倍以上であった。

 

「すごいですね……」

 

「はははっ、まあこれが僕の仕事だからね」

 

そう言って、彼は笑いながら積荷に手をかけた。

俺は少しだけ手のことが気になったが、そう言ってもいられない。

今は仕事を片付けるのが先決だ。

俺は意を決して、ワゴンへと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――大丈夫かい?」

 

瀬田さんがベンチでうなだれている俺に声をかけてきた。

 

「瀬田さん……タフですね」

 

 

 

 

土器の運搬は……まさに地獄だった。

まずはその重量。

コンクリートの塊を持っているような錯覚に陥りそうなほどの重さであったのだ。

俺は痛む手を我慢しながらその土器達と格闘していた。

 

そして、とっておきが……あの金髪悪魔少女の数々の悪戯行為。

下手をしたら、誰か死人が出るんじゃないか? と思うくらいの激しいスキンシップであった。

マルボロの香り、もとい『マルボロ効果』を使用しようとも思ったのだが、瀬田さんの手伝いをしているのだ。

荷物を運びながら煙草を吹かしていたら怒られそうだから止めておいた。

―――――その前に、もう煙草は切れていた。

 

 

 

 

 

 

「はははっ、これが仕事だからね」

 

俺は疲れで重くなった頭を上げ、瀬田さんを見つめた。

数時間前と同じコメントを口にしながら、彼は手に持っていた缶コーヒーを俺に差し出してきた。

「あ、すいません」と言ってそれを受け取ると、彼もベンチに腰を下ろした。

 

「手、本当に大丈夫なのかい? 痛そうにしてたけど」

 

彼はコーヒーを飲みながら心配そうに手を見つめていた。

 

「まあ、本音を言うと痛かったですけどね……仕方ないですよ、自分でまいた傷なんですから」

 

俺が苦笑いをしながら話すと、彼がポケットから煙草を取り出して一本咥え、

俺に突き出すような形でマルボロを差し出していた。

 

「ありがとうございます」

 

俺は一言、礼を言い煙草を受け取った。

彼が煙草に火を点けるのを横目に、俺もポケットからジッポを取り出すと徐に火を点けた。

 

一拍置いてから、自分のジッポに視線を移してみた。

 

何所となく痛んでいたが、まだまだ充分に使える。

彼女から貰ったものなのだ。

メンテナンスも欠かさずしている。

俺は大事そうに銀色のジッポを握り締めた。

 

 

 

 

 

 

「―――あれっ、景太郎君もジッポなんだね」

 

「え? 瀬田さんもですか?」

 

俺は彼の手に視線を向けた。

しかし、彼の手に収まっていたのは何所にでも売っているような百円のライターであった。

 

「いや、昔ね。――――君と同じ色のジッポを使ってたんだよ」

 

「そうなんですか」

 

俺は静かにジッポを見た。

確かに彼にはジッポが似合いそうだ。

 

「そのジッポどうかしたんですか?」

 

興味半分に俺はそう聞いてみた。

すると彼は懐かしそうに蒼空を見上げた。

それは遠い思い出を眺めるように見えた。

 

「ああ、あげちゃったよ。……友人がなんだか知らないけど煙草を吸い始めてねぇ。そのときの記念に」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――パチリ、とパズルのピースがはまったような音が頭の中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇー、そうなんですか」

 

俺はそう言って、煙草を持っている手を見つめた。

 

 

 

もしかして……

 

俺はふと思った。

けれど、俺はそこで考えるのを止めた。

あんまり深く聞かないほうがいい、ともう一人の俺が囁いていた。

俺はそのまま空を見上げた。

 

空は澄み渡っているのに、俺の心は暗い靄が覆っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後書き

 

こんにちはフェイカーです、お待ちどうさまです。

今回はえらい時間が掛かってしまいました…… 

やっぱり簡単ではありませんね、小説を作るのって(;´Д`)

 

ちょっとノリがのってきたので次回は早いかも……

 

頑張っていくので感想よろしくお願いします!!

(送られると物凄くスピーディーになるでしょう)

 

 

 

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